不幸な男は異世界で最強になったようです
18#執事はパーティーにて笑う(前編)
目が覚めた時俺はベッドの上にいた。
特に医療的な処置はされることがなく、ただ単にベッドの上に寝かせられていた。
体に痛みはない、むしろ気だるい。
そしてここはよく見ると俺達の屋敷の俺の部屋のベッドだった。
その時、コンコンと扉がノックされる。
確認を取るまもなくこの屋敷の執事長クラムさんが入ってきた。
「お目覚めになられましたか旦那様」
「あぁ、クラムさん。おはようございます」
「おはようございます。きっと起きていらっしゃるだろうと思い、コーヒーをお持ちしました。次いでにこれも」
「ありがとうございます」
クラムはコーヒーを机に置いたあと、俺に一通の手紙を手渡してきた。
「これは?」
「トドロキ ショウタ、エレナ・シルフォード、エミリ・ネルソン、ルビー・ハースストーン、そしてハーネスト・クリスチャン・アリシア様方へのラプラタ伯爵主催のダンスパーティーへのお誘いでございます」
「へぇ〜、俺達も名が知られてるんだな」
「先の討伐戦で一番栄子を手にされたのが旦那様だったようで、その仲間という部類で皆様の名も知れ渡ったようです。昨日は大討伐戦の打ち上げだったようです」
....あいつらおれを放っておいて打ち上げしてたのか。起こせよ!いや、大事なのはそこじゃない。さっきのってハクアの.....名前?だよな。
「クラムさん、ハクアってまさか」
「そのまさかです。ハクア様は戦天使の中でも女神アテナ様直属の側近、ハーネスト家のご令嬢様でございます」
いやまさかのまさかだな。あいつそんなに身分高かったのか。変な名前だ。
今度からかったりしてみよう。
翔太が封を開けると紙に丁寧に見えるよく分からない文字で次のようなことが書かれていた。(日本語訳)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
トドロキ卿へ
明日夜6時頃よりダンスパーティーを主催いたします。よろしければ卿とそのお連れの方々も参加していただけると幸いでございます。我らは
卿らのダンスパーティーの参加を心待ちにしております。
ラプラタ・クレール
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ふむ、なるほど俺は卿認定されているらしい。
これで俺も貴族の端くれってか!いやっほう!....嫌そうじゃない、大事なのはそこじゃない。ダンスパーティーかぁ....俺大丈夫かな?
「以下がなされますか旦那様。今日ご連絡を入れないとまずいと思われますが」
「みんなはなんて言っているんです?」
「全員口を合わせて、「ショウタ(さん)に任せる」とおっしゃっていました」
あいつら.....絶対昨日やりたい放題しやがったんだな。羨ましい....
さて、どうしたものか。参加して貴族としての顔を広げるのもいいかもしれない。でもこっちは俺以外貴族じゃねぇか!しかもエレナは第一皇女だぞ!大丈夫なのか....?
「クラムさん、電話をください」
「どなたにおかけになりますか?」
「国王です」
「承知しました。少将お待ちを」
クラムはそばにあった黒電話を取り、恐らくは王室へコールする。数分の後クラムが喋りだし、ちょっとしたら俺に受話器を持ってきた。俺はもらった受話器に向かって話す。
「もしもし」
「やぁ、ショウタくん!元気かね!聞いたよ!一昨日の大討伐戦!君が指揮を取り最後は君が倒したんだってね!やっぱり君に娘を預けてよかった!今後ともよろしく頼むぞ!」
「お久しぶりです。今回は少し要件がありまして」 
「何かね?」
俺は伯爵からダンスパーティーに誘われた事、もし受けたとしてエレナがそこに行っても大丈夫なのかということを話した。
「それなら気にしなくていい。多分騒ぎになってもショウタ君が片付けてくれるだろう?」
「え、まぁ、はい....」
この人、めちゃくちゃ俺信頼してるやん。これであいつに手でも出したらおら確実に殺されるだろうな。おー、怖。
「なら大丈夫だ、存分に楽しんでくるといい。若いうちは交流は大切だからね!それじゃ失礼するよ!」
「はい、ありがとうございました」
そういった所で王室の受話器が切れた。こちらも黒電話に受話器を戻し一旦コーヒーを飲む。一息ついたところで
「クランさん、伯爵とあいつら今回のダンスパーティーに参加することを報告してください。俺はまだ寝起きなので」
「了解致しました。それでは伯爵にはお電話を、皆様には報告をさせていただきます。それでは、失礼しました」
クランはゆっくりとドアを閉めて去っていた。俺は窓から見える景色を見ながら朝のティータイムを楽しんだ。
◇
俺が廊下を歩いていると、ハクアが俺を見つけてこちらにやってくる。
「ショウタ、体の調子はどうだ?痛むところはないか?」
「万全かな、お前聞いたか?」
「ああ、さっきクランさんから聞いた。というわけで今から私の屋敷に行くぞ」
「わかった。いこ......」
は?今からこいつの屋敷に行く?
