PROMINENCE
第4話 覚醒
  バサッと上に被されていた布を勢い良く取り払うと、そこには大きな水槽の様な容器があった。
そして、その中には10人の子供達が押し込まれて居たのだ。
「…ぐっ!!」
  頭の中が沸騰しそうになる。
  狭い入れ物の中でぐったりとしている子供達、何人かは虚ろな表情で空を見上げて居た。
「お前っ…この子達に何をしたァ!!」
「んー? あぁ、コレ?♡
少し喚くもんだから〜、お・く・す・り打っちゃった♡」
「テメェ!! 國信田ァァァァァァ!!」
  烏丸さんが勢い良く、國信田と呼んだ男の下へ駆ける。
ドガッ!!
  その勢いのまま、拳を思いっ切り顔面へと打つけてぶっ飛ばす。
少し飛んで地面に体を打った國信田は、何故かニヤリと笑っていた。
「歩夢くんもこっちへ!!  この子達を逃がそう!!」
「あっ、は、はい!!」
  ガチャガチャと、入れ物と台車を固定しているレバーを下げて外していく。
気絶している子を抱き抱えると、丁度目を覚ましたのか薄らと瞼を開けてくれた。
良かった。
まだ生きてる…。
「だ…れ?」
  掠れた声で辿々しく言葉を発して質問をして来た。
この子は薬とかを飲まさせれていないのだろう。
俺はそっと手を握り、大丈夫、助けに来たんだよ。と伝える。
そうすると、子供は安心したかの様にニコリと笑いもう1度眠ってしまう。
「う〜つくし〜い〜ね〜♡
でも〜、そんなに悠長で良いのかなぁ〜?」
「「!?」」
  歩夢と烏丸は同時に振り返る。
先程まで地面に倒れていた國信田は、いつの間にやら部屋の中央に描かれた魔法陣の真ん中に立っていたのだ。
「0時ピッタしだ♡」
「?!」
「歩夢くん!!  早く魔法陣から出るんだ!!」
  烏丸が大きな声で歩夢へと避難しろと命じるが、既に遅かった。
魔法陣は紅く光だし、その光が溢れてから身体の身動きは全く出来なくなっていたのだ。
「ピクリとも動かない?」
「『固定魔法』見たいなモノが発動してるね〜♡」
  何かの魔法名見たいなのを、國信田は嬉嬉として教えて来る。
烏丸さんも同じ状況らしく、身動きを全く取れないみたいだ。
「さぁ!!扉よ開け!!」
「っ?!」
  歩夢が目を覚ますと、そこは真っ白い空間だった。
  此処は何処だ?
確か、さっきまで暗い部屋に居たハズ…。
  辺りを見回しても、何処までも白い空間が続いていた。
  しかし、後ろを振り返ると、そこには大きな扉と大きな建物が現れたのだ。
  まるで魔法の様に現れたその建物に歩夢は近付くと、静かに扉を開いてみる。
少し重いが扉はゆっくりと開いてゆく。
「すげぇ…」
  そこで歩夢は息を呑む。
白い広く大きなホールが目の前にあり、幾つか扉があり2階に繋がる階段も見られる。
  木製の手すりは綺麗な形をしているが、無駄な飾りも無くシンプルなデザイン。
  上から吊り下がってるシャンデリアもとても大きく、宝石の様に輝いていた。
  そして一際広いホールの中心には台座があり、その中には紅い本が丁寧に保管されている。
「綺麗な本だなぁ」
  近くに寄るとその本の凄さに圧巻する。
家と同じで飾り気は少ないのに、高級品の様な気品が溢れている。
──汝、力 ヲ 求 メルノナラバ 本 ヲ 開 クガヨイ
「えっ?」
  何処からとも無く声が聞こえた気がした。
幻聴?にしちゃあハッキリ聞こえた気がしたけど…。
歩夢は本を覗き込むと、表紙に手を触れる。
ドクンッ!!
「ぐっ…あ?」
  胸元が熱くなり、心臓が大きく脈打つ。
──ヨウヤク逢エタ
  なんだっ?何が起こってるんだ?!
ドクン…ドクンッ!!
  熱い…胸が熱くて苦しいっ!!
「何じゃ、其方は魔力を封印されておるのか」
「えっ…」
  突如、本の上から綺麗な着物を着た女性が現れる。
黒く艶やかな髪で、まるで巫女の様な装束。
女神という言葉が似合う程に美しい。
「そんなに褒めるな、照れるであろう」
  頬を朱色に染めて、モジモジと体をこそばゆそうにしていた。
というか、人の心を読んだ?!
