チェガン

林檎

謎だらけ

  アルカが出て行ってから20分は経とうとしている。そんなに時間がかかるものだろうか。
  確かにこの屋敷は広いがそれでも遅すぎる気がする。
  何しているのだろう。
  横を確認するがやはり先ほどと変わらず目をつぶっている。
  本当に寝ているのでは?
  フードを取ってみたいけど。今度は腕を掴まれるだけでは済まないかもしれない。
  やめておこう。
  
  「はぁ〜...。」

  暇だ。昨日までが色々ありすぎてこう何もしないでいる時間は何をしていたっけ...。
  アルカは何をしているのか。
  この屋敷は広いがここまで時間がかかるだろうか。
  時計を確認してみると、もう少しで30分が経とうとしている。
  
  「人を呼ぶだけでどんだけ時間かかってるのよ。ノロマ」
  「誰がノロマだ」

  俯きながら文句を言っていたためドアが開いたことに気づかなかった。
  そして、このドスの効いた声は...。

  「いつまで寝ている。さっさと起きろ。じゃねぇーとどうなってもしらねぇーぞ」

  アルカの言葉に飛び起きた。
  それはアドルも同じだったようで2人とも冷や汗を流している。

  「そんなに焦ることか?何されると思ったんだよ」

  普段のニヤケ顔のアルカは本当に腹が立つ。
  
  「逆に何をするつもりだったのよ...。」
  「特に何もしねぇーよ」

  しないのかよ!
  だったら、さっきの言葉はなんだったのだ。本当に何を考えているのかわからない。
  いや、実際なにも考えてないのかもしれない。

  「んじゃ、連れてきたことだし話の続きをするぞ」
  
  アルカが席に着く。そして、その隣に呼ばれたガブが静かに席に着く。
  
  「それで...なんで僕は...呼ばれたの?」
  「俺だけだと答えたくないんだとよ。だからお前が指名された」
  「意味が...わからない...」
  「意味はあいつに聞いてくれ」

  アルカの目線の先には不機嫌そうな顔をしているアドルがいる。
  
  「...本当にアルカさんのこと...嫌いなんだね...。」
  「当たり前だ」
  「当たり前...なんだね...」
  「...。」

  この2人の会話は少しゆったりしている気がする。
  いや、これが普通の会話だったような?
  
  「んじゃ、質問すんぞ。」
  「...。」
  「無視すんな」

  アドルはアルカの方を向こうとしない。
 どんだけなのよ。

  「はぁ。まず1つ目。お前は自分のことをどこまで理解している?」

  それでも普通に会話を進めるアルカ。
  もう色々諦めているのだろう。

  「...アドル...多分答えないと...ずっとこのままだけど...いいの?」
  「...ちっ」

  ガブの助け舟によってようやく話してくれるようになった。
  「俺自身も詳しく知らねぇ。ただ、エレナ自身が耐えきれなかった憎しみの気持ちが具現化した。他には何も知らねぇ」
  「お前自身。自分が『人間』であるとという自覚はあるのか?」
  「...俺はお前らとは違う。『人間』ではない」
  「なるほどな」

  さっきと同様、アルカはノートに書き足している。
  みんな普通にしているが引っかかる言葉が合った。

  「ねぇ。『人間』じゃないってどういうこと?」
  「俺は、エレナのマイナスの感情。それが具現化したのが俺。言わば、『存在してはならない者』だ。」
  
  存在してはならない者。
  何故そうなのか。そう思っているのかわからない。

  「確かに、お前はこの世では異端の存在。『現れるべきではない存在』だろーな」
  「...。」
  「そんな...。アドルは本来は現れない存在って...。」
  「厳密に言えば現れるべきではない存在だ。」

  淡々と述べるアルカ。
  否定したい。だって、アドルはここに存在する。現れるべきじゃないって、そんなこと言われたら悲しすぎる。

  「そんなこと...」
  「『そんなことない』って言いたいんだろ?」

   ...っ!
  先に言われた。

  リヒトは小さく頷く。
  だって、悲しいもの。そんなの。
  信じたくない。

  「お前なら絶対に否定から入ると思ったからな。わかりやすいなお前」
  「...だって...。」
  「アルカさん...意地悪...」
  「事実を言ってるだけだろ?」
  「部分的な...ね...全部言ってあげないと...二人とも...分からないですよ...。」

  二人にしかわからない会話だ。
  部分的に?
  アルカはまだ分かっているところがあるのだろうか。
 
  「確かに言葉が足りなかったな。確かに、アドルは『現れるべきではない者』だ。だが、今お前はここに居る。なんでか分かるか?」
  「...。」

  アドルは黙ったままアルカを睨んでいる。

  「お前を必要とする人がいる」
  「...?!」

  必要としている人?
  それって...。

  「お前自身は所謂エレナちゃんの力。『チェガン』だ。チェガンはそもそも『現れるべきではない力』だ」  
  「なんで現れてはいけないの?」
  「常人の力を超える。それは体に負担もかけているという事だ。普通、人の体は壊さないようにリミッターがかかっている。だが、それを外してしまうと体を壊す可能性がある。そして、チェガンはさらに上をいく」
  「上を?」
  「あぁ。力にもよるがヒュースなどがわかりやすいだろう。あの力を無限に出し続けた場合。ヒュースは死ぬ」
  「はい?!?」

  死ぬって?!いきなりそんなこと...。

  「いきなりだが。簡単に言えばそういう事だ。今の俺達の力が本気を出しても70〜80%くらいじゃないと力が発揮できない。どうやって100%を出すか。それはリミッターを外したら出すことが出来る。体への負荷は凄いけどな。」

