月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜
第20話 想い、走る
「しっかりしろリィズ!もう少しで街だ!」
「お父…さん、お母…さん……」
「ご主人、リィズ殿の体温が下がり過ぎている。このままでは…」
「わかってる!!」
嵐のような吹雪は、行くものの視界を奪い、足元を雪が絡め、鉛のように重たくなる。
一面は白い闇。その中をリィズを背負い吹雪を進むロキの姿があった。
時を遡ること3日前、それはリィズがロキに魔石について話を聞いたことから始まった。
夕暮れが静かな湖を照らし、湖面が金色に輝く。
湖の十字橋の上を茶色の髪をした少女が項垂れて歩いていた。
「3万ガルド……かあ。」
リィズは、自分が求めた品物の相場を聴くとショックで、その後ロキの話はほぼ上の空だった。
「でも、オース…さん、の話を聞くと、何処にでもないものだし、お祝いには一番だわ……でも、3万かぁ…。そんなにあったら、高級宿屋に7日間は泊まれる。」
ボソボソ言いながら、リィズは自宅へ歩いていく。
「そこの童や。」
「え?」
いつの間に居たのか、リィズの目の前にフードを被り、杖をついた老人が立っていた。
「あなたは?」
「フェッフェ、何やら落ち込んでおる様子だったのでな。お前さんのような、お若い娘を見てると死んだ孫を思い出すんじゃ。」
「そう。それは残念ね。お爺さん?」
「ああ、さて。なぜそんなに落ち込んどる。良けりゃ、このジジィに話してみんか?伊達に年を取っておらんてな。」
リィズは、両親の記念日に贈り物をしたくても、とても手の届かないものだということを知って落ち込んでいたことを老人に話した。
「ほほぅ、魔石とな。そりゃあ高価なものじゃなぁ。」
「ええ。でも、とても私のお小遣いじゃ買えないわ。諦めて、別のモノにしようかな。」
「そういえば…わしがお前さんくらいの頃、東の鉱山で魔石が取れたという話を聞いたことがあったのう。」
「ほ、本当!?」
それを聞いてリィズは、はっと顔を上げ老人の襟元に詰め寄るような姿勢になった。
「ぐ、ぐぇ〜、く、苦しい…」
「あ、ごめんなさい。」
リィズは老人から手を離して、頭を下げた。
「はあ…はあ…。ま、まぁ、もう廃れた鉱山じゃしな、そんなに採れはせんだろうが、お前さんに必要な分くらいはもしかしたら…」
「ありがとう!!お爺さん!」
それを聞いたリィズは、スカートの裾を機にすることもなく、老人の前から走り去った。
「……どういたしまして、お嬢さん。」
次の日、この時期にしては空は晴れわたり、暖かい日差しの中、ロキは売り上げの一部を持って、フローレンの店を訪れていた。
「この前は、ありがとうモーラ。これが付けてもらっていた分の代金だ。」
「おや、ロキ。感心だね。なんなら昼も食べていくかい?いまならサービスしとくよ。」
ロキは特に急ぐ用もなかったので、モーラのススメで、またカウンターの席に座り、今日のおススメを注文した。
「おう、ロキ。今日はベアホッグの肉が手に入ったからな、特別に良い部位を食わせてやるぞ!」
「へぇ、ベアホッグなんて珍しいな。今の時期じゃ、かなり山奥に行かないと遭遇できないのに。」
「そうなんだよ。今朝早く、猟師が仕留めたそうなんだが、どうやら季節外れの暖かさから、山から降りてきたみたいだな。」
そういうとデンゼルは、調理に取り掛かり始めた。
ジュー…と、肉を焼く音と香ばしい香辛料に混ざって肉の香りが食欲をそそる。
相変わらずフローレンは盛況のようで、モーラも慌ただしく配膳をこなしている。
「……そういえば、リィズは居ないのか?」
デンゼルの手が一瞬止まる。
「ロキ。リィズに何の用だ?ああん?」
「賑わってるのに、モーラだけのようだから、少し気になっただけだ。娘のことになると、相変わらずだな。」
「うるせぇ。」
デンゼルは調理に戻ると、ロキに背を向けながら話しかけた。
「なんでも珍しい薬草が東の野原に生えてるってんで、店を手伝わねぇで今朝早く家を出てったんだよ。まったく、あの不良娘が。」
ふーんと、ロキは特に気を揉まずに居た。
すると、店のドアが開き1人の農夫が入ってくると、ロキの隣に座った。
「ようマシュー。」
デンゼルが挨拶すると、男は軽く手を挙げて返した。
黒く日焼けした額の汗をタオルで拭くと、マシューはデンゼルに料理を注文した。
「そういえばデンゼル。今朝早く、リィズがうちに来て、ツルハシを借りってたが、店に井戸でも掘るのか?」
「なんのことだ?」
マシューは、いつものように農作業をするため、納屋に農機具を取りに来ると、そこにリィズが作業服の姿でツルハシを貸して欲しいと頼みこんできたことを話した。
「その時は、てっきりお前が店で何か作るのかと思って詳しくは聞かなかったが.なんだ、親子喧嘩でもしたのか?」
ガタン!!
