月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第44話 夜の思い出 7
それはまさに地獄絵図だった。
洞窟の中は血の匂いと、肉の焼ける臭気で立ち込め、生きているものがいないことが瞬時にわかった。
ロキは頭が真っ白になり、その場で崩れ落ち膝をついた。
降り出した雨が地面を濡らし、流れる水が赤みを帯びる。
ザーザーと雨が降る中、ロキの喪失感からの叫びをかき消した。
気がつくと変わり果てた村の真ん中で蹲っていた。
昨日までみんなが笑い、大好きな両親や妹がいる日々が夢だったかのように……
ロキはショックから何日もその場を動かず、とうとう立ち上がる力も亡くしてしまった。
もう、生きる意味は無い。
薄れ行く意識の中で思うことは、どうして自分がこんな思いをしなくちゃならないのか、強烈な理不尽の塊を押し付けられた小さな体は、今にも消え入りそうなロウソクの火のように弱っていた。
目を閉じて薄暗い闇が視界を覆う。
遠くで馬の鳴くこえが聞こえた気がした。
そして、体がフワリと浮かぶ感覚。
次に眼が覚めると、知らないベットの上だった。
周りを見ようと体を起こそうとするが、弱りきった節々は動くたびに苦痛を伴わせる。
首を少し動かそうとして、その辛さにロキは諦めた。
しばらくすると、ガチャリとドアを開ける音がして、ロキは視線だけをそちらに向けた。
入ってきたのは茶色の髪に長身の男だった。
  綺麗な衣服のその男はそれだけで、村のものでは無いことはわかる。
  
  少し疲れた表情をしていて、何処と無く優しい目をしていたのが印象的だった。
「眼が覚めたようだね……、喉は乾いていないかね?それとも、お腹は空いていないか?」
「………」
「ああ、いきなりすまない。わたしは、マグナスだ。君は何という名前かな?」
「……」
「まあいい。もし、食べれそうなら食事も持って来させよう。もうしばらくそのまま休んでいなさい。」
そう言うとマグナスは部屋を出て行った。
次の日、体が少し回復してきたようで、ロキはベッドから起き上がりドアの所まで歩いてみた。
体は相変わらず重く、すぐにへたり込んでしまう。
 ドアはカギがかかっており、外に出る事は出来なかった。
反対側の窓の方に行き、外の方を見てみる。窓からは、小さな民家がいくつか見えるが、村の建物とでは様式が違う。
ロキは、ここが自分が暮らしていた村でない事に始めて気が付いた。
そうしていると、ガチャリとドアが開く音がし、ロキは直ぐにベッドの陰に隠れた。
「元気になったようだね。」
マグナスは食事を乗せたプレートをベッドの脇に置くと、近くの椅子に腰かけた。
「さあ、そんな所に隠れてないで早く食べなさい。」
ロキは、食事が乗ったプレートをベッドの陰に引き寄せると、両手でガツガツと食べはじめた。
時折、マグナスの方を気にしながら、目の前の食事を平らげる。
そして、食事が済むと決まってマグナスは、「美味かったか?」や「腹は膨れたか?」と聞いてくる。
ロキは、それに答える事もなく、マグナスはロキに微笑むと食事が終わったプレートを持って部屋を出て行った。
それから数日、同じようなことが毎日続き、マグナスは日に2回、朝と夕暮れに食事を持って、ロキの部屋を訪れた。
当初は、マグナスが食事を運んで来ると、ロキはベッドの陰に隠れていたが、しばらくするとベッドの中で待つようになり、マグナスに対して、警戒心が少し和らいでいた。
「今日の夕食は、鳥のシチューだ。熱いから気をつけなさい。」
ロキは、その匂いを嗅ぐと直ぐにガツガツとシチューを口に運んだ。
その様子をマグナスが見ていると、ロキの動きが急にピタリと止まった。
「どうした、不味かったか?」
「……暖かい…、母さんの……」
「そうか、お母上の味に似ているのか、それは良か……!!」
ロキはフルフルと体を震わせ、ジッとシチューの入った皿を見つめている。
そして、震えるロキの目からは、大粒の涙がポタポタと落ち、白いシーツを濡らしていた。
疲労していた体が回復し、ロキの思考力が戻った事、両親と妹を亡くしたこと、村で起こった悲劇を思い出していた。
「う、ううっ…ヒック…」
ロキは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、シチューを食べていた。
マグナスは泣きながら食べるロキの姿を見ると、ゆっくりと近づきそのままロキを抱きしめていた。
いきなり抱きしめられた事で、ロキは最初抵抗していたが、しばらくすると脱力し、食べ物でベタベタになった両手のままわマグナスの衣服を強く掴んでいた。
「父さん…母さん……フェル……みんな…、会いたいよ〜…うわぁァァン!」
「辛かっただろう…怖かっただろう…、もう…大丈夫だ。」
「うわぁアアアーーン!」
ロキはマグナスの胸元に顔を埋め、さらに顔をグシャグシャにし、そんなロキをマグナスは優しく、されど強く抱きしめていた。
満たされたお腹と、泣いた疲労からロキはそのまま眠りについていた。
窓の外は夕暮れから、夜の帳に移り、明るい月が東の空に上がっていた。
