チェガン

林檎

気持ち

〜次の日の朝〜

はっはっはっ...

  今日は休日だったのもありリヒトは朝から昨日の屋敷に行こうと走っていた。
  だが、走っても走っても大きな屋敷が見えてこない。

「なんで...結構たくさん...走ったのに......なんで...見えてこないのよ!!」

  昨日は、アルカが道案内をしてくれたからスムーズに着いた。
  今は道案内がいない。自力でどうにかしなければならない。

(やっぱり...無理なのかな...昨日のガブが言ってたとおり...私には...)

「!!ダメダメ!!エレナが今頑張ってるんだもん!私も頑張らないと!」

  リヒトは深く深呼吸をした。

「よし!」

  気合を入れ直しまた走り出した。


〜屋敷内〜

  ガブは目を覚ました。
  壁にはやっぱり昨日の少年、アドルが寄りかかって眠っている。

「...夢じゃなかったんだ...昨日のは...」

  本人を見て、昨日のが夢ではなかったことがわかった。

「...ねぇ...アドル...起きて...」

  アドルに近寄り、頬をペチペチ叩きながら起こした。

「ん...あんだよ...まだ...眠いんだよ...おれは...」
「別に...寝ててもいいけど...このままだと...昨日の人たちが...何をするか...分からないよ」

  その言葉にすぐに反応し、勢い良く体を起こした。
  冷や汗をかきながらガブを凝視している。

「おはよ...」
「いや...おはようではないだろ...」

  アドルはそう言うと、周りを見渡した。

「...改めて聞くけどよ...なんで、俺をここに入れた?」
「なんでって...ドアの前にずっといたかった?」
「なわけねぇーだろ...でも、普通なら殺してもおかしくねぇーことをしたんだぞ?なんで、俺を野放しにした。」

  身震いするほどの眼力でガブを睨みつけている。
  普通の人ならその目だけで腰を抜かすだろう。だが、ガブはその〈殺気〉は普段から見慣れているため動揺すらしない。

「別に...それを指示したのは...僕じゃない...ソフィアさんだ...その人に...聞きなよ」
「聞けたら苦労しねぇーよ」

  確かにと、心中で思いながら立ち上がった。

「とりあえず...下に...行こう」
「...おう...」

  部屋を出て階段を降りようとした時。
  後ろから、声をかけられた。

「ガブ...久しぶりね。」

ーーこの声。

  ガブは、はっとなって、後ろを見た。
  そこには、片目を布で隠して髪は肩より少し長めの綺麗な女の人がいた。

「あ...アーノ...さん?」
「そうよ。大きくなったわね。ガブ」

  優しく微笑んでいるアーノさんを見た時、少し安心した。

「そうだわ、アルカの様子がおかしいのよ。何かあったの?」

  アーノさんはガブに会う前に、すでにアルカに会っていたらしい。
  昨日のアルカの様子は誰の目から見ても[おかしい]とは感じ取れるだろう。

「あ...アルカさんは...」

  ガブはアーノさんと目を合わせられなかった。
  多分だが、アルカは昨日のあの子の言葉が忘れられないでいるだろう。
  心に残ってるのかもしれない。

「何か、あったのね」

  アーノさんの顔を少し見てみたら、すごく真剣な顔をしていた。

「私、アルカに話を聞いてみるわ」
「え...でも...」
「大丈夫よ。あの子は強いもの」

  そのまま、アルカの部屋へと行ってしまった。

「...アルカさんは...確に...強い、だから...大丈夫」

  自分に言い聞かせるようにガブは、アドルを連れて下へと降りた。

〜アルカの部屋〜

コンコン...

「私よ、入るわね」

カチャ...

