月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第67話 無礼な出会い
「お嬢様……」
シーマが語りかけるも、ティファナはずっと花壇の花を眺め続けており、瞳には悲しさ、不安、後ろめたさ、などよく分からない色で滲んでいた。
大人が両手を広げた程の小さな花壇には、黄、青、紫、白、赤と虹色のように彩どり豊富な花達が咲いている。
ティファナが何ヶ月もかけて、シーマと共に作った花壇であり、まだ幼い人生の中で初めて一から作り上げた彼女の国。
城の多くの者に喜ばれ、賞賛されていたが、1番喜んで欲しい人には未だに見て貰えていなかった。
「………お母様、どうしたら喜んでくれるのかな。」
小さな呟きは、小さな彼女の不安を掻き立てる。
「……私のする事は、間違ってるのかな……」
「お嬢様…」
憎らしい程の快晴の中、花壇に小さな雨粒が一つ、また一つと落ちる。
声を出して泣きたい、母親の懐で何の恥も外聞もなく、想いを吐き出したい。
しかし、そんな年相応の行いですら、幼い彼女の中にも立場という戒めが、呪いの様に胸を締め付け続けていた。
細かく肩を震わすティファナ、幼い彼女を抱き締めたい衝動に駆られるも、自身の行いの良し悪しの判別が出来ないことに、シーマなりに歯痒さを感じていた。
「あら、王宮の中にも花壇があるのね。」
不意に、若い女性の声がし、ティファナもシーマも顔を上げて、声の方を見た。
そこには、腰に手を当て、口元に笑みを浮かべた女性が1人立っていた。
「無礼者!アルヘイム王家第一王女であるティファナ殿下の御前ですよ!あなたの様な方がおいそれと謁見できる方ではありません!」
シーマは、ティファナと女性の間に立つと、自身の役目を果たす気概を見せる。
「おおコワ。そんな風に脅かされたら、私、縮こまってしまうわ。」
女性は、両手を抱えワザとブルブルと身振りしてみせた。
シーマの影で見えない様に、瞳を拭うとティファナはスッと立ち上がり、視線を女性に向け、会釈をする。
「私は、ティファナ•アルヘイムです。
あなたはどなたです?」
ティファナは、外向きの顔と穏やかな口調で女性に尋ねる。
「私はね…」
「ナスカ…ここに居たか。」
ナスカと呼ばれた女性の後ろから、大きな影が寄る。
広い肩幅、豊かな顎鬚、文官とも将軍とも取れる雰囲気の男性。
「閣下。」
「閣下!?」
ナスカとシーマは、ほぼ同時にその場に跪き頭を垂れた。
「ジル様…」
ティファナは宰相に会釈をすると、再びナスカの方を見た。
ジルは一目で状況を判断すると、片膝をつくとティファナへ頭を垂れた。
「王女殿下、この度は大変失礼を致しました。この者は、ナスカ。ワタシの小間使いでございます。なにぶん王宮や貴族としての振る舞いなどについては皆無であり、此奴の言動に不快な想いをされたのでしたら、早々に処分させていただきますれば…」
「い、いえ。不快な事なんて…」
ジルは、ティファナの言葉を聞くと目線を上げ再び立ち上がった。
「さすればこの度の事、ご容赦下されば幸いにございます。……ナスカ。」
「はっ、この度は王女殿下に軽々しい言葉を発してしまいました事、深くお詫び申し上げます。殿下の慈悲深き心に甘えることなく……ええっと……お支えさせて頂きます。」
「ナスカよ。今より、王女殿下に側使くのか?ワタシはそれでも構わんが…」
「あ、いえ、そうではないのですが…」
「ふふッ」
ティファナは、ジルとナスカのやりとりから、いつの間にか笑顔を見せていた。
「あら、ようやく笑いましたね殿下。」とナスカ。
「………ナスカ。ワタシの執務室へ来るのは、後で良い。」
そう言うとジルはティファナに会釈をすると、廊下をコツコツと歩いて行った。
「ありゃ。閣下にしては、お優しい事で…」
「あの……ナスカ様?」
「ナスカで良いですよ、王女様。あまり堅苦しいのは好きではないので。」
「あ、はい。でも、私も王女ではなくティファナと呼んでください。」
「お嬢様!?」
ダメとばかりに、シーマはティファナの手を取る。
「良いのです婆や。少しだけ、ナスカ様…ナスカとお話をさせて…」
このナスカという無作法な女性に心を許そうとする事に、シーマは抵抗したがティファナの瞳に暗い色が薄れた事に気付くと、そっと身を引いた。
「おやおや。小さいながらも中々豪胆ですねティファナ様は。何処の馬の骨ともわからない人間に心を許すなんて。」
「あなたは、父上…陛下の側近にして、この国の守護者である宰相ジル=メイザーが認めた方です。そんな貴方を無碍には致しません。それに、心はまだ開いてはおりません。」
一瞬、ポカンとした表情を見せたナスカは、クスクスと笑い出した。
「ティファナさまは、本当に5歳であらせられますか?このお年で中々に面白いですね。わかりました、あなたの心が開く様に努力させて頂きます。」
ティファナとナスカの初めての出会いは、
とても軽く、何の面白みもなく、それでいて何処となく暖かさを感じるものだった。
