PROMINENCE

第19話 動き出した者達


  此処は宮城県石巻市にあるホテル『花宴はなのえホテル』、
そのホテルの1室の薄暗い部屋の中、机の上に置かれた携帯電話。

しばらくすると、それは画面を点灯させ着信を知らせるベルが鳴る。


『─俺だ。送った資料に目は通したか?』

「あぁ、コレは明らかに魔術師絡みだな」 

『そうだ。しかも時期的に見て、國信田との関わりが大きい』

「目眩しに利用しているのか、術者自体が身内か…どちらにせよ。こりゃあ化け物がする事だ」

『そこで『大鴉レイヴン』と『骸の仮面スカルフェイス』の二人に調査を依頼する。良いな?』

「…了解」

『健闘を祈る』


──ブツッ。


  携帯電話の点灯は静かに消え、野太い男の声が途切れる。


しかし、そこには誰も居なかった。
ただ、携帯電話が一つだけ机に置かれたまま。
その部屋は静けさと暗さを取り戻す。









「真人、仕事だ」

  車内の中、烏丸は運転中の真人へ仕事の依頼が来たと説明する。

「政府直属の依頼って事は宇陀うださん?」

  車を運転しながら聞き返す真人に、烏丸は外の景色を観ながら「あぁ」と小さく応える。

手に持っている書類が、烏丸をそうさせているのだろう。



  政府特務称号授与

烏丸啓吾 並びに 東條真人

上記の2名には国から特別名誉を称えると共に
実績に伴い 政府機関から称号獲得の推薦が出され
それを国が受理した事を此処に記入する。

それと同時に 上記2名には特務を命じる。

『國信田隼人の捕獲 (抵抗する場合は手段を問わない)』


尚 任務の際のコードネームは下記の称号と同一する場合がございます。

烏丸 啓吾『大鴉レイヴン

東條 真人『骸の仮面スカルフェイス

以上。



これは前回貰った依頼書であり、僕らの初称号獲得の知らせでもあった。

しかし今回の依頼は酷いモノだった。

大量殺害犯の捕獲と、歩夢くんの調査依頼。

前者はまだ依頼としては良くある事。

後者は『桐咲歩夢の本家内部調査』なのだから、啓吾のヤツも反対していた。

しかし、上からの圧力が掛かれば首を縦に振るしかない。

よりによって、その依頼者が國信田との繋がりがあるかも知れない人物なのだから。

啓吾は余計に腹を立てていた。

もしこれを実行したのなら、僕達は歩夢くんを裏切る事となる。

「まさか、直ぐに打ち止めさせられるとはな…くそっ!!」

  ハンドルを叩く真人の様子を、烏丸は横目で見た後にまた窓の外を振り返る。

「要するに、これはオレ等への圧力…。
歩夢くんと関わるのならその情報を横流ししろって事さ。
逆に言えば、オレ等が怪しまれて中にすら入れてもらえなくなったと言えば、この依頼は中断するしか無くなる」

しかも匿名で依頼が届いてるってのが気持ちが悪い。

オレ等は相手の素性も何も解らないが、あっちはいつでもコンタクトを取れると言う脅しだ。

この車に乗り込む時に、依頼書がドアノブに括り付けてあったのを見ると案外近くに潜んでるのかもな。

「まっ、そこん所は宇陀さんが調べてくれている」

「だから念の為にホテルを取って、位置を知らせない様に携帯を部屋に置いてきたのか?」

  中々勘の良い真人の発言に、烏丸はニヤリと微笑む。

「まぁな。宇陀さんの依頼は魔術でこちらに知らせられるし、位置情報もハッキングされないだろ」

  車には術式も組み込んであるが、念には念を入れてな。


烏丸はふと前を見ると、何やら人影らしきモノがゆらゆらと動いているのが視界に入った。


「真人っ!!」

「『捉えてる』!!」


ブォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


烏丸の叫びに合わせて真人はアクセルを限界まで踏む。


そして勢いを増した車は、100メートルくらい離れていた人影へと吸い込まれるかの様に接近し…




ドガァッ!!




思い切り正面からぶつかる。


「啓吾!!  アイツ顔が無かった!!」

ぶつかった衝撃でエアバッグが発動し、それを押し退けながら二人は顔を見合わせる。

「っ、警戒してて正解だったな。 あんにゃろぉ、逃げる所か途中から向かって走って来てやがった」

首を抑えながらドアを開け、二人は外の様子を伺う。


 先程轢いた人影は、ぐしゃぐしゃに曲がっていた。
普通の人間であれば致命傷であっただろう。
しかし、その人影だったモノはガシャガシャと音を立て起き上がろうとする。

「マネキン?」

真人は咄嗟に車に置いていた骸骨の仮面マスクを手に取り、それを頭に被る。

「サーチ・オン」


キュイィィン…ピピッ!!

