チェガン

林檎

それぞれ

  リヒトが帰った後、静かな屋敷内に階段から声が聞こえた。

「お前...あんな事言って...あいつが本当にこっちの世界に来たらどうするんだ」

  手当てを終えたソフィアが腕を組みながら階段を降りていた。

「ソフィアさん...」

  ガブは体をソフィアの方に向き直した。

「怪我は...大丈夫なんですか?」
「問題ない...俺はどっかのイノシシとは違うからな...あいつの攻撃も流しながらだったからそこまでひどい怪我もねぇーよ」
「そう...ですか...」
「...元気ねぇーな、あの女が帰って寂しいのか?」

  階段を降りながらありえない質問をされた。
  ソフィアの口調はいつも淡々としている。
  だから、冗談なのかそうじゃないのかの見分けができない。
  もしかすると、本人は冗談で言ってるのではないのだとしたら。それはそれで困ったものだ。

「そんなこと...無いです...ただ...」
「アルカが心配か?」

  この人は、アルカ並の頭の良さでは無いがこういう所の勘は変に鋭い。
  ガブは小さく頷いた。

「...あいつなら、部屋にこもってるぞ、恐らく考え込んでんだろう。問題ねぇーよ」
「そう...ですよね...」
「それより、そいつをどうするかだろ」

  ソフィアは顎で少年を指しながら言った。
  正直、アルカのことで頭がいっぱいになっていたため途中で忘れてしまっていた。

「...どうしようか...」
「牢にでも投げとくか?」
「そんなことしたら...こいつの...僕達に向けての疑いが晴れないですよ...」
「なら、どうする?こいつを自由にさせるわけにはいかねぇーだろ」

  こういうのはアルカがすぐに指示を出していたため、他のメンバーはそれに従うのが当たり前になっていた。 
   実際に考えてみると難しいものだ。
アルカの頭がどれだけすごいのか今この場で痛感した。

「どうしよう...」

  隣から小さなため息が聞こえた。
  見てみると、顎に手を添えて考えている。
  改めて見ると、やはり顔は整っていいるためかっこよく見える。
  関係ない事を考えているとソフィアは静かにアドルに問いかけた。

「しょーがね...おい...お前、二択だ...選べ」

  アドルの前で膝をついてしゃがんで、指を2本立てアドルに突きつけた。
  「二択...ですか...」そう呟くとソフィアはそのまま話を進めた。

「一つは、このまま牢にぶち込まれて一晩暮らす。もう1つは武器全てを手放して、その紐を外すか」
「え...それって...」

  この場合、後者を選んだらアドルは自由になる。
  そんなこと、ガブが言わなくてもソフィアなら分かるのではないか。
  不思議に思っていたがソフィアの表情からは迷いを感じなかった。
  何かあるのだろうと、ガブは勝手に思い込んだ。

「なんで、その二択だ?裏があんのか...?」
「あったとしても、お前に教えるわけねぇーだろ。まぁ〜ねぇーけど...」

  前言撤回をしよう。
  本当にその二択で大丈夫なのか、ガブは不安になった。が、他にいい方法が思いつかないためソフィアの次の言葉に耳を傾けた。

「信じられないな...」
「答えねぇーなら、前者にすんぞ?いいのか?」
「...。」
「いくら睨んでも、意味ねぇーぞ。今は、俺の質問に答えるしかねぇーさっさと答えろ」

  アドルは、目を泳がせ考えている。
  答えるべきかべきではないのかを考えているのだろう。
  先程戦ってこの人がどれだけ強いのか分かったはずだ。
  だからこそ、この選択には何かあると思っているのかもしれない。
  本人はないと言っているがそれが本当なのかも本人にしかわからない。
  アドルは小さな声で一言答えた。

「......後者で...」
「了解だ。だったら、武器を全部出せ。どうせ、短剣だけじゃねぇーだろ?」
「...まず、縄を離せ...武器が出せねぇー...」
「...お前...アルカ以外の前だったら、案外素直なのか?」

  縄を外しながら質問している。
  あなたもヒュースの前以外だと大概素直だと思う。口には出さないけど。
  だが、流石に言われるがまま縄を外すのは危ないのではと思う。

「別に...あの男は信用出来ねぇーけど、お前らだったら別にって思ったんだよ」
「ふ〜ん」

  興味がなさそうな返事をしたのと同時に縄が外れた。
  ガブは何があるか分からないためいつでも動けるように身構えた。が、それはあまり意味無いことだった。

「おら、さっさと武器を出せ」

  無言ではあるが、アドルが静かに武器を出しソフィアに差し出した。
  この二人には〈警戒心〉というものがないんじゃないかと思うぐらい次々と進んでいく。
  そうガブが考えているうちに武器は出し終わったらしい。
  見ると、武器は短剣2本、長剣1本、ムチ見たいのが1つ。


「どーも」 

武器を預かったあと、ソフィアさんは行ってしまった。
  おそらく、自分の部屋に戻ったんだろう。
  この二人の会話は一体何だったのだろうかと、ガブはわりと真剣に考えた。

(二人とも...素直すぎる...本当に...裏があるんじゃ...流石に...ないかな...)