そんなこんなでパーティー用の服を選ぶということで俺たちはハクアの屋敷に来ていた。もちろん天界である。アーク内のもちろん王都の敷地の内部である。
まず第一印象は、デカい。ただただ、デカい。俺の屋敷やエミリの屋敷と比較にならないくらいにデカい。
「さぁ、中に入るぞ」
そうして俺たちは中に入り当然のごとく試着室に案内される。もちろん玄関口では戦天使の執事とメイドたちが声を揃えて出迎えたのは言うまでもないだろう。
試着室には沢山の服があった。
タキシードから普通の一般に着られている服(貴族なのでよりいっそう高価な服)までよりどりみどりだ。俺はダンスパーティーというものに参加したことがなかったが親が社交ダンスに来ていく服を思いだして、タキシードに蝶ネクタイという、いかにも執事チックな服を着ることにした。
地味に俺が気に入ったということもある。俺は試着室から出て反対側の部屋でみんなが来るのを待っていた。
「お待たせー」
ドアが開け放たれエレナとエミリが入室してくる。さすがは貴族(片方は王族)のお嬢様。エレナはいつもの白を基調とした服とはまた違い、青と紺色のドレスを見事に着こなしていた。エミリもまた深紅色のドレスがしっかりとプロポーションを目立たせて、かなりの魅力があった。
続けざまにルビー、最後にハクアが入室してくる。ルビーは綺麗な水色ドレスを着せられていた。背丈の割にはスカートは地面についていない。だが、目を見張ったのはハクアだ。
普段、鎧を来ているところしか見ていない俺にとってはかなりのパンチだった。黄色と若葉色を基調としたドレスはしっかりと着こなされており、所々とても強調されていた。抜群の魅力を感じさせるハクアに俺は呆然としていた。
「っておーい、ショウタ〜?」
「はっ!行けない行けない、沼に引きずりこまれそうになったぜ」
「おいショウタ、なぜ私を見てそれを言う。あ、今目をそらしたな!何を黙っている!言え!今すぐに何を考えていたのか言え!」
俺は肩を掴まれ揺らされるが口を割ることは無かった。
「ていうか、ショウタなにそれ!それもう執事の格好じゃないの〜!」
「普通こんなもんじゃないか?パーティーって基本これだろ?」
「そんなの着てるやつなんか執事以外にいないわよ。まぁそれはそれでいいんじゃないかしら。似合ってるし」
「おう、サンキュー」
そんなやり取りをして俺は試着室に戻ろうとする。だが
「ちょっと、どこに行くの?ショウタ」
「もちろん脱ぐに決まってるだろ?こんなの今日一日来てられるかよ」
「何言ってるの?今日はハクアの屋敷に泊まるから1日それに慣らすために来ておくのよ?」
「えっ!?」
その瞬間ハクアが驚いたように声を上げもじもじし始めた。
「わ、私はその、これはなんか私じゃないから鎧を来たいというかなんと言うか.....」
「あら?私が知ってる中でそんなにドレスを着こなせる人なんてそうそういないわよ?十分に可愛いし」
「!?」
エレナの言葉にハクアが顔を真っ赤にしてうずくまる。なるほど、このお嬢様は今までこんなドレスとかをめったに着て来なかったんだな。良くわかる良くわかる。
....にしてもなぁ、この状態で1日過ごすなんて大丈夫か?
