最強になって異世界を楽しむ!
魔族騒動
「どういうことだ」
ヨナスは抜剣した剣を両手に持ち、警戒しながら怪物の頭に聞く。
「その通りの意味だ。いや、正確には死んだんじゃなくて、殺したって言い方が正しいか」
怪物の頭から聞こえる男の声は、何が愉快なのか、笑っているように感じられる。
その言葉に、人間側の反応は多種多様だが、どれも共通しているのは、驚きや戸惑いという感情が混じっているということだろう。
「お前は何者だ」
「そうそう。今日はこの情報と一緒に、俺のことも紹介するつもりだったんだ」
ざわざわと困惑する人間たちの中で、ヨナスが代表で口を開く。
男はその質問を聞き、思い出したかのように自らの名を告げる。
「俺の名前はラース。新しい魔王だ。手始めに挨拶として、少し軍を送り込んだんだが、撃退したようだな」
今男の声が出ている怪物の頭は、怪物を殺した時に作動するようにされているのだろう。
そのため、男には人間が自分の送り込んだ魔族たちを撃退した、とわかったようだ。
「まあ、今回は挨拶だ。これから体制を整え、本気で王都を落とそう。後悔がないよう、必死で生きることだな」
そう言い残すと、怪物の頭は塵となっていき、男の声も消えた。
あとには、困惑する人間達が残るだけだった。
***
「よし、行こうか」
ワタルたちは魔女の里で一泊した後、マリーの禁忌の技術によって未だに消えていない火を消しに、森へと向かうため、里の入口へと来ていた。
火を消したらそのまま王都に帰るつもりなので、里にはもう戻らない。
見送りには、里の魔女が全員と、ピアニが来ていた。
「マリーは子供だし頭が悪いけど、よろしく頼むよ」
「余計なお世話じゃ!」
最後の最後までマリーとレイは言い合っていたが、それはとても微笑ましいものだった。
「ワタルさん、また来てくださいね」
「ちょっと、そこ邪魔よ」
「私にも挨拶させて!」
「えーっと……」
ワタルはと言えば、魔女達から押しかけられ、非常にモテていた。
魔女は強い男性を好むらしく、ワタルは今回の騒動も相まって、里の魔女から好まれていた。
それ自体は嬉しいことなのだが、人生でここまでモテた経験のないワタルは、チャンスを生かせずただただ困るだけだった。
「ワタル、行きますよ」
「ぐえっ!」
身動きの取れないところを、ハラルに首根っこを掴まれて引っ張られる。
別れを惜しむ魔女達に手を振ると、ワタルは自分で歩こうとした。
「ハラル? もう大丈夫なんだけど」
「このまま運んであげます。マリー、行きますよ」
「ちょっ、苦しい、死ぬ死ぬ!」
ワタルがモテているのが気に食わなかったのか、しばらくワタルは、ハラルに首を絞められるように引っ張られて運ばれていった。
「見晴らしがいいね」
「そんなことより、早く消しますよ」
「そうじゃな。ワタル、働け」
竹林があった場所は相変わらずの更地で、その周りの木々には火がついていた。
木々が燃える速度は非常に遅いため、3人はそれぞれバラけて火を消していく。
「大変だな、これ」
水魔法で火を消しながら、ワタルは確認のために森の奥に入っていく。
もしも火の消し忘れなどあれば、笑い話にもならない。
「誰だ!」
ガサリ、と奥の茂みから音が聞こえた。
ワタルは咄嗟に火を消していた水を弾丸にし、音がした方向へ飛ばす。
凶器となった水は、茂みへ一直線に向かったが、甲高い音と共に飛び散ったであろう水滴が、ワタルの足元まで濡らす。
防がれたのだ。
「血の気が多いな」
水の弾丸を防いだ人物が、茂みから姿を表す。
ワタルはその姿と声に覚えがあった。
「ロンド……」
「覚えていたか」
魔王軍幹部の黒騎士、ロンドがそこにいた。
ワタルは夜想曲の剣と盾を構え、周囲の水を自分の周りに漂わせる。
「そう身構えるな。敵意はない」
「信じる人はいないと思いますけどね。魔法剣!」
ロンドは武器に手をかけず、敵意はないと言うがそれを信じるワタルではない。
先手必勝、と夜想曲の剣に水を纏わせ、刀身を伸ばしその場から横薙ぎに斬りかかる。
最初に感じたのは、岩を木刀で叩く感覚だった。
ワタルの放った魔法剣は、ロンドが無造作に上げた右手によって完璧に防がれていた。
ワタルの攻撃など効いてもいないのか、その場から1歩も動いていない。
「お前は俺に勝てない。それとも、殺されたいのか?」
「うっ……」
ロンドが一瞬だけ放った殺気。
それだけでワタルは戦意を折られた。
それほど、2人の間には実力差があるのだ。
そして、それがわからないほどワタルは素人ではない。
魔法剣を解除すると、夜想曲の剣を鞘へと収める。
「俺になんのようですか」
「今すぐ王都へ戻れ。それだけだ」
