現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.15 高校生、25層

 俺達はその後、25層へ上がってエレベーターで1層まで降りてそのまま帰宅した。
 明日は午前中は特になし、午後から25層で少し狩りをする。

 「ふぅ、今日は割と疲れたな。…精神的に」

 誰もいない部屋で1人つぶやく。
 層とモンスターも不気味で、途中見かけた他のパーティーは罠で壊滅しかけていた。精神的疲労がかなりきている。

 時刻は7時だ。少し遅めだが夕食を取るため、俺は台所へ向かう。
 今日はカレーにしよう、その為の材料も買ってある。
 調理を始めようとした時、近くに置いてあった端末が震えた。ポルターガイストではない。

『今から皆で優人の部屋行くから!』

 勇気からだった。“今から”は文字通り今からか。“皆で”の皆はアストライアだろう。
 …何故?
 何か大事な話をする予定は無かったはずだが。

 「まあ、とりあえずカレー作るか」

 またも1人つぶやき、カレー作り始めた。

 ◇

 カレー作りも終盤に差し掛かっていた時だった。

 ___ピンポーン

 と、チャイムが押される。近くのモニターには玄関前の様子が映し出され、そこには私服になったアストライアの面々がいる。

 「入ってきていいぞ〜」

 俺がモニター越しに声をかけるとドアが開く音とともに、「お邪魔します」と声が聞こえてきた。

 「おお〜、今日はカレーか!」

 勇気が台所へやって来て俺の様子を伺う。
 この部屋(俺の家)は玄関を開けると廊下があり、その途中で台所やトイレ、風呂に繋がるドアがある。
 廊下を抜けると俺のまったりする部屋がある。

 「おう、もう少しで出来るからテレビでも見ててくれ」

 「りょーかい!」

 勇気が自分の部屋だと言わんばかりにリラックスした雰囲気を出してくつろぐ。

 台所からは皆が見渡せる。
 俺の部屋にはほとんど何も無く少し殺風景だが、皆がいると違って見える。

 「綺麗にしてるんですね!」
 「私の部屋と違って何も無いね〜〜」
 「き、緊張するのです…」
 「前にも1度入ったが、全く変わっていないな」
 「自分の部屋だと思ってくつろいでくれっ!」

 それぞれが思った事を口にしている。勇気、お前の部屋じゃないだろ。

 「皆は夕食まだだよな?食べてくか?」

 「わ、いいんですか!頂きます!」

 俺が聞くとなずなが嬉しそうに笑う。他のみんなも食べていくようだ。多めに作っといて良かった。

 「じゃ、もう少し待っててくれ」

 ◇

 「それで、どうして俺の部屋に?」

 カレー食べながら俺は皆に問う。行儀が悪いとか思うかもしれないが高校生の集まりだ、誰も気にしないだろう。

 「そーだった、カレーが美味すぎて忘れるところだったぜ」

 「はいなのです!美味しいのです!」

 「そうですね!美味しいです!」

 話が脱線していくが無理やり戻す。感想は非常に嬉しいのでニヤけそうになっているが。

 「もしかして何かあったのか?」

 「なずながな、アジトが出来る前に1度誰かの家に集まってご飯を食べたいと提案してきたのでな」

 なずながか。何故だろう。

 「迷宮関係以外でももっと仲良くなりたいですし、1度こーゆーのやってみたかったんです。……あと今日はちょっと怖いものを見たので皆で楽しくわいわいしたかったんです…」

 「なるほど、確かにそうだな。皆の親密度を上げるにはいい考えだな」

 なずなの怖いといった事にはあえて触れない。思い出させるのも可哀想だからだ。

 「よし、じゃあ皆!た〜んと食べて言ってくれっ!」

 「だからお前の家じゃないぞ、勇気」

 「あ、そーだった」


 勇気のおかげで笑いがうまれる。
 俺達の距離はかなり縮まっただろう。迷宮を攻略する戦友としてはもちろん、高校生の友人としても。

 俺達はその後、寮が許すギリギリの時間まで一緒にいた。お互いの話をして、ゲームをして、高校生らしい事を沢山した。
 俺は久しぶりに学生らしい遊びが出来て、自分が学生である事を実感し直した。