主に精神的に
◇
パーティー当日。俺らは地図に書かれたラプラタ伯爵の屋敷を訪れていた。
もちろん地上である。既に何人ものマダムや男の人が別館のホール内にいた。どうやらもうすぐ始まるらしい。俺たちは周りながらドリンクを配っているメイドさんからドリンクを貰うと手に持つ。
「んじゃ、俺はラプラタ伯爵に挨拶に行ってくるからお前らは好きに散らばっててくれ」 
俺はそういいエレナたちの元を離れる。
「わかったわ、行ってらっしゃい」
「どうする?」
「適当に知ってる人でもいたら話しかければいいんじゃない?」
「私が知っている人は....もうよくわからん」
「私もここまで高貴な人達がいるなんて思いませんでした....」
まぁ、大丈夫か。
俺は歩いて伯爵の姿を探していた。辺りを見回すと一際人が集まっているところがあった。その中心には笑顔で挨拶を交わしているおそらく30代くらいのナイスガイ、筋肉モリモリ男性が立っていた。
あれがラプラタ伯爵だろうか。
とりあえず俺も人混みに混ざって挨拶を交わしてみる。
「どうも、ラプラタ伯爵。今回はお招きいただきありがとうございます」
俺は社交辞令も程々に挨拶をする。親が社交的で助かった。
 
「君は確かトドロキ ショウタくんであっているね?」
「はい、その通りです。トドロキ ショウタと申します」
「よく来てくれた!実は冒険者を招いたのはこれが初めてでね、歓迎するよ」
伯爵は俺に握手を求めてきた、俺もそれに応え握手を交わす。
この人とは上手くできそうだ。
そんなことを考えていると伯爵が何かを感じたように俺に促してくる。
「そろそろダンスの時間だ。ダンスは踊れるね?そろそろお連れの女性の方に戻った方がいい。それじゃあまた後で君の冒険譚を聞かせてくれ。4日前のことも含めてね」
伯爵はそのままほかの女性の元へ行ってしまった。んじゃ、俺も戻るか。
俺が戻ると男性に囲まれて少し困ったような表情をしていたハクアが俺を見つけて駆け寄ってきて、腕に抱きついてきた。 ハクアの胸が俺の腕にあたる。
や、やべぇ....
「すいません。私この方がいますので」
俺を視認した瞬間周りの男は雲の子を散らすように辺りに散っていった。その時、会場の点灯が消える。そう、これがダンス始まりの合図だ。ここで俺のスイッチが入った。執事として、道化師としてのスイッチが。そう、昨日、精神的におかしくなるとはこういうことを言ったのだ。
俺は耳打ちで、驚くハクアに向かって囁いた。
「な、なんだ!?明かりが!」
「落ち着け、もうすぐ音楽が流れて明かりがつく。ほら、俺の手を取れ」
俺が手を出すと、何故か躊躇していたので、今度は紳士的に。頭を下げ、手を伸ばし
「ミス・ハクア、Shall  we dance?」
ハクアがようやく俺の手を取ってくれた。そしてその瞬間明かりがつき音楽が流れ始める。俺はぎこちないハクアをリードする。全く、親が社交ダンスしてて良かった。
ハクアは俺に合わせてステップを踏むため転ぶことが一切なかった。このダンスには踊る女性の交換があるらしい。俺はそろそろというタイミングでハクアをほかの女性と強引に交換した。
「失礼、マダム。続けましょう」
俺はその後も次々と交換していき、最後にハクアが戻ってきた。ハクアが小声で
「ショウタ!どうしてあんなことを!いきなりされたらびっくりするだろう!」
「我慢しろ、これがルールらしいんだ」
俺たちはそのあともしばらくダンスを踊り続けた。俺はまるで時間が止まっているように思えた。気がつけば俺たちだけが踊っていて、周りは俺たちの踊りに魅了されているようだった。そして最後音楽がなりやんでダンスが終わったと同時に俺たちに向けて拍手が送られる。
俺は胸に手を当て綺麗に一礼する。ハクアもそこはわかっていたらしく、スカートの端をつまみ上げて一礼する。
もうだめだ、我慢出来ん!
