白髪の少年と星都市

飛荒一里

第1章 2話 「入学式」

ーー1

不思議と目覚ましより先に起きた。
「ん〜」
1時間、どうしよう?
ゲームをするのが妥当だろうと思ったが、生憎あいにくゲームのバッテリーは、切れていた。
むーー。走るか。
何故か遅刻厳禁の朝に、いつもとは違う事をしだす鬼助であった。
鬼助は、適当に着替えて家を出た。

本当にただ走ってきた鬼助が、家に着いた頃。
鬼助は、日課の風呂に入っていた。
「ふ~~~」
さて高校生活は、どんなものかなー、と考え出した頃に一昨日の出来事を思い出す。
一応軽くニュースになったらしいが、そこまで大々的なものでもなかった。
だろうな。捕まえたら、『あいつ』だけ有名人かな?
あいつとは、一昨日助けてくれた少女の事だ。同じ高校のジャージを来ていたので、多分出食わすだろう。
しかし能力が、有るか無いかでここまでの差を見せ付けられるのは、いつ以来だろう?
理不尽なものだ。
この都市まちが、能力に力を入れる限り鬼助の肩身は狭いだろう。
悲しき事か鬼助の実力は都市公認のものである。
その後色々と考え事をしていたが、のぼせないうちに風呂から出た。

「バス……駄目だろうな」
現在鬼助は通学路を歩いていた。
バスに乗ることができない事に、独り言を漏らす。
単に乗り物酔いの類で無ければ、バスに乗ったのが小学生以来で乗り方を忘れたわけではない。
今ちょうど鬼助の目の前のバス停に鬼助の高校まで行けるバスが、止まった訳だが明らかに乗客の定員を超えていた。心なしかバスの速度も遅い気が。
ブゥーと、音を立ててバスは発進したのであった。
多分入学式だからだろう。普段は学校に来なくていい親達が、子供の入学式を見ようとやって来る。
(妥当だな)
鬼助は納得した。
鬼助の両親は、仕事で来れないらしい。
しかし来て欲しくなかった。
親が、嫌いだからだ。
てくてくと歩く道には、人気が無い。

(まぁー一応着いたんだけど)
高校の門をくぐり、体育館の入学生の席に座った鬼助は、周りに謎の圧迫感プレシャーが、満ちているのに気付いた。
そして大半の入学生が、鬼助を見てざわめいていた。
それは小さい声だったが、鬼助の耳に届いた。
「裏口じゃね?」
「うわ、珍しいわー」
誰もが、笑って鬼助を見ていた。
鬼助は普段分からないが、能力者はお互いの力量を感覚で感じるらしい。
しかし鬼助からは無能力故に何も感じないのだろう。
誰もが、理解し、笑っている。
『間もなく入学式が、始まります。携帯電話は、マナーモードでお願いします。』
アナウンスが、始まった。
そして暫くしばらくして入学式が、始まった。





入学式。
校長挨拶やら生徒会会長挨拶やらを乗り越えた鬼助の周りは、スヤスヤモードになりかけていた。
(早いな!)
『それでは次のプログラムは、『洗礼』です。生徒会会長、説明を宜しくお願いします。』
鬼助の周りのスヤスヤモードは、『洗礼』と言う単語で解除された。
キキィィィィィ、マイクの音が体育館に響いた。
『んじゃ説明するよ~~~。今期の入学生の中で1番強い奴と1番弱い奴が、戦う。
一対一の戦闘だよー』
悪趣味だな。
この都市まちは、何故か高校を作るなら、入学式の際にこんなイベントやれとすすめてくる。
『説明、終わり~~~』
『それでは選手を発表します。』
カンペを広げながら司会者は、告げる。
第一階級リミットクラス、久城ユナン!』
拍手喝采が、巻き起こる。
消失階級ロストクラス、風滝鬼助』
ぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。
『以上2名は今すぐに戦闘準備室に向かってください。』
鬼助を席を立った。
「頑張って死んでこいや」
体格の良い奴が一言放った直後周りからクスクスと笑いが聞こえてきた。
「アイツ、そういやこの辺りじゃ有名人だよな!」
メガネを掛けた奴が今度は呟いた。
すると周りから嘲笑が、聞こえてきた。
「生徒会長さ〜ん!コイツ、消失階級ですよ!こんなゴミ、戦わせたら死にますよ?」
ア、ハハハハと笑いが、あっちこっちから聞こえる。
『最弱を戦わせるのが、第四星都市のルールだという以上ね。そこの『最弱』には生きて頑張ってもらうから大丈夫さ』




