脇役転生の筈だった

紗砂

22

ーー天也ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は奏橙に手引きされ咲夜と文化祭を回ることとなった。
その嬉しさ故に思わず叫びたくなった。
だが、それと同じくらい緊張している。
何故なら俺は、今日、咲夜に伝えると決めていたからだ。


「さ、咲夜…おく……どこのクラスに行く?」


違う…。
本当は屋上に誘うつもりだった。
屋上なら咲夜と2人きりになれるし邪魔される事もない。
そこで告白をしようと思っていたのに…。


「本当なら奏橙を連れていきたかったのですが……。
紫月のクラスへ行って見ませんか?」


咲夜は何も気にせずにそう決めると笑顔を向けてきた。
俺はその笑顔のせいで直視できなくなり、思わず顔を背ける。


「天也?
……顔が赤いですわ。
熱でもあるんじゃないですの?」


咲夜は心配そうに俺の顔をのぞき込む。
そのせいで俺はますます顔を赤く染めた。
鈍感にも程があるだろう……などと思いつつも俺は咲夜から顔を隠した。


「大丈夫だ。
行くぞ」

「え……えぇ…」


戸惑いつつも咲夜は俺についてきた。
次第に俺の顔の赤みも引いたのか咲夜はホッと安心したような表情となった。
そんな咲夜を俺はやはり愛おしいと感じた。
そのせいなのか俺は自然と咲夜の手をとっていた。


「へっ…!?
た、天也!?」


咲夜の慌てる様子が可愛らしく思わず笑ってしまう。
すると、咲夜はムッとしたような表情を見せる。


「悪い。
慌てる様子が可愛くてな…。
それと、人が多いからな。
離でもしたら大変だろう?」


ただの口実だった。
途中でサラっと可愛いと言ってしまったが咲夜は気づく様子も見せることはなかった。

……まぁ、これで気付いてくれるのであればこのまで苦労はしなかった。


「それもそうですわね…」


と、簡単に受け入れてしまう咲夜は危機感が薄すぎる。
石鹸を笑顔で見ている咲夜に俺は意を決して話すことにした。


「咲夜、後で、屋上に行きたいんだが…。
いいか?」

「えぇ、勿論ですわ」


咲夜は迷うことなくOKした。
その様子に俺が薄く笑みを浮かべたのを咲夜は知ることがなかった。

結局咲夜はローズマリーとレモンの石鹸を買うと、2人で屋上へと歩き出した。
その間、俺の心臓はこれまでに無いほど大きく音を立てていた。

屋上には誰もいなく、俺と咲夜だけがいる状態になっており、グラウンドや庭園にいる人達の声が遠く聞こえる。


「天也……?」


何も無いところへ来た意味を計り知れなかったのか咲夜は不思議そうに俺の名を呼ぶ。
俺は深呼吸を2、3回すると咲夜に向き直った。


「…咲夜、俺はお前の事が好きだ。
ずっと、初等部の頃からお前の事が好きだ。
咲夜の笑顔を隣でずっと見ていたい。
だから…俺と付き合ってくれ」


俺は懐から咲夜に渡そうと持ってきたハーバリウムを取り出した。

花ではなくハーバリウムを選んだのはずっと残るものにしたかったからにすぎない。
そして何より、白いハーバリウムは咲夜に対するイメージもあった。
悠人先輩や咲夜のファンクラブの奴らが言っているように咲夜は天使のように可愛らしい。
天使でイメージする色といったら白しかないだろう。
だからこそのこの白いハーバリウムでもあった。


「……え…え?
天也、が?
私を……?」


咲夜は凄く戸惑っていた。
そのせいか先ほどから『え?え?』とばかり呟いている。


「咲夜、好きだ」


ーーー咲夜ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天也が私の前てま跪き、穏やかでいながらも熱の篭った視線をなげかてくる。
そしてそのまま『好きだ』と、告白をしてくる。


その、あまりにも現実離れした事実に戸惑ってしまう。
天也はてっきり愛音を好きになるものだと思い込んでいた。
それが、それが私になるなんて……。
誰がそんな事をおもうだろうか?
しかも、初等部の頃からだなんて……。