俺は舞台の上に立ち、喋り出す。
「皆様、先程からの拍手、ありがとうございます。突然ですが私と踊ったマダム、手を挙げてもらえますか?」
複数のマダムが手を挙げていた。俺こんなに踊ったんだ。
「それではマダム方、右手のポケットを見てください」
ポケットをマダムたちは探る。そこには一枚のトランプが入っていた。
俺はパチンと指を鳴らし自分の持っていたトランプをバラに変えて見せた。
貴族達は感嘆の声を漏らしていた。
「それではマダム方、今度は左のポケットを見てもらえますかな?」
マダムたちは左のポケットを探る。手を突っ込んだ瞬間、マダムの誰もが吉凶の声を上げていた。
「それは私からのプレゼントでございます。それでは最後、3、2、1」
俺が0のタイミング指をパチンと鳴らす。その瞬間どのマダムが持っていたバラも白い煙とともには白い鳩へと変えられた。鳩たちはあらかじめ開けておいた天窓から飛び去って言った。またも盛大な拍手が起こる。俺はまたも綺麗に一礼して、最後に
「この私めはハーネスト家、アリシアお嬢様直属の執事、トドロキでした!それでは失敬!」
いつの間にかついていたマントを翻すと、白い煙とともに俺の体が白い鳩とトランプに変えられ飛び散った。
観衆がどよめき今日一番の拍手喝采が鳴り響く。もちろんこの後、ハクアに男女貴族問わず押し寄せてきたのは言うまでもないだろう。
特に医療的な処置はされることがなく、ただ単にベッドの上に寝かせられていた。
体に痛みはない、むしろ気だるい。
そしてここはよく見ると俺達の屋敷の俺の部屋のベッドだった。
その時、コンコンと扉がノックされる。
確認を取るまもなくこの屋敷の執事長クラムさんが入ってきた。
「お目覚めになられましたか旦那様」
「あぁ、クラムさん。おはようございます」
「おはようございます。きっと起きていらっしゃるだろうと思い、コーヒーをお持ちしました。次いでにこれも」
「ありがとうございます」
クラムはコーヒーを机に置いたあと、俺に一通の手紙を手渡してきた。
「これは?」
「トドロキ ショウタ、エレナ・シルフォード、エミリ・ネルソン、ルビー・ハースストーン、そしてハーネスト・クリスチャン・アリシア様方へのラプラタ伯爵主催のダンスパーティーへのお誘いでございます」
「へぇ〜、俺達も名が知られてるんだな」
「先の討伐戦で一番栄子を手にされたのが旦那様だったようで、その仲間という部類で皆様の名も知れ渡ったようです。昨日は大討伐戦の打ち上げだったようです」
....あいつらおれを放っておいて打ち上げしてたのか。起こせよ!いや、大事なのはそこじゃない。さっきのってハクアの.....名前?だよな。
「クラムさん、ハクアってまさか」
「そのまさかです。ハクア様は戦天使の中でも女神アテナ様直属の側近、ハーネスト家のご令嬢様でございます」
いやまさかのまさかだな。あいつそんなに身分高かったのか。変な名前だ。
今度からかったりしてみよう。
翔太が封を開けると紙に丁寧に見えるよく分からない文字で次のようなことが書かれていた。(日本語訳)
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トドロキ卿へ
明日夜6時頃よりダンスパーティーを主催いたします。よろしければ卿とそのお連れの方々も参加していただけると幸いでございます。我らは
卿らのダンスパーティーの参加を心待ちにしております。
ラプラタ・クレール
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ふむ、なるほど俺は卿認定されているらしい。
これで俺も貴族の端くれってか!いやっほう!....嫌そうじゃない、大事なのはそこじゃない。ダンスパーティーかぁ....俺大丈夫かな?