ーー2

なんだ!端からそうゆうことか!あのカスが!
そんなこんなで鬼助は、あらかじめ持って来た学校指定の青いジャージに着替えた。
競技場に出る所で先生に声をかけられた。
30代くらいの見た目の女性だ。
「まぁー教師から言えることはだなー」
「相手の弱点でも教えてくれるんですか?」
「教えてもお前みたいな馬鹿と阿呆と軟弱の三つを兼ね揃えた奴には、活用できんから教えるところで無駄だ」
(失礼だな……)
「言いたい事は、死ぬんじゃねーぞ」
「おや?優しい?ならもっと言葉を優しくしてくださいよ」
「ちっ、口の働くタイプのガキか。るっせェのは早めに高校ここ、やめた方がイイぞ。ナニ?せんせーが、やり方教えてやるよ!」
「口が働くのは、お互い様じゃん」
「あん?」
「どーせ責任取りたくないから死ぬんじゃねーぞとか言ってるんでしょ?」
「馬鹿と阿呆と軟弱の割には、わかってんじゃん!」
(後面汚しにはまだ死んで欲しくないんでしょ?)
そう言って背中を叩いて来て
「そう言えばお前、武器は?」
あ、やっぱり無いとダメだよね。
「一応剣式固定武装セットタイプソードが、一つ」
「そんな雑魚武器でどうにかなってたら相手は、第一階級リミットクラスなんかになってないぜ」
今度は、頭を叩かれた。
振り返ると女性教師は、歩いてゆく。
はぁーとため息を吐いて、競技場に出た。
スポットライトは、鬼助の相手の久城ユナンと言う女子に全て当てられていた。
(はぁー、だる……ッ!)
鬼助は、相手を見て目を見開いた。
一昨日見た少女だった。
赤い髪で赤い瞳、鬼助と同じ青いジャージ。
少女も気付いたらしい。
「ねぇ1つ言っていい?」
「……」
「アンタ、馬鹿なの?」
「見れば分かるだろ。エリートさん」
スポットライトは消え、競技場は明るくなり、準備が整ったらしく女子の声が響く。
『さぁーて学校始まって1発目の戦闘は、いつもの『洗礼』だァー』
久城ユナンの目は閉じていた。
集中しだしたみたいだ。
鬼助も目を閉じる。
外ではカウントダウンが、始まっていた。
『3、2、1、試合開始!!』
目を開けて走り出す。
剣式固定武装セットタイプソード、起動。
剣式固定武装は、剣の塚の形をしている。
そして起動共に、持ち主の能力を使用する際に消費する力、進霊力(まだ何もわかってはいない力)を使い、剣の塚の先から刃を形成する。
灰色の刃が出来上がり、剣としての形をようやく成した。
そして相手の久城ユナンは、進霊力を消費して炎を生成し、鬼助の方へ波の様に流す。
波の様に押し寄せてくる炎を鬼助は、左へ跳ぶ。
炎の波は、方向転換し、鬼助へ迫る。
「っ、しつこい!」 
「世界にたった1人の『無能力』者……」
久城ユナンは、ポツリと呟く。
「えっえっと、えい!」
鬼助は、剣式固定武装にプログラミングされた技《放斬》を、放つ。
剣式固定武装を振り、同時に刃を変形させ放つ技だ。
《放斬》の刃は、炎の波に突っ込んだ。
しかし刃は、炎に呑まれる。
「……戦闘慣れしなさ過ぎじゃない?いくら何でもこの都市に居るなら下級の技の回避法くらい分かるでしょ?」
「悪かったな!生憎記憶喪失でね!」
ふーんと、久城ユナンは鼻を鳴らす。
「消失に喪失、笑えるわね」
「ちっ!」
鬼助は、舌打ちと共に走る