「…咲夜……返事は今じゃなくていい。
いい返事を期待して待つことにするからな。
……だが、パートナーの件は譲る気はない」


そのとき、私は天也が今まで隠してきた感情を垣間見た。
瞳の奥で静かに燃える炎を見た気がした。


「……近いうちに必ず答える」

「あぁ、待っている」


私が苦虫を噛み潰したような表情をしていたのに対し、天也は嬉しそうに微笑んでいた。


「……もしかして、私が鈍感鈍感って言われてたのって……」

「奏橙や愛音を初めとしたクラスの奴等が気づいているのにお前だけ気付いてなかったからだな」


……やっと疑問が解決した。
そうか、私が鈍感と言われてたのは天也の事だったのか。

……ゲームの中ではヒロイン、つまり愛音の事を溺愛していたからな。
それに私としても死ぬのは勘弁してほしいが愛音の事は友人として応援したかったからなぁ……。

何より私は、前世でも恋人何て一人もいなかったし。
私は自分に恋愛感情が向けられるなんて思ってなかったからなぁ。


「……あ……いや、それはないか…」


ふと、昼食に誘ってくる男子が思い浮かんだのだが……やはり友人になりたかっただけだろう。
天也みたいな思惑は無かったはず。
自意識過剰にも程があるな。


「そろそろ休憩を終わりにいたしませんか?
さすがに仕事をしてないようで心苦しいですし……」

「……そう、だな。
戻るか」


少し、ほんの少しだけ天也の顔を見てみたらスッキリとしたような晴れやかな表情をしていた。
その表情を見て、私は決めた。

天也が扉へと手をかける直前、私は天也に声をかけた。


「天也」

「なんだ?
どうかしたのか?」


ただ、不思議そうに訪ねてくる天也を見て私は再度、決意をした。
心を落ち着かせるために少しだけ間をおいてから今の私の気持ちを隠す事なく伝えた。


「……天也、先に言っておきますわ。
私は恋愛感情というものが良くわかりませんわ。
ですから、今天也に対して抱いている感情が何なのか、自分自身良くわかっていませんの。
ですが、これだけは言えます。
私は、天也に対して少なからず好意を抱いていますわ。
……この好意が友人としてなのか異性としてなのかはわかりませんけれど…」


天也は目を見開いたあと、嬉しそうに目を細めた。


「一歩前身、だな。
今までの咲夜は俺を男として見ていなかっただろうからな」


くくくっとからかうような口調でそんな事を言ってくる天也に伝えなければ良かったかもしれないと後悔する。


「だが、チャンスがあるようで良かった。
恋愛対象として見られないかもしれないと思って少しビクビクしていたからな」


そう優しげに微笑む天也の表情に少しドキッとしてしまったのは私だけの秘密だ。
そして私は密かに決めた。
兄には絶対に言うまいと。
そして、後で愛音に相談しようと。
私ではこの問題は手に負えるだろうし。

私と天也が休憩を終え裏から教室へ戻ると何人かのクラスメイトがニヤニヤと笑を浮かべていた。


「天野、どうだったんだ?」

「まさか、本当に付き合ったりしてないだろうな!?」

「海野さん!
天野君からの告白、OKしましたの!?」

「付き合う事になりましたか?」


そう問い詰められたときには思わず天也に文句を言いたくなった。
…なんでこんなに知られているんだ!
と。


「天也!
どういう事ですの!?
何故、皆さんにしられているんですの!?」

「うっ…し、仕方ないだろう!
あの場所を取るには協力してもらう必要があったんだよ!」


という事らしい。
だが、それでも私はイマイチ納得がいかないのだが。


「皆も落ち着け。
残念ながら咲夜からは返答を貰ってない」

「……おっしゃぁぁぁぁああああ!!」

「でかした!
海野!!」

「海野さん、答えなかったの!?」

「お付き合いすることになったかと思っていましたわ」


何故皆私と天也をくっつけたがるのだろうか?


