PROMINENCE

第1話 始まり

宮城県 女川町。


  俺、桐咲 歩夢きりさき あゆむは普通の高校生である。

  テストの点数も平均。
運動能力も少し良いくらいで、平均と変わらない。
むしろ持久力に関しちゃ、からっきしダメな部類であると自負している。

  普通な高校生である俺は、事件とかには無関係だろう。



 いや、今は本当にそう思いたい。



『こちらC部隊、被験体モルモット確保』


  …おいおいマジかよ。

  学校に行く途中にある裏道を通って居たら、ワゴン車から黒いスーツを来たおっさん二人が現れて、子供を誘拐してやがる。

  いや、妄想とかそういうんじゃなく。

  マジで現実でだ。

  ここら辺、震災後から人通りは少なくなったとは言えまだ朝だぞ?

  俺は直ぐに近くの神社の林に隠れると、木と木の間からこっそりと頭半分を覗かせる。

  子供は少女らしく、騒いでランドセル等を投げた形跡が見られた。

  しかし、いくら暴れた所で大人の男との力の差は歴然だ。

呆気なく抑えられ、男が何かを話すとガックリと項垂れうなだた。

  (何をしたんだ?! まさか、クロロホルムとかじゃねぇだろうな!?)

  ドラマとかでよく見るハンカチに薬品を染み込ませたアレは、少しでも量を間違えると大変な事になりかねない。

それも小さい子供にやったとなれば、危険性は高まる。

  (やべぇ!てか。あんな騒いでんのに、どうして誰も出て来ないんだ!!)

  周りを見ても人が出て来る気配が一向にしない。

いくら年寄りが多くても、ここら辺でこれだけ騒げば誰か一人くらい気付くだろ。

  そんな事を考えている間に、少女は車へと乗せられる。

瞬間、中がチラリと見えたが。

その中には幾つかの影が見えた。

(まさかコイツ等、常習犯か?!)


それなら話は違う。

コイツ等は人気が無い時間帯や場所を選んで犯行に及んでいる。

 人が出て来ないのではなく、最初から居ないとしたら?


  何かが、頭の中を熱く駆け巡る。


止めなきゃヤバい。

  取り敢えず無音カメラで撮影し、友達にトラブルが発生したから裏の神社に警察を呼んでくれ。とメールを送信する。


  携帯は神社の階段の脇にそっと投げて置く。

車のナンバーも写してあるから、警察が上手く見付けてくれるのを願うだけだ。

  よし。と気合を入れ、俺は適度な大きさの枝を拾い上げると道路へと飛び出す。

  「おい!お前らそこで何をしてるんだ!!」

  「「!?」」

  後ろのドアを閉めた直後の男達がこちらを振り返る。

  『各部隊応答せよ。繰り返す、各部隊応答せよ。』

  開いていた助手席から無線の音が流れる。

話し方からして、先程と同じ人が喋って居るのだろう。

ノイズ混じりに低い声が響き渡る。

「…出ろ」

「でも、兄貴?!」

   黒服の一人が顎で合図しながら、もう一人に無線に出る様に命じる。

最初は面食らった顔をしていた方は、少し考えて頷くと無線へと向かう。

  「う、動くな!!」

  何とか振り絞って声を出すが、緊張で喉が押し潰されているかの様に声が出しにくい。

黒服の一人は、俺から目を離さずにコチラをずっお見据えている。

  俺は何とか枝の棒を構え、じりじりと躙り寄るにじ  よが気迫で今にも吐きそうだ。

「おい坊主、正義のヒーローごっこなら他所でやりな?」

  ニヤリと口角を上げ、俺を見るその表情はまるで子供を見ているかの様だった。

実際に子供ではあるけど。

「その子達をどうする積もりだ?」

「チッ、中まで見ちまったか。」

「質問に答えっ…」

  刹那、先程まで視界に居た男の姿が揺らぐ。

「あーあ、大きな声を出し過ぎて吸っちまったか?」

「かっ…あァっ?!」

  喉の奥に何かが張り付く様な感触があった。

パリパリと乾いた喉からは、声ではなく空気だけが掠れ出る。

「坊主、おめでとうだ。」

  ぱちぱちと掌を叩いて鳴らし、男は満面の笑みでこう言った。







「お前も『被験体モルモット』だ!!」






  そこで俺の意識は途切れた。

寒い冷たい地面で倒れながら。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品