そして炎の波を、跳び超える。
「熱っ!」
背中に熱を感じながら着地して鬼助は、再び走る。
「いける?」
はあぁぁぁぁぁぁ!!」
鬼助は、雄叫びと共に剣式固定武装を横に振る。
久城ユナンは、炎を帯びた手で応じる。
一度久城ユナンは、鬼助の攻撃を後ろへ躱し、前に出て炎を帯びた手で、鬼助の左脇腹に手刀を繰り出す。
「ぎゃっ!」
鬼助は、悲鳴を上げ後ろへ下がる。
「見っともない」
片膝を着いた鬼助に久城ユナンは、言葉を掛ける。
「せめて《魔剣》位はね」
鬼助は、立ち上がり走る。
「持ってきても、怪しぃけど!」
炎の龍が現れ、鬼助を呑み込む。
「うっ……!熱くない!?」
夏の陽射しの温度くらいと分かった瞬間、鬼助の肝が冷えた。
「消失階級に本物を使う事は、しないわよ」
炎の柱が、鬼助を包む(熱くはない)
「ふざ、けるな!」
鬼助は、炎の柱に包まれる中に、久城ユナンへ向けて《放斬》を放つ。
「……っ!」
炎の柱から不意にヒュッと音を立てて《放斬》が、飛んできた事に久城ユナンは、驚いた。
《放斬》は、久城ユナンの頬を掠める。
「ハアッアアア!!」
更に追い打ちを掛けるかの様に、炎の柱から鬼助が現れ、頭の上まで上げた剣式固定武装を真下へ振り下ろす。
久城ユナンに届く3センチ辺りで、剣式固定武装の刃は、消えた。
……。
「安全機構か……。フ、ハハ!」
まだだ!
鬼助は、剣式固定武装を空中に捨て、拳を握る。
久城ユナンは、鬼助との間合いを空け叫ぶ。
「咲け!花よ!散れ!炎よ!《炎夏の華フレイムフラワー》」
炎の華が、鬼助と久城ユナンの間に咲き乱れる。
……よし!
今まで同様久城ユナンの手加減による『熱くない』炎だった。
鬼助は、炎の中に入る。
スッ……。
「!!」
炎の中から顔を覗かせた鬼助に久城ユナンは、驚いた。
すると鬼助の首から下を包んでいた炎が、消えた。
「ハアァァァァ!!」
鬼助の掌が、久城ユナンを突き飛ばした。
久城ユナンは、そのまま競技場の床に尻餅をついた
ふぅーと、鬼助は息を吐きながら久城ユナンに近づく。
「浅はかね」
久城ユナンは、呟く。
確かに久城ユナンには能力がある。炎という能力が。能力の操作もきっと他の人より長けているのだろう。
対して鬼助には何も無い。能力も無く、武器である剣式固定武装も地に転がっている。それに今更拾った所で安全機構のせいで久城ユナンにはダメージを与えることは出来ない。
詰みである。
この競技場内にいる全ての教員生徒が、思うだろう。
一方的な能力という理不尽で、雑魚を嘲り笑うと設定された試合で、敗者に勝利は無いと。
「浅はかは、そっち」
鬼助は、久城ユナンを指差して言った。
ブウウゥゥゥゥゥゥゥ
試合終了を報せるブーザーが、鳴り響いた。
「ふーー」
「チッ!」
第一階級リミットクラスの久城ユナンは、舌打ちをついた。
鬼助は、入学式のプログラムを思い出した。
『洗礼』のプログラムの時間は、10分にも満たなかった。
生徒の移動や選手の準備で3分かかり、試合に3分使い、体育館に戻るのに同じく3分使う。(移動に3分かかるのはどうかと鬼助は、思った)
「……」
黙って久城ユナンは、競技場から出た。
(死ぬかと思った)
鬼助も競技場を出て準備室に向かった。
そして体育館に戻った。