 ◇

 翌日。
 俺は久しぶりに長時間寝た身体を起こし、ベッドから出た。
 高校生なので飲んではいないし、昨日も10時前には解散していた。
 現在時刻は10時少し前と言ったところだ。

 俺はゆっくりと朝の支度を済ませ、ソファに座った。昼からの25層での狩りにはまだ時間があるので端末でクエストや攻略状況を確認する。

 俺達は明日、25層守護者を攻略しに行く。
 かなり強力らしく、正直少し不安だ。仲間が殺られるなんて事には絶対にさせないが、それでも少し不安だ。

 「おおっ」

 思わず声をあげてしまった。
 25層守護者討伐クエストの報酬が他のと桁が違いすぎるからだ。

 「500万……」

 意図せず声が漏れる。もし仮に明日討伐できたとしたら一人頭10万と少しだ。これはもう高校生が1日で稼げる量を超えている。
 クエストは既に受注されているようで、受注者を確認すると《陽光騎士団》の文字があった。さらに詳しく見ると騎士団のメンバーの他に俺達の名前も確認された。

 本当に挑むのか…。
 今になって実感が湧いてきた。攻略隊と冒険者の混合部隊60人で挑んで負けた相手。自衛隊の特殊部隊が全力で挑んで負けた相手。
 それに学生である俺が挑むのだ。手が震える、いや身体全体が震えている。
 …恐怖からではなく、興奮・楽しみといった感情から。

 「俺も意外ときちんとした冒険者なんだな」

 少し自嘲気味につぶやき、端末を閉じた。
 戦闘用の制服に着替え、武器を確認する。白いプラスチックの様な短剣。魔力を通せば凄まじい強度と切れ味を誇る俺の相棒。
 よし、少し訓練してくるか。
 俺はそう思い、寮を後にした。

 ◇

 ____ザシュッ!

 剣心の刀がブラッキーマウスの上半身と下半身を斬り離した。
 直後、不気味な悲鳴をあげながらブラッキーマウスが光の粒となって消えた。

 今俺達は25層にきている。
 守護者攻略前の肩慣らしのためだ。
 モンスターは24層より強く、数も多い。そして攻略隊や冒険者との遭遇も多くなった。

 ここが最前線だ。やっと、追いついた。


 「今の連携、なかなか良かったですね」

 なずなが嬉しそうに笑っている。俺の目からしてもいい連携だった。

 「あぁ、この調子で頑張ろう」

 俺が言うと皆が「おー!」と言って答えた。

 「…おい、あれ《陽光騎士団》じゃないか?」

 剣心が眉を寄せながら遠くを見ている。
 見ると、廃れた町の大きな通り、守護者のいる部屋の少し前で戦っている集団が見えた。
 ブラッキーマウス2体に対して騎士団は42人いるようだ。明日の守護者戦メンバーだろう。

 「…凄いな」

 勇気がつぶやく。
 陽光騎士団の動きはとても学生のものとは思えなかった。
 前衛が盾で受け、敵の動きが一瞬止まった所に盾の後ろから槍がのびて敵を串刺しにする。
 そこを剣を装備したメンバーが油断なく息の根を止める。
 全員が金色の鎧を付けていて、同じような型にはまった動きをしている。
 あれはまるで本物の騎士団のようだ。

