最強になって異世界を楽しむ!

水泳お兄さん

襲撃

「ピアニはこの地下の構造はわかるんじゃな?」
「もちろん。最初に来た時に歩き回って把握したわ!」
「なら早く、最初の広場まで案内するんじゃ」

 ふふん、と胸を張るピアニには目もくれず、マリーは早く地上への出口がある広場へ急ぐよう言う。
 ピアニは洗脳は解けたと言っていたが、ワタルは男性のため、効きが強くまだ洗脳が続いているかもしれない。
 マリーは焦る心を抑えつつ、できるだけ最速で広場へと向かった。



「ハラル! ワタル!」

 広場に来てマリーが見たのは、肩で大きく息をして座り込むハラルと、うつ伏せに倒れて口から血を流しているワタルだった。
 マリーは意識のあるハラルの方へ駆け寄っていく。

「マリー、洗脳は止めたみたいですね。ワタルが重傷なので、早く戻りましょう」

 ハラルは息も絶え絶えたが、目立った傷はなく、体中に擦り傷があるぐらいだった。

「勝ったのか?」
「後半は押され気味でしたけどね。洗脳が解けなかったら負けてたかもです。ところでその子は?」
「洗脳をした元凶じゃ。悪意はないらしいから、里に連れていくことにしたんじゃ」
「ピアニよ!」

 マリーはワタルの方へ走っていき、ハラルはピアニと何やら話している。

「かなり派手にやったんじゃな。骨が砕けておるぞ」

 ワタルをゴーレムに丁寧に持たせると、話している2人にもう行くよう伝える。
 魔女の里には転移が可能なため、マリーは残りの魔力を使って転移魔法陣で魔女の里へと向かった。



「おかえりマリー。待ってたよ」

 里に戻ると、真っ先にレイに出迎えられた。
 その後ろには、何人か他の魔女達もいる。
 ワタルの傷を見せたところ、これなら治療は簡単とのことで、回復魔法を使える魔女に治療される。
 少しするとワタルは目を覚まし、ここまでのような説明をする。
 そして、本題に入る、

「サキュバスか」
「そうじゃ。それでなんじゃが、ピアニを里で暮らさせたらどうじゃ?」
「その利点は?」
「ピアニの歌はかなり遠くまで聞こえるようじゃからな。野放しにしてまた洗脳されるのは面倒じゃろう。それに、戦力にもなる」
「戦力になっても、ボク達は戦争なんてしないよ」

 レイのその発言に、マリーはわざとらしくため息をつく。

「ワタルとハラルと戦った魔女3人。本気を出してないことぐらい、わしでなくともわかるぞ?」
「やっぱり?」

 レイも最初から騙せるとは思っていなかったらしく、誤魔化すように笑う。

「そうだよ。ボクが里長になってから、方針を変えたんだ。……ボク達魔女は、魔王軍と敵対し、人間と協力する」

 レイは笑顔をなくし、真面目な表情でそう言い放つ。
 背後の魔女達もレイに反論することなく、真っ直ぐ3人を見ていた。
 レイは懐から、1枚の封筒を取り出す。

「ワタル。これは魔女の里が人間に協力するという、意思表示の手紙だ。人間の王に渡してほしい」
「わかった。責任をもって渡すよ」

 それをワタルに渡し、ワタルは大事にバッグへとしまう。

「それじゃ、ピアニだっけ? この里に住んでもらおうと思うんだけど、なにかある?」
「特にないわ。でも、たまには歌わせてほしいわね」
「そこら辺は、他の魔女と一緒に決めていこうか」

 ピアニはこの里に住むことに、特に反対はないらしく、大人しく頷く。
 これで全て解決。
 そう思い笑っていたワタルたち3人だったが、そこへレイの言葉が浴びせられる。

「あ、そうそう。マリーの禁忌の技術のせいで、木々が燃えてるから、明日消してきてね」
「あっ……」

 あれだけの炎を使って、森が燃えない方がおかしい。
 この森は木々にも魔力がこもっているらしく、燃えにくいらしいが、放っておくと全焼しかねないらしい。

「やっぱりやりすぎだったね」
「し、仕方ないじゃろう。あれが確実な方法だったんじゃ!」
「はいはい。ちゃんとみんなで消しましょうね」

 他にもいろいろ方法はあっただろうが、それは言わないでおく。

「そういえば、あの地下は誰が作ったんだろうね」
「わからんが、今は使われてないんじゃろう。人もいなかったしな」
「そう……なのかな」

 胸に引っかかるものを覚えながらも、ワタルはその日は体の回復に務めた。

***

 エレナとレクシアは暇を持て余していた。
 2人は戦闘の相性もよく、クエストも問題なくこなせるのだが、2人とも人間ではない。
 そのため、あまり目立った行動をすることもできず、家でじっとしていた。

「暇だな」
「そうですね。でも、平和なのはいいことですよ」
「それもそうだな」

 エレナはレクシアと何気ない雑談をし、笑いながら昼食をとる。
 今日の昼食は、エレナが作っている。
 レクシアも料理はできるのだが、エレナの料理の腕が飛び抜けて良いため、ワタルたちが居る時でも、料理担当はエレナになっていた。

「がああああああああっ!?」

 と、そんな時だ。
 家の中にいてもわかるほど、男の叫び声が聞こえた。
 すぐにエレナとレクシアは家を出る。
 周囲の家の住人にも聞こえたようで、武器を持って外に出るものや、窓から様子を見るものなど、反応は様々だった。

「どういうことだ」

 叫び声をあげたと思われる男性は、魔族によって剣で貫かれていた。
 魔族は王都の兵士が使う剣と盾を持っており、その数は30を超えている。

「ま、魔族だ!」
「逃げろ! 殺されるぞ!」

 その様子に誰もが反応が遅れたが、すぐに悲鳴をあげ逃げ出すなど、大通りはパニックになった。

「エレナちゃん」
「わかっている。やるぞ」

 エレナとレクシアの反応は早く、素早く頭を切り替え魔族へ向かって走る。
 なぜ魔族が王都にいるのか。
 そんなことはどうでもいい。
 それよりもまずは、人々を助けるのが優先だ。

「ふっ!」

 エレナは得意の敏捷をフル活用し、魔族たちとの距離を詰め白夜を振り抜く。
 それで縦に重なっていた魔族を複数仕留めるが、エレナに気付いた魔族たちが、一斉に襲いかかる。

「らあっ!」

 そこへ、1人の男が飛び込んでくると、右手に持ったタワーシールドで魔族を吹き飛ばしていく。

「エレナだったか。国民を助けてくれてありがとうな」

 その男、アルマはエレナに一言礼を言うと、襲い来る魔族の攻撃を、全てタワーシールドで弾き返し、左手の剣で切り払う。
 その他にも兵士が到着したようで、大通りの各所で戦闘が起こる。

「君たちはかくれていてくれ。ここは私達でやろう」
「ヨナス、だったか。私達も戦える」
「気持ちは嬉しいが、ここで派手に戦ってしまうと、目立って正体がバレる恐れがある。やめた方がいい。それに……」

 エレナに声をかけたヨナスは、両手に持った細い剣を一閃させると、近くの魔族を絶命させた。

「私達人間も、それなりに強いんだ」
「……あとは任せた」

 エレナはヨナスの好意に甘え、遅れてきたレクシアと合流する。
 2人は念の為、戦闘区域にすぐに駆けつけられる位置まで離れる。

「ヨナス、遅いぞ」
「この年になると、腰が重い。さて、やろうか」

 ヨナスとアルマは背中合わせになると、魔族を1人、また1人と、確実に葬っていく。

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