なにを言われるのかと身構えていたワタルだったが、そう言われただけでロンドは帰ろうとし、拍子抜けしてしまった。
「待ってください。どうしてこんなところにいたんですか」
ロンドの用事がそれだけでも、ワタルからは聞きたいことがたくさんある。
なぜ魔女の里の近くにロンドがいたのか、それが気になり聞くと、ロンドは足を止め振り返る。
「魔王様の命令だ。だが、それも今となっては意味が無いものになった」
「意味が無い?」
「王都へ行けばわかる。そうだな……俺はこの近くにいる」
「あ、ちょっと!」
ロンドは最後の意図のわからない言葉を残し、ワタルの静止も聞かずに森の奥へと消えていった。
ワタルは追いかけることもせず、その場に立ち尽くす。
「ワタル、こっちは終わったぞ……どうしたんじゃ?」
「帰りながら話すよ」
ワタルが森から出ると、既にマリーとハラルは火を消し終え、帰り支度を済ませていた。
マリーはワタルの様子がいつもと違うことに気付いたようだ。
ワタルは帰りながら、2人にロンドのことを話す。
「あの地下はロンドが作ったものだったんじゃろうな」
ピアニが住処にしていた、竹林の地下。
あれは恐らく、ロンドが魔王の命令とやらのために用意した場所だったのだろう。
なぜあそこにいなかったのはわからないが、ピアニと鉢合わせなかったのは幸運だった。
「魔女の里に用があったんですかね?」
「でも、もう意味が無いって言ってたからね」
ロンドは魔王様の命令とはっきり言ったが、それはもう意味が無いとも言った。
それは命令が破棄されたのか、ほかになにか優先するべき用ができたのか。
「王都でなにかあったんじゃろうか」
「敵の言うことです。鵜呑みにするのはよくないですよ」
「無視はできないからね。少し急ごうか」
ワタルたちはそれぞれ疑問や警戒を抱きながらも、足を早め王都へ急いだ。
***
「スペルブレイク」
王都の裏路地。
人気のないその場所で、リナは禁忌の技術を使っていた。
それにより、リナの足元にあった魔法陣は崩壊し、跡形もなく消滅する。
今回の魔族騒動は、魔族を王都に運ぶ手段がなければ成立しない。
例えば、転移魔法陣などがなければ。
リナは完全に魔法陣が消えたのを確認すると、小さく呟き、人目を避けて裏路地を出た。
「そっちに行ったのね……セレナーデ」
ヨナスは抜剣した剣を両手に持ち、警戒しながら怪物の頭に聞く。
「その通りの意味だ。いや、正確には死んだんじゃなくて、殺したって言い方が正しいか」
怪物の頭から聞こえる男の声は、何が愉快なのか、笑っているように感じられる。
その言葉に、人間側の反応は多種多様だが、どれも共通しているのは、驚きや戸惑いという感情が混じっているということだろう。
「お前は何者だ」
「そうそう。今日はこの情報と一緒に、俺のことも紹介するつもりだったんだ」
ざわざわと困惑する人間たちの中で、ヨナスが代表で口を開く。
男はその質問を聞き、思い出したかのように自らの名を告げる。
「俺の名前はラース。新しい魔王だ。手始めに挨拶として、少し軍を送り込んだんだが、撃退したようだな」
今男の声が出ている怪物の頭は、怪物を殺した時に作動するようにされているのだろう。
そのため、男には人間が自分の送り込んだ魔族たちを撃退した、とわかったようだ。
「まあ、今回は挨拶だ。これから体制を整え、本気で王都を落とそう。後悔がないよう、必死で生きることだな」
そう言い残すと、怪物の頭は塵となっていき、男の声も消えた。
あとには、困惑する人間達が残るだけだった。
***
「よし、行こうか」
ワタルたちは魔女の里で一泊した後、マリーの禁忌の技術によって未だに消えていない火を消しに、森へと向かうため、里の入口へと来ていた。
火を消したらそのまま王都に帰るつもりなので、里にはもう戻らない。
見送りには、里の魔女が全員と、ピアニが来ていた。
「マリーは子供だし頭が悪いけど、よろしく頼むよ」
「余計なお世話じゃ!」
最後の最後までマリーとレイは言い合っていたが、それはとても微笑ましいものだった。
「ワタルさん、また来てくださいね」
「ちょっと、そこ邪魔よ」
「私にも挨拶させて!」
「えーっと……」
ワタルはと言えば、魔女達から押しかけられ、非常にモテていた。
魔女は強い男性を好むらしく、ワタルは今回の騒動も相まって、里の魔女から好まれていた。
それ自体は嬉しいことなのだが、人生でここまでモテた経験のないワタルは、チャンスを生かせずただただ困るだけだった。
「ワタル、行きますよ」
「ぐえっ!」
身動きの取れないところを、ハラルに首根っこを掴まれて引っ張られる。
別れを惜しむ魔女達に手を振ると、ワタルは自分で歩こうとした。
