チェガン

林檎

エレナともう一人

〜1時間〜
「やっと壁治った〜」
「お前が余計なことをするからだろ...」
「なに!!お前も壁をこわしてただろ!」
「お前がいきなり突っ込んできたからだろう...」
「あんだとーー!!」

壁を直していた2人が一息ついている時でも、口喧嘩していた。
 二人は相当仲が悪いらしい。いつも会う度に喧嘩しているのだろうかと疑問に思った。

「あなた達??」

びくっ...

カルムさんがあの二人のことを呼んだだけで静かになった。

「カルムさんってすごく優しそうだけど怒ると怖いんだね」
「...そう...みたいね...」

エレナと同じ考えだったらしい。
リヒト達は階段に座りながら思ったことがあり聞いてみようと思い口を開いた。

「ね〜エレナ?」
「どうしたの?」
「この家こんなに広いのにこの人達しかいないのかな??」

外から見た感じもそうだけど、中に入ってみて思った。
部屋は何十個...いや、それ以上ありそうで、中央には大きな階段。
廊下は先が見えないほど長い。
こんなに広いのに、この人たちしか人がいないのはどうなんだろうか。

「ん〜どうなんだろう?」

  まぁ〜そうだろう。
  自分と同じ立場のエレナに聞いたところで結果は同じだ。いきなりこんなところに連れてこられ(自分から言い出したことだが)あんな喧嘩見せられと、心がもはや折れそうだ。
  あと、この屋敷も疑問のひとつだ。こんな広い建物。
  なぜ知らないのだろうか。
  ニュースやテレビ番組で特集されててもおかしくないほど大きく立派な屋敷だと思う。
  古い感じがまたいい感じに味を出しているようにも見える。
  それに、こんなに広いのにこの人達しかいないのはどういうことなのだろうか。また、人が増えるのだろうか。疑問は考えれば考えるほど大きくなり宛のない迷宮の中にどんどんハマっていくような感覚だ。

「...あの、カルムさんちょっといいですか?」

  リヒトは、階段の横で二人を見ている(見張っている?)カルムさんに話しかけてみた。
  声に反応したカルムさんは横目でこっちを確認した後、

「どうしたのかしら?」

  顔だけこっちに向けて優しい笑顔で聞いてくれた。

「この家にはこの人達以外人はいないんですか?」
「い〜え、他にも沢山いますよ。今はちょっと用事で出ているだけですわ」

やはりそうだったのか。
  流石に、こんなに広いお屋敷に四人など勿体無い。

「あの...何人くら...」

 ーー何人くらいいるんですか?

  と、聞こうとしたら奥の方からドアが開く音が聴こえた。
  さっき廊下の方へと行った、アルカが帰ってきたようだ。
どうやら、正面玄関の他にも外への扉があるらしい。

「カルねぇー連れてきたよ!」

  カルねぇーって呼んでるんだ。
本当にお姉さんみたいな人なんだなと思った。
  落ち着きあるし優しいし(怒ると怖いけど)大人っぽいところがある。何でも出来る自慢の姉といったところだろうか。

「あら、ありがとう」

カルムさんはアルカの方に歩き出した。
リヒト達も立ち上がりあとを追うようにアルカの方へ歩きだした。
一体、誰を連れてきたんだろうか。

「こっちよ。ガブ」

  リヒト達の方にへ連れてこられているガブと呼ばれた人。髪がすごくふわふわでパーカーとダメージジーンズを履いており、片目が黒くなっている。
優しそうな男の子。

「は...はじめまして」
「はじめまして!」

   エレナとリヒトは前に出て挨拶した。
身長はアルカより少し小さいが、自分達よりは大きい。

「あっと...は...はじめまして...?」

  なんでハテナマークがついてるようにも聞こえたが、これも男性の人と比べると高く可愛らしい話し方をする。

「...。」

  リヒト達の方をじ〜っと見ている。

「...あの...?」
「本当にこの人?もしかして僕間違ってる?」

  いきなり話し出したかと思えばよく分からないことを口にした。

「いや、この人であってるよ」
「あ、アルカさん」

さん付けしてるってことは年下なのだろう。

「こいつらであってる。俺が連れてきたのは。」
「...本当に?」
「本当だ。それに、俺が期待してるのはこっちの女じゃない、その奥のやつだ」
「あ〜...あっちのツインテの子か」

アルカの指さした方にはエレナがいる。すると、ガブはパーカーのポケットに手を入れながらゆっくりとエレナへと近づいていく。

「ね...ねぇ〜どういうことなの?」
「あ?」
「何の話をしているの?」
「あぁ〜...見てればわかる」

  少し笑っているように見える。
さっきのガブと呼ばれていた人は、エレナの近くでさっきと同じようにじ〜
と見ている。

「...あ...あの...?」
「...?!」

  ガブは目を見開いたあと飛び避けるように後ろへ移動した。

「は...なに?...なんなの...」

すごく驚いているように見える。
と、同時に怖がっているのだろう。目は見開いたまま体を震わしている。

「どうした!?」
「何が見えたのですか?」

  二人がガブの行動に驚いて声を上げた。
  嫌な予感がリヒトの中を渦巻いていた。

「あの...」
「近づくな!!」
「え?!」

  アルカが今まで見たことがない、切羽詰まった顔でリヒトを見た。

「近づくなって...エレナは今まで私と一緒にいたのよ?!なんで、いきなり近づくなって...」

  みんな、すごい形相でエレナを見ている。

(なんで...なんでなの...エレナ...)

