slave sword fighter and a sword of destiny
第27話
飛翔の効果によって一瞬で数十メートル離れた首謀者のいる教会の鐘楼に飛び着地する。
「おのれ、何者だっ! 我らの大義を邪魔するなっ!!」
「貴様らの大義など知ったことか!!」
俺は剣を構える。首謀者は右手に独特の形をしたショートソードよりは短くダガーより大振りな鉈のような武器を構える。
「おりゃああ!!」
「ふっ!!」
俺は横薙ぎにフリツの大剣を振るう。首謀者は後方に跳躍し、隣の家屋の屋根に飛び移る。
俺の一撃は空振りし、鐘楼の鐘にぶつかり、鐘の音が響く。首謀者は空いてる手で投擲用のナイフをこちらに投げてくる。
飛翔の魔法効果が残っている俺は鐘楼から飛び降り飛行する。投げられたナイフは鐘楼の鐘に当たって短い鐘の音が響く。
「はぁああああ!!」
「ちぃっ!!」
飛翔の効果で俺は飛行しながら首謀者へと突撃し剣を振り回す。首謀者は曲芸師のような軽業でバク転、跳躍して俺の攻撃を回避してナイフを投げたり、鉈を振るう。
俺は飛んでくるナイフを剣で打ち払い、鉈の一撃を上昇して回避し、急降下するように上段から剣を振り下ろす。
「ええいっ! カトンボのようにちょこまかと!!」
「リーダーをお助けしろっ!!」
上空からの俺の一撃は回避され、俺と首謀者の戦闘を見ていた襲撃者グループの残党が数人、屋根に飛び乗って襲ってくる。
「ふんっ!!」
「ガッ!?」
飛び乗ってきた襲撃者の一人に向かってフランキスカを投擲する。フランキスカは一直線に襲撃者の一人の顔面に命中し、絶命して転落する。
「そいつを足止めしろっ!!」
首謀者の指示と同時に残りの襲撃者立ちが襲いかかってくる。襲撃者はナイフの二刀流、太陽光のおかげでナイフに毒を塗っているのが分かる。
「せりゃあああ!!」
「ぎゃっ!?」
横薙ぎに一閃、襲いかかってきた襲撃者二人の胴体を上下に分断する。
「そんな大きな剣で大振りすれ……ごっ!?」
俺がフリツの大剣を横薙ぎに振るい、引き戻すまでの隙を狙って襲撃者の一人が攻撃を仕掛けるが、俺はそのまま一回転し裏拳を襲撃者にお見舞いする。
ミスラ製の小手を装備した俺の拳は襲撃者の頭蓋骨即頭部を陥没させ、襲撃者はそのまま屋根から転落する。
俺に襲いかかってきた襲撃者の最後の一人を腰に差したフランキスカを投擲し倒す。
「くそっ! 役に立たん奴らめ!!」
首謀者は仮面で顔を隠しているが忌々しげにこちらを睨んでいる雰囲気が伝わって来る。
「あとはお前だけだな」
俺は剣を向けて一歩一歩首謀者へと近づいていく。首謀者も覚悟を決めたのか、腰からもう一本鉈のような武器を取り出し、二刀流の構えを取る。
「「行くぞっ!」」
異口同音で俺と首謀者が叫ぶと、互いに走り出す。俺は回避しにくい太もも部分を狙って大剣を横薙ぎに剣を振るう。首謀者は跳躍し、上空から二刀の鉈を振り下ろす。
俺は後方へ跳躍して回避する。首謀者はそのまま前かがみのような独特の体勢で身を低く屈めたまま、まるで蛇が獲物へ這い寄るように駆けてくる。
「死ねっ!!」
「くっ!?」
お返しとばかりに首謀者は俺の足首を狙って鉈を振るう。俺は跳躍して回避する。
「獲った!!」
俺の足元を狙った攻撃は囮だったのか、首謀者がそう叫ぶと体全身を伸ばし、俺の心臓目掛けて両手の鉈を突き刺そうとする。
「甘い!!」
「なっ!?」
飛翔の魔法効果によって俺は上空へと上昇し、首謀者の渾身の一撃を回避する。
俺はそのまま回転して姿勢を入れ替えると急降下し、袈裟斬りに首謀者の左肩に剣を振り下ろす。
「ぎゃああああ!!!」
首謀者は悲鳴を上げ、切り裂かれた場所から血しぶきが飛び散る。上体を逸らして回避しようとしたが、致命傷だ。
