現代社会に冒険者という職業が出来るそうですよ?

Motoki

No.14 恐怖の層、恐怖のネズミ

 金曜。
 俺達はアストライアのメンバーは今、迷宮にいる。
 具体的には23層だ。
 隣には周囲を油断なく警戒しながら歩いているつもりの勇気がいる。俺からするとビビりまくってるようにしか見えないが。

 迷宮21~25層はゴーストタウンの様な所だ。周囲は薄暗く、廃れた町の様だ。
 町と言っても人や動物の姿は見えない。枯れた植物は所々にある。

 「も、もう帰りたいです〜……」

 なずなが泣きそうになっている。凜々花はなずな程では無いが怖がっている。莉奈はむしろ楽しんでいるようだ。

 「まあ確かにこの層のモンスターは不気味ではあるな」

 剣心が周囲を見ながら凜々花に言う。
 …そう、モンスターが怖いのだ。どんなモンスターかって?
 ほら、ちょうどあそこにいる…じゃ…ない…か……。

 「ア゛ア゛ア゛ア゛」

 「「「ひっ」」」

 なずなと凜々花が小さく悲鳴をあげる。…勇気もあげている。

 「いや〜、ここってあれなのかな? 元夢の国なのかな?」

 莉奈が緊張感なくつぶやく。
 モンスターの外見について語ろう。
 まず、全身が黒い。二足歩行だ。人形ではあるが人ではなく、ネズミだ。
 ネズミだが、下半身に衣服を纏っている。衣服の色は赤青緑黄の四種類だ。
 頭には巨大な耳がついている。

 俺達が最初にあったのは赤いパンツ?ズボン?のネズミだった。それを見た俺達の感想は満場一致だった。
『〇ッキーマウスだ!』と。腕をだらしなく体の前でぶらぶらしていて、すこぶる猫背だが。
 〇ッキーマウスは絵で見る分には可愛いが、リアルな生き物として三次元化すると物凄く怖い。

 …最初の一文字は言わないぞ?奴は危険なんだ。例え名前だけでも怖くて言えない。

 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛〜…」

 俺達が固まっていると、奴が動き出した。
 端末によると名前はブラッキーマウスらしい。下半身の衣服によって能力が違うが名前は統一されているらしい。なぜだろうか。
 ブラッキーマウスが急に消えた。今回の〇ッキー…ブラッキーマウスは緑パンツだ。

