slave sword fighter and a sword of destiny

パクリ田盗作@カクヨムコン3参戦中

第22話



「ついにここまで来たな」


控え室で素振りをしていると闘技場協議進行会の役員が話しかけてくる。
役員の手には挑戦者の杯と呼ばれる鉛で作られた杯をもっていた。


「次の試合はまさか……」
「君はスペシャルに挑戦する権利を得た」


スペシャル……剣闘士の中でもベテラン、花形というスター選手に与えられる剣闘士の称号。
スペシャルになれれば申請は必要だが、ダントーイン帝国内なら自由に移動できる。そして雲の上の存在だと思っていた上層階ヒエラルキへ足を踏み入れる権利を得られる。
スペシャルの中でもスター選手となれば上層階ヒエラルキに邸宅を持つことだって夢ではなく現実となる。


「スペシャルへの挑戦権は闘技場協議進行会幹部の承認が必要だったが、出たのか?」
「これは独り言なんだが……下階層ボトムを根城にしていた人身売買組織が壊滅し、攫われた子供が救出された。その子供の中に幹部役員が可愛がっていた妾の子供が混じっていたそうだ」


なるほど、その幹部役員からの恩返しってとこか。
剣闘士として這い上がってきた俺に訪れた折角のチャンス。無駄にしてなるものか。


闘技場協議進行会の役員が持つ鉛の杯、これには特別な意味がある。
スペシャルに挑戦するなら剣闘士になった時に送られたメダリオンを杯に入れるのが習わし。


俺はもちろん杯にメダリオンをいれた。


ドンドンドンッ。
鳴り物がけたたましく鳴らされ、会場は暑い熱気に包まれる。
歓声が上がり、俺と対戦者は向かい合う。


「さあさあさあっ! みんな心の準備は出来たかな?」


進行役のマミが拡声器のマジックアイテムを観客席に向ける。観客席からは割れんばかりの歓声が上がり、最高潮まで盛り上がっていることが分かる。


「今日のメインイベントっ! スペシャル入りを賭けた大勝負!!」


おおおおおおおっとマミの解説にかぶるように歓声が上がる。


「不屈の剣闘士ギルバード対見定める者っ!!」


見定める者とは正体不明の剣闘士。スペシャル入りをかけた試合に現れる判定人。
その正体は一切不明で剣闘士仲間の噂ではスペシャル入りした剣闘士がランダムに選ばれている説が一番信ぴょう性が高い。
なぜなら見定める者は現れるたびに体格や使用する武器が違う。今回の見定める者は俺と同じぐらいの体格でフルプレートにアーメットを装着し、アウトレイジと呼ばれる俺と同じ形状の大剣を大地に刺して立っていた。


判定方法は不明。勝てなくてもいいらしい。過去に善戦惜しくも負けた剣闘士がスペシャル入りしたこともある。
俺がやることは変わりない、今までと同じだ。相手が誰だろうと俺は戦うまでだ。


「始めっ!!」
「うおおおおおおお!!」


マミの開始の合図とともに俺は駆け出し、上段から斬り下ろす。
見定める者は半歩体を横にして俺の一撃を最小限の動作で回避する。振り下ろされた大剣が地面に激突し、砂を巻き上げる。


「もらった!」


アーメットというただでさえ視界を制限される兜、この巻き上がった砂視界が阻害される。振り下ろした大剣を逆袈裟斬りに振り上げる。


「なにっ!?」
「………」


ガキンッと金属同士がぶつかる音が聞こえる。フルプレートの硬い部分に当たったかと思っていたが、見定める者のアウトレイジで俺の一撃を塞がれていた。


「ちっ……」
「………」


そのまま鍔迫り合いに持ち込まれる。お互いの力が拮抗しているのか押しのけることもできない。


「クソッ!!」
「………」


蹴りを入れて強引に鍔迫り合いを解除して離れる。見極める者は追撃する様子もなく剣を構え直してこちらの攻撃を待っている。
俺はまた駆け出し、袈裟斬り、横薙ぎ、振り下ろし、大剣でできる連撃を繰り返す。見定める者は後方に下がりながら避けたり受けたりと攻撃をいなされてしまう。
攻撃が効かないならと持久戦に持ち込む。相手はフルプレート、全身を覆う金属鎧は防御力は抜群だろうがその分金属の重さが体力を奪うはずだ。


