異世界転移者バトルロワイヤル
1
外に出て転移者を殺しに行くような狂気を俺は持ち合わせていなかった。混乱に乗じて金を盗みにいくほど堕ちてはいないとも思っていた。
俺の部屋の近くで鉄パイプや斧を投げ合っていた連中は幸い視界に俺を捉えてはいなかったようで、準備をする時間は残されていた。
部屋に戻って丈夫な作業着に着替え、いつかここを抜け出すために作っておいた武器を持てるだけ持ち、玄関と窓に罠とバリケードを張って暴徒を待ち構えた。
鉄板の間から外を覗きながら、俺は短時間だけ、外で見たあの存在の姿を思い出していた。この混乱を起こした張本人だ。
虹色、ではない。玉虫色、でもない。どんな色でもない、色の定まらない人型の発光体が、夜空に太陽のように浮かんでいた。
アイツは一体何者なのだろうか?“新たな監視者”と言っていたから、アイツも“監視者”なのだろうか?
世界の監視者。アイツなら、俺を元の世界に戻してくれるだろうか。アイツが俺をこの世界に投げ込んだのか?
考え事をやめてバリケードから少し離れ、銃を握り直した。敵が接近してくる音に注意を払いながら、バリケードを破壊されて暴徒が押し寄せた時のための退路を探した。
玄関と反対の方角の窓から、壁に取り付けられたパイプをつたっていけばどうにか出られそうだった。パイプの劣化具合を見て、所持している武器の数をいくつか減らした。
侵入者に利用されないように、置いていく武器を分解していた時、ガンガンと玄関の方で荒々しい金属音が鳴った。誰かが玄関のドアを鉄の棒か何かで力任せに殴りつけているのだ。
急ごしらえのバリケードはすぐに剥がされるだろう。そのあとにちゃんと罠が作動してくれるよう祈りながら、俺は窓に命綱を引っ掛けてパイプを虫のように降りていった。
バリケードが破壊される音と共に男の下卑た大声が聞こえてくる。しかしその声はすぐに別の音によって掻き消されることになる。
扉に結んだ糸が切れ、魔術師のホウキから拝借した植物の茎が、限界まで曲げられた状態から解放される。
茎がピンと弾けて魔塵(魔力の塵)が空中に舞う。
魔術師から盗んだ魔力起爆機の炎が魔塵に引火する。
龍の形をした炎が侵入者を飲みこむ。
「かかった…」
本当にかかるとは思っていなかったので少し驚いた。
窓からかすかに漏れ出す青色の炎を見届けてから数分後、俺は無事地上に降りた。
降りた場所はアパートの壁とドブ川の柵の隙間で、人が普段通るような所ではない。玄関の外に広がっていた修羅場が嘘のように静まり帰っていて、俺はふっと一息ついた。
その時
「動くな」
背中に氷の柱を挿し通された気分だった。
俺の部屋の近くで鉄パイプや斧を投げ合っていた連中は幸い視界に俺を捉えてはいなかったようで、準備をする時間は残されていた。
部屋に戻って丈夫な作業着に着替え、いつかここを抜け出すために作っておいた武器を持てるだけ持ち、玄関と窓に罠とバリケードを張って暴徒を待ち構えた。
鉄板の間から外を覗きながら、俺は短時間だけ、外で見たあの存在の姿を思い出していた。この混乱を起こした張本人だ。
虹色、ではない。玉虫色、でもない。どんな色でもない、色の定まらない人型の発光体が、夜空に太陽のように浮かんでいた。
アイツは一体何者なのだろうか?“新たな監視者”と言っていたから、アイツも“監視者”なのだろうか?
世界の監視者。アイツなら、俺を元の世界に戻してくれるだろうか。アイツが俺をこの世界に投げ込んだのか?
考え事をやめてバリケードから少し離れ、銃を握り直した。敵が接近してくる音に注意を払いながら、バリケードを破壊されて暴徒が押し寄せた時のための退路を探した。
玄関と反対の方角の窓から、壁に取り付けられたパイプをつたっていけばどうにか出られそうだった。パイプの劣化具合を見て、所持している武器の数をいくつか減らした。
侵入者に利用されないように、置いていく武器を分解していた時、ガンガンと玄関の方で荒々しい金属音が鳴った。誰かが玄関のドアを鉄の棒か何かで力任せに殴りつけているのだ。
急ごしらえのバリケードはすぐに剥がされるだろう。そのあとにちゃんと罠が作動してくれるよう祈りながら、俺は窓に命綱を引っ掛けてパイプを虫のように降りていった。
バリケードが破壊される音と共に男の下卑た大声が聞こえてくる。しかしその声はすぐに別の音によって掻き消されることになる。
扉に結んだ糸が切れ、魔術師のホウキから拝借した植物の茎が、限界まで曲げられた状態から解放される。
茎がピンと弾けて魔塵(魔力の塵)が空中に舞う。
魔術師から盗んだ魔力起爆機の炎が魔塵に引火する。
龍の形をした炎が侵入者を飲みこむ。
「かかった…」
本当にかかるとは思っていなかったので少し驚いた。
窓からかすかに漏れ出す青色の炎を見届けてから数分後、俺は無事地上に降りた。
降りた場所はアパートの壁とドブ川の柵の隙間で、人が普段通るような所ではない。玄関の外に広がっていた修羅場が嘘のように静まり帰っていて、俺はふっと一息ついた。
その時
「動くな」
背中に氷の柱を挿し通された気分だった。
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