 「来ないでっ!」

 凜々花が叫びながら俺達を中心に吹雪を広範囲に作り出す。「なのです」がついてない当たり半端ない恐怖なのだろう。

 「ア゛ア゛ッ  ッ!!!」

 上から緑ブラッキーマウスが落ちてくる。どうやって上行ったんだよ。

 「無理無理っ!莉奈ちゃんっ!!」

 なずなが悲鳴をあげて莉奈の名を叫ぶ。
 このままだと俺達の所に落ちてくるからな。

 「…なずなと凜々花を怖がらせないでよねっ!」

 莉奈が真上にドンっと飛ぶ。勢いそのままに拳をブラッキーマウスに繰り出す。

 「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」

 ブラッキーマウスがおぞましい悲鳴をあげて上に飛んでいった。きらんっと音がなって空が光った様に見えた。

 「ありがとう莉奈ちゃ〜ん!!」

 感謝の気持ちを叫びながら莉奈に駆け寄っていく。
 やばい。本当に気持ち悪いな。
 なんでかって、それは駆け寄っていったのが勇気だからだ。

 「ふんっ!」

 莉奈が勇気をぶっ飛ばす。普通なら死にそうな威力だが流石は勇気の防御力だ、生きている。

 「何というか、結構余裕だな。それだけ俺達が強くなっているのだろうが…」

 剣心が微妙な顔をしてつぶやく。確かにそうだ。今だって凜々花と莉奈の二人で倒したようなものだ。

 「余裕が無いよりはマシだろ。油断はしていないし今のところ問題ない」

 「そうだな。優人の言う通りだな。よし、先を急ごう」

 剣心が先頭をきって歩き出す。莉奈と剣心は頼りになる。
 アストライアはこういう不気味な所では戦力がガタ落ちするようだ…。

 ◇

 23層の攻略も終わり、24層ももう少しで攻略が終わる。
 俺達は階段へと足を進めていた。

 「? 何か聞こえるのです」

 凜々花が耳に手を当て周囲を探っている。
 皆には聞こえなかった様だが、俺にも聞こえていた。

 「うわぁぁぁ!!」

 悲鳴だった。男の人の情けない悲鳴。
 俺達は目を合わせると互いに頷き、全員で声のした方へ走る。

 _____カタタタ、カタタタタ

 近づくにつれ乾いた歯切れのいい破裂音。
 これに良く似た音は聞いたことがある。昔、勇気と一緒にやったFPSでだ。

 「……たい…てっ…い…!早く撤退しろ!」

 徐々に鮮明になっていく人の声。
 そして俺達もその状況を視認した。4体のブラッキーマウスに囲まれ、追い詰められている攻略隊の姿を。

 「そん、な。4体も…」

 なずなが走りながら驚愕している。
 迷宮のモンスターは基本的に群れない。その為俺達は比較的安全に迷宮攻略ができる。

 「助けるぞ!」

 剣心が抜刀しながら短く叫ぶ。凜々花と俺は遠距離攻撃魔法の準備をする。

 「攻略隊!動くな!」

 俺が限りなく省略された言葉で攻略隊の動きを止める。下手に動かれると攻撃しにくい。

 「優人は右を頼むのです!」

 「ああ!」

 魔法の射程範囲にブラッキーマウスが入った。
 俺と凜々花は氷槍を出来る限り作り出し、放つ。
 ブラッキーマウスへと撃ち出された氷槍は、しかし青ブラッキーマウスの炎壁と黄ブラッキーマウスの障壁に阻まれた。
 が、数本はそれを突破し敵に飛んでいった。
 ブラッキーマウスはそれを躱すと俺達から距離を取った。