そう思った瞬間。
「死なば、もろともおおおおおお!!!」
錬金術の火を抱き抱えたまま、王女が乗る馬車に飛び降りようとする。
「させるかああああああ!!!」
飛翔の魔法効果で飛行能力を得ている俺は飛び降りようとする首謀者を抱き抱え上昇する。
帝都ギランの上空で大爆発が起こる。
爆発の直撃を受けた俺は意識を失った。意識を失う瞬間、地上を見下ろすことができ、襲撃者たちは全員討伐され、王女が乗った馬車も無事だったことを確認し、俺は笑った。戦争を回避できたことに、真摯に民を想う王女を守れたことに満足できた。
「太陽神アルテナよ、その太陽の輝きの慈悲をこの英雄に注ぎ給え。パーフェクト・キュア・ウーンズ!!」
そんな声が聞こえた。その声が聞こえたと同時に沈んでいた俺の意識が浮上していき、目を開けると第四王女ウネラの手から太陽のような光りが俺の体を照らし包む。
「絶対に死んではなりません。生きてください」
王女の言葉と同時に傷が癒えていき、体の感覚が戻っていく。そういえば第四王女ウネラは国教でもある太陽神アルテナを信奉する敬虔なクレリックでもあったと聞いていたな。
「感謝する」
俺は起き上がる。周囲で固唾を飲んでいた兵士たちが拍手や歓声が湧き上がる。
「貴方は大きな運命を背負っています。太陽神アルテナ様もあなたがここで果てるべき運命の人ではないから手を差し伸べてくれたのです」
大きな運命ね……そう言われても俺にはいまいちピンと来ない。なにせ俺はただの奴隷上がりの剣闘士だからな。
まあ何より王女が無事で良かった、それに尽きる。
二度の襲撃というトラブルがあったものの、帝国が襲撃者を撃退し、友好大使である第四王女ウネラに被害がなかったことでナブーとの戦争は回避できた。
王女を含む友好大使は無事に帝都ギランの門を出る。帝都の外で待機していたナブー王国の護衛兵達に引継ぎをし、王女の馬車をナブー兵たちが囲み警備は磐石だ。
スペシャルになったとは言え無断で帝都の外には出られない俺は城門で王女たちを見送る。
これで一安心だと思っていたら王女の使いというのが俺の元に。
「王女の命でナブー王国の近衛騎士になって欲しい」
最初は耳を疑った。なにせ俺は一応ダントーイン人、その上奴隷上がりの剣闘士だ。
それが王族の護衛であり顔でもある近衛騎士への取立て……いきなりで驚くが考えてる暇はない。
本来なら近衛騎士は母国の貴族か騎士のみしかなれないはずだ。
最初は何かの冗談かと思ったが、流石に一国の王女がこんな時にそんな冗談を言うはずがない。
「……申し訳ないが、断らせていただく」
王女の使いや周囲にいた見送りの兵士や見物客が驚愕した顔でこちらを見ている。
そりゃそうだろう、近衛騎士といえば騎士の最高峰、場合によっては一代限りかもしれないが貴族爵位も与えられたかもしれないのを断るのだから。
「俺にはこの帝都でやるべきことがある」
普通なら誰かを殺してでもこのチャンスを掴みとるべきだろう。だが俺は王女が言った大いなる運命を背負っているという言葉がなぜか耳から離れない。
ただの奴隷だった俺がフリツと出会い、剣闘士となってこのフリツの剣と出会った。ミナの探し物を見つけたり、メリルの目を治すためのモンスター戦で剣の巨大化、そしてメルの目を治した力。
この剣と出会ったことが大いなる運命を背負うきっかけなら、その運命に添い遂げようと思う。運命の果てに死が待っていたとしても、俺はこの剣と共に切り開き勝ち取っていこう。俺には剣を振るう意外能のない剣闘士だから。
近衛騎士への登用を断った俺は王女たちを見送り、またいつもの生活へと戻った。
          
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