「以下がなされますか旦那様。今日ご連絡を入れないとまずいと思われますが」
「みんなはなんて言っているんです?」
「全員口を合わせて、「ショウタ(さん)に任せる」とおっしゃっていました」
あいつら.....絶対昨日やりたい放題しやがったんだな。羨ましい....
さて、どうしたものか。参加して貴族としての顔を広げるのもいいかもしれない。でもこっちは俺以外貴族じゃねぇか!しかもエレナは第一皇女だぞ!大丈夫なのか....?
「クラムさん、電話をください」
「どなたにおかけになりますか?」
「国王です」
「承知しました。少将お待ちを」
クラムはそばにあった黒電話を取り、恐らくは王室へコールする。数分の後クラムが喋りだし、ちょっとしたら俺に受話器を持ってきた。俺はもらった受話器に向かって話す。
「もしもし」
「やぁ、ショウタくん!元気かね!聞いたよ!一昨日の大討伐戦!君が指揮を取り最後は君が倒したんだってね!やっぱり君に娘を預けてよかった!今後ともよろしく頼むぞ!」
「お久しぶりです。今回は少し要件がありまして」 
「何かね?」
俺は伯爵からダンスパーティーに誘われた事、もし受けたとしてエレナがそこに行っても大丈夫なのかということを話した。
「それなら気にしなくていい。多分騒ぎになってもショウタ君が片付けてくれるだろう?」
「え、まぁ、はい....」
この人、めちゃくちゃ俺信頼してるやん。これであいつに手でも出したらおら確実に殺されるだろうな。おー、怖。
「なら大丈夫だ、存分に楽しんでくるといい。若いうちは交流は大切だからね!それじゃ失礼するよ!」
「はい、ありがとうございました」
そういった所で王室の受話器が切れた。こちらも黒電話に受話器を戻し一旦コーヒーを飲む。一息ついたところで
「クランさん、伯爵とあいつら今回のダンスパーティーに参加することを報告してください。俺はまだ寝起きなので」
「了解致しました。それでは伯爵にはお電話を、皆様には報告をさせていただきます。それでは、失礼しました」
クランはゆっくりとドアを閉めて去っていた。俺は窓から見える景色を見ながら朝のティータイムを楽しんだ。
◇
俺が廊下を歩いていると、ハクアが俺を見つけてこちらにやってくる。
「ショウタ、体の調子はどうだ?痛むところはないか?」
「万全かな、お前聞いたか?」
「ああ、さっきクランさんから聞いた。というわけで今から私の屋敷に行くぞ」
「わかった。いこ......」
は?今からこいつの屋敷に行く?