  アルカは布団の中で蹲っていた。
  昨日のリヒトの言葉。リヒトにとっては何でもない言葉だったかもしれないが、アルカにとっては忘れられない言葉だった。

「何の用だよ...」
「あなたの様子がおかしいから、少し気になったのよ」

  様子がおかしいと思うなら、ほっといて欲しいと正直思った。

「昨日、何かあったのね、何があったの?」

  細かいことは知らない。だが、この口調は確信めいていた。
  ガブあたりの人に聞いたのだろう。

「別に...あんたには関係ないだろ...今は、一人にしてくれ」
「関係なくないわ。仲間じゃない」

  仲間。

「一緒に苦しみ、一緒に笑い合いましょう?」

  アルカは今まで自分の思っていることはあまり人には言わない。
  言っても意味が無いと思い込んでいるからだ。
  だが、今のこの状況では我慢しようとも出来ない。
  思っていることがつい、口から出てしまう。

「だったら、あんたは...今までどこに行ってたんだよ...どーせ、一人でまた神だの何だのって...あいつらに会いに行ってたんだろーが...仲間の俺たちになんの相談もしねぇーで...」
「アルカ...」
「テメーだって...人のこと言えねぇーじゃねぇーか...」

  ただの八つ当たりだ。
  頭ではこんなことを言っても意味がないなんて事を分かっているが、一度口から出てしまったのもはもう、止めることが出来ない。

「俺たちになんも相談しなかったのはおめぇーじゃねぇーか!!」
「アルカ...違うの!」
「ほっといてくれよ!!」
「アルカ!聞いて!」
「もう!ほっといてくれよ!!一人にしてくれよ!!」

  今までにないほどの声で怒鳴ってしまった。
  心の中がくらい闇の奥底に沈んでいくに感覚になる。
  これ以上何かを言ってしまうと取り返しのつかないことになってしまいそうだ。
  また、布団の中に潜ろうとしたらいきなり布団をもぎ取られた。
  
「このっ!!」

  文句を言おうと体を起こし、アーノを見た。そしたら、信じられない表情をしていたため言葉が止まった。

「な...なんで、お前...泣きそうなんだよ...」

  すごく辛くて、泣きそうな顔をしていた。

「何でじゃないでしょ!アルカは...アルカはいつもそうよ!!」

  何を言ってるのか分からなかった。
  頭が考えることを拒否しているかのように動かない。

「いつもいつも一人で背負い込んで!それで!背負い込んだ挙句自分でも思ってもないことを言って!!無駄なことをたくさん考えて!!」
「ちょ...無駄って...」

  流石に酷いと思った。

「そうよ!無駄なのよ!あなたが今考えてる事は!!」
 
  流石にイラついた。
  人が真剣に考えていることを無駄とか言われると、流石に怒っても仕方がないだろう。

「あなたは、他の人よりすごく頭がいいわ!だから、私たちより考えることも多いだろうし、考えてしまうから、私たちより悩みはあるのかもしれない!」

「周りをちゃんと見なさいよ!仲間を!ちゃんと見なさいよ!!」

「みんなはあなたがいなかったら困るの!あなたはみんなを守ってる!人任せなんかじゃない!あなたがちゃんとみんなの事を!街の人たちを守ってる!」

  アーノはそう言いながら涙を流していた。おそらく、自分でも言葉の方に必死で気づいてないのだろう。

「おれ...別にそんなこと...言ってねぇーよ...」
「あなたの無駄な悩みは、いつも昔から一緒なのよ。あなたは、確に戦えない。でも、みんなを導いて上げてる。それだけで、みんなはすごく助かっているのよ?」

ぽん...

「大丈夫、あなたは強いもの。」

  優しく、丁寧にアルカの頭をそっと撫でた。すごく暖かくて安心する。

「な...なんで...俺は、あんたに酷いことを言ったのに...なんであんたは...俺のことを...」

  絞り出した声は聞きづらかっただろう。だが、ちゃんと答えてくれた。はっきりした声で。

「決まってるじゃない。そんなの」

  上を見上げるとそこには

「仲間だからじゃない」

  涙で濡れた顔で笑っている、アーノの顔があった。

「行きましょ?みんな、待っているわよ?」

  片手で涙を拭き取り、もう片方の手を俺に差し出してくれた。

「でも...まだ俺は...」

  はっきり言って落ち着いたとは言えない。昔、アルカがしてしまった〈失態〉が頭の中でぐるぐると回っている。
  この記憶がある限り、アルカは自分を許せない。
 そう考え込んでいるとドアの方からいきなり声が聞こえた。

