月夜の太陽 〜人と人ならざる者達の幻想曲〜

古民家

第5話 不安の理由

収穫祭当日、ノルトの街は賑やかさに輪をかけたような盛り上がりを見せた。

ノルトの街を象徴する湖。
そこに掛かる十字の大橋には、出店が所狭しと並んでいる。

食べ物を、他国の品々を、民芸品、季節物、珍しいものだと占いや貴金属を扱う店などもある。

また、それを目的にして国の内外問わず、貴族や行商人など数多くの人がここに集まってくる。

いま、その大橋に向かってを2人の男女が歩いている。
一人は短く切った茶色の癖毛に、澄み切った蒼い瞳が印象的なロキ。

もう一人は、銀に近いブロンドの髪をニット帽で隠すように深く被り、薄い青い瞳を眼鏡で目立たなくしているアリシアだった。

2人とも祭りを楽しみに……しているわけではない様子であった。

(なんでこうなるのよ)
(なんでこうなるんだ)

お互いに思うところがあるようで、特に会話もなく歩いていた。


半日ほど時間を遡る

朝食の後、ロキは応接室に呼び出された。
部屋に入ると、昨日と同じようにカサンドラが先に座って待っていた。

ロキは、無言で片方の椅子に座ると、カサンドラの方へ目をやる。

カサンドラは目を閉じ、腰まである紅い髪を膝の上でまとめていた。


「昨夜は、私のわがままに付き合ってくれてありがとう」

「いいさ。オレも気分転換になったよ。」

「部屋まで運んでくれたのは嬉しいけど、衣服が乱れてなかったのは残念だわ。」

カサンドラは、悪戯っぽく言うと目を開けてロキを見つめた。
昨夜の事が思い出され、少し微熱を覚える。

「ああ〜…その、なんだ。アリシアの件、引き受けるよ。」

「………本気?頼んでいる側としては変なことだけれど、もし、私のことを気にしてのことなら、断ってくれても構わないのよ。」

「リーのこととは別にして、今回オレの中でも整理をつけたい事があってね。
だから、引き受けるよ。
ただし報酬はちゃんと請求するからな。」

「私のことは別…ね。まあ良いわ。
お入りなさいアリシア」

部屋に入ってきたアリシアは、カサンドラのとなりに立ち、ロキを改めて一目した。

「ロキ、昨日話した通り、シュトルゲンまでアリシアに同行してちょうだい。」

「出発はいつしたら良い?シュトルゲンとなると馬車で5日は掛かる。」

「準備は2日で出来るわ。それまでは…そうね。2人には買い出しに行ってきてもらおうかしら。」

「え!?」
「なに!?」

そして…............


出店が立ち並ぶノルトの大橋の上
ロキとアリシアは、食料の買い出しに来ていた。

カサンドラ曰く、「私の屋敷には保存食なんて置いてないもの」だという。

「ええっと……好物とかはあるのか?」
「別に…特に好き嫌いは無いわ。」

話しかけても会話が続かない、アリシアは朝からの機嫌があまり治っていないようだ。

買い出しが終わり、広場まで来た2人は休憩することにした。
しかし、これまで会話らしい言葉を交わしてはいなかった。

(シュトルゲンまでこの調子だと大変だろうな)

「あなたも、普通の人間ではないのだろうけど、私とはどこか違う気がする。それに、初めて目にした時は、あなたの得体のしれないことに少し怖くなった。」

ロキは、唐突に話しかけられ少し驚いた。
アリシアの方を見ると、硬く握り締めた両手を膝の上に置き、身を縮めるような格好をしていた。

その時ロキは、アリシアの頑なな態度は、自分自身のことを、普通の人間とは違うことへの恐怖心からくるものだと感じた。

「オレは、自分が悪魔や怪物みたいな存在だなんて考えてないよ。確かに、体は結構丈夫な方だろうけど、怪我をすれば血も出るし、大きな事故に会えば多分死んでしまう。それはアリシアも同じだろう。」

それを聞いたアリシアは、肩に入っていた力が抜けて、少し落ち着きを取り戻した。

「あと、あまり力は使わない方がいい。」

「気づいていたのね、ごめんなさい。あなたが屋敷に着いた時に、あなたのことをハンターだと思って……」

「ハンター?」

「知らないの?私やあなたのように、人間とは違うものを専門に狩る集団のことよ。」

買い出しが終わり、屋敷に戻る頃にはもう日暮れ間際となっていた。

ロキはアリシアから聞いた、ハンターのことが気にかかっていた。

これまでロキは、酒場のゴロツキや盗賊などとは何度か対処した経験はあったが、
専門の狩人とはどんなものなのかは全くわからなかった。

(帰ったらリーに聞いてみるか)

ロキは、一抹の不安を胸にシュトルゲンへの旅路を思案していた。

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