そんなこんなでパーティー用の服を選ぶということで俺たちはハクアの屋敷に来ていた。もちろん天界である。アーク内のもちろん王都の敷地の内部である。
まず第一印象は、デカい。ただただ、デカい。俺の屋敷やエミリの屋敷と比較にならないくらいにデカい。
「さぁ、中に入るぞ」
そうして俺たちは中に入り当然のごとく試着室に案内される。もちろん玄関口では戦天使の執事とメイドたちが声を揃えて出迎えたのは言うまでもないだろう。
試着室には沢山の服があった。
タキシードから普通の一般に着られている服(貴族なのでよりいっそう高価な服)までよりどりみどりだ。俺はダンスパーティーというものに参加したことがなかったが親が社交ダンスに来ていく服を思いだして、タキシードに蝶ネクタイという、いかにも執事チックな服を着ることにした。
地味に俺が気に入ったということもある。俺は試着室から出て反対側の部屋でみんなが来るのを待っていた。
「お待たせー」
ドアが開け放たれエレナとエミリが入室してくる。さすがは貴族(片方は王族)のお嬢様。エレナはいつもの白を基調とした服とはまた違い、青と紺色のドレスを見事に着こなしていた。エミリもまた深紅色のドレスがしっかりとプロポーションを目立たせて、かなりの魅力があった。
続けざまにルビー、最後にハクアが入室してくる。ルビーは綺麗な水色ドレスを着せられていた。背丈の割にはスカートは地面についていない。だが、目を見張ったのはハクアだ。
普段、鎧を来ているところしか見ていない俺にとってはかなりのパンチだった。黄色と若葉色を基調としたドレスはしっかりと着こなされており、所々とても強調されていた。抜群の魅力を感じさせるハクアに俺は呆然としていた。
「っておーい、ショウタ〜?」
「はっ!行けない行けない、沼に引きずりこまれそうになったぜ」
「おいショウタ、なぜ私を見てそれを言う。あ、今目をそらしたな!何を黙っている!言え!今すぐに何を考えていたのか言え!」
俺は肩を掴まれ揺らされるが口を割ることは無かった。
「ていうか、ショウタなにそれ!それもう執事の格好じゃないの〜!」
「普通こんなもんじゃないか?パーティーって基本これだろ?」
「そんなの着てるやつなんか執事以外にいないわよ。まぁそれはそれでいいんじゃないかしら。似合ってるし」
「おう、サンキュー」
そんなやり取りをして俺は試着室に戻ろうとする。だが
「ちょっと、どこに行くの?ショウタ」
「もちろん脱ぐに決まってるだろ?こんなの今日一日来てられるかよ」
「何言ってるの?今日はハクアの屋敷に泊まるから1日それに慣らすために来ておくのよ?」
「えっ!?」
その瞬間ハクアが驚いたように声を上げもじもじし始めた。
「わ、私はその、これはなんか私じゃないから鎧を来たいというかなんと言うか.....」
「あら?私が知ってる中でそんなにドレスを着こなせる人なんてそうそういないわよ?十分に可愛いし」
「!?」
エレナの言葉にハクアが顔を真っ赤にしてうずくまる。なるほど、このお嬢様は今までこんなドレスとかをめったに着て来なかったんだな。良くわかる良くわかる。
....にしてもなぁ、この状態で1日過ごすなんて大丈夫か?
主に精神的に
◇
パーティー当日。俺らは地図に書かれたラプラタ伯爵の屋敷を訪れていた。
もちろん地上である。既に何人ものマダムや男の人が別館のホール内にいた。どうやらもうすぐ始まるらしい。俺たちは周りながらドリンクを配っているメイドさんからドリンクを貰うと手に持つ。
「んじゃ、俺はラプラタ伯爵に挨拶に行ってくるからお前らは好きに散らばっててくれ」 
俺はそういいエレナたちの元を離れる。
「わかったわ、行ってらっしゃい」
「どうする?」
「適当に知ってる人でもいたら話しかければいいんじゃない?」
「私が知っている人は....もうよくわからん」
「私もここまで高貴な人達がいるなんて思いませんでした....」
まぁ、大丈夫か。
俺は歩いて伯爵の姿を探していた。辺りを見回すと一際人が集まっているところがあった。その中心には笑顔で挨拶を交わしているおそらく30代くらいのナイスガイ、筋肉モリモリ男性が立っていた。
あれがラプラタ伯爵だろうか。
とりあえず俺も人混みに混ざって挨拶を交わしてみる。
「どうも、ラプラタ伯爵。今回はお招きいただきありがとうございます」
俺は社交辞令も程々に挨拶をする。親が社交的で助かった。
 
「君は確かトドロキ ショウタくんであっているね?」
「はい、その通りです。トドロキ ショウタと申します」
「よく来てくれた!実は冒険者を招いたのはこれが初めてでね、歓迎するよ」
伯爵は俺に握手を求めてきた、俺もそれに応え握手を交わす。
この人とは上手くできそうだ。
そんなことを考えていると伯爵が何かを感じたように俺に促してくる。
「そろそろダンスの時間だ。ダンスは踊れるね?そろそろお連れの女性の方に戻った方がいい。それじゃあまた後で君の冒険譚を聞かせてくれ。4日前のことも含めてね」
伯爵はそのままほかの女性の元へ行ってしまった。んじゃ、俺も戻るか。
俺が戻ると男性に囲まれて少し困ったような表情をしていたハクアが俺を見つけて駆け寄ってきて、腕に抱きついてきた。 ハクアの胸が俺の腕にあたる。
や、やべぇ....