骸骨の仮面は、真人の声に反応し。
機械音と共に両目を薄らと緑色に輝かせる。


「立体地図で周りをスキャン、同時に熱感知システム作動」

  視界が切り替わり、立体地図が仮面の目から映し出される。

そして、そこには人らしき熱反応がポツリと光っていた。


真人はその位置を確認し、烏丸に無言で合図を送り接近する。


(熱感知に引っ掛かったのは二人…しかしこの大きさ…)

近くにあった反応は、最近起きた殺人現場からそう遠くは無いビル。

二人は静かに中に入ると、非常用階段から上へと登る。

部屋の前に来た所で、二人は誰か倒れている事に気付く。


「女の子…やはり子供が居たのか」

「罠っぽいな、どうする?オレが先頭切るか?」

  烏丸の言葉に真人は首を横に振り、自分が行くと言い。
少女へとゆっくり近付いてゆく。


「(大丈夫かい?)」


小声で体を揺すって見ると、少しだが反応があった。
真人はそれを見て少し安堵し、その少女を抱き抱えて階段まで一時撤退をした。

「啓吾はこの子を見てて、僕は部屋を探索して来るから」

「待て、一人じゃ危ねぇだろ!!」

「僕のこの仮面なら大丈夫。反応も一人しか居ないし、周りを警戒すれば何とか行けるよ」

そう言うや否や、真人はゆっくりと廊下へ身を乗り出した。

「近くだから大丈夫だろうが、お前の魔力に異変が起きたら直ぐに向かうからな?」


  烏丸のその言葉に、真人はにこやかに笑顔で返し部屋の方へと向かう。



「うぅ…ん」

「おっ、気が付いたか?」

「おっ、おじさん誰?!」

  目を覚ました少女は、烏丸を警戒しながら後ろへと下がって行く。

その先が壁なのに気付かず下がり、壁にぶつかった瞬間 ブルブルと怯え始めた。

「大丈夫。君を助けに来たんだよ」

「ほ、本当に?!」

  少女は信じられないモノでも見るかの様な瞳で、烏丸を見つめる。

烏丸はそれに優しく応えると、少女に何があったのかを聞いてみる。

「えぇっと、お買い物してたら急に意識がなくなっちゃって…。
目が覚めたら、しらないおじさんと一緒にあの部屋に閉じ込められてたの。
それで…逃げようと廊下に出たらまた意識がなくなっちゃって…」

「そのおじさんは?」

「凄い傷で、お腹から血がいっぱい出てたの…。
だから私…助けを呼んで来るねって言って出てきたのっ…」

余程怖かったのであろう。

その体は話ながら小刻みに震えていた。

しかし、烏丸はそこで違和感を覚えていた。

犯人が別に居るなら、真人の仮面には反応が少なくても3つ以上あるハズだ。


「お嬢ちゃん、反応は何処かに行ったのかな?
もしかして、顔とか見てない?」

少女は烏丸の質問に対して、恐る恐る指を廊下にある鏡へと指し示す。

「鏡?」

まさか、鏡の中に?
魔術師ならありえる可能性かもしれない。

烏丸はゆっくりと近付き鏡を覗き込む。

何の変哲もないただの鏡。

目の前に居る自分と、後ろに居る少女が映し出されているだけ。


触った所も、見た所も異変は何にも感じない。


烏丸は振り返り、少女の方へと向き直す。

「お嬢ちゃん、鏡がいったいどうしたん…っ?!」


刹那、烏丸の後ろには先程跳ねたマネキンが立っていた。

  そしてそのマネキンが手にしていたナイフが、無慈悲にも烏丸の左肩から右下へと降り掛かる。









  部屋に侵入した真人は、縛られ腹を刺された中年の男性を助けていた。

男性は酷く衰弱していて、声にならない声で真人に何かを伝えようとしている。

「マ…キン…しょ……うじ…が…」

「待ってて下さい…。これをゆっくり飲んで」 

男性に自分が携帯していた飲料水を飲ませると、真人は後ろで両手を縛っている紐を切りに掛かる。


「あっ…う、後ろだッ!!マネキンが来た!!」

「!?」

男性の言葉に咄嗟に反応した真人は、後ろに振り返りながら回し蹴りを繰り出す。

ドガッ!!

蹴りがヒットし、背後から襲おうとしていたマネキンは壁まで吹き飛ぶ。

「アレは…先程のマネキンとは違う?」

今度のマネキンは、しっかりと服を着せられている。

しかも顔にはピエロの様な模様まで描かれていた。

「気を…付けろ。そのマネキンはナイフを隠し持っているっ!!
そして犯人はっぶじゅっ!?」

大声を上げた男性の口に、銀色に輝く長い針が突き刺さる。


「腕の中に針まで仕込んであるのか?!」

カシャカシャと音を立てながら起き上がるマネキンの腕には、小さな針穴が空いており。
男性に対して、そこから針を飛ばして突き刺したのであろう。


今度は、その針穴は真人を捉えていた。


「『強化魔法』発動!!」

  全身に力を入れ、真人は横へ走り出す。

それを追ってカタカタと、マネキンは腕の標準をこちらへと向けて来る。

動きはそこまで速くない!!
なら、こちらから一気に接近してっ…

マネキンの懐に飛び込み、腕を掴み自らの膝にぶつけへし折る。


ガシャッ!!


しかし、突如開いたマネキンの口からは 先程とは比べ物にならない程の太さの針が覗いていた。

「やばっ!?」


ドシュッ!!

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