チェガン

林檎

終止符

  アルカが何かを刑事さんに伝えたあと、また死体へと近づいて行った。
  その手には白手袋を付けている。
  死体の近くでしゃがんだと思ったらいきなり触ろうとしている。

「アルカ、いいの?」
「何がだ?」

  こっちに目もくれずに死体を触っている。

「触ってもいいのって事なんだけど...」
「良いから触ってるのだろうが。少しは頭を使え」
  
  怒りを抑えアルカの手元を見た。
  特に特別になにかしている訳でもない。
  何をしているのだろうか。

「アルカさんは何をしているの?」

  アルカの手元を除きながらエレナが聞いた。

「見てわかるだろう。証拠確認だ。こんなことをしなくても大体分かるが念には念をだ。」

  証拠確認。
  アルカにはもう犯人は分かっているのだろうか。
    だが、流石にそれはないんじゃないか。
  リヒトは目星すら付いていないというのに。

「何となくわかった。あとは、どう問い詰めるかだな。」

  そう言うと、白手袋をとり刑事さんに渡した。
  そして、また来た道を戻っていく。

(本当に分かったのだろうか...)

  そして、容疑者のいる所へ戻ると何やら警察の人と揉めていた。

「何があった?」
  
  アルカが揉め事をしている所へ行き事情を聞いている。
  肝が据わりすぎている気がする。

「それが...」

  警察が言おうとすると大きな声で遮られてしまった。

「いつまで待たせるつもりだよ!!俺は関係ねぇーって言ってんだろうが!さっさと帰らせろや!!」

  大声を出しているのは先程までアルカに突っかかっていた男性。神永奏さんだ。

「こ...怖い...」

  リヒトとエレナは遠くから聞こえる程度だが、声に怒気が含まれているため神永さんが相当怒っているのは分かる。
  そんな中、アルカだけが平然としている。
 
「さっさと帰らせろや!!」

  神永さんが立ち上がろうとした時。
  アルカは神永さんのおでこを手で優しく押した。
  すると、途中まで腰を浮かせたがそのままベンチへと戻った。
  一瞬、何が起こったのか分からなかったのか神永さんは瞬きをしている。

「もう、情報収集は終わりました。このままここで座っていてください。もう少しで終わりますよ」

  アルカが笑いかけながらそう言った。
  いつもの胡散臭い笑顔ではない笑みだったが、リヒトにはその笑顔は作り笑いだとすぐ分かった。

(まぁ〜、この状況で作り笑い以外の笑みを浮かべることが出来るのかは謎だけど。)

「皆さん。時間がかかって申し訳ございません。少々、証拠確認に時間がかかってしまいこんな時間になってしまいました。これから、この事件の真相を明らかにしたいと思います。」

  腕を大きく広げ、そう言い放ったアルカ。
  アルカがここに来てから、まだそんなに時間は経っていない。なのに、もう犯人が分かったのだろうか。
  リヒトには考えられなかった。

「リヒト。あの人犯人がわかったの?私にはさっぱりなんだけど...」
「......多分。わかったんだと思うよ。」
「こんな短時間で?すごいね!」

  目をキラキラさせながら言ってくるエレナに、アルカの才能について話した方がいいのかもしれないと思い、小声で伝えた。

「エレナ。アルカにはさっき屋敷で話した〈力〉があるの。」
「屋敷で?リヒトの物語の?」
「私が作ったんじゃなくて、現実で起こってるの。それで、アルカの力は〈常人を超えた頭の良さ〉何だって。」
「頭がいいの?」
「そうなの。これから多分、その〈力〉についてわかると思う。だから、エレナはしっかり見てて」
「分かった」

  ひと通り伝え終わると、エレナは大きく頷いてくれた。
  これで、あの人たちについて信じてくれるといいのだが。
  あとは、アルカの話に耳を傾ける事にした。。

「さて!まずは、状況整理からみんなで確認していこう」

  そう言うと資料を片手にとり状況を説明していく。

「まず、殺されたのは田辺梓桜。死因、絞殺。武器として使われたと思われるのは何かのチェーンだろう。」
「まてまて!そこから話すのかよ!時間がねぇーって言ってんだろうが!」
「確かに...流石に同じ話されるのは...僕もちょっと...」
「早く犯人教えなさいよ!!」

