slave sword fighter and a sword of destiny
第21話
「さーて、続いての試合は、疾風のオーダメイ選手と不屈の剣闘士ギルバード選手です!」
マミのアナウンスと同時に闘技場の地下からエレベーターと呼ばれるからくりで試合会場へと向かう。
選手双方の姿が試合会場に現れると割れんばかりの歓声が闘技場に響く。俺の方は男性の声援が多く、対戦相手である疾風のオーダメイという選手には女性の黄色い声援が目立つ。
疾風のオーダメイは青い髪の長髪を後ろで纏め整った顔立ちの美青年といった感じの男だ。ブレストプレートに両手剣……疾風という異名がついてることから手数か剣の振りが早いといったところだろうか。
オーダメイは女性たちの声援に応える様子もなく、こちらを見据えている。
「それでは、試合開始です!!」
「行くぞ!!」
「早いっ!?」
マミの試合開始のアナウンスと同時に疾風のオーダメイが駆ける。駆け出したと思った頃にはもう相手の間合いまで距離を詰まれていた。
「はあっ!!」
「つっ!?」
思った通り剣速も早い。特別な素材か魔法で強化されているのかオーダメイの両手剣は見た目よりも軽く、振りが早い。
かろうじて剣で受け止めれたものの、オーダメイは即座に剣を引いて怒涛の連撃を繰り返す。
「おおっとーっ! 早い! 早すぎる!! 疾風のオーダメイの怒涛の連打に不屈の剣闘士ギルバードも防戦一方か!?」
マミの言う通り相手の攻撃が早くて攻撃に移れない。かろうじて致命傷を防ぐぐらいの防御しかできず、徐々にかすり傷が増えていく。
オーダメイを見ればノンブレスで連打を繰り返している。どこかで息が切れて攻撃が緩まる瞬間があるはずだ。今は耐えてそのチャンスを待つしかない。
「ここか!!」
「なっ!?」
チャンスはすぐに訪れた。オーダメイの連撃の速度が徐々に落ちていく。オーダメイが呼吸をしようと口を開けた瞬間剣速が緩む。俺の左腕に付けられたポイントアーマーでオーダメイの剣の腹を殴って逸らさせ、強引にタックルする。
「ごっ!?」
ブレストプレートでも俺のタックルの威力を防ぎきれなかったのか、オーダメイはせっかく吸えた空気を全て肺から吐き出してしまいむせる。
「おらああ!!!」
剣の柄を腰に添えて横薙ぎに剣を振るう。俺の一撃はオーダメイのブレストプレートを破壊し、そのままオーダメイの胴体を両断する。
鮮血と腸がオーダメイの切断された腹部から吹き出し、観客席からは悲鳴が上がる。
「勝者、不屈の剣闘士ギルバード!!!」
マミの宣言によって観客席から大きな歓声が響き渡る。オーダメイを応援していた女性客はオーダメイの死体を見て失神したり、膝から崩れ落ちてむせび泣いていたりしていた。
「ふふふ、最高に良かったわ」
「相変わらず残酷好きだな、お前は」
控え室へと続く通路でマミは興奮を抑えきれないような恍惚とした表情で俺を待っていた。
「だって、血が噴き出す瞬間とか、すっごく滾るんだもん」
そう言ってマミは俺の腕に絡みつき、胸を押し当てていく。
「ねえ、この興奮……沈めさせてくれる?」
その日、俺は定宿であるドラゴンズ・アイに戻ることはなかった。
翌日、朝帰りでドラゴンズ・アイで朝食を取る。ミナが匂いを嗅いで女性の匂いがすると言われたときはドキっとした。ミナに誰とどこで何をしていたかしつこくきかれ、ドランに助けを求めるが、ドランは催し物でも見るような態度で助けに入ることはなかった。
ミナの追求から逃れた俺は下階層で青空教室を開く。
「さんたすろくは……きゅー?」
「正解、よく出来ました」
今日は簡単な計算を中心に教える。計算ができれば店での買物でお釣りを誤魔化されることはない。
子供たちは棒きれで地面に数字を書いて計算をしている。時折大人たちが覗き見て俺の授業内容に耳を傾けたりしている。
子供たちは目を輝かせて計算を覚えて、親に自慢している。
下階層からだっていろんな夢や希望を追えるということを伝えたい。子供たちの可能性を応援できたらいいな。
「誘拐組織?」
「ええ、ここ最近、下階層で起こってる事件でさぁ。旦那は子供たちに額を教えてるでしょう? まあちょいと耳に入れておこうかと思いやしてね、ヒヒヒッ」
スニッフと会った時、非合法な奴隷商人の誘拐組織が下階層で頻繁に活動していると教えてもらった。
下階層は人権なんてないに等しい界隈。誰かが攫われたとしても警備隊は動かないし、上層階からすれば対岸の火事どころか見向きもしない出来事だ。
さらわれた人たちは違法な奴隷として選定され、鉱山奴隷や外見によっては好事家に飼われていく。その奴隷のその後なんて誰も知らない、誰も気にしない。
