三人の精霊と俺の契約事情

望月まーゆノベルバ引退

撤退


警告のサイレンが国中に響いた渡るーー。
「セントラルコントロールより各部隊へ、総員全員退避、繰り返す総員全員退避」

全員の頭の中に疑問だけが過ぎる。
「今頃になって退避って?」
誰かが口走った言葉だが、全員が思っていた言葉だった。

アルカナナイツのメンバーも酷く疲れていて立っているのがやっとの状態だった。

神竜を相手にしていた筈が、共倒れしたのも束の間、今度の相手は得体の知れない魔導士が相手だ。ーーしかも、元円卓の魔導士で天才と言われているが頭のネジがぶっ飛んでるヤツらしい。

「本部の幹部も神竜よりも天才魔導士のがヤバイと判断したのかもよ」

「違いねーな。ここは一旦退却しよう!」

アルカナナイツのメンバーが退却しようとバルティカの壁に走り出そうとした時、地響きが起こっていることに気づくーー。

それは、ローゼンクロイツも分かっていて彼は空中に浮いた状態でその目には地響きの正体がハッキリと見えていた。

「おやおや、まだ懲りないのかな?どーして動物は勝てないと分かっているのに仇を取りたがるのかねえ?」

ローゼンクロイツは不敵な笑みを浮かべていた。その笑みはこちらに向かって地響きを立て行進している竜魔族に向けられていた。

「・・・本当に人間と同じ、くだらない生物だ」


☆ ☆ ☆

ファフニール、彼は神竜にとってカリスマ的存在だ。その性格も実力も彼の誰にも染まらない圧倒的存在感も全てが竜魔族の憧れである。

アポカリプスをも凌ぐそのカリスマ的存在が今まさに動き出したのだ。彼の姿を見るや否や誰もが付いて動く。自然と行進となりバルティカ戦線に繰り出したのだ。

全ては、同胞の仇を取るために!!

「お前か、ウチの同胞をやってくれたの?」

「ククク、懲りないねえ。あなた程の実力があれば勝てない相手だと分かるでしょう?それとも、数で攻めれば勝てると?」

ローゼンクロイツは、空中から上から目線で巨大な身体の神竜、ファフニールの顔の前で笑ってみせた。

「勝てない、確かにこのままだと無理だ。しかし、時間を稼ぐこと位は出来るかもしれない」

「おや?何か策でも?」

「貴様には関係のない事だ」

ファフニールの体は見る見る小さくなり、人間の姿へと変化した。

「擬人化・・・考えましたね」

今まで相手にしてきた神竜たちは全てが巨大な竜だった。一撃の破壊力は凄まじいが動きが大きくスピードが無く、隙が大きいのが弱点だったのだ。

「まさか、この姿で戦うことになるとはな・・・」

ファフニールの魔力が解放されるーー空気が一瞬にして変わるのが素人目にも分かる程だ。それは、遠く離れたアルカナナイツ、バルティカの壁の中にいる兵士達にも分かった。

「す、凄い魔力だ!ローゼンクロイツよりも凄いんじゃないか?」

ウィリアムスが興奮気味に叫ぶ。

「それでも、ローゼンクロイツが上だろーな」

バッツが頭を掻きながら否定する。

「これ以上の魔力をローゼンクロイツは、まだ秘めているのか?」

驚くアスベル、他のメンバーもバッツに視線をおくる。

禁断の魔道書グリモワールだよ」

「・・・・・・」

余り聞き慣れない言葉にポカーンと口を開けたままになるアルカナナイツのメンバー。
他のメンバーとは違いロビンと親交のあるバッツはいろんな情報を得ているので、グリモワールがどんな物かを知っていた。

実際、今回初めて見たのだが、間違いなくローゼンクロイツが手に持っていた光り輝く書物こそ、禁断の魔道書グリモワールだと確信したのだ。

禁断の魔道書グリモワールは、ただの魔道書ではない。余りに魔力が強過ぎるため、悪魔や神々ですら触れることが出来ないと言われているのにローゼンクロイツは平然とそれを操ってみせた。神竜を操り、無限に尽きることの無い魔力を手に入れている。さらにどんな力をあの魔道書は持っているか分からない」

バッツは、振り返りローゼンクロイツに目をやる。そして更に、

「やはり、ヤツは危険だ。どーやってグリモワールを手に入れたか分からないが、持ってはいけない男が持ってしまったとしか思えない」

バッツの顔が青ざめる。そんな状況を理解してミモザが切り出した。

「とりあえず、この場を離れましょうよ」

「ああ」

バルティカの空には、不穏な空気が流れていたーー。


☆ ☆ ☆


「お前ら無事だったか・・・」

バッツたちアルカナナイツがバルティカの壁内部にある休憩所に足を運ぶと、そこにはロビンが心配そうに駆け寄ってきた。

「まあな・・・」

休憩所に重苦しい空気が流れるーー、本当なら自分たちが神竜を倒し故郷の仇を取るつもりが・・・、

「クソッ、どーなってんだよ!!」

ウィリアムスは壁を思いっきり殴る。
何も言えない気持ちを壁に当たるしかなかった。それは、他のアルカナナイツのメンバーも同じだった。

この日のためにずっと努力し、体力、技術、魔力を磨き訓練してきたのだ。ウィリアムスの気持ちが痛いほど分かった。

「僕らは、何のためにーー」

「あの魔導士は何なの?意味わかんない」

「竜を攻撃してましたよね?味方なんですか?僕には良く分からないんですよ」

「アイツは・・・世界の敵でしかない」

「ーー世界の・・・」

ロビンがそっと口を挟む。

「クリスチャン・ローゼンクロイツは、魔導士に於ける数々の名誉を獲得したのと同時に数々の汚点を残した。時には、禁呪に手を染め、時に悪魔契約を結び、時に禁止魔法の実験や人体実験を繰り返すなどし、魔法協定違反により追放されたのだ」

「なぜ、そんな危ない奴が平然と暮らしているんです?捕まえて下さいよ」

アスベルの言葉にロビンは首を振り、

「捕まえないんじゃない。捕まらないし、捕まえても外に出てしまうんだ」

大牢獄で魔法を封じてもなぜかその次の日にはそこにはいない。脱獄しているんだ。

「ま、マジですか」

「魔法以外にも彼独自の特異能力があると言われている。または、背景に悪魔契約など危険なモノがあるんではないかと噂されている。だから、世界政府も手出し出来ないでいる」

「ーーだからって、奴を野放しにしておくのかよ」

ウィリアムスは思わず大きな声で叫んだ。

「野放しにしておくつもりはないさ。必ず、奴を捕まえてやるさーーそのために俺たち円卓がいる!!」

「ロビン、カッコイイじゃん!」

バッツが茶化すと、

「バーカ・・・やっと来てくれたんだよ。おせーよ」

ロビンがポケットから取り出した通信用水晶は光り輝いていたーー。




ーー 円卓の魔導士到着 ーー

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