「うおおおおおお!!!」
「ギルバード選手、一気に攻勢に出た! 見定める者は防戦一方だあ!!」


違う、奴は防戦一方じゃない……見定める者はあえて防御に徹している。攻撃できるチャンスは何度かはあったはずだ、だが見定める者はその名前の通り俺がスペシャルとしてふさわしいか見定めているとでも言うのか、防御一辺倒だ。
息が上がる、腕に疲労がたまる、それでも俺は攻撃をやめない。俺は戦って這い上がって勝ち取る。俺はそれ以外に生き方を知らない剣闘士だ。


ガキィィィィィンッ!!



何合目かわからない剣と剣の打ち合い。金属の折れる音と共に刀身が天高く舞う。


「はぁ……はぁ……はぁ……」
「………」


折れたのは見定める者のアウトレイジ。俺の剣はあんなに激しく打ち合ったのにヒビどころか刃こぼれ一つ無い。そして俺の大剣は見定める者の首筋に添えられていた。


「勝者っ! 不屈の剣闘士ギルバード!!!」


おおおおおおおおおおおおおおっっ!!!
マミの勝利宣言とともに俺は大歓声に包まれる。


そして闘技場協議進行会の役員の手から俺はスペシャルへの昇格を認められた書状と鉛の杯からスペシャルの証である黄金のメダリオンを取り出し、観客席に掲げる。


大歓声、祝辞、そして昇格を祝うバラの花びらが闘技場に舞う。
ついにここまで来た……俺はスペシャルの仲間に入り、特別扱いを受ける。
派手な試合前提の組み合わせや多額の賞金。
そして身分が上がることにより上層階ヒエラルキに入ることも許される。


「ついに……ついにここまで登り詰めたのだな……」



昇格試合を終えた翌日、俺は上層階ヒエラルキに足を踏み入れる。


「………」


俺は上層階ヒエラルキのその豪華さに目を奪われる。これが上層階ヒエラルキ
貴族、騎士など上流階級のみ住むことが許される特別な階層、建築物も豪華絢爛、皇帝城、高級住宅層、闘技場、大演劇場、高級商店、魔導研究所、高級ホテル、高級娼館、帝国図書館、帝国大聖堂などダントーイン帝国に住む人々なら死ぬまでに一度は一目見たい有名な建物が軒並み並んでいる上層階ヒエラルキ
上層階ヒエラルキエリアは警備兵ではなく騎士団が巡回しており、治安は下階層ボトムとは雲泥の差だ。


ついにここに足を踏み入れることが許された俺は感慨深い思いに駆られる。
剣闘士として名声を得てこの夢のような階層に足を踏み入れられる権利をた。元は農奴出身の奴隷剣闘士だった俺がだ。


上層階ヒエラルキを歩く人々は豪華な服装に身を包み、コートと呼ばれる綺麗な屋根付きドア馬車が横切る。
見上げれば煌びやかで複雑な装飾の入った屋敷が立ち並ぶ。その一番奥の高台に皇帝が住む白亜の大理石で建てられた皇帝城が聳え立つ。
とても今の俺には似合わない世界だったが、いつかはこの雰囲気にも慣れていくのだろうか。


俺はランクアップ試合で得た賞金を持って防具を新調する。上層階ヒエラルキにある高級商店なら魔法や高級素材で作られた軽くて丈夫な防具が売られているはずだ。


「まさか防具だけで賞金のほとんどが消えるとはな……」


購入したのはブレストプレート。ミスラと呼ばれる蒼い金属で作られた鎧だ。特徴は軽さ。店員が言うにはミスラで作られたブレストプレートは鋼で作られたブレストプレートの十分の一の重さだという。
実際試着し、下手な服より軽いという実感を得た。それだけ軽いのに硬度は鋼以上だ。


スペシャルになった自分へのご褒美と考えておこう。防具をケチって死んでしまっては元も子もない。
大まかなサイズを測り、専門の鍛冶師が製造する手はずとなっている。防具が完成するまでしばらくは試合に出ずにいようか。


毎日のように戦わされていた奴隷剣闘士時代とは違う自由を俺は謳歌していた。

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