 気付くと俺達はその集団へと足を進めていた。
 近づくにつれリーダーの、三上の声が聞こえてくる。

 「第5パーティーは休憩!次は第6パーティーが戦闘だ!」

 頭の中に染み渡ってくるような綺麗な声だ。
 人を導く才能に溢れているような気がする。

 三上は俺達の存在に気づいたらしく、1度こちらに向かって手を振った。
 俺達は手を振り返すのではなく、会釈をしておく。

 陽光騎士団の第6パーティーがブラッキーマウスを屠った。

 三上は少し自慢げに俺たちの方を見る。
 その顔には「どーだ凄いだろう」と書いてある様にしか見えない。
 …何か無性にイラッとするな。

 「優人、後ろから2体来てるのです」

 凜々花が後ろを警戒しながら知らせる。
 振り返ると少し遠くに2体いる。これは丁度いいな。
 俺は三上の方へと向き直り「見ていてください」と口パクで伝える。

 「よし、次は少し派手に決めるぞ」

 俺がいつもより気合いの入った声で指示をすると、その理由を皆が瞬時に悟りニヤっとした笑みを浮かべる。

 「では…行きますっ!」

 なずなが全員にバフをかける。皆が黄色い光を纏う。
 ブラッキーマウスは黄と青だ。
 青ブラッキーマウスが俺たちに木槍を飛ばしてくる。

 「すぅ……『城壁』っ!!」

 勇気が叫ぶと、勇気の前に赤い光を放つ半透明の壁が出現する。
 これも前衛盾職のスキルの1つらしい。勇気は最近スキルに名前を付け始めた。その方が発動する為のイメージが簡単に定まるらしい。今度真似してみよう。
『城壁』は黄石の障壁とは違い、使用者の目の前にしか出す事が出来ない。形も一定で、『障壁』ほど汎用性が高くない。
 敵の攻撃威力が全て使用者に集中するので、使用者が吹っ飛ばされる危険性がある。『障壁』は割れるだけだが、『城壁』は消えて使用者が吹っ飛ぶのだ。

 勇気が横に長い壁を出現させ、木槍を全て防ぐ。
 直後に剣心と莉奈と俺が前へ出る。壁が絶妙なタイミングで消え、スピードを殺すことなく俺達は敵へと向かう。

 「ア゛ア゛ア゛ア゛! !」

 黄ブラッキーマウスが障壁を発動し、俺達の行く手を阻む。

 「剣心!」

 俺と剣心が目の前に展開していた障壁を破壊する。

 「行け!莉奈!凜々花!」

 俺が叫ぶ。

 「任せるのです!『ブリザード』っ!!」

 凜々花が叫ぶとブラッキーマウス達の周りに強力な吹雪が発生する。
 瞬時に2体のブラッキーマウスが凍りつく。

 「く…らぁ…えぇぇぇ!!!」

 莉奈が今までで1番の気合いとともに高く飛ぶ。
 そして重力に任せて凍り付いた2体のブラッキーマウスの真ん中へと落ちていく。

 「技名は、えーと……そうだ!『流星拳メテオスマッシュ』!!!」

 莉奈が隕石のように、流星の様に地面へと落ちていく。
 重力と赤い光で充分に加速された身体を捻り、拳を地面へと叩きつける。いや、拳で地面を殴り割る。

 ____ドガァァァァン!!!

 凄まじい轟音とともにクレーターが出現する。
 地面が割れ、その上で凍り付いていたブラッキーマウス達も氷片と変わる。

 砂埃がまい、視界を覆う。
 俺が風を生み出して砂埃を飛ばすと、クレーターの真ん中でピースをしている満面の笑みの莉奈が立っていた。

 「技名つけると威力が格段に上がるね!イメージが安定するって凄い!」

 …そういや殴る直前に技名付けてたな。

 「そーだろ?俺もたまには良いことするぜ!」

 勇気がドヤ顔で見つめてくる。…お前、「技名付けた方がカッコイイよな!中二病とか言うなよ!」って言ってたよな。威力向上を狙ってたわけじゃないよな。

 「い、いや〜。君たち凄いね。びっくりしたよ」

 後ろから三上に声をかけられた。
 さっきのは三上へのアピールもあって派手にしたからな。

 「そう言ってもらえて良かったですよ。明日は及ばすながらお手伝いさせて頂きます」

 俺が皮肉っぽく言うと三上は苦笑して「頼りにしてるよ」と言った。

 「じゃあ僕達は行くよ、頑張ってね、アストライアの皆」

 「はい。また明日」

 陽光騎士団が去っていくのを確認した俺達もまた帰ることにした。
 明日は大変な1日になるからな。

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コメント

  • ノベルバユーザー268718

    面白いです

    0
  • ノベルバユーザー268718

    面白いです

    0
  • ノベルバユーザー191004

    面白いです!もっと続きが読みたくなりました!

    1
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