 「大丈夫っすか!?」

 勇気が攻略隊とブラッキーマウスの間に立つ。攻略隊は全部で4人いる。

 「仲間が2人やられた。詳しい事は後で話すが今は助けて欲しい!」

 「もちろんです!」

 なずなが快諾しながら攻略隊を治癒する。致命傷を受けた者は居ないようだったが、それでも歩くのは困難な者もいた。

 「ア゛ア゛」

 赤ブラッキーマウスが動く。治癒をしているなずなを襲う気の様だ。

 「こっちみろって!」

 勇気がスキルで注意を引く。だがそれだと勇気の負担が多すぎる。何せ相手は4体だからな。

 「なずな、勇気に防御力バフを!凜々花、相手を凍らせろ!」

 俺の指示に二人は瞬時に従った。
 凜々花の魔法が発動し、ブラッキーマウスを4体凍らせる。ただ、4体まとめての広範囲な魔法なのでそれほど長くは持たないだろう。

 だが、それでもかなりのチャンスだ。そしてそのチャンスを見逃す程うちの前衛は馬鹿じゃない。

 「らあっ!」「せあっ!」

 莉奈と剣心が拳と刀でそれぞれ1体ずつ屠る。
 光の粒となった2体には目もくれず、次の2体へと向かう。

 「……ア゛ア゛ア゛ッ ッ ッ 」

 剣心と莉奈が攻撃に移るより先に2体が氷縛から逃れる。
 残った2体は黄と赤のパンツをしている。
 近づく2人に2体のブラッキーマウスは驚きの行動に出た。

 まず、黄ブラッキーマウスが2人の前に障壁をはる。当然2人はそれを破ろうとするが、その障壁を破ったのは赤ブラッキーマウスだった。

 障壁の破片が飛び散る。障壁の破片はすぐには消えず数秒は原型を留める。

 「「っ!?」」

 剣心と莉奈が飛んでくる破片に気を取られる。
 瞬間、2人は黄色い鎖によって動きを封じられた。

 「なっ!?」

 莉奈が自分の状況を把握して驚きの声をあげる。
 剣心は刀で何とか鎖を切ろうとしているが思うように刀を振れていない。

 赤ブラッキーマウスが動けなくなった2人を殴り飛ばそうとする。
 その攻撃をギリギリで勇気が受け止める。

 「こっちみろって…言ってんだろ!」

 勇気が再度スキルを使って注意を引く。
 赤ブラッキーマウスが勇気に怒涛の連続打撃を繰り出す。
 勇気はなずなのバフもあって何とか耐えているが時間の問題だ。

 「凜々花、援護頼む」

 「任せてなのです!」

 俺も走り出す。赤ブラッキーマウスを支援しようとする黄ブラッキーマウスに手裏剣を投げ牽制する。
 そのまま短剣を抜き、緑石の力で気配を消す。俺に気付かない赤ブラッキーマウスを横から最大威力で斬り付ける。
 すぐさま赤ブラッキーマウスを黄色い光が包んで回復しようとしたが、急に止まる。
 どうやら凜々花が黄ブラッキーマウスを倒したようだ。

 「はあ!」

 俺が地面と平行に短剣を振るう。赤ブラッキーマウスは避け切れずにその首を根元から切断された。

 2体が光の粒になり消えると、その場に静寂が訪れた。
 俺は攻略隊に話を聞くべく歩み寄ろうとして足下の何かを蹴った。が、見なかった事にする。

 「それで、何故ブラッキーマウスが4体も?」

 俺が攻略隊のパーティーリーダーらしき人物に話を聞くと、悪い偶然が重なった結果だと言った。
 曰く
 攻略隊がブラッキーマウス1体と交戦中、遠くから1人の冒険者が走ってきた。何事かと尋ねようとしたら冒険者が魔法によって殺された。
 慌ててその後ろを見ると2体のブラッキーマウス(黄と赤)がこちらへ走ってきていた。
 3体のブラッキーマウスと交戦する事になったが、魔力銃に使う魔力が枯渇し始めた。
 そこに偶然にも4体目が現れて仲間が2人殺られた。

 という事らしい。
 攻略隊は俺達に感謝の言葉と名刺を渡して去っていった。
 その名刺には「原田爽太はらだそうた」と書かれた名前と連絡先が乗っていた。


 「け、結構危なかったね〜」

 莉奈が剣心に向かって言う。確かに鎖で動きを封じられて殴り飛ばされそうになったのだ。かなり危険な状況だった。

 「次からの教訓になったな」

 2人が今回の戦闘を振り返り、反省しているとなずなが声を掛けてきた。

 「階段がすぐそこにあるようです。25層へ行きましょう」

 「ああ、そうだな。みんな行くぞ」

 俺が皆を呼んで階段を目指して歩き出す。

 _____ゴンっ、ゴロゴロゴロ…。

 「?何か蹴っちゃいまし…バタッ」

 「ちょ、なずな!?どうしたの…わぁ!」

 「ど、どうしたのですか!そこに何があるのですか?」

 なずなが気絶した。莉奈でさえビビった。
 凜々花は“それ”を見えない様に剣心に目隠しされている。

 そこにあったのは、俺が倒した赤ブラッキーマウスの生首だった。
 どうやら俺が綺麗に首を切断したため、首から上がドロップしたようだ。
 目を見開き舌が口からデロンとでた生首は俺達には少々刺激が強すぎた。
 俺と剣心と莉奈は何とか耐えたが、なずなは気絶。凜々花にも見せちゃいけない。
 勇気は立ったまま気絶していた。下半身が濡れているかもしれないが見ないでおく。

 「…莉奈、なずなを頼む。凜々花、絶対振り返るなよ。剣心、勇気を頼む」

 俺の言葉にみんなは文句一つ言わずに従ってくれた。

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