「早く来い、飯が冷めるぞ?」

  ドアの方に視線をやると、そこにはソフィアが壁によりかかり立っている。

「ソ...フィア...」
「お前のことだ、どーせ昨日のあの女の言葉で過去を思い出してたってところか?」

  こういうところの勘の良さは一体なんなんだと思う。
  いつもは色んなことに鈍い癖にと心の中で悪態をついてしまった。

「なになに?アルカまだ死んでんの?」
「俺の後ろに立つな、帰れ」
「何でだよ!」

  いつの間にか来ていたヒュースに対して、言葉と同時に手をあげたソフィア。それを反射で避けていた。
  

「また...喧嘩してると...カルねぇーに...怒られるよ?」

  二人はその言葉を聞き、肩を震わせた。
  その後はお互い目を合わせぬようにそっぽを向いている。

「「...。」」

  ガブが部屋に入ってきた。

「大丈夫?」

  心なしかいつもの落ち着いた口調ではない気がした。
  心配してくれたのだろうか。悪いことをしてしまったと申し訳ない気持ちになった。

「あ....あぁ〜...」

  状況をすべて飲み込めた訳では無いため曖昧な返事になってしまった。

「勘違いするなよ?テメーなんかどうでもいいが、せっかく作った飯が冷めちまうと勿体ねぇー、仕方がねぇーから呼んでやっただけだからな」
「何カッコつけてんだよ、どこぞのツンデレか?テメーにそんな要素あっても誰もよろこ...ぶね?!?!」

  ソフィアの拳がヒュースの頬を掠った。
  流石に避けきれなかったらしい。

「ざけんな!!ホントのことだろうが!!昨日からいつもよりソワソワしてるぞ?心配でしょうがないんだろ!正直になっ...だから!ホントの事だろーがー!!殴んなぁー!」
「うるせぇー...喋んな」

  苦笑いしか浮かばない。
  だが、その光景をみて心が落ち着いていくのが自分でもわかった。
  アルカは、頭がよく指示も的確。それ故なのか運動神経は並の人間に毛が生えた程度。先陣切って戦えるほどの実力はない。頭では理解できるが体が動かないこともしばしば。
  だが、ここのみんなはその事について一切触れない。
  それがみんななりの優しさなのだろう。
  

「二人は...本当に心配してたよ...」

   その言葉で胸が暖かくなるのがわかる。
  自分は本当に恵まれたところにいさせて貰っているんだと実感出来た。
  そのためなのか、流石に次の言葉までは予想出来なかった。

「アーノさんを」
「え?そっちなの?いや、そりゃー、そうかもしれないけど、そっちなの?」

  この、心の暖かさを返せと、言いたくなった。
  流石にこの状況でこう言われるとは考えてもいなかったため少し泣きそうになってしまった。

「ふふっ...」

  横から嬉しそうな、ちょっと控えめな笑い声が聞こえた。

「何...笑ってんだよ...」
「あら?ごめんなさい」

  謝ってんのに、笑いを堪え切れないのか口元に手を置き肩を震わしている。

「何なんだよ...オメェらは...」

  呆れた。

  でも、いつの間にか、アルカはみんなと一緒に笑ってた。
  過去を思い出して何も出来ない自分に腹が立った。でも、その度にみんなは集まってくれた。
  普段はまとまりがなく大変なことが沢山あるが、これ以上の優しさを与えてくれた。
  自慢の仲間達だ。

「んじゃ、俺も下でご飯食べるかな」

  それを、口に出すことは絶対にしない。
  言ったら調子に乗りそうなやつが1人はいるからな。
  そう思いながらアルカは、ドアに向かって歩き出した。

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