マシューの話を聞いたロキは急にその場で立ち上がり、勢いで椅子が後ろに倒れ、店に音が響いた。
一瞬、店中が静まり返り、音のした方に視線が集まる。
「な、なんだよニイちゃん、急に。」
「おっさん。今の話本当か?」
「どうしたんだロキ?」
訳がわからないといった具合に、デンゼルとマシューは交互に見合った。
「リィズは東の鉱山に行ったんだ…」
ロキは、ボソリと口にする。
「東の鉱山?おいおい、ニィちゃん。あそこはもう、150年も前に閉鎖された廃鉱だぞ。そんな危ないところにリィズちゃんが行く訳ないだろ。」
「おい、ロキ。お前何を言って…、あ、おい!」
ロキはデンゼルやモーラ達に目もくれず、店を出ると直ぐに自分の店へに向かった。
あれだけ青く晴れ渡っていた空だったが、東の方にうっすらと灰色の雲が流れてくるのが見えていた。
「お父…さん、お母…さん……」
「ご主人、リィズ殿の体温が下がり過ぎている。このままでは…」
「わかってる!!」
嵐のような吹雪は、行くものの視界を奪い、足元を雪が絡め、鉛のように重たくなる。
一面は白い闇。その中をリィズを背負い吹雪を進むロキの姿があった。
時を遡ること3日前、それはリィズがロキに魔石について話を聞いたことから始まった。
夕暮れが静かな湖を照らし、湖面が金色に輝く。
湖の十字橋の上を茶色の髪をした少女が項垂れて歩いていた。
「3万ガルド……かあ。」
リィズは、自分が求めた品物の相場を聴くとショックで、その後ロキの話はほぼ上の空だった。
「でも、オース…さん、の話を聞くと、何処にでもないものだし、お祝いには一番だわ……でも、3万かぁ…。そんなにあったら、高級宿屋に7日間は泊まれる。」
ボソボソ言いながら、リィズは自宅へ歩いていく。
「そこの童や。」
「え?」
いつの間に居たのか、リィズの目の前にフードを被り、杖をついた老人が立っていた。
「あなたは?」
「フェッフェ、何やら落ち込んでおる様子だったのでな。お前さんのような、お若い娘を見てると死んだ孫を思い出すんじゃ。」
「そう。それは残念ね。お爺さん?」
「ああ、さて。なぜそんなに落ち込んどる。良けりゃ、このジジィに話してみんか?伊達に年を取っておらんてな。」
リィズは、両親の記念日に贈り物をしたくても、とても手の届かないものだということを知って落ち込んでいたことを老人に話した。
「ほほぅ、魔石とな。そりゃあ高価なものじゃなぁ。」
「ええ。でも、とても私のお小遣いじゃ買えないわ。諦めて、別のモノにしようかな。」
「そういえば…わしがお前さんくらいの頃、東の鉱山で魔石が取れたという話を聞いたことがあったのう。」
「ほ、本当!?」
それを聞いてリィズは、はっと顔を上げ老人の襟元に詰め寄るような姿勢になった。
「ぐ、ぐぇ〜、く、苦しい…」
「あ、ごめんなさい。」
リィズは老人から手を離して、頭を下げた。
「はあ…はあ…。ま、まぁ、もう廃れた鉱山じゃしな、そんなに採れはせんだろうが、お前さんに必要な分くらいはもしかしたら…」
「ありがとう!!お爺さん!」
それを聞いたリィズは、スカートの裾を機にすることもなく、老人の前から走り去った。
「……どういたしまして、お嬢さん。」