「わ、私…恋愛感情というものが分かりませんので……」

「まぁ、絶対に頷かせるけどな」


天也のそんな一言にキャー!と歓声があがる。
そんな声を後にして私は更衣室となっている部屋で着替え、ホールに戻った。


「ふわぁ……綺麗……」

「さすが先輩……カッコイイですわ……」

「海野さん…今日も可愛らしい…」


前の2人は奏橙や愛音の事だろうが……最後1人、おかしいと思うんだ。
私が可愛いとか別人だろうと思う程ありえない。
私はせいぜい中くらいだっていうのに…。
愛音の方が綺麗だし優しいし…。
奏橙や天也だって性格は別としても外見だけはいいし。


「あ、海野さん」

「んぁ?
お、咲夜じゃんか」


聞き慣れた低めの声に私は振り返った。
すると、やはりそこには見慣れた先輩方がいた。
だが、以外な組み合わせだ。
白鳥先輩と皐月先輩と鬼龍院先輩……異色だな。


「先輩、気てくださりありがとうございます!
席にご案内します」


先輩達を案内していて思ったのだが…兄が来ない。
いや、朝には来たが……。
それから何をしているのだろうか?


「そういやぁ、珍しく悠人がいなくねぇか?」

「お兄様でしたら朝にメニューを見ただけでどこかへ行ってしまいました」

「………理由はこれじゃねぇか?」


鬼龍院先輩がそう指を指したのはコスプレの部分だった。


「……それであの袋でしたのね…」


皐月先輩が聞き捨てならないことをいった。

…あの袋って何だろうか?
嫌な予感しかしないのだが。
……私、裏方回ってもいいかな?


「咲夜!!
遅くなってごめんね!
色々と買い込んでいたらついね……」


兄は大きな袋に服を詰め込んで再び模擬店にやってきた。
晴れ晴れとした表情の兄に対し、疲れきった表情をしている朝霧先輩…。
物凄く違和感がある。


「お兄様…その袋は……」

「咲夜にどれが似合うかと思ったらつい買いすぎちゃったんだ」


笑顔で言う兄に私は思わず絶句した。
……買い込んだで済むような量ではないからだ。

大袋2つ分も買うなんておかしいでしょう!!
それが買いすぎたで済むか!!


「……咲夜ちゃん、諦めた方がいいと思うよ?
悠人の病気がここまでとは思って無かった…。
……今日だけで10件も回るとは思わなかった…」


……10件って……兄よ……何をしているんだ……。
朝霧先輩に申し訳なくなってくるのだが。
私も文化祭の日に10件も回るような人がいるとは思わない。
…普通は文化祭でなくてもそんなには回らない。


「咲夜なら何を着ても可愛いとは思うけどこの服を着ればもっと可愛いと思うんだ」


そう言って取り出したのは背中に翼のついた真白の衣装だった。

……これはどこからどう見ても天使のコスプレ服だろう。
だが、何故これを選んだのかが分からない…。
兄のセンスというか趣味はやはり理解できない……。


私が呆然としている間に兄は支払いを済まし服を渡され更衣室に連れてかれる。

…つまりはそういう事らしい。
この服を着ろと…。

これもクラスのため、そう思い諦めていそいそと着替え始めた。

…着替え終わったものの羞恥心から出ていけない。
そんな時、愛音が入ってきた。


「咲夜、終わりまし……。
綺麗………」


……本当に恥ずかしい。
この格好でホールに行かないと行けないとかどんな罰ゲームなんだ……。


「……あ!
咲夜、行きましょう」


と、愛音に手を引かれ私はホールに出た。


「お、お兄様……」

「……可愛い!
可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!!
咲夜が可愛すぎて辛い!!」


兄の変なスイッチを入れてしまったようで兄は1人で悶えている。
そんな兄に周りはドン引きしている。
そして悶える理由となった私に視線を送ってくる。

……戻っていいだろうか?


「……悠人、帰っていいか?」


朝霧先輩がそう呟くも兄は気にせずに写真をとりだした。
カシャカシャカシャカシャカシャ、と連写する音だけが響いている。


「これくらいで我慢しようかな…?
そうじゃないと咲夜が疲れるし……」


何十枚かとったところで兄はようやく連写をやめた。

今までで1番恥ずかしい文化祭だった。

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