「ほれ、もう動けるじゃろ?
そんな所にうちゅ…うつ伏してないで早う起き上がりなさい」
  照れ隠しの様に顔を背けて素っ気なく言おうとしているが、途中で言葉を噛んでしまったものだから、これがまた自らを辱めている。
  …確かに身体の奥にあった、燃えるような辛さが綺麗に無くなっていた。
  俺は起き上がると、取り敢えず状況を整理する為に周りを見渡す。
  それに気付いたのか女性はコホンと咳払いをすると、静かに横にあった椅子に腰を掛け座る。
反対側にも椅子が一つあり、それを静かにポンポンと叩いている。
「どうした?」
あぁ、座れって事か。
余りに綺麗だから一瞬思考が止まっちまったよ!!
「失礼します」
「うむうむ!」
  軽くお辞儀をして座ろうとする俺を見て、何故か満足そうに顔を縦に振る女性。
  その度に黒く艶やかな髪はサラリサラリと動くのだが、それがまた綺麗なもんだ。
「果てさて、何から話そうかの?」
「そ、そうだっ!!  俺、今本当は大変な状況なんです!!」
  ガタリと椅子を後ろに吹っ飛ばす勢いで立ち上がり、目の前の女性に今の状況を簡単にだが伝える。
  早く戻らなきゃ。
こんな夢を見てる場合じゃないんだ俺は!!
そう考えていると、女性は俺の額に手を触れ目を瞑る。
その綺麗な顔立ちを目の前にしていたら、何だか全てを吸い込まれてしまいそうな錯覚にすら陥りそうだ。
「そうか…人を犠牲に扉を開いたのか。
だから罰として封印を解かれたのじゃなお主…」
「─えっ?」
しばらくしてから、女性は指を額から離し何かを悟った様な表情をこちらへと向ける。
「安心せい。この世界は夢では無く現実そのものじゃよ」
「ど、どういう事ですか?!」
「その國信田という愚か者は、子供達を贄として此処の扉を開いた。
しかし、お主だけが居る所を見ると、他の同じ場所に飛ばされたのであろう。」
  他の同じ場合?
何を言っているんだ?
「此処は『アポカリプス』と呼ばれておる場所でな。
この『黙示録』を中心に創られた世界の1部なんじゃよ」
  先程まで台座に置かれていた本を片手で差し出すと、もう片手で歩夢の手を本の上へと移動させる。
「この本がこの世界の中心核じゃ。
そして同じ様な本が他にも存在していて、そこにも『アポカリプス』は存在しておるのじゃよ」
「つまり、『黙示録』の数だけ『アポカリプス』は存在していて。
それは同じ世界ではあるけど別な世界でもある…」
  それはよく映画とか小説にある、パラレルワールドと同じ原理なのか?
  同じ世界だけど別の世界。
つまりは、この本を軸にパラレルワールドは創られている…。
「そうじゃ、その世界毎に管理者が居てくれてな。
その『黙示録』を読むに値するか、確かめる者も居るのじゃ。」
「じゃあ、この世界の管理者はあなたって事ですか?」
「違うぞい。
妾は頼まれたのじゃよ、管理者に」
  「さてと」と付け加えて、女性は歩夢の手を強く握り締める。
「おいおいとこの世界の説明もするが、先に主の意見を聞こうかのぉ」
  ニヤリと笑って女性は歩夢を真っ直ぐに見詰める。
「妾は天照大御神。
気軽にアマテラスで良いぞ?」
「あ、アマテラス…さん?」
「うむ。ぎこちないが、それも自ずと馴れてくるであろう」
  嬉しそうに微笑むその顔に、歩夢は一瞬ドキドキしてしまっていた。
しかし、それも束の間。
  突如彼女の体が燃え上がり、歩夢とアマテラスを囲む様に燃え広がる。
「さて、妾はお主の記憶を読み取ってしまったから解るが。
あっちの世界では大変な様じゃのぉ」
「そうなんです!だから早く戻らなきゃ!!」
「戻ってどうするのじゃ?」
「えっ?!」
「戻った所で、お主の力じゃ國信田とかいう奴には勝てぬぞ!!」
  その言葉に歩夢は驚いた。
確かに歩夢も考えては居たのだ。
  あの不気味な男は底が解らない。
ヌメっとした嫌な感じが、見た時からずっと感じられていた。
そしてあの魔法陣。
身動きを封じられてしまい、銃で発砲されたら即ゲームオーバーだ。
あの状況にもし戻れたとしても、俺には何も出来ないんじゃないか?