次の日、この時期にしては空は晴れわたり、暖かい日差しの中、ロキは売り上げの一部を持って、フローレンの店を訪れていた。
「この前は、ありがとうモーラ。これが付けてもらっていた分の代金だ。」
「おや、ロキ。感心だね。なんなら昼も食べていくかい?いまならサービスしとくよ。」
ロキは特に急ぐ用もなかったので、モーラのススメで、またカウンターの席に座り、今日のおススメを注文した。
「おう、ロキ。今日はベアホッグの肉が手に入ったからな、特別に良い部位を食わせてやるぞ!」
「へぇ、ベアホッグなんて珍しいな。今の時期じゃ、かなり山奥に行かないと遭遇できないのに。」
「そうなんだよ。今朝早く、猟師が仕留めたそうなんだが、どうやら季節外れの暖かさから、山から降りてきたみたいだな。」
そういうとデンゼルは、調理に取り掛かり始めた。
ジュー…と、肉を焼く音と香ばしい香辛料に混ざって肉の香りが食欲をそそる。
相変わらずフローレンは盛況のようで、モーラも慌ただしく配膳をこなしている。
「……そういえば、リィズは居ないのか?」
デンゼルの手が一瞬止まる。
「ロキ。リィズに何の用だ?ああん?」
「賑わってるのに、モーラだけのようだから、少し気になっただけだ。娘のことになると、相変わらずだな。」
「うるせぇ。」
デンゼルは調理に戻ると、ロキに背を向けながら話しかけた。
「なんでも珍しい薬草が東の野原に生えてるってんで、店を手伝わねぇで今朝早く家を出てったんだよ。まったく、あの不良娘が。」
ふーんと、ロキは特に気を揉まずに居た。
すると、店のドアが開き1人の農夫が入ってくると、ロキの隣に座った。
「ようマシュー。」
デンゼルが挨拶すると、男は軽く手を挙げて返した。
黒く日焼けした額の汗をタオルで拭くと、マシューはデンゼルに料理を注文した。
「そういえばデンゼル。今朝早く、リィズがうちに来て、ツルハシを借りってたが、店に井戸でも掘るのか?」
「なんのことだ?」
マシューは、いつものように農作業をするため、納屋に農機具を取りに来ると、そこにリィズが作業服の姿でツルハシを貸して欲しいと頼みこんできたことを話した。
「その時は、てっきりお前が店で何か作るのかと思って詳しくは聞かなかったが.なんだ、親子喧嘩でもしたのか?」
ガタン!!
マシューの話を聞いたロキは急にその場で立ち上がり、勢いで椅子が後ろに倒れ、店に音が響いた。
一瞬、店中が静まり返り、音のした方に視線が集まる。
「な、なんだよニイちゃん、急に。」
「おっさん。今の話本当か?」
「どうしたんだロキ?」
訳がわからないといった具合に、デンゼルとマシューは交互に見合った。
「リィズは東の鉱山に行ったんだ…」
ロキは、ボソリと口にする。
「東の鉱山?おいおい、ニィちゃん。あそこはもう、150年も前に閉鎖された廃鉱だぞ。そんな危ないところにリィズちゃんが行く訳ないだろ。」
「おい、ロキ。お前何を言って…、あ、おい!」
ロキはデンゼルやモーラ達に目もくれず、店を出ると直ぐに自分の店へに向かった。
あれだけ青く晴れ渡っていた空だったが、東の方にうっすらと灰色の雲が流れてくるのが見えていた。
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