  容疑者三人が一気にアルカに怒鳴った。
  が、アルカはいつも通りの声色で淡々と言う。
  
「時間が無いのなら僕の話を遮らないでください。犯人も状況を整理したあとにちゃんと言いますよ。いきなり言っても犯人に言い逃れされる可能性がありますので」

  そう言うと、続きを話すために資料に目を向けた時、神永さんがアルカの資料を強引に奪った。

「舐めてんじゃねぇーぞ。クソガキ。やってられるかよ。お前の[おままごと]に付き合っていられるほど暇じゃねぇーんだ。悪いが帰らせてもらう」

  そう言うと資料を地面に捨て歩き出した。
  それから、残された容疑者二人のうち一人。平野翼端さんも立ち上がり行こうとしてしまう。

「僕も用事がありますので...失礼します」
「ちょっと!まだ犯人は分かっていないのよ!待ちなさいよ!」

  歩き出す二人に高山さんが追いかける。
  すると、資料を一つ取ったアルカが俯きながら言い放った。

「待ってくださいよ。逃げるんですか?」

   三人は一斉にアルカの方へと向いた。
  まだ俯いているアルカはどんな表情をしているのか確認出来ない。
  ただ先程までの雰囲気とは違うとリヒトは思った。
  怒っているのではない。だが、なにかわからないが今のアルカの纏っている空気は怖い感じがした。

「この場から去るということ。それは自分を犯人と言っているようなもの。あなた達二人とも犯人なんですかね」
「ふ...ふざけるな!こんなバカバカしいことに付き合っているほど時間がないと言っているんだ!俺が犯人だと?!証拠はあるのか?!」
「そうですよ...証拠はあるんですか?高校探偵さん」

  二人はアルカの異様な雰囲気を感じ取っていないのか、先ほどと同じ強気の姿勢を見せた。
  だがそれも、アルカが顔をあげた瞬間に驚き言葉を失った。

「座ってください?これは、お願いではないですよ。〈命令〉です」

  リヒトの角度からではアルカの表情は確認出来ない。
  だが、容疑者三人がいきなり怯えるようにベンチ戻って行ったので何が起きたのか詳しくわからない。確認しようと前に足を出すと、裾を掴まれていることに気づく。
  「どうしたの?」そう聞きながら後ろを見ると。今までにないほどエレナが怯えた顔をしていた。

「ど...どうしたの?!」

  いきなりのことでリヒトはエレナの両肩を掴んだ。

「あの人...今...すごく怖い顔してた。」

  ーーあの人?

  エレナが指さす方を確認すると、アルカがいた。

「怖いって...いつもの胡散臭い笑顔じゃないの?」

  リヒトの角度からは確認出来なかったためエレナが何に怯えているのかわからない。

「顔は笑ってるの...でも...目が...すごく怖かった...」
  
  ここまで怯えているのエレナを見るのは初めてだった。
  どうすればいいのかわからないリヒトはとりあえずエレナを落ち着かせようと少し離れたところに腰を下ろした。

「大丈夫?」

  安心させるように頭を撫でながら聞いた。
  エレナは少し落ち着きを取り戻したのか震えが止まっている。

「ごめんなさい...でも、さっきのは...本当に...」
「大丈夫だよ。あの人は私たちの仲間。だから大丈夫」

  エレナにそう伝えると、涙目ながらも笑いながら立ち上がった。
 「ごめん。行こうか」そういい、リヒトの手をとって先程のところに戻った。

(エレナがこんなに怯えるなんて...一体どんな顔をしてたの?)

  疑問に思いつつアルカの説明を聞くため耳を傾けた。

「さて!被害者の情報はこんなもんだろう。次は、君たちについてですね」

  いつの間にか話が進んでいるためよく分からない。が、アルカの雰囲気は最初の感じに戻っており安心した。

「高山さんは第一発見者で被害者の友達。今日は、二人でお出かけしようと思っていたんですよね?」
「そ...そうよ...」
「そうですかそうですか。それで、時間になっても来ない被害者に連絡をするも繋がらず、先に公園に。なぜ、先に行こうと思ったんです?」
「待ち合わせにも来ない。連絡も取れない。だったら、先に行ってるのか、家にいるのかとのどちらかだろうと思い。」
「なぜ、家には行かなかったんですか?」
「距離的に家に行くより、公園に行った方が近かったのです。そっちを確認したあとに家に行こうと」
「なるほどなるほど。ありがとうございます」
「い...いえ...」