  不安になりながらエレナの方を見ると、不思議そうな顔をしているが、動揺などはしていない。

  ......エレナ?

  いつもと様子の違うエレナ。
  心配になり近づいた。

「待て!!近づくなと言っただろう!!」

  アルカの声が聞こえたけどそんなの気にしていられない。
  変。
  いつものエレナじゃない。

「エレナ!!」

エレナに触れようと手を伸ばしたがそれはある〈音〉によって遮られた。

パンッ

  何かを発砲したような音に気づきそちらへと視線を向けた。
  地面には穴が空いており、その壁と反対の方には、さっきの喧嘩していた1人、ソフィアさんが拳銃の銃口をこちらに向けていた。
  それに気づいた瞬間、体に冷たい空気が流れてくる感じに襲われ足がすくんでしまった。すると、隣から冷たい声が耳の中に流れてきた。

「リヒトさん、死にたくなければそこから動かない事ね」

ゾクッ

  冷たい声が聞こえたと同時に視線を感じた。
  ソフィアさんがリヒトを睨んでいる。
  拳銃はもう持っていない。どうやら懐にしまったらしい。が、今はそれどころではない。

「し...死にたくなかったらって...」
「今、あなたがそこから動いたらあの子が黙ってないわ。」
「そ...そんなわけ...だって...そこから私まで...結構な距離が...」
「安心しなさい。あの子はこの距離くらいなら一瞬よ」

ーーーなにを言っているの?

  頭が追いつかない。みんなは何をしたいのか、何をしているのかさえ分からなくなってきた。

「お願いだからそこから動かないで。」

  ガブと呼ばれた人に体を抑えられた。と同時に、腕を後ろへ回され、ナイフを首のところへ突きつけられた。

「な...なんでなの...」
  「リヒト...。」

  エレナに名前を呼ばれそちらを向くと、悲しんでいる訳では無い。でも、無表情でリヒトを見ている。

「どういうことか、お願いだから私にも教えて!」
「お前に説明する時間はない。」
「そうね...」

   二人は落ち着きを少し取り戻したようだが、声色はすごく冷たい感じだ。

「今ここであいつを捕らえる!」

ーー捕らえる?

「なんで!エレナが何をしたっていうのよ!」
「黙れ!」

びくっ

「いいから、黙っとけ...」

  今まで見たことのないアルカの顔にこれ以上反論をすることは出来なかった。

「では、お願いね。ソフィア、ヒュース」
「「了解」」

あの二人がエレナに近づいている。

「やめて!!!!!」

どんなに呼びかけても歩みを止めてはくれない。

「い...いや...やめて...」

  何故かエレナは動こうとしない。

「一瞬で終わらせるぞ。」
「当たり前だろ。」

二人が手を出しエレナを掴もうとした。

「やめてーー!!!!」

  リヒトが叫んだ瞬間。
  いきなり目の前が白い光で包まれた。

「しまった!」
「くそ!」

   周りからはすごく焦った声があっちこっちから聞こえた。
目を開くとそこには知らない人が立っていた。
  さっきまでエレナがいたところには、黒い服とマントで包まれ、口元を包帯か何かで隠している。
背はソフィアさんと同じくらいな小柄な男性。

「...え?誰?エレナは?」

と、疑問を持った瞬間、

  黒いマントで身を包んでいる男の子はいきなりソフィアさんへと突っ込んだ。
  間一髪、ソフィアさんが体を少し横へずらしたので切り傷程度ですんだ。
その顔は、咄嗟のことで何が起きたかわからない顔をしている。

「...ちっ、めんどくさい時に来ちまった...」
「はっざまぁ〜だな!」
「...お前ほどめんどくさい奴はこの世のどこにもいなかったな。お前がいる時点で俺は最悪な気分だ」
「だと!ごらぁー!!」

  今にもヒュースがソフィアに飛びかかろうとしている。

「喧嘩をしている場合かよ!」

  アルカがナイフを構え切羽詰まった顔で二人に言い放った。
  この人達はこういう状況は慣れているようで、真っ先にナイフを出したり咄嗟に避けたりと、リヒトはもう何が何だかわからない状態だ。

「ガブ!そいつを安全なところ移動させろ!」
「...!わかった!」

  混乱しているリヒトの手を引いてガブさんが

「走って...」

と、手を引いて走り出した。
何も考えられなくなったリヒトはされるがままガブについて行った。
  最後、エレナ涙を流していた。
  ような気がした。

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