  リミッターを外しただけで体は無理をするってことだよね。でも、チェガンは更にその上をいく。
  それって...。

  「チェガンはその100%の更に上だ。150%くらいか。100%を出しただけで体は悲鳴をあげるのに、更にその上を出し続けるとどうなるか。想像できるだろ。まぁ。ものにもよるけどな」
  
  チェガンと言うのはそんなに危険なものだったのか。全然知らなかった。
  
  「じゃぁ、ヒュースさんとかソフィアさんとかはチェガンを使うとどうなるの?」
  「その二人の場合はそもそも普通の人と体の作りが違うからな。そう簡単にはくたばんねぇーよ。でも、何時間も使い続けるとさすがに体が持たない。さっきも言った通り死ぬと思う。」

  そんな危険なものを今まで人のために使ってきたと思うと悲しいと思うし本当にすごいと思う。
  リヒトには力がないから正直他人事のように考えてしまう。
  本当は理解したいし助けたいけど、こればっかりはどうすることも出来ない。

  「ま。そういう事だ。だからアドルの体は同時にエレナちゃんの体でもあるわけだ。気をつけろよ?自分で大事なエレナちゃんを傷つけないように」
  「分かっている。」

  そんな話を聞いしまったらチェガンを見るのも怖くなりそう。
  そう言えば、ガブの力は普段から発動しているのでは?
 
  「ガブの体は大丈夫なの?」
  「...なんで...いきなり僕なの...?」

  不思議そうに言うガブ。

  「だって、チェガンは使い続けると体が危ないんでしょ?だったら、常に発動しているガブは大丈夫なの?」
  「...。」

  少し考えているようだ。
  
  「...大丈夫...。」
 
  その一言だけで終わってしまった。
  本当に大丈夫なのだろうか?

  「チェガンにも種類がある。その説明はまた後でにする。とりあえず、アドルの謎を少しでも解明したい。」

  そう言うアルカはまた目線をアドルに戻した。

  「さっきの話だが。お前を必要としている人がいる。じゃないとお前は現れるわけがないからな。」
  「どういうことだ」
  「エレナちゃんが自分の重しに耐え切れなくなりそれと同時に復讐したいと言う気持ちが合った。辛いけど死ねない。死ぬことは許されない。力が欲しい。心からそう思い、その思いからお前が生まれた。」
  「...。」
  
  黙って聞いてるアドル。さすがに気になるのだろう。しっかりと耳を傾けている。

  「お前は最初自分は人間ではないと言った。」
  「あぁ」
  「それは半分は合ってるし半分は間違っているだろう」
  「...何故だ」
  「お前には意思がある。強い思いがある。なのにお前は人間じゃないという。逆に聞く。何故そう思った?」

  アドルと目を合わせるアルカ。
  アドルは目線をあっちこっちへと泳がしている。

  「...そう考えるのが普通だ。俺は生き物ですらない。意思はあるがそれだからなんだ。体がなければ、エレナがいなければ俺はここにいられない。生まれることすら出来なかった。俺は...」
  「自分で言ってんじゃねぇーか」
  「はぁ?」

  何を言っているのだ?自分でいって言っている?何を...

  「『生まれてきた』ってな。この言葉こそがお前がここにいる証。存在する証。生き物じゃないと言ったな。それは大きな間違いだ。お前はここにいる。エレナちゃんによってお前は生まれた。」
  「そんなの...」
   「今ここにいるのは他の人によって生まれた。そして、自分の意思で今ここにいる。強い思いで俺達は行動している。お前と違うところなんて特にないだろ」
  「アルカ...。」

  普段飄々としていて何を考えているのな分からないくせに。

  「...だが、さっきの話では俺が存在することによってエレナの身体に異常をきたす。それだと本末転倒だ。」
  「そこまではまだ分からねぇ。だからこれからはお前とエレナちゃんには交互に表に出てもらい生活してもらう」
  「...何故だ」
  「お前らのことを知るためだ。何日ごとにチェンジしてもらう。もしどちらかの身体に異変があった場合は楽な方で構わない。」
  「...。」

  交互に入れ替わる。
  エレナは確かアドルについて知らない。それに、自分の意思で入れ替わるのも難しいのでは?

  「エレナちゃんには俺からお前について話しておく。そして、これは急がないが二人が意思疎通出来ればと考えている。」
  「意思疎通だと?」
  「そうだ。エレナちゃんとアドルが意思疎通出来ればお互い気が楽だろ」
  
  確かに。

  「んじゃ、お前についてはとりあえずこれだけにしておこう。この後は話し合っても意味は無い。お前の行動と考えでお前ら二人について理解していく。」
  「...。」

  二人について。
  アルカはエレナとアドルを違う人として考えているんだ。ということは、アドルを一人の人間として考えているってこと。
  ちょっと、嬉しくなるなぁ

  「何ニヤついてやがる。気持ち悪いからやめろ」
  「...ニヤついてません!」

  どうして私には嫌味しか言わないのさ!!ホントにむかつくな!

  「...お前らはどこまで知ってる?」
  「どこまでって......何を...?」
  「この街で何が起きてるか。チェガンというものがどういうものなのか」

  アルカ達はこの街を守っていると言っていた。なにから守っているのか。そして、チェガン。命に関わる力をどのように使っているのか。
  そして、今までこの人達には何があったのか。

  「それじゃ、まずこの街に何が起きているかを話そう。」

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