月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第55話 情報(たいか)
錬金術
かつてその技術はアルヘイム王国全土に広がっていた。
  薬草や薬剤の調合により、より高位の万病薬を作る医療分野、そして金属の精錬やそれに伴う溶剤などの工業分野に主に使われ、各都市には幾人かの錬金術士の資格を有する者達が点在していた。
また、錬金術士専用のギルドも同時に存在し、一時期は職業の花形とさえ言われる程の人気分野であった。
しかし、その人気はやがて憧れとなり、憧れは権威となり、権威は権力に繋がった。
そして、最後は傲慢とも言うべき2つの事件を発端に、錬金術士という職業の地位は底辺まで落とされることになる。
その事件の一つは、金の量産である。
本来、希少価値の高い金は、その価値と信頼性故に貨幣としては最高額、装飾品としては高級素材として今も扱われている。
しかし、これを錬金術の応用により、「人工的に金を作る」、そのようなことになれば量に関わらず、金の価値と信頼性は瞬く間に急落し、経済は早々に瓦解することになる。
そしてもう一つ。
それは、呪物錬金である。
医療分野に特化した者達は、多くの病気を治す万病薬の研究の過程において、一部の者が様々な病や異常状態を発生させる呪物を作り出してしまった。
その呪物は身につけた者へ様々な能力を付与する代わりに、徐々に体を蝕み、最後には精神すら破壊するというものであった。
「それが黒死紋…」
「ええその通り…。そして、その黒死紋を作る為には、特別な血が必要となる。しかも、それに使われる血が特別であればあるほど、その付加能力は強いものとなるわ。」
アースガルドの個室の窓から、夜の帳がおりてくる景色を眺めながら、ロキはナスカの話を思い出していた。
もうすぐ黒死紋の手掛かりがわかる。
拳をギュッと握るロキの瞳は決意めいたものを宿していた。
コン、コン、コン……ガチャ
ドアがノックされると、ラムズが部屋に入ってくる。
「待たせたロキくん。さて、先ずは君の手腕を見てみたい。なので、簡単な仕事から任せてみたいと考えている。」
「その前にバラムについての情報を聞きたい。」
「ふう…性急さは商人にとって悪癖なんだがね…」
やれやれと言わんばかりに、ラムズは両手を開いてみせた。
ラムズが両手をパンパンと2度鳴らすと、ライザがワインとグラスを持って入ってきた。
グラスに赤い液体が注がれ、ラムズは味わうようにそれを喉の奥へ送る。
「うむ、やはりワインはマドラ産だ。
さて、バラム侯爵についてお話ししましょうか…」
ラムズはワインを飲みながら語り出した。
数年前
ラムズは様々な商売を手掛け、その巧みな手腕により、辺境の貴族にも匹敵するほどの財力と影響力をつけていた。
そして、一部の貴族達からも一目置かれ、貴族相手の商売も手掛けるようになった。
そんな中、ある貴族が社交パーティを開き、そこにラムズが招待された。
その貴族こそ国王殺害未遂の罪で投獄されているバラムであった。
バラムはラムズの手腕を買い、様々な品の仕入れを頼むようになった。
ある時、ラムズはいつもと違う注文をバラムから受ける。
それは公共事業の一環という名目で、鉱山の働き手の確保のため、人を集めて欲しいとのことだった。
珍しい食材や高価な貴金属を扱う事がほとんどだったラムズにとって、人集め仕事は初めてだった。
しかもすぐに集まる街への募集ではなく、わざわざ辺境の村を対象としており、バラムは辺境の活性化の為などと言ってはいたが、誤魔化しであることは明らかだった。
しかしラムズはその事には触れず、依頼のまま辺境の村から100人もの多くを集め、バラムへ引き渡した。
数ヶ月後、その100人は忽然と消えた。
「その人達はどうなったんだ!?」
「さあ、私は集めてくれと頼まれただけでしてね。」
「じゃあ、バラムの屋敷にその人達が!?」
「どうでしょうか。そもそもその人達を集めた所は、バラム侯爵の屋敷ではないかもしれませんよ。」
「どういう事だ?」
ラムズが依頼の報酬金を受け取った時には集めた人々は、バラムの屋敷から遠く離れた別邸に移されていたという。
「その別宅にオレを連れて行ってくれ。」
ロキはラムズに迫る。
凄むロキにやや圧倒されたラムズは少し考えると、ロキの提案を承諾した。
「やれやれ…では、出発は明朝で良いかな?」
「ああ、構わない。……それにしても、意外だな。」
「何がだね?」
「オレのわがままに近いことで、あんたにとっては特段利益にならない事なのにあっさりと承諾した。」
グラスのワインを飲み干すと、ラムズはニヤリと笑った。
「私だって大損だったんですよ。バラム侯爵からは、集めた村人の質が悪いなどを理由に、報酬を減らされてしまい、結局うやむやされたんですから。」
ラムズが出るのと同時にロキもギルドの屋敷から外に出る。
「では、明朝に」
「ああ」
「ロキさん!!」
名前を呼ばれた方に顔を向けると、馬車の窓からよく知っている女性が顔を出し、馬車から降りて来るのが見えた。
夕暮れの城下町、交差する想いが、再び別れ立つ不安にロキの心は重くなっていた。