「ハラル? もう大丈夫なんだけど」
「このまま運んであげます。マリー、行きますよ」
「ちょっ、苦しい、死ぬ死ぬ!」
ワタルがモテているのが気に食わなかったのか、しばらくワタルは、ハラルに首を絞められるように引っ張られて運ばれていった。
「見晴らしがいいね」
「そんなことより、早く消しますよ」
「そうじゃな。ワタル、働け」
竹林があった場所は相変わらずの更地で、その周りの木々には火がついていた。
木々が燃える速度は非常に遅いため、3人はそれぞれバラけて火を消していく。
「大変だな、これ」
水魔法で火を消しながら、ワタルは確認のために森の奥に入っていく。
もしも火の消し忘れなどあれば、笑い話にもならない。
「誰だ!」
ガサリ、と奥の茂みから音が聞こえた。
ワタルは咄嗟に火を消していた水を弾丸にし、音がした方向へ飛ばす。
凶器となった水は、茂みへ一直線に向かったが、甲高い音と共に飛び散ったであろう水滴が、ワタルの足元まで濡らす。
防がれたのだ。
「血の気が多いな」
水の弾丸を防いだ人物が、茂みから姿を表す。
ワタルはその姿と声に覚えがあった。
「ロンド……」
「覚えていたか」
魔王軍幹部の黒騎士、ロンドがそこにいた。
ワタルは夜想曲の剣と盾を構え、周囲の水を自分の周りに漂わせる。
「そう身構えるな。敵意はない」
「信じる人はいないと思いますけどね。魔法剣!」
ロンドは武器に手をかけず、敵意はないと言うがそれを信じるワタルではない。
先手必勝、と夜想曲の剣に水を纏わせ、刀身を伸ばしその場から横薙ぎに斬りかかる。
最初に感じたのは、岩を木刀で叩く感覚だった。
ワタルの放った魔法剣は、ロンドが無造作に上げた右手によって完璧に防がれていた。
ワタルの攻撃など効いてもいないのか、その場から1歩も動いていない。
「お前は俺に勝てない。それとも、殺されたいのか?」
「うっ……」
ロンドが一瞬だけ放った殺気。
それだけでワタルは戦意を折られた。
それほど、2人の間には実力差があるのだ。
そして、それがわからないほどワタルは素人ではない。
魔法剣を解除すると、夜想曲の剣を鞘へと収める。
「俺になんのようですか」
「今すぐ王都へ戻れ。それだけだ」
なにを言われるのかと身構えていたワタルだったが、そう言われただけでロンドは帰ろうとし、拍子抜けしてしまった。
「待ってください。どうしてこんなところにいたんですか」
ロンドの用事がそれだけでも、ワタルからは聞きたいことがたくさんある。
なぜ魔女の里の近くにロンドがいたのか、それが気になり聞くと、ロンドは足を止め振り返る。
「魔王様の命令だ。だが、それも今となっては意味が無いものになった」
「意味が無い?」
「王都へ行けばわかる。そうだな……俺はこの近くにいる」
「あ、ちょっと!」
ロンドは最後の意図のわからない言葉を残し、ワタルの静止も聞かずに森の奥へと消えていった。
ワタルは追いかけることもせず、その場に立ち尽くす。
「ワタル、こっちは終わったぞ……どうしたんじゃ?」
「帰りながら話すよ」
ワタルが森から出ると、既にマリーとハラルは火を消し終え、帰り支度を済ませていた。
マリーはワタルの様子がいつもと違うことに気付いたようだ。
ワタルは帰りながら、2人にロンドのことを話す。
「あの地下はロンドが作ったものだったんじゃろうな」
ピアニが住処にしていた、竹林の地下。
あれは恐らく、ロンドが魔王の命令とやらのために用意した場所だったのだろう。
なぜあそこにいなかったのはわからないが、ピアニと鉢合わせなかったのは幸運だった。
「魔女の里に用があったんですかね?」
「でも、もう意味が無いって言ってたからね」
ロンドは魔王様の命令とはっきり言ったが、それはもう意味が無いとも言った。
それは命令が破棄されたのか、ほかになにか優先するべき用ができたのか。
「王都でなにかあったんじゃろうか」
「敵の言うことです。鵜呑みにするのはよくないですよ」
「無視はできないからね。少し急ごうか」
ワタルたちはそれぞれ疑問や警戒を抱きながらも、足を早め王都へ急いだ。
***
「スペルブレイク」
王都の裏路地。
人気のないその場所で、リナは禁忌の技術を使っていた。
それにより、リナの足元にあった魔法陣は崩壊し、跡形もなく消滅する。
今回の魔族騒動は、魔族を王都に運ぶ手段がなければ成立しない。
例えば、転移魔法陣などがなければ。
リナは完全に魔法陣が消えたのを確認すると、小さく呟き、人目を避けて裏路地を出た。
「そっちに行ったのね……セレナーデ」
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