PROMINENCE

第30話 新たな敵?



  ありえない光景に二人は息を呑む。
目の前で頭が丸焦げになり死んだ男が、今度もまた無傷で現れたのだ。

これは夢か?
歩夢はそう思ってしまう。

それも無理は無い。
現に2回もこの男は無傷で目の前に現れるのだから疑うのは至極当然。


「糞ガキ、てめぇさァ…一体『誰を』殺したんだ?」


「!?」

  そうだ。
この男が生きているなら、俺は一体誰を殺したんだ?


─歩夢の鼓動が激しくなる。


「俺はお前をっ…!!」

「じゃあ聞くけどよォ、何で俺はてめぇの目の前でピンピンしてんだァ?」

「それはっ」


  まさか、俺は関係の無い一般人を殺したのか…?

「あーあ、酷でぇなァおい。 『誰だか判らない一般人』を、お前は殺しちまったのかよォ?」


「っ…!?」

「辞めろッ!!  これ以上、この子を苦しめるなッ!!」

美鈴は立ち上がり、歩夢を庇うかのように構え対面する。
その迫力は、先程の復讐心に燃えていた時よりも雄々しく猛々しい。

「ンだこの糞アマ? さっきまで怯えていた雑魚が、調子に乗ンじゃねェぞ」

「何とでも言えば良いさ。私はね…この子を護るって、今決めた所なんだよッ!!」

  激しく緑色に輝く魔力を帯び。美鈴はノイズキャンセラーを睨む。
その姿を見たノイズキャンセラーは、一瞬だけ迫力に押されるが直ぐに調子を取り戻す。

「ケハハッ、女1人で何が出来ンだ…


──ドガッ!!!


一瞬。
緑色の輝きが弾け、美鈴の姿が歩夢の目の前から消えたと同時にノイズキャンセラーは海老反りで吹き飛ぶ。

「ごぶぁっ…ぎゃぎぃ!?」

顎を殴られたのか、上手く喋れず変な言葉を発している。

歩夢はソレをただ唖然として見ている事しか出来なかった。
最初こそ、何が起きたかすら理解出来なかったが。傍まで戻って来た美鈴の様子を見て察したのだ。彼女がノイズキャンセラーに何かした事。それが顔面目掛けてやった事なのだと。

何故なら、美鈴の後ろで変な言葉を発していたノイズキャンセラーの顎が大きく開きダラんとしていたのだから。

「これでお得意の魔術も使えないでしょ」

「あばばびぶべぼ…」

「血が垂れて何言ってるのか解らないね。アンタ、今の顔を鏡で見てみなよ?
さっきよりイケメンになってるよ」

  美鈴はそう言いながら振り返らなかった。
それこそ、彼に取っては侮辱な事。散々馬鹿にしてきた敵に一瞬でボコられ、挙句皮肉を言われたのだから。

ノイズキャンセラーは頭の血管がブチ切れそうなくらい顔を赤くして、美鈴を睨み立ち上がろうとする。




「無様だ」



その時、立ち上がろうとしたノイズキャンセラーの横に黒装束の小柄な影が現れる。

「ノイズキャンセラー、君はこの程度のレベルなのですか。
先程から『彼』がボヤいて居ましたよ。『多少換えが効くからと乱用し過ぎだ』…と」

  その小柄な影は、冷たい言葉でノイズキャンセラーを説教する。


「美鈴さん!新手です!!」

「歩夢、私から離れるんじゃないよ!」


少しばかり体力が戻ったのか、歩夢はよろけながらも立ち上がり 美鈴と共に戦闘態勢に入る。


「おやおや、僕は戦いに来たのではありません。このバカを回収しに来たんです。」

「ずびばぜん…」

あの威勢の良かった男が萎縮している?!

「お初にお目に掛かります。僕の名は『探求者ロード』探求者です。」

  黒装束の小柄な少年は、ニコリと微笑み自己紹介を告げる。
髪は銀色でそれが月の光により、キラキラと輝いて美しさを醸し出していた。

「帰りますよ『音響兵器ノイズキャンセラー』」

「逃がさないよ!」

「逃げるのではありません。帰るのです。」

「だーかーらー、ソレを逃げるって…」

  言葉を言い切る前に、美鈴は喋るのを辞めた。
理由は簡単。目の前に突如、薔薇の華が咲き乱れ 首元や身体には薔薇の茎が巻き付いていたのだ。

歩夢も同様。二人はいつの間にか身動きすら取れない状況へと追いやられていた。

「僕の魔法はどうです?」

  後ろを向きながらロードはパチりと指を弾く。
その瞬間、周囲に咲いていた薔薇は舞い。
茎も全て消滅してしまう。

「その気になれば、僕1人で充分ですよ。  でも、それだとこれからのゲームが面白く無くなってしまう。
だから僕は彼を止めに来たんですよ。」

  まぁ、それも必要ありませんでしたけど。と呆れ果てた顔でロードは首を振る。
申し訳なく感じているのか、ノイズキャンセラーはただ静かにそれを聞き入れるばかり。

「ゲーム…だと?」

「それは詳しくは言えません。 それではまた」

  パチンと指を大きく鳴らすと、二人の姿は消え 一輪の薔薇だけがヒラヒラと舞い落ちる。


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