PROMINENCE

第33話 猛毒蝶

「さぁて…そろそろ作戦実行と行きますか」

沢山の人が行き来する病院のロビー。
そこにベリーは違和感無く溶け込んでいた。

厚手のコートを脱ぎそれを横に投げ捨てると、彼女は大きく手を広げ椅子から立ち上がる。

「先ずは駒を用意しなきゃね?」





「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

  大きな悲鳴が響き渡る。
歩夢と美鈴はそれを聞くや否や、猛ダッシュで声のする方向へと駆け出す。

「なんだ?!」

  ロビーに居た人達は皆、床に倒れ込み苦しそうに項垂れていた。

「歩夢っ! 口と鼻を布で抑えて屈むんだ!!」

言い切る前に美鈴は歩夢の頭を抑え、床へと押し倒す。
歩夢は取り敢えず言われた通りに行動し、身を床へと伏せたまま当たりを見渡した。

「これは…?」

「何者かが毒を撒いてるんだよ」

「毒!?」

「殺傷性は無い見たいだけど、倒れてる人を見るに神経麻痺を起こしてるわね」

  確かに、倒れてる人は苦しんでは居るけど意識はある。
よく見ると腕や足をガタガタと震わせ、身体の自由が効かないみたいだった。

「でも、どうして解ったんですか?これが麻痺系統の毒だって」

「ウチはそっちの分野とかには詳しくてね。
直に触れたりしたら大体判るのよ」

流石は経験者。
きっと場数を踏む事で解る事もあるのだろう。

「でも、どうするんですか?
これじゃあ犯人を探せないですよ」

伏せていては他の場所も見れない。
移動も酷く困難である。

しかし、美鈴はそんな事は無いと自信たっぷりに言い放つ。

「ウチなら何とか出来る。
歩夢、アンタは上の階に行って真人と合流してきな」

「わ、分かりました!」

頷きながら歩夢は低姿勢ながらも起き上がり、素早く通路へと引き返す。

「さてと、ウチも犯人探しと行きますかね」





おかしい。
先程から2つ程小さな魔力が動いている。
この中で動いているというのも異常だが、それよりも『私を感知』して睨んでいる女が居る。
異常だ。いったい何者なのだろう。

まぁ、遅かれ早かれ私の魔法に掛かれば小バエ同然。
その内引っくりがえって動けなくるでしょう。

だから私は私の任務を全うするだけ。
此処を占拠し、この地域一帯に大きな厄災を齎す。



──ドカッ!!! 


激しい衝撃波が左から走る。
しかし、そんな事も露知らずの顔でベリーは振り返る。

そこには拳を振りかざし、ベリーの後頭部を目掛けた一撃が放たれた後があった。

美鈴が仕掛けたのである。

だが彼女の拳はベリーに当たる前に止められていた。
まるで何かに遮られてるかの様に。

「あら、貴女でしたのね。
私を睨んでいた女…中々度胸がお有りの様で」

でも、と続けながらベリーは美鈴の拳に触れる。

「不意打ちなんて無駄ですわよ?」

「その様だ…ねッ!!」


  今度は抑えられている拳をそのままに、右脚で腹部を狙い 蹴りを放つ。

「『鱗粉よ守護状態と化せザ•スケオスティガード』!!」

ガッ──!!

  蹴りは先程の拳同様、空中で止まってしまう。

「だから無駄ですって…」

───ドッ!! 

「ぅぶっ!?」

  空中で止まった筈の美鈴の脚は、スピードを取り戻しつつベリーの脇腹へと減り込む。
蹴られた勢いで姿勢を崩し、ベリーは2メートル程吹き飛ぶ。

「な…んで? 私はガードしたハズっ…?!」

痛みよりも先に疑問が浮かび上がる。

確かに美鈴の蹴りは止まっていた。
なのに何故、急に動き出してベリーの脇腹に当てる事が出来たのか。考えても解らない。

「ならっ!! 『猛毒の鱗粉よ 相手を蝕めポイズナースケオスティア』」

黒紫の鱗粉が舞い踊る。
まるで意思が在るかの様に、鱗粉は真っ直ぐに美鈴の元へと飛んでゆく。

しかし美鈴はそれを避け様ともせず、真っ直ぐに突っ込む。

「なっ!?」

「甘いね。これ位じゃウチは殺られないよ!!」

「『鱗粉防御ケオスガーディ』!!」

先程までとは違う魔法名を唱えガードするが、短くなっている分。防御壁が薄くなってしまっているのか、今度は止まる事も無く拳が突き抜ける。

「──っ!?」


しかし、それを間一髪で避ける。
顔面スレスレの所を躱し、毒の鱗粉を再び自らの元へと集めさせる。

「ゼロ距離で叩き込んで上げる!!」


ドスッ!!


  ゼロ距離で毒の鱗粉を固めた球体を放つ。
腹部の位置で放たれた球体は、鈍い音と共に鱗粉が弾け飛び。重い一撃と同時に毒攻撃へと変わる。

腹部を殴られ、1度外に吐き出してしまった酸素を取り込もうとした瞬間に毒は身体の中へと入り込む。


「カハッ…!!」

倒れ込む。
身体の自由が効かないのか、ビクビクと痙攣を起こす美鈴。

彼女が動けなくなったのを確認し、ベリーは安堵する。

「変な女…國信田様のリストには居なかったハズだけど。
彼女も烏丸とかいう政府の犬と同類なのかしら?」


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