残念異能を持った鈍感主人公はラスボス戦の前にヒロインたちから倒されそうです。

降水ゆう

第10話 「希望と落胆」

「一颯さん?」

 おそらく寝起きのサレアさんが目を擦りながら歩いてきた。
 (もう朝か...)

「おはよう、どうしたの? サレアさん」

「いえ、話し声みたいなものが聞こえたものですから。一颯さんと小さい子の話し声が」

「気のせいですね」

「そうですかね?」

「そうに決まってます」

 朝っぱらから幼女と話してたなんて知られたら、どうなるわけでもないが、なんか嫌である。

「そうだ。このトンカチをただ振ってくれませんか?」

「振るだけですか...」

 ヒュンン

「これでいいんですか?」

「あぁ、ええと...」

 (あのロリやろう嘘ついたのか)
 気合い入れて振ってみたりしたら何か起こるのではないかという淡い期待を胸に、自分でも一応やってみる。

「ほっっ」

 ガラガーーン!!

「一颯さん...」

 雷が落ちました...。
 このトンカチがとても使えるということを知れて良かったのだが、事態はそれ以上にまずいことになっていた。

「向かいの店が壊れているんですが、あれも気のせいでしょうか?」

「そうに決まってますと言いたいところなんですけど...」

「どうしましょう? 逃げますか?」

「サレアさん。それは止めましょう」

「冗談ですよ」

 サレアさんの微笑して言った。
 (この人ならほんとにやりそうだ)
 しかし、状況は最悪だ。店からは焼け焦げた臭いがするし、おそらく酒場だったのだろう。一部燃えているところもある。このままだと燃え広がってしまうかもしれない。

「サレアさんは水属性魔法使えますか?」

「いえ、使えません」

「どうすれば...」

 打つ手がなくただ呆然と立ち尽くしていたとき、

「一颯さん! いつの間に起きちゃったんですか! って何ですかこれは!?」

「セルニー! いいところにに来た。あれを水属性魔法で消してくれ」

「昨日もお話ししましたが私は2つしか魔法が使えないんです。そして、どっちも水属性ではありません」

「今、覚えるんだ」

「えぇ? 無茶ですよ!」

 たとえ無茶だとしてもこの状況を打破するにはもうこれしかない。

「頼む。セルニー」

 セルニーの肩を強くつかみ、本気でお願いする。

「い、一颯さん! えぇと、その、分かりました!」

 セルニーの様子が少し変だったが(急に動揺しだしたような)、了承してくれたことには間違いない。

「でも、覚えるなら出来るだけ強い魔法しか覚えたくありません」

「ああ、分かってる」

「サレアさん。セルニーの部屋から強そうな水属性魔法が載ってる本を持ってきてくれませんか?」

「了解です」

 サレアさんはセルニーに何か言われてから急いで家の中に駆け込んで行った。
 炎がさっきよりも少しだけ広がっている。いつ爆発的に炎上してもおかしくはない。この世界のルールは分からないが、家とか店を燃やしてしまったらどんな刑が処されてしまうのだろうか。あー、なんかお先が真っ暗に見えてきた。

「取ってきました!」

 本を覗いて見るがどれが強いのかさっぱりだ。

「この〈ウェイス・スカルフ〉という魔法にします」

「どうしてそれなんだ?」

「お祖父さんは強い魔法が載っているページの右下に、この星が五つ円上につながっている印を残しているんです」

「そうなのか。じゃあ頼んだぞ」

 すごく他人任せで悪いのだが、新しい魔法をどうやって覚えるのか俺には分からない。

「本当は杖があった方が魔法が出しやすくなったり、威力が上がったりするのでいいんですが...」

 じゃあどうして杖を持ってないのかなんて聞くのは愚問だろう。どうせお祖父さんがいざというとき、素手でも魔法が出せるようにとか言ったんだろう。
 (というか、杖持たずにこの前言ってたような威力が出せるのこの子? どんだけだよ)

「俺が杖の代わりになるものを召還するよ」

「意外と便利な能力ですよね」

 (その言い方で本音がバレてますよ、サレアさん...)
 いつも通り右手に光が宿る。そしてーーーー
 右手に現れたのは紛れもなく杖だ。

「一颯さん! やりましたね!」

 神様は言っていた。見たことがあるものを召還できると。
 そう。これは、修学旅行で行ったU◯Jの◯リー・ポッターのお店で見つけた杖だ。
 こんな事になってしまったせいで忘れていたが、サレアさんがトンカチを振ったときは何も起こらなかったということから、おそらく召還したものの潜在能力は俺にしか引き出せないのだろう。
 しかし、今回の場合は杖を触媒として使うだけなので、トンカチがトンカチとしての役割は果たせるように、杖としての役割は果たしてくれるだろう。

「今度は私の番ですね!」

 どうやら魔力を練っているようだ。魔力を練るという感覚は分からないが、セルニーの周りになんとなくオーラが見えたので多分そういうことだろう。

「いきます! はあぁぁぁ!」

 燃えているお店の真上に魔法陣のようなものが現れる。
 そして...

 ドバシャッッッ

「成功だぞ! やったなセルニー!」

「はい! やりました!」

 セルニーがまた一歩先に、いやそれこそ何十歩先に行ってしまったようで悔しくもあったが、今は素直に2人で喜び合った。本当に嬉しそうな笑顔だ。

「あのー、2人とも喜んでいるとこ言いにくいのですが、ホントにやってしまいましたね」

 サレアさんがさっきまで燃えていたお店の方を指差す。
 そこには水の勢いで完全に潰れてしまったお店があった。
 今考えたら、それはそうなるだろう。なんせ、最強に近い魔法を繰り出したのだから。

「よし、逃げるか」

 この先どうなるのか、もはや予想もつかない。
 まぁ、先に言っておくと、この後3人はこの国の警察的組織に連行されるのだが。

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