無力に殺されるだけなのは目に見えてる。
「だがお主はそれでも戻ると言ったの…?
それは何故なのじゃ?」
それは…。
それはとても簡単で単純な答えだ。
「子供達が居たからです!!」
  歩夢の目には恐怖や弱さの他に、何者にも負けない強さが混じっていた。
迷っているのだ。
烏丸から魔法の事を聞いて、それが本当に存在していた事。
体験してしまった事。
それでも受け入れようとしない自分が何処かに居た。
でも此処に来て見たら、全てを受け入れるしかないとも思った。
もう、自分が知る日常では無い。
小説や映画、アニメやマンガに出て来る様な世界が目の前に存在しているのだ。
  そして子供を抱き抱えた瞬間。
いや、誘拐されている時から自分の中で湧き上がる何かがあったのだ。
「そうじゃ、お主はその時に気付いていたのじゃよ。
自分は誰かを助けたい人間なのだと!!」
正義感。
  笑われるかもしれないが、その感情が強まった気がしたんだ。
「間違いでは無いぞ。お主はそういう運命を持って生まれたのじゃ!」
  俺は変わりたかったんだ!!
誰かが困っている時に、見て見ぬフリをする様な人間ではなく。
手を差し伸べる側に立てる人に!!
「正義のヒーロー?成ってやるが良い!
いつの世も、悪が栄えそうになると正義か目覚めるのが世の理であろう?!」
熱い!!
頭が!!胸が!!
身体全身を血じゃない何かが駆け巡り、循環している!!
「うっ…ぐァァァァァァァァァッ!!」
目を思いっ切り綴じて開くと、身体の熱が吹き荒れる。
そして、静かに穏やかに身体の中へと消えてゆく。
「完成じゃな」
  満面の笑みで、アマテラスは俺の顔を覗き込んで来る。
完成?
ほれと鏡を差し出されたので、それを手に顔を見てみると…。
そこには、髭や髪の毛が物凄く伸びた顔があった!!
「誰だこれ?!
え?俺なのか!?」
  顔を触ると、ガサガサとした髭の感触があり。
髪の毛も伸びた分だけ頭にも重さが掛かっている。
「魔力調整が成功したのじゃ。
髭は微調整すれば直るぞ?」
そう言うと、アマテラスは俺の髭を引っ張りあげる。
痛い痛い痛い!!
「ふぐぉふごぉ?!」
  余りの痛さに顎に力を入れて、手から逃れようと試みる。
その瞬間、髭は凄い勢いで縮み消える。
「あれ?」
「ほれほれ、他の所も今の容量でやって見るのじゃ」
  言われた通りに意識を集中させ力を込めると、眉毛も綺麗に元通りに戻った。
しかし、髪だけは上手く戻せずに中途半端で断念した。
「元々、髪の毛は神聖なモノとされる事が多いからの。
そのままでも良かろう」
「はぁ…。てか何ですかこれ!?」
  急に髪の毛や髭とかボーボーに伸びて、身長も少し大きくなったんじゃないか?気のせいかも知れないけど。
「気のせいではないぞ?
魔力を少し解放したから、肉体がそれに合わせて成長したのじゃよ」
「へぇ〜…。そう言えば、俺の魔力って封印されてたんですよね?」
「生まれた時からじゃろうな。随分と上書きがされておったわい。」
  生まれた時から?
なんでそんな…。
俺の家は昔から何の変哲もない家なのに。
──ザ…ザザッ…
なんだ?
今、何かが頭に浮かび掛けた?
「おい、主様よ!!
そろそろあっちの世界に戻るぞ?」
「うぇっ? あっ、戻れるの?」
「うぬ。この世界は本来出入りするのに少しコツが必要なだけで、そもそも生贄など必要無いのじゃよ」
  トンっとアマテラスは扉を軽く小突くと、扉は自然と開き。
そこからはあの部屋の光景が広がっていた。
「うむ。時が少しおかしな流れになっておるな」
「流れ?」
「元々、アポカリプスを無理矢理こじ開けたに等しいからの。
その影響が出ているのかも知れぬ。
丁度良い、その間に主様にあの男を倒す切り札をやろう」
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