チェガン

林檎

謎の少年

〜屋敷内〜
アルカ、ソフィア、ヒュース、カルムが突如として目の前に現れた謎の少年から目をそらさずにじっと見続けていた。

(さっきのソフィアへの攻撃の動きを見ると...半端者ではないことは確かだ...となると...)

  アルカは先程の動き、突然現れた少年、自分たちへ向けての殺気。頭で整理していると隣から冷静な声が聞こえた。

「おい、さっきの動きは見えたか?」

  ソフィアだ。 
  こんな時でもいつもと変わらない口調と声色なのは流石だ。

「あ〜、何となくな。」
「じゃ〜だいたいわかったんじゃない?あいつについて」

  ヒュースが軽く問いかけた。

「そうね...なにかわかったことは無いかしら?」

  みんながアルカに注目する。
だが、流石に情報がないも当然な感じのこの状況。

「そうだな...」

  アルカが今の考えを言おうと思った瞬間[何か]がすごいスピードで突進しようとしていた。

「アルカ!」

ソフィアが声を張り上げた。

「?!やべ?!」

  今度はこっちに攻撃を仕掛けてきた。
  小さなナイフで躊躇なく、首を狙ってきた。

「...ぶね...」

  間一髪。体を後ろにそらし持っていたナイフで軌道を少し逸らしたおかげで切り傷程度で助かった。でも、ソフィアの声がなければ殺されていただろう。

「はぁ〜...だから...俺は戦闘員じゃねぇーんだよ...」

  手を後ろ首に回しながらそう言うと少年を見る。

「これさぁ〜、カルねぇーは逃げてた方がいいんじゃない?流石に無理でしょ?」
「...そうね...私も戦闘員ではないですので、足でまといになりますね。」
「いや、そういう意味で言ったのではなく」

  少しにこやかにヒュースが言っていた。

(今その顔してんのはどうなんだよ)

 呆れながらも、とりあえずこの状況をどうにかしなければ。

「とりあえず、お前は逃げろ、流石にこの状況であいつに『触れる』のは無理だろ?」

  少年の事を警戒しつつソフィアは言った。

「たしかに無理ね...じゃ〜あとは任せるわ。」

  カルムは外へと走って逃げていく。

「なぁ〜、俺は?逃げてもいいか?」
「「ダメに決まってるだろ」」
「だよなぁー 〜、知ってた。」

  泣きそうになりながらも頭の中では少年の事を考えていた。ついでに文句も。

「最低でもあいつの正体がわかるまではここにいろ。お前の『チェガン』が必要だ。」
「この状況で俺に『チェガン』を使わせる気か??俺死ぬぞ」
「死にたきゃ死ねばいい。だが、あいつの情報を俺たちに伝えてからだ」
「...酷くね?まぁ〜、使わなくても何とかしてみせるさ」

(とりあえず...もう少し情報が欲しいな...いきなりすぎてあまり情報を集められなかった...何となく予想は出来るがな)

「...なぁ〜、お前ちょっといいか?」

  二人がアルカを見た。
謎の少年も

「...。」
「お前...一体何者だ?なぜこんなことをする?話しなら聞くぜ?」

  ちょっと偉そうな声で手を広げ言った。

「...お前には関係ない」

  言葉はちゃんと通じるらしい。それなら、会話の中で聞き出せるものがあれば少しは望みはあるだろう。
  そう考えたアルカはこのまま普通に会話を続けようとした。

「いやいや、関係あるだろ?こっちは殺されかけたんだぞ?それで関係ないはないだろ?」

  アルカはおどけた感じの口調で少年を問い詰めようとする。

「お前が一番殺しやすそうだったからそうしたまでだ。」
「答えになってないだろ」
「...。」

  睨みをきかせる少年はいつ向かってきてもおかしくない。
だが、一つだけ。アルカが最初から気になっていることを聞いた。

「なぁ〜お前、エレナちゃんをどうした?」

ぴくっ

「エレナ...だと?」

(反応した。エレナちゃんとなにかあるのか)

