三人の精霊と俺の契約事情

望月まーゆノベルバ引退

魔力解放


奥の部屋は壁全体に魔法陣が描かれた部屋だった。

先に準備に訪れていたメーディアはカーテンを閉め光を遮断していた。

真っ暗な部屋に不気味に浮かび上がる魔法陣、立体魔法陣とはこの事だった。

「メーディアちゃん例の物をーー」

「どうぞ」

メーディアがメイザースに手渡したのは杖だった。メイザース愛用のケリュケイオンの杖、魔力を大幅に増大させる効果があるらしい。立体魔法陣や時空移動魔法など常識では考えられない魔法を可能にするのは膨大な質量の魔力が必要なのだ。それを補っているのはこの杖があるからだと言っても過言ではない。


「アーサーきゅん、この円の中心に立ってくれたまえ」

言われるがままアーサーは部屋全体を覆っている魔法陣の中心に立った。

「リサ、エルザ、シルフィーはこっちに来てなさい。巻き込まれるわよ」

三人の精神たちはアーサーから離れ部屋の隅にいるメーディアの元に行った。

三人の精霊たちはアーサーが何をされるのかと想像すると、とても不安そうにアーサーを見つめていた。

「因を律する者、来るべく者、去り行く者、その結ばれし鎖を断ち切り我が意のままに我がなすままに、その力の全てを示せ」

メイザースの演唱とともに、ケリュケイオンの杖が輝く。

部屋の中に描かれた魔法陣が浮かび上がりアーサーの周りを囲むように反時計回りに回り始める。

「す、凄い。本当に魔法なの?」

リサが目を丸くし目の前に起きている現象がまだ信じられないようだ。

「メイザース様は常に時代の先を見つめてらっしゃるわ。あなた達精霊が使っている魔法は一昔前の魔法よ。立体魔法陣や空間魔法など常識では考えられない魔法を可能にしたのはメイザース様だけよ。いずれメイザース様が創り上げたこの魔法が主流になる時代が来るかもしれないわね」

三人の精霊はメーディアの言葉が少し胸に刺さった。

そうなったら人間は、精霊と契約しなくなる時代が来るかもしれないとーー。


☆ 

「うわああぁぁぁぁぁーー」

身体が焼けるように熱い。更に体の自由が効かずに空気を吸っても吸っても入ってきてる気がしない。

「あ、アーサーきゅん、耐えるのです」

杖を翳しかざし魔力をフルパワーで送り続けるメイザース、彼も必死な形相をしている。

「アーサーさまああ」

「ダメよ。近寄っては、本当にこの世から消滅してしまうわよ」

アーサーの苦しむ姿に見兼ねてリサが飛び出して行きそうなところをメーディアに制止される。

「あああぁぁぁぁァァァァァァ」

「アーサーきゅん、もう少しですよ。意識をしっかり保つのです」

アーサーの形相は計り知れない苦痛に襲われているのは一目瞭然だった。

「ぐわああああぁぁぁぁーー」

アーサーの悲鳴に耳を塞ぎ座り込む三人の精霊たちは、ポロポロと涙を流していた。

「もう少し、もう少しの辛抱ですよ。アーサーきゅん、頑張るのです」

「あなた達も目を背けないの。ご主人様が必死で戦ってるのよ」

その言葉に三人の精霊たちは肩を震わせながら目を背向けたいのを我慢し必死でアーサーを見守った。

魔法陣の球体の中心で叫き苦しむアーサー、体全身がズタズタに裂けるような痛みと焼けるような熱さと苦しさでこんな苦しむならいっそのことひと思いに殺してくれとさえ思っている。

「ぐわああああああああ」

「もう少しなのだよ、耐えるのです。耐えるのですよアーサーきゅん」

「私もう見てられないよ」

リサが背を向けその場から逃げたそうとすると、

「ダメよ!リサ、あなたがその痛みと苦しみを分かってあげなきゃ。アーサーにはあなた達が必要なのよ」

「・・・わかった」

リサを目を細めながらも必死でアーサーの苦しみ姿を見つめた。



☆ 

拷問のような痛みと苦しみからようやく解放されたアーサーは放心状態だった。

体中の力という力が抜け、床に倒れ込み一人では起き上がれない程だった。

「アーサーきゅん良くぞ耐えきりましたね。成功ですよ」

メイザースもだいぶ疲れているのか顔に疲労が浮かんでいる。アーサーの元に近寄ろうと歩み寄るがフラつき倒れそうになる。

「メイザース様、大丈夫ですか」

メーディアが慌てて駆け寄りメイザースを支える。

「ええ、少しばかり魔力を使い過ぎたようです」

「無理をなさらずお座りになられて下さい」

「私よりアーサーきゅんですよ。ここからが本当の苦しいとこです」

「ここからってどういうこと」

話を聞いていたリサがメイザースに聞き返す。

「私はアーサーきゅんの魔力に蓋をしていた物を取り除いたと思っていて下さい。なので、今から魔力が噴き出します。それを体内に留められ尚且つコントロール出来るかどうかなのです」

「ーー出来なかったらどうなのお?」

リサは、恐る恐るメイザースに尋ねてみる。

「全て溢れ魔力が空っぽになり最悪の場合死んでしまいます」

「そ、そんなあ」

「そろそろ来ますよ!アーサーきゅんしっかりと体内に魔力を止めるのですよ」


一瞬静まり返った部屋、床に倒れているアーサーから一気に魔力が放出される。

体中に魔力のオーラが目に見えて分かるほど膨大なオーラがまるで生き物のように暴れまわっている。

「リサ、エルザ、シルフィー私の影に隠れなさい。魔力のオーラに触れたら危険よ」

慌ててメーディアの側に隠れる精霊たち、メーディアは魔導障壁を貼り暴れ襲ってくる魔力のオーラを回避する。

「アーサーさまどうなっちゃったの?」

エルザはメーディアの背中に貼り付きながら心配そうにアーサーを見つめる。

「メイザース様により封印されていた魔力を解放しているのでアーサー自身が魔力を体内に留められるようにしなければならないのだけど今は自分ではどうしようもない状態なのよ」

「私は何も出来ないの?」

メーディアの背中体中のリサの声が聞こえる。メーディアは横に首を振り、

「残念だけどアーサー自身が乗り越えなければならない事よ。あなた達に出来ることは意識をしっかりと保ってもらえるように声をかけてあげる事よ」

「わかったわ」

リサはエルザ、シルフィーと息を合わせて
「せーの」と同時に、

「「「アーサーさまー!!!」」」

と大きな声を出した。

その声はアーサーの耳に確かに届いていた。

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