そんな理不尽な現実に俺は怒りを感じた。
数日は試合がないので俺は宿の手伝い、トレーニング、青空教室をローテーションを組み行っていた。下階層で青空教室を終えたあと、生徒の母親たちと立ち話。
最近子供が行方不明になる事件が多いとか……例の誘拐組織が原因だろうか。
「どうしたの~? 難しい話~?」
「あ、ああ……大人の話だ。リーシャも知らない人について言っちゃダメだよ」
母親たちと話していると生徒の一人リーシャという女の子が声をかけてくる。
俺はぎこちなく笑いながら誘拐されないように気をつけるように言う。
「はーい、先生わっかりましたー!」
リーシャは元気よく返事すると友達のいる方向へとかけていく。
「………」
心配になった俺はゴンドの酒場にあった人身売買組織の調査の仕事を受けることにした。
夜、今回の依頼で一緒になった冒険者たちと夜警に回る。俺の担当区域は下階層だ。奴隷時代に住んでいたことと、青空教室で地元住民から信任を得ていたので下階層に回された。
目撃情報や事件現場周辺を見回る。時間が刻一刻と過ぎ、下階層も人影が少なくなっていく。
「ん?」
見回っていると、こんな遅い時間にリーシャが手に袋を持って走っている姿を見つける。
こんな遅い時間に一人は危ない。俺がリーシャの方に駆け寄ろうとする瞬間。
「んんっ!?」
闇夜に紛れて黒づくめの男たちがリーシャの口を塞ぎ抱き抱えて連れ去ろうとする。
リーシャに意識を集中して駆け寄ろうとしなければ廃屋が死角となってさらわれたことにすら気づけなかっただろう。
俺はダッシュで誘拐犯を追う。誘拐犯達は土地勘があるのか下階層の乱雑に建てられた家屋の隙間や裏通りを走り抜け一軒の廃屋に入り込む。どうやらそこが人身売買組織のアジトのようだ。
「リーシャを返してもらうぞ!!」
「グハァッ!?」
廃屋の扉をぶち抜くように突撃。扉のすぐ近くにいた男は吹き飛んだ扉に巻き込まれて一緒に倒れていた。
「敵襲!!」
廃屋の中にいた黒づくめの男たちがそう叫んで剣や鈍器といった武器を持つ。
男たちの背後にはリーシャや今まで連れ去られた子供たちが縛られ猿轡を噛まされて床に寝転がらされていた。
「ちっ、狭すぎてコイツは使えないな」
背中に背負ったフリツの大剣はここでは振り回せない。予備に買っておいたメイスを右手に持ち構えを取る。
「殺せ!!」
黒づくめのリーダー格と思われる男が指示を飛ばし、残りの男たちが一斉にかかってくる。
「ふんっ!」
「ごがっ!?」
誘拐犯達はあまり集団戦に慣れていないようだ。一斉にかかろうとしてお互いが邪魔になったり、タイミングを読み間違えて武器を振り下ろせずにいる。
俺は手近な男の頭部にメイスを打ち下ろす。武器で防御しようとしたが、武器が鈍らだったのか破壊され、そのまま頭蓋骨を陥没させ目玉が飛び出し倒れこむ。
「しねぇ!!」
「お前がな」
別の黒づくめの男がショートソードを振り上げて攻撃してくる。大振りすぎる上に隙だらけだ。俺はメイスでショートソードを振り上げた男の胸を突く。
メイス越しに胸骨が折れる感触が伝わる。ショートソードを振り上げた男は折れた肋骨が肺に刺さったのか口から血を吹き出し膝をつく。膝をついた黒づくめの男はまるで溺れたように呼吸を繰り返そうとする。俺は膝まづいた男の顔に膝を入れて意識を刈り取る。
「うっ……うわああああ!!」
残り三人……リーダー格含む三人は破れかぶれといった感じで突っ込んでくる。
一人目の腕をメイスで破壊し無力化、二人目はメイスを下から上へ振り上げ顎を砕く。
リーダー格はショートソードで突いてくる。腕を破壊された男を掴んで人盾にして突きを塞ぎ、腕を破壊された男を突き飛ばして巻き込ませるように転倒させる。
転倒した男の顔めがけて体重を乗せて足で踏みつける。その一撃で男は意識を刈り取られた。
「先生っ先生っ……怖かったよぉ……」
人さらい達を排除してリーシャを助けるとリーシャは泣きながら俺に抱きついてくる。
残りの子供たちも助け、廃屋近くにいた下階層の住人に金を握らせて夜警のメンバーを呼ばせにいかせる。
「お母さんが具合が悪くなって……私がお薬貰いに行ったの」
リーシャの母親は病気を患っていた。父親は母親の薬代と生活費を稼ぐために下階層の工場で泊りがけで働いているらしい。
「先生ありがとう! 格好良かったよ!!」
リーシャはそう言って俺の頬にキスしてくれた。
これで片付いたわけではないが、活動拠点は潰した。しばらくはこの手の犯罪も息を潜めるだろう。まずは一安心だ。
          
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