洞窟の中は血の匂いと、肉の焼ける臭気で立ち込め、生きているものがいないことが瞬時にわかった。
ロキは頭が真っ白になり、その場で崩れ落ち膝をついた。
降り出した雨が地面を濡らし、流れる水が赤みを帯びる。
ザーザーと雨が降る中、ロキの喪失感からの叫びをかき消した。
気がつくと変わり果てた村の真ん中で蹲っていた。
昨日までみんなが笑い、大好きな両親や妹がいる日々が夢だったかのように……
ロキはショックから何日もその場を動かず、とうとう立ち上がる力も亡くしてしまった。
もう、生きる意味は無い。
薄れ行く意識の中で思うことは、どうして自分がこんな思いをしなくちゃならないのか、強烈な理不尽の塊を押し付けられた小さな体は、今にも消え入りそうなロウソクの火のように弱っていた。
目を閉じて薄暗い闇が視界を覆う。
遠くで馬の鳴くこえが聞こえた気がした。
そして、体がフワリと浮かぶ感覚。
次に眼が覚めると、知らないベットの上だった。
周りを見ようと体を起こそうとするが、弱りきった節々は動くたびに苦痛を伴わせる。
首を少し動かそうとして、その辛さにロキは諦めた。
しばらくすると、ガチャリとドアを開ける音がして、ロキは視線だけをそちらに向けた。
入ってきたのは茶色の髪に長身の男だった。
  綺麗な衣服のその男はそれだけで、村のものでは無いことはわかる。
  
  少し疲れた表情をしていて、何処と無く優しい目をしていたのが印象的だった。
「眼が覚めたようだね……、喉は乾いていないかね?それとも、お腹は空いていないか?」
「………」
「ああ、いきなりすまない。わたしは、マグナスだ。君は何という名前かな?」
「……」
「まあいい。もし、食べれそうなら食事も持って来させよう。もうしばらくそのまま休んでいなさい。」
そう言うとマグナスは部屋を出て行った。
次の日、体が少し回復してきたようで、ロキはベッドから起き上がりドアの所まで歩いてみた。
体は相変わらず重く、すぐにへたり込んでしまう。
 ドアはカギがかかっており、外に出る事は出来なかった。
反対側の窓の方に行き、外の方を見てみる。窓からは、小さな民家がいくつか見えるが、村の建物とでは様式が違う。
ロキは、ここが自分が暮らしていた村でない事に始めて気が付いた。
そうしていると、ガチャリとドアが開く音がし、ロキは直ぐにベッドの陰に隠れた。
「元気になったようだね。」
マグナスは食事を乗せたプレートをベッドの脇に置くと、近くの椅子に腰かけた。
「さあ、そんな所に隠れてないで早く食べなさい。」
ロキは、食事が乗ったプレートをベッドの陰に引き寄せると、両手でガツガツと食べはじめた。
時折、マグナスの方を気にしながら、目の前の食事を平らげる。
そして、食事が済むと決まってマグナスは、「美味かったか?」や「腹は膨れたか?」と聞いてくる。
ロキは、それに答える事もなく、マグナスはロキに微笑むと食事が終わったプレートを持って部屋を出て行った。
それから数日、同じようなことが毎日続き、マグナスは日に2回、朝と夕暮れに食事を持って、ロキの部屋を訪れた。
当初は、マグナスが食事を運んで来ると、ロキはベッドの陰に隠れていたが、しばらくするとベッドの中で待つようになり、マグナスに対して、警戒心が少し和らいでいた。
「今日の夕食は、鳥のシチューだ。熱いから気をつけなさい。」
ロキは、その匂いを嗅ぐと直ぐにガツガツとシチューを口に運んだ。
その様子をマグナスが見ていると、ロキの動きが急にピタリと止まった。
「どうした、不味かったか?」
「……暖かい…、母さんの……」
「そうか、お母上の味に似ているのか、それは良か……!!」
ロキはフルフルと体を震わせ、ジッとシチューの入った皿を見つめている。
そして、震えるロキの目からは、大粒の涙がポタポタと落ち、白いシーツを濡らしていた。
疲労していた体が回復し、ロキの思考力が戻った事、両親と妹を亡くしたこと、村で起こった悲劇を思い出していた。
「う、ううっ…ヒック…」
ロキは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、シチューを食べていた。
マグナスは泣きながら食べるロキの姿を見ると、ゆっくりと近づきそのままロキを抱きしめていた。
いきなり抱きしめられた事で、ロキは最初抵抗していたが、しばらくすると脱力し、食べ物でベタベタになった両手のままわマグナスの衣服を強く掴んでいた。
「父さん…母さん……フェル……みんな…、会いたいよ〜…うわぁァァン!」
「辛かっただろう…怖かっただろう…、もう…大丈夫だ。」
「うわぁアアアーーン!」
ロキはマグナスの胸元に顔を埋め、さらに顔をグシャグシャにし、そんなロキをマグナスは優しく、されど強く抱きしめていた。
満たされたお腹と、泣いた疲労からロキはそのまま眠りについていた。
窓の外は夕暮れから、夜の帳に移り、明るい月が東の空に上がっていた。
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