「そうだ。エレナちゃんをどこへやった?」

  アルカは少し近づいて質問した。

「お前らにエレナのことを聞く資格なんてない!!」

「「「?!」」」

  すごい殺気が肌にビリビリくる。
さっきまでは何を考えているのか読みにくい顔だったが、今は違う。
  鬼の形相で今にも人を何十人も殺しそうな目をしている。

「まずい?!」
「ちょ!まじかよ」
「あらら〜?まじかよ。」

  三人はいつでも動けるように臨戦態勢になった。

「...エレナの名をお前らが口に出すな!この!!糞が!!」

  すごいスピードでヒュースの方へと行った。
  ナイフがヒュースの首を狙った。が、何度も見てきた動きで目が慣れたのか、それとも読んでいたいのか。少し後ろへ下がり冷静に避けた。
  その後の連続攻撃もヒュースは綺麗に避けているが、途中で壁に追い込まれてしまった。
  そのチャンスを逃がさぬようにか、少年が最後の一撃を喰らわせようとナイフを振り下ろした。いや、振り下ろそうとしたがそれは、少年の横からの拳によって遮られた。
   すんでのところで身軽なのか壁を上手く使い拳を避けた。

「ちっ...避けやがったか。」
「ちゃんと当てろよ!せっかく囮になってやったのに無駄じゃねぇーかよ!」
「そのままお前諸共殺してやろうか悩んでいたのだ。しょうがないだろ」
「なんだとこらぁー!!しょうがねぇーじゃねぇーだろ!!」
「お前ら〜いい加減にしろよ〜カルネェーにチクるぞ?」

「「?!?!」」

  流石にこの状況で喧嘩はするのは肝が据わっているとかではなく、ただのアホだぞ。
  これ以上言い争いをされるのは勘弁だ。

「ちっ」
「それだけは勘弁!!」
「なら、相手に集中しろ。」
「「了解」」

  だが、こいつが狙ったのがヒュースで助かったのかもしれない。
アイツの『チェガン』のおかげで助かったようなもんだからな。
  少年は少しアルカ達を観察しているような目で見ている。
  さっきまで暴走気味に見えたが、戦術はしっかりしているし周りも良く見えていた。
初めての動きではないと直感が言っていた。

(...もしかして...)

「わかったか?こいつの正体」
「だいたいな。まぁ〜まだ仮定だけどな」
「もうわかったのかよ!流石だな!アルカ」
「...そんなキラキラした目で見るな...」

  でも、もし俺の仮定が正しかったらこの人数じゃこっちが不利だ。
殺すことは出来ても、捕獲は難しい。
  せめてあと、もう一人か二人。
戦闘員が欲しいと ところだ。

「どうすればいい?あいつ、殺してもいいか?」
「なんで『守護者』の俺達が人を殺さないといけない?殺すならせめて『ベーゼ』だけにしてくれ」
「...ふん」

  ソフィアは眉間に皺を寄せそっぽを向いた。
  面倒事を何よりも嫌がり極力人とも関わらないようにしていたソフィアにとっては今のこの状況は最悪といっても過言ではないだろう。
  すぐに終わらせたがるのも分かる気がする。

「じゃー、どうするんだ?あいつ」
「そうだな...カルネェーがあいつに連絡してくれていることを願って時間がたつのを待ちますか?」

  少年はまたしても不意にヒュースに向かって殴りかかりに行った。
  どうやら、ヒュースをいち早く倒しに来ているようだ。
  みんな読んでいたからギリギリにはなったものの避けることができた。

「あいつは呼べねぇーだろ...携帯持ってねぇーし...」

  やっぱりかと思い、顎に手を当て考えた。

「しょうがねぇーな...んじゃ、半殺し程度でやめておけ」
「なんでだ?」
「謎が多すぎる...捕獲して調べたい」

  ほとんどこいつの正体はわかったがまだ仮定だ。
  もっと詳しく知るには捕獲する必要がある。

「仮に俺の『チェガン』を使ったとしても流石に情報が少なすぎて役に立たない」
「しっかりしろ、お前が頭使えなくなったらただの馬鹿になるぞ」
「余計なお世話だ!」

  ムッとしたが、今はそれどころではない。

「アルカのでもダメとかお手上げじゃね?」

  ヒュースが不安げなのかどうなのか、眉を少し潜めながらこっちに聞いてきた。

「いや、一応手はある」
「半殺しか?」
「うきうきしながら言わないでくれるかな?ソフィア」
「ふん..」
「んで?その『手』とは?」
「それは...」

  三人にギリギリ聞こえる声で言った。

「まじかよ...」
「それまで耐えきれるかなぁ〜」
「お前らのコンビネーションなら問題ないだろ」
「「おおありだ!」」
「ほらな」

  この二人は日常生活はバラバラだが、戦闘になると何故か誰よりも息ぴったりな動きをする。
  まるで、お互いの頭の中が分かっているように。

「んじゃ、俺はあの二人を連れてくるからあとはお前らの[好きにやれ]」
「「了解だ、この命懸けて全う致します」」

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