「すいません。私この方がいますので」
俺を視認した瞬間周りの男は雲の子を散らすように辺りに散っていった。その時、会場の点灯が消える。そう、これがダンス始まりの合図だ。ここで俺のスイッチが入った。執事として、道化師としてのスイッチが。そう、昨日、精神的におかしくなるとはこういうことを言ったのだ。
俺は耳打ちで、驚くハクアに向かって囁いた。
「な、なんだ!?明かりが!」
「落ち着け、もうすぐ音楽が流れて明かりがつく。ほら、俺の手を取れ」
俺が手を出すと、何故か躊躇していたので、今度は紳士的に。頭を下げ、手を伸ばし
「ミス・ハクア、Shall  we dance?」
ハクアがようやく俺の手を取ってくれた。そしてその瞬間明かりがつき音楽が流れ始める。俺はぎこちないハクアをリードする。全く、親が社交ダンスしてて良かった。
ハクアは俺に合わせてステップを踏むため転ぶことが一切なかった。このダンスには踊る女性の交換があるらしい。俺はそろそろというタイミングでハクアをほかの女性と強引に交換した。
「失礼、マダム。続けましょう」
俺はその後も次々と交換していき、最後にハクアが戻ってきた。ハクアが小声で
「ショウタ!どうしてあんなことを!いきなりされたらびっくりするだろう!」
「我慢しろ、これがルールらしいんだ」
俺たちはそのあともしばらくダンスを踊り続けた。俺はまるで時間が止まっているように思えた。気がつけば俺たちだけが踊っていて、周りは俺たちの踊りに魅了されているようだった。そして最後音楽がなりやんでダンスが終わったと同時に俺たちに向けて拍手が送られる。
俺は胸に手を当て綺麗に一礼する。ハクアもそこはわかっていたらしく、スカートの端をつまみ上げて一礼する。
もうだめだ、我慢出来ん!
俺は舞台の上に立ち、喋り出す。
「皆様、先程からの拍手、ありがとうございます。突然ですが私と踊ったマダム、手を挙げてもらえますか?」
複数のマダムが手を挙げていた。俺こんなに踊ったんだ。
「それではマダム方、右手のポケットを見てください」
ポケットをマダムたちは探る。そこには一枚のトランプが入っていた。
俺はパチンと指を鳴らし自分の持っていたトランプをバラに変えて見せた。
貴族達は感嘆の声を漏らしていた。
「それではマダム方、今度は左のポケットを見てもらえますかな?」
マダムたちは左のポケットを探る。手を突っ込んだ瞬間、マダムの誰もが吉凶の声を上げていた。
「それは私からのプレゼントでございます。それでは最後、3、2、1」
俺が0のタイミング指をパチンと鳴らす。その瞬間どのマダムが持っていたバラも白い煙とともには白い鳩へと変えられた。鳩たちはあらかじめ開けておいた天窓から飛び去って言った。またも盛大な拍手が起こる。俺はまたも綺麗に一礼して、最後に
「この私めはハーネスト家、アリシアお嬢様直属の執事、トドロキでした!それでは失敬!」
いつの間にかついていたマントを翻すと、白い煙とともに俺の体が白い鳩とトランプに変えられ飛び散った。
観衆がどよめき今日一番の拍手喝采が鳴り響く。もちろんこの後、ハクアに男女貴族問わず押し寄せてきたのは言うまでもないだろう。
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