かつてその技術はアルヘイム王国全土に広がっていた。
  薬草や薬剤の調合により、より高位の万病薬を作る医療分野、そして金属の精錬やそれに伴う溶剤などの工業分野に主に使われ、各都市には幾人かの錬金術士の資格を有する者達が点在していた。
また、錬金術士専用のギルドも同時に存在し、一時期は職業の花形とさえ言われる程の人気分野であった。
しかし、その人気はやがて憧れとなり、憧れは権威となり、権威は権力に繋がった。
そして、最後は傲慢とも言うべき2つの事件を発端に、錬金術士という職業の地位は底辺まで落とされることになる。
その事件の一つは、金の量産である。
本来、希少価値の高い金は、その価値と信頼性故に貨幣としては最高額、装飾品としては高級素材として今も扱われている。
しかし、これを錬金術の応用により、「人工的に金を作る」、そのようなことになれば量に関わらず、金の価値と信頼性は瞬く間に急落し、経済は早々に瓦解することになる。
そしてもう一つ。
それは、呪物錬金である。
医療分野に特化した者達は、多くの病気を治す万病薬の研究の過程において、一部の者が様々な病や異常状態を発生させる呪物を作り出してしまった。
その呪物は身につけた者へ様々な能力を付与する代わりに、徐々に体を蝕み、最後には精神すら破壊するというものであった。
「それが黒死紋…」
「ええその通り…。そして、その黒死紋を作る為には、特別な血が必要となる。しかも、それに使われる血が特別であればあるほど、その付加能力は強いものとなるわ。」
アースガルドの個室の窓から、夜の帳がおりてくる景色を眺めながら、ロキはナスカの話を思い出していた。
もうすぐ黒死紋の手掛かりがわかる。
拳をギュッと握るロキの瞳は決意めいたものを宿していた。
コン、コン、コン……ガチャ
ドアがノックされると、ラムズが部屋に入ってくる。
「待たせたロキくん。さて、先ずは君の手腕を見てみたい。なので、簡単な仕事から任せてみたいと考えている。」
「その前にバラムについての情報を聞きたい。」
「ふう…性急さは商人にとって悪癖なんだがね…」
やれやれと言わんばかりに、ラムズは両手を開いてみせた。
ラムズが両手をパンパンと2度鳴らすと、ライザがワインとグラスを持って入ってきた。
グラスに赤い液体が注がれ、ラムズは味わうようにそれを喉の奥へ送る。
「うむ、やはりワインはマドラ産だ。
さて、バラム侯爵についてお話ししましょうか…」
ラムズはワインを飲みながら語り出した。
数年前
ラムズは様々な商売を手掛け、その巧みな手腕により、辺境の貴族にも匹敵するほどの財力と影響力をつけていた。
そして、一部の貴族達からも一目置かれ、貴族相手の商売も手掛けるようになった。
そんな中、ある貴族が社交パーティを開き、そこにラムズが招待された。
その貴族こそ国王殺害未遂の罪で投獄されているバラムであった。
バラムはラムズの手腕を買い、様々な品の仕入れを頼むようになった。
ある時、ラムズはいつもと違う注文をバラムから受ける。
それは公共事業の一環という名目で、鉱山の働き手の確保のため、人を集めて欲しいとのことだった。
珍しい食材や高価な貴金属を扱う事がほとんどだったラムズにとって、人集め仕事は初めてだった。
しかもすぐに集まる街への募集ではなく、わざわざ辺境の村を対象としており、バラムは辺境の活性化の為などと言ってはいたが、誤魔化しであることは明らかだった。
しかしラムズはその事には触れず、依頼のまま辺境の村から100人もの多くを集め、バラムへ引き渡した。
数ヶ月後、その100人は忽然と消えた。
「その人達はどうなったんだ!?」
「さあ、私は集めてくれと頼まれただけでしてね。」
「じゃあ、バラムの屋敷にその人達が!?」
「どうでしょうか。そもそもその人達を集めた所は、バラム侯爵の屋敷ではないかもしれませんよ。」
「どういう事だ?」
ラムズが依頼の報酬金を受け取った時には集めた人々は、バラムの屋敷から遠く離れた別邸に移されていたという。
「その別宅にオレを連れて行ってくれ。」
ロキはラムズに迫る。
凄むロキにやや圧倒されたラムズは少し考えると、ロキの提案を承諾した。
「やれやれ…では、出発は明朝で良いかな?」
「ああ、構わない。……それにしても、意外だな。」
「何がだね?」
「オレのわがままに近いことで、あんたにとっては特段利益にならない事なのにあっさりと承諾した。」
グラスのワインを飲み干すと、ラムズはニヤリと笑った。
「私だって大損だったんですよ。バラム侯爵からは、集めた村人の質が悪いなどを理由に、報酬を減らされてしまい、結局うやむやされたんですから。」
ラムズが出るのと同時にロキもギルドの屋敷から外に出る。
「では、明朝に」
「ああ」
「ロキさん!!」
名前を呼ばれた方に顔を向けると、馬車の窓からよく知っている女性が顔を出し、馬車から降りて来るのが見えた。
夕暮れの城下町、交差する想いが、再び別れ立つ不安にロキの心は重くなっていた。
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