__及第点




ーー3

鬼助は、現在自分の学級である一年三組に居た。
「えーー。私の名前は、白川木代しろかわ もくよだ。
担任、宜しく」
なんと驚くことに試合前に声をかけた女性は、彼女こと担任だった。
「副担任の和泉先生は、風邪でお休みだ。残念だな!女子諸君、和泉先生なぁー中々のイケメンだったぜ」
続けて美味しそうだなぁーなんてほざいているので無視した。
一年三組の生徒の視線は、白川木代に集中していた。
先程学級全員の自己紹介が、終わった。
「さぁーて自己紹介も終わったし、帰ろ帰ろ!」
「いいんですか?……」
生徒の一人が聞く。
「何?明日に適当な事は済ませる。後、私はお前達のプロフィールに目を通すのが忙しいんだよ!」
おいおい……と、誰かが言った。
「帰ろーぜ!」
チャラ男(?)が、言うと
「ほらほら友達作りしたいならこの後カラオケやゲーセンにでも行ってこい。これはその為の事だと思えばいい」
そんなこんなで白川木代は、帰りの会を開いて号令させて生徒を帰宅させた。
ぼっちの鬼助は、そのまま帰路についた。
彼は、記憶喪失だった。
中学生になって暫くして記憶を失くしたらしい。
よく実感の持てないことだ。
医者曰く、そこまで酷いものではないらしい。
よく分からないところである。
鬼助は、思う。
先の『洗礼』戦いで、記憶喪失である事を公言した事になるがこの先どうなるのかと思った。
久城ユナンは、戦闘慣れしなさ過ぎと言ったが、それもそうである。
鬼助が、覚えていないのは戦闘に関わる事である。
これを致命的に捉えようとしていることは、この都市に支配されかけているのもしれない。
二年前のある日、病院で目が覚め医者と家族に言われたのは事故にあっただった。
駐車場でバックしようとした車が誤ってアクセルを踏むというよくある事故に巻き込まれたらしい。その時らしい、轢かれて地面に頭を強打そのまま病院へ搬送という流れである。
しかし警察は、事件性の可能性があると主張した。
理由はよく聞いてない。
何にせよ。失ったのは戦闘に関する記憶だった。
暫くして鬼助は、寮にに帰宅した。
鬼助は、寮の扉を開ける。
もう6年も寮生活をしている。
戦闘時の記憶を喪失しているので生活には差支えが無い。
それに鬼助は、親が嫌いだった。
窓を開ける眼前には他校の寮が、建っている。
そりゃあ異術の無い子供の時点で親不孝者だ。
だから大人になったら大金を投げ付けて縁を切るつもりだ。
鬼助はベットに座り前を見ると液晶テレビが有り、その前のテーブルには30センチ位の短刀が、置きっぱなしになっていた。
鞘から抜くと黒い刀身が、艶めかしく光っていた。
最後に手入れしたのは3ヵ月前だろうか?
何故かこの刀は錆びない。
父方の祖父が、生きていた頃は祖父と巫山戯て1年間庭に放置した事がある。
夏休みの観察日記にも書いたが、この短刀は錆びない。
観察日記には、いつも黒い短刀の絵を書いた事やら。
元々これは祖父が無けなしの金で買ってきた物だ。
これは魔剣という類の刀だ。
影光の魔剣かげみつ
名を持っている。
魔剣は、壊れる事は無い。
能力を秘めた剣(あるいは刀)と称される事が多々ある。
魔剣を管理する施設・兵器庫と名付けられている。
風滝家は、兵器庫に外部管理申請書類をきちんと提出しており、そのお陰で数少ない魔剣保有家として一般的に知られている。
元々祖父の遺品だが、祖父直筆の遺言で《影光の魔剣》は、鬼助へと相続させる事になった。本来なら祖父の形見なので、遺産相続の話をしていた一族全員が、知った瞬間修羅場発生しかけた(祖母のお陰で丸く収まった)
祖父の真意は、孫の事を思っての事らしい。
しかし祖母に
「いいかい?ちっちゃいお前の手には刃物がある。要らなくなったら、あの祖父馬鹿の墓に唾と一緒に捨てなさい。壊す必要があったら、あの祖父馬鹿の墓を刃物で叩いて壊しなさい。捨てなきゃならない時は、あの祖父馬鹿の墓に投げて近くの川に捨てなさい」
と言った。
嫌いだったの?
家族では、祖父母は嫌いでは無かった。
異術を優先する親と妹が、嫌いだ。付け加えると年上の従兄弟も嫌いだ。
一族は、祖母以外異術の事しか考えていない。
それこそが鬼助が、寮生活をする理由だ。
鬼助は、刀を納め先程放り投げた鞄の中に入れる。
冷蔵庫を開くと昨日買ったコンビニ弁当が、あった。
夕食を確認してから箪笥を引き、中から服を取り出し風呂場に入る。
まだ3時だが、家を出る必要が無いのでそのまま風呂に入って外が、暗くなったら鬼助は、寝ていいと思った。
そのまま鬼助は、成長していくだろう。
それは鬼助も分かっている。
ただし、鬼助が思っている程生優しい運命など、待ち構えていないだろう。

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