  人の良い笑顔で話を切った。
  普段からあの笑顔だったらいいのにとリヒトは思った。

「さて、次は神永さん。いいですか?」
「ダメと言っても聞いてくるんだろうが」
「はい」

  あれが一般的にいう〈王子様スマイル〉なのだろう。すごく爽やかな笑顔だ。
  だが、使う場所がなぜここなのだ。
  もっと他にもあるだろう。もったいない。
  神永さんは苦笑いしている。

「さて、神永さんは公園の近くで写真を撮っていると突然叫び声が聞こえた。そして駆けつけると被害者が首を吊っていたと。あってます?」
「あぁ」
「写真はどこら辺から撮っていたのです?」
「現場からはあまり遠くない。近くに現場を取り囲むように川があるだろ。その中の魚を納めようとしていたところだ。」
「なるほど。よっぽど綺麗な魚がいたのですね」
「い...今は関係ないだろ!」
「それで、着いたあなたは被害者などの確認も何もしないで警察に連絡をした。咄嗟の判断にしてはすごくいい判断だ。ですか、なぜすぐに警察に連絡を?」
「人間が首をつって死んでいたんだぞ?!そりゃー警察に連絡するだろう!」
「そうですよね。ですかまず、何があったかあちらの女性に聞いたりなどはしなかったのですか?」
「しないね。それより、まず警察に連絡をしねぇーとも思ったからな。」
「なるほど。ありがとうございます。」

  先程と同じように人の良い笑顔で話を切った。
  そして、アルカが顔を向けたのは被害者最後の一人、平野翼端さんだ。

「では、次にあなたについて教えて頂いてもよろしいですか?」
「は...はい...」

「ではまず......ん?そちらのネックレス。すごく綺麗ですね。どこのものです?」
「こ...これですか?」
  
  いきなりの質問で戸惑っている。
  いきなりそんな事を聞かれるとは思っていなかったのだろう。

「別に、これはあまり事件には関係ありません。興味です。見たところペアのネックレスですよね?」
「はい...彼女と一緒に選んで買ったんです」
「そうだったんですか。喜ばしいことですね」
「まぁ〜、この前に振られてしまいました。」

  こまった表情をしながら乾い笑いをこぼした。

「そうだったのですね。嫌なことを思い出させてしまいすいません。本題に入らせていただきますね」
「はい...お願いします」
  「では質問です。あなたも、神永さんと同じように彼女の悲鳴が聞こえ現場へと走った。そして、泣いている彼女と電話をしている神永さんを見つけた。」
「はい...」
「あなたは、現場に着くと泣いている彼女を宥めようとした。」
「はい...」
「何故ですか?」
「え...?」
「なぜ、死体の方ではなく彼女の方へと駆けつけたんですか?」
「それは...彼女が泣いていたので...」
「あなたは悲鳴が聞こえた時どこにいましたか?」
「現場の北側ですかね...そこにあるベンチに座っていました。」
「ほうほう。そこから駆けつけたということですね?」
「はい...」
「現場にはどこの入口から入ったのですか?」
「確か...あちらの方かと」

  平野さんが指さした方は、現場の北側にある出入口だ。

「間違いはありませんか?」
「ほぼ、間違いはないかと。僕がいたところからの出入口だとあそこが一番近かったので」
「それで、公園に入ったあなたの目には泣いている彼女がいち早く入り慰めようと近寄った」
「はい...」
「そうですか。わかりました。ありがとうございます」

  ひと通り終わるとアルカがまた資料に目線を戻し黙った。
  三人は不思議に思いアルカの行動を見ている。
  リヒト達もだ。先程までたくさん話していたと思ったら、突然黙り出したのだ。

「どうしたんですか?」

  高山さんが話しかけるも気づいてないのかなんの反応もない。
  それに苛立ったのか、神永さんがアルカの肩に掴み怒鳴る。

「なんなんだ!いきなり黙りやがって!やっぱり犯人なんて分からなかったんじゃないだろうな!俺たちの時間はなんなんだよ!探偵さんよ!!」

  すると、アルカはいきなり顔をあげ笑みを浮かべた。

「では、皆さんが待ち望んだ〈犯人〉を当ててみましょうか」

  笑顔のまま言い放った。
  訳の分からない被害者たち。
  状況が読めないリヒト達。
  沈黙の中、アルカの声が静かに響いた。

「さぁ、この事件の終止符を打とう」

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