シーマが語りかけるも、ティファナはずっと花壇の花を眺め続けており、瞳には悲しさ、不安、後ろめたさ、などよく分からない色で滲んでいた。
大人が両手を広げた程の小さな花壇には、黄、青、紫、白、赤と虹色のように彩どり豊富な花達が咲いている。
ティファナが何ヶ月もかけて、シーマと共に作った花壇であり、まだ幼い人生の中で初めて一から作り上げた彼女の国。
城の多くの者に喜ばれ、賞賛されていたが、1番喜んで欲しい人には未だに見て貰えていなかった。
「………お母様、どうしたら喜んでくれるのかな。」
小さな呟きは、小さな彼女の不安を掻き立てる。
「……私のする事は、間違ってるのかな……」
「お嬢様…」
憎らしい程の快晴の中、花壇に小さな雨粒が一つ、また一つと落ちる。
声を出して泣きたい、母親の懐で何の恥も外聞もなく、想いを吐き出したい。
しかし、そんな年相応の行いですら、幼い彼女の中にも立場という戒めが、呪いの様に胸を締め付け続けていた。
細かく肩を震わすティファナ、幼い彼女を抱き締めたい衝動に駆られるも、自身の行いの良し悪しの判別が出来ないことに、シーマなりに歯痒さを感じていた。
「あら、王宮の中にも花壇があるのね。」
不意に、若い女性の声がし、ティファナもシーマも顔を上げて、声の方を見た。
そこには、腰に手を当て、口元に笑みを浮かべた女性が1人立っていた。
「無礼者!アルヘイム王家第一王女であるティファナ殿下の御前ですよ!あなたの様な方がおいそれと謁見できる方ではありません!」
シーマは、ティファナと女性の間に立つと、自身の役目を果たす気概を見せる。
「おおコワ。そんな風に脅かされたら、私、縮こまってしまうわ。」
女性は、両手を抱えワザとブルブルと身振りしてみせた。
シーマの影で見えない様に、瞳を拭うとティファナはスッと立ち上がり、視線を女性に向け、会釈をする。
「私は、ティファナ•アルヘイムです。
あなたはどなたです?」
ティファナは、外向きの顔と穏やかな口調で女性に尋ねる。
「私はね…」
「ナスカ…ここに居たか。」
ナスカと呼ばれた女性の後ろから、大きな影が寄る。
広い肩幅、豊かな顎鬚、文官とも将軍とも取れる雰囲気の男性。
「閣下。」
「閣下!?」
ナスカとシーマは、ほぼ同時にその場に跪き頭を垂れた。
「ジル様…」
ティファナは宰相に会釈をすると、再びナスカの方を見た。
ジルは一目で状況を判断すると、片膝をつくとティファナへ頭を垂れた。
「王女殿下、この度は大変失礼を致しました。この者は、ナスカ。ワタシの小間使いでございます。なにぶん王宮や貴族としての振る舞いなどについては皆無であり、此奴の言動に不快な想いをされたのでしたら、早々に処分させていただきますれば…」
「い、いえ。不快な事なんて…」
ジルは、ティファナの言葉を聞くと目線を上げ再び立ち上がった。
「さすればこの度の事、ご容赦下されば幸いにございます。……ナスカ。」
「はっ、この度は王女殿下に軽々しい言葉を発してしまいました事、深くお詫び申し上げます。殿下の慈悲深き心に甘えることなく……ええっと……お支えさせて頂きます。」
「ナスカよ。今より、王女殿下に側使くのか?ワタシはそれでも構わんが…」
「あ、いえ、そうではないのですが…」
「ふふッ」
ティファナは、ジルとナスカのやりとりから、いつの間にか笑顔を見せていた。
「あら、ようやく笑いましたね殿下。」とナスカ。
「………ナスカ。ワタシの執務室へ来るのは、後で良い。」
そう言うとジルはティファナに会釈をすると、廊下をコツコツと歩いて行った。
「ありゃ。閣下にしては、お優しい事で…」
「あの……ナスカ様?」
「ナスカで良いですよ、王女様。あまり堅苦しいのは好きではないので。」
「あ、はい。でも、私も王女ではなくティファナと呼んでください。」
「お嬢様!?」
ダメとばかりに、シーマはティファナの手を取る。
「良いのです婆や。少しだけ、ナスカ様…ナスカとお話をさせて…」
このナスカという無作法な女性に心を許そうとする事に、シーマは抵抗したがティファナの瞳に暗い色が薄れた事に気付くと、そっと身を引いた。
「おやおや。小さいながらも中々豪胆ですねティファナ様は。何処の馬の骨ともわからない人間に心を許すなんて。」
「あなたは、父上…陛下の側近にして、この国の守護者である宰相ジル=メイザーが認めた方です。そんな貴方を無碍には致しません。それに、心はまだ開いてはおりません。」
一瞬、ポカンとした表情を見せたナスカは、クスクスと笑い出した。
「ティファナさまは、本当に5歳であらせられますか?このお年で中々に面白いですね。わかりました、あなたの心が開く様に努力させて頂きます。」
ティファナとナスカの初めての出会いは、
とても軽く、何の面白みもなく、それでいて何処となく暖かさを感じるものだった。
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