残念異能を持った鈍感主人公はラスボス戦の前にヒロインたちから倒されそうです。

降水ゆう

第16話 「動揺と動揺」

「では勝負といきましょうか」

「ええ、そうね」

 私がこいつに勝てなかったのは、心読の魔法を使わずとも動きを読まれていたからだ。だから、今回は動揺させて不意をつく。

「ねぇ、私がまだ小さかったあの頃。あなたと初めて会った日のことを覚えている?」

「もちろん覚えていますよ。あなたはお母様の後ろにずっと隠れていましたね。それより、この話は私の動揺をさせるためのものだったりするのでしょうか?」

「そんなわけないじゃない。バカねー、ははははっー」

 (ばれるの早過ぎでしょ。何でよっ。魔法無効化は発動させているのに、何で心読まれてるの??)

「では何の話ですか?」

「それは...。わ、私の恋の話よ、恋の話。気になるでしょ?」

 (恋の話って何!? 恋なんてしたことないわよ!)

「それほど気になりませんが、今話さなければいけないことですか? 」

「そ、そうよねー。今話すことじゃなかったわね」

 (助かった。ナイス団長)

「いや、やはりあなたはこのような場面で無駄口を叩くようなバカではなかったと。本当は重要なことなのでしょう。ぜひお聞かせ下さい」

 (もうバカでいいからこの話止めたいです...)
 しかし、団長の言葉のせいで、今や団員達の注目すら浴びていて、今さら「そうゆう作戦でしたー」なんて言えない。
 (どうしたらいいのよ...)

 動揺を誘う作戦で動揺しまくりのフィスクだった。




「一颯さん。それで、これからどうするんですか?」

「もちろん。助けにいく。あいつの体術には敵いようがない。だから不意をつく作戦でいく」

 今の状況を知らない俺達は見当はずれな作戦会議をしていた。

「やっぱりそうでしたか。一颯さんが仲間を置いて逃げるなんてことしないと思っていましたよ」

「言葉が悪いな。じゃあ、今から作戦を言うぞ。まず、確認から入るけど、サレアさんの技は大地に視界いっぱいの亀裂をいれられるほどの威力なんだよな?」

 そして、それを知ったときの俺は超絶落ち込んだのをまだ覚えている。

「そうですよ」

「よし。よしじゃないけど。今回の作戦はまずその技を使って、フィスクとあの弟くんとの間に亀裂をいれて分断してくれ」

「一颯さんこそ、言葉が悪いですね」

 (だからセルニーは妙に鋭いところをついてくる)

「そして、その間にセルニーがついさっき使った強力な水魔法で弟くんだけを狙ってくれ。杖はまだ持ってるよな?」

「はい!」

「大量の水で身動きが取りづらくなって、フィスクと弟くんが完全に離れたら、俺のターンだ。」

「その一颯さんのターンでは何をするんですか?」

「ドロー! じゃなくて、それはまた後で。急ごう」

「分かりました」

 フィスクがあの相手にどれだけもつかも分からないので、俺達は道を引き返し、またフィスクの元へ向かう。





「じゃあ、話の続きをしましょうか」

 とは言ったものの恋の話、ましてやそこから重要な話にもっていけるわけがない。
 こういう話なら取りあえず、好きな人の話をするのが定石だろうか。恋バナに定石があるのかは知らないけれど。

「私の好きな人は...」

 (でも、好きな人どころか父親と団長以外ほとんどまともに男性と話したことがないし、最近だって...)






「あそこにいる人、弟さんじゃなくないですか?」

「確かに違いますね。それに、後ろに何人もいるようですし」

 俺達は今、近くの岩陰からこっそり状況を観察している。

「もしかして、フィスクの対峙してるのは..いかついオジサンじゃないか?」

 ギスクルフの奴らが追いついて来たのかもしれない。

「どうしましょう、一颯さん」

「作戦変更だ。弟くんじゃないなら距離を離させなくても大丈夫だ。フィスクを巻き込むことはないだろうからな」

「そろそろ教えてくれませんか? 一颯さんが何をするのか」

「それはな...」

 俺にしては自己犠牲の強い作戦だった。

「俺の部屋を召還してあいつ等を閉じ込める」

「そんなことできるんですか?」

「理論上は可能なはずだ」

 (何の理論か知らんけど part2)

「俺の予想だと、強化のされ方は壁が頑丈になっている辺りのことだろう。それなら当分追いかけられることはない」

「さすが、一颯さん。敵を殺さない優しい作戦ですね!」

「今度はお前が言葉悪いな」

 そんなことを言っている間にフィスクがみるみるうちに困った表情になっていっている気がした。

「もしかしたら、何か言われて動揺させられているのかもしれないな」
 ※あくまでも動揺は自分自身のせいです。

「団員達に紛れて、オッサンに隙が見えたら魔法を発動させるから、二人はここで待っててくれ」

 そうして、俺は後ろからこそっと団員達に紛れ込んだ。正直バレても全くおかしくなかったのだが、よっぽどフィスクに集中しているのか、俺に誰も気づかなかった。
 そんなときだった。フィスクから驚愕の発言が飛び出したのは。

「私の好きな人は...一颯くんです」

 俺は衝撃を必死にこらえた。まず、この緊迫した状況から何故その言葉が発せられたのか、そして、好きな人が俺と言ったのは何なのか。とにかくこらえた。それなのに..

「そうなんですか!?」

 岩陰からセルニーが飛び出した。

「誰だ!」

 団長のオッサンがすぐさま反応して、団員達の視線もそちらへ向く。
 (なにやってんだよあいつ)

「ご、ごめんなさい。何でもありません!」

「いや、何でもないじゃなくて。誰?」

 セルニーの雰囲気に流され、バカっぽい会話が始まった。

「私はその、脱獄してきたものです!」

「ん? 何で言っちゃうの。こっちとしては有り難いけど何で言っちゃったの?」

 団長の口調までおかしくなってきたところで、俺はここが絶好のチャンスだと気づいた。

「くらえ!」

 右手をつきだし、団長のオッサンに矛先を向ける。そして、右手に光が現れた瞬間

「うぉっ!」

 不可視の力に押されたかのように体は後方へ吹き飛ばされた。
 (これは敵の魔法か...)

 というのは俺の勘違いで、俺の魔法の影響だった。
 右手から出た光は瞬く間に団長のオッサンの辺り一帯を囲みそこには俺の部屋が姿を現した。
 吹き飛ばされたのは作用・反作用とかいうやつのせいだろう。

「これは何だ!?」

 あのオッサンが動揺しているところを見るのもなかなかの見物だ。
 部屋は完全に地面に降り立ち? 少しの静寂が流れる。

「団長がやられた?」

「そんなわけないだろ。あんな壁くらいに」

 そんなことを団員達が話し始めていたとき

「お前らー、ここから出してくれー!」

 そんな団長の声が聞こえた。

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