月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第14話 狂人の蛮行

セントラル広場は、シュトルゲンの街のほぼ真ん中にあり、広場の中央に小規模な噴水が設置され、それを囲むように花壇が迷路のように広がっている。
そして、噴水の横に大きな時計が、大きな台座に乗りかかるようにして、時を刻んでいる。

その台座の傍に、白銀の髪の少女が座り込み向かいの台座の影、もとい影に溶け込む様に立っているザリュの姿を睨んでいた。

「あ〜あ、時間切れ。王子様は現れなかったね、お嬢さん?」

「………」

「無駄だよ。無駄無駄。そんなに睨んでも、僕は死なないし、君も助からないよ〜。さあ、どうしようかな?君はどうしたい?」

明らかに楽しんでいる様のザリュに、嫌悪感を募らせるアリシアだが、この男に対してはそれ以上に怒りがこみ上げてくる。

「わたしは、お前を許さない!フレイアのロゼッタの家族を殺したお前を、わたしは許さない!!」

「へー?ロキに見捨てられたことに、まだ気づかないなんて可愛そうだなあ〜」

「お前こそ、ロキは何の興味もないし、わたしを人質にしても何も……うッ!」
「黙れ!!黙れ黙れ!!!お前なんか今殺してやる、ロキはオレのお気に入りだ!!そんなロキをオレが殺すんだーー!!!」

明らかにザリュの形相は変わり、

ギリギリとアリシアの首を締め付けるザリュ。その目は、もはや狂人のものである。

首が軋み、呼吸がとまる。

(ああ、わたし、ここで死ぬんだ。こんなくだらないやつに殺されてしまうんだな。
…………最後に、『お母さん』って呼んであげたかったな)

目が霞み、意識が薄れる中アリシアは、フレイアへの素直な気持ちで包まれていた。

「さあ、死ね!この化け物が!」
「化け物はお前だ!!」

ガッッ!!

「へ?」

一瞬、アリシアの首を絞める力が弱まる。
その瞬間、アリシアは、停まっていた呼吸を取り戻し、強く咳き込む。

「ゴホッ!ゴホッ!!」

「あれ?」

次の瞬間、ザリュは自分の左腕が切られている事を、不思議そうに首を傾げていた。

「アリシア!大丈夫か!?」
「ああ……ロキ……」

朦朧とする中、ロキの声がした事に安堵し、アリシアはゆっくりと目を開いた。

銀色の髪と紅い瞳のロキ。
いつぞやの盗賊とのことを思い出すアリシア。

「…前も……こんな感じ……だったかな…」

「もう喋らなくていい、今すぐ助け出すから。」

アリシアを抱え、ザリュを確認すると、まだ自分の腕を見て呆けている。

(今ならいける!)出口へと走るロキ。

ドアを開け、夕暮れの広場を駆け抜けようとした時だった。

異様な威圧感を後ろに感じ、咄嗟に横に飛びのく。

そこには、右手と、切られたはずの左腕の両手に黒い刃を持ち、こちらを睨みつけるザリュの姿があった。

「そんな、確かに!」
「切ったはず、か?わかっていないなロキ。ハンターがただの人間だと思ったか?」

ロキを含め、周りを包み込む様な黒い存在感。そして、先ほどまでのザリュとは、明らかに感じが違い、狂人じみた雰囲気は無く、何か得体の知れないモノを相手にしているようだった。

ロキは、アリシアを噴水の淵に寝かせ、ザリュを見ながら距離を取る。

「心配しなくてもいいよ、ロキ。2人ともあの世に送ってやるよ。」

「お前、なんだって俺たちを狙う。そんなにダークストーカーが憎いのか!?」

「憎い?まあコイツはそうかもしれないが、オレは別にどうでも良いのさ。ただ、狩りがしたいだけさ。ダークストーカーという、大きな獲物を…な!!」

ザリュの影がものすごい速さで、ロキに迫る。ロキは、反射的に横な飛び、ザリュの刃をかわす。

ビシュッ!

「うッ!」

ロキの左腕が切られ血が滲む。

(そんな!かわしたはず!?)

「ほう?切り落としたと思ったが、なかなか素早いな。」

ザリュは、両手の刃をくるくると回し、余裕を見せている。

「では、本気で首を取りに行くとするか」

ザリュがこちらに歩き出したと思った瞬間、ザリュの姿が消えたと思うと、ロキの目の前に黒い刃が迫る。

ザシュッ!!

体が切り裂かれる感覚がロキを襲う。

「ロキー!!!」

アリシアの悲痛な叫び声が響く。

その場で顔を抑え、崩れるロキ。
ボタボタと血が流れ、それが溜まり広がっていく。

「グァァああ…!」

「はは!いいねぇ!いいよロキ!」

激痛とめまいが思考力を奪う。
目の前は暗く、意識が点滅する。

(アリシアは…ザリュは……変わらないと……変わる?ダメだ、意識や思考が混濁し保つことが出来ない。)

「さあ、これで終わりだな」

ザリュは、うずくまるロキの正面に立ち、腰から新たに黒い短剣を取り出した。

黒い刃は、弧を描きロキへ振り下ろされる



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