  その時、裏口の方からもの音が聞こえた。
ドアが空いた音だ。

「誰か...帰ってきたのかな...」

  ここは普通の人が入ってこられないから問題はあまり無い。
  ちょっと、不安もあるが何かあったときのために対応はできるようになっているため、あまりそっちは気にしなくていいだろう。
今は、アドルに集中しよう。



〜アルカの部屋〜

ドアが開く音がした。

「...誰だ...」

  布団の中でくるまっていたアルカがドアの方に目を向けた。

「私よ...久しぶりね」

  すごく、透き通った声。久しぶりに聞いた声だった。

「お...お前は...」



〜屋敷ホール〜

  部屋から戻ってきたソフィアはアドルに向かい口を開いた。

「武器は、俺が預かっておく。なにか必要なものがあったら、言え。じゃーな」

  そして、また行ってしまった。
  アドルの様子を確認してみるが、特に変わったところはない。

「...これから...どうするの...?」
「...しらね...ひとまずはここから離れない方がいいだろ...また、変なことをして、エレナに変なことされたらたまったもんじゃねぇー...」

  そうだろうなと、内心そう思った。
  先程の会話からは感じられなかった[警戒心]がまた、ガブの体へと突き刺さる。

「それに...あいつらとはもう、戦いたくねぇー...」

  顔は眉間に皺を寄せ、本当に嫌なのだろう。  
  怒っているのか怯えているのかわからない顔をしている。
  あの二人は、個々の力は勿論すごい。が、あの二人が本当に怖いのはあの息ぴったりの攻防だろう。
  普段の日常では喧嘩ばっかりで息ぴったりなところなんてめったに見ない。
   だが、戦闘中はなぜかこの二人、どのペアよりも息があるのだ。
  それでも、お互い毛嫌いしているため本当に危険な時でしかチームを組まない。
  実にもったいないとガブは日頃から思っていた。

「...強かったでしょ...あの人たち...でも、普段は普通の人だから...安心して...」
「そうじゃねぇー...」

  アドルは座り直しながら話している。
 ガブも座ろうと思いアドルの隣に移動し座った。

「そうじゃねぇーって...どういうこと?」
「あいつら...特に、胡散臭いやつ...」

  誰のことを指しているのか一瞬でわかってしまうあたり、ガブ自身もそう思っているのだろうと考えてしまう。

「...何を考えてんのか全然読めねぇ〜...」
「でも...あの人たちに...あんだけ怪我を負わせた...君も凄いんじゃない?」
「それは、あいつらが俺を本気で殺す気がなかったからだ...もし、本気で俺を殺そうとしてたら...俺は、ここにはいなかったと思う...」

  先程の戦いを思い出してなのか、少し体を震わせているように見える。

「あの人たちは強いよ...すごく...強いんだ」
「...だろーな...」
「うん...でも、君は...アルカさんが苦手なんだよね?あの人は...戦闘員じゃないから...殺ろうと思えば殺れるんじゃないの?」
「...そうじゃねぇー...あいつは...なんか...違う...」

(ふ〜ん...でも...何となくわかるかもしれない...アルカさんは...僕達とは違うところで戦ってる...そんな気が...する)

「つーか、俺...どこに入れば良いんだよ...」
「ずっと、ここにいるわけにもいかないしね...」
「おう...」

  考えたが、やはりいい案は思い浮かばない。
  仕方が無いなと立ち上がりながら質問する。

「僕の部屋にくる?」

   そう聞くと、アドルは目を少し開いた。

「あ?テメーの部屋?」
「うん...別に...嫌なら無理にとは...言わないけど...」
「俺は、構わねぇーが...いいのか?」
「良くなかったら...言わない...」
「お前って...変なやつだよな」
「お互い様」
「うるせぇー...んじゃ、テメーの部屋に案内しろ」
「偉そうだね...別にいいけど...」

  アドルは立ち上がった後静かに後ろを着いてくる。


ギギギ...

「結構広いのな」
「まぁ...」

  ガブは真っ直ぐ布団に向かって寝転んだ。

「つっかれた...」

(今日はたくさんの事があったな...アルカさん...大丈夫...かな)

「つっかれたじゃなくてよ...俺はどうしたらいいんだよ...」
「その辺にでも寝てれば?」
「テメ...」
「自由にしてればいいよ...」
「あぁ?!」
「あんたは、悪いやつじゃない...だったら、全部人に従う必要はない...」

  体を起こした。

「この部屋から出なければ自由にしてていいよ...僕は...寝るから...」

   そう言うと、ガブは布団を被り眠りに入った。
  アドルはその行動に驚きながらもベットに近ずき本当に寝てんのか確認した。

「おい...って...もう寝てやがるし...」

(何なんだ?こいつは...最初はあんなに、俺のこと警戒してたくせに...今はまるで...俺のこと信用してるみたいな...わけわかんねぇーヤツ)

「くそっ...」

(起きててもなんもやることねぇーじゃねぇーかよ...)

「しゃーね...俺も寝るか...」

  他にやることがないため、仕方なく壁に寄りかかって、眠りについた。

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