slave sword fighter and a sword of destiny
第20話
「試合が決まったぞ」
メリルの目を治療した翌日、ゴンドの酒場で酒を飲んでいると今晩アリアの仇討試合が組まれたとのこと。
仇討試合ということで大々的に宣伝され、チケットも飛ぶように売れている。進行や客はいい気なものだと愚痴りたくなる。
ついにその時が来た。
第三試合、アリアの仇討試合。
解説のマミが音声拡張のマジックアイテムで父の仇討のために静かなる剣士アリアが残酷の狩人ジム・カーンに挑む。
どこで話を聞いたのか、マミはアリアの父がジムにどうやって殺されたのか観客に解説する。
マミの解説を聞いて観客は今日一番の盛り上がりを見せていた。
観客は剣闘士同士の事情など本当はどうでもいい、ただ試合が盛り上がり興奮を得られたら満足なだけだ。
俺は観客席でアリアの勝利を信じて見守る。
闘技場に二人の剣闘士が足を踏み入れるとビリビリと空気が振動する歓声が観客席から湧き上がる。観客たちの視線はもちろん二人の検討しに注がれている。
「ひっひっひっ……お嬢ちゃん、切り刻まれてひぬ覚悟はできたでしゅかぁ?」
黒いボロを被った緑色の甲殻を持つスリクリーンのジム。発音器官的に共通語は発音しにくいのか所々滑舌が悪い。
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
アリアはジムの挑発に乗らず、冷静に言い返す。
「お前の親ひはよわかったなぁ、ひっひっ、まあわひが強すぎるんかなぁ」
ジムは挑発を続けるがアリアは無言を貫く。
「では試合開始!」
ジムはさらに挑発を続けようとしたが、マミが試合開始を宣言し、中断する。
試合開始と同時に二人は素早い動きで闘技場内を動き回り、アリアは細長い剣を、ジムはカマキリのような鎌を振る。
最初に一撃を与えたのはアリアだ。だがそれはジムの生まれつきの外骨格の鎧にはじかれてしまう。
一見ジムが有利に見えるが、外骨格のせいで可動部分に問題あり、動きが固く有効範囲も制限される。
アリアはジムの稼動区域を見切ってきたのか死角から攻撃を繰り返す。
「グお!?」
アリアの一撃がジムの外骨格を貫き、緑色の体液がジムの傷口から吹き出す。だが、まだ大した傷ではないようだ。ジムは怪我を気にした様子もなくアリアに向かってその鋭い鎌で攻撃を繰り返す。
「あまくみてましゅた。では本気でいきまシュ」
そう言うとジムは体勢を低くして独特の構えを取る。
「………」
アリアはジムから漂う禍々しい気に警戒し距離を取る。
「ハシャアッ!!」
距離をとったアリアを確認すると事務は天高く跳躍し、そして無数の手が生えたような怒涛の連撃がアリアを襲う。
「すっ……すげえ! 早くてまるで何本も手があるようだ!!」
観客の一人がジムの怒涛の連打をそう表現する。
俺にはそうは見えなかった。素早い動きで何本も手が生えているというより、これは……
「セリャーッ!!!」
アリアはジムの怒涛の連打の合間を縫い交わし、剣を円形に振り下ろし、ジムの後ろに通り抜ける。
その瞬間、ジムが纏っていたボロが切り裂かれ……
「おい……あれ……」
先ほど何本も手があると表現した観客が動揺した声を上げる。そのしてきの声に観客もざわめき出す。
「くそ……バレてしまったでしゅ……」
「忌々しい小娘でしゅ」
切り裂かれたボロの中からもう一人のジム……否、別のスリクリーンが隠れていた。ジムは二人で一人のフリをして今ままでアリアと戦っていた。
2対1、明らかな反則行為だ。試合は仕切りなおしかと思っていると……
おおおおおおーっ!!
盛り上がる観客、つまり……観客はこの理不尽な試合に許可を下したのだ。
「くっ!?」
2対1ではさすがのアリアでも手を封じられてしまう。
今はなんとか凌いでいるが、ジムの鋭い鎌がアリアの柔肌を薄く切り裂いていき、血を滲ませていく。
防戦一方、このままではアリアは嬲り殺されてしまう。
俺は無茶と知りつつ観客席を駆け抜ける。
「なんだっ!?」
俺は数メートル上の観客席から闘技場に飛び降りた。鍛えに鍛えた俺にはこんな高さもどうってことない。
「その仇討ち、助太刀する!!」
「ギッ……ギルバード!?」
俺はジムに剣をを向けて高らかに宣言する。
おおおおおおおーっ!!
観客は派手好みだ、闘技場進行も盛り上がる方を好むのは百も承知。
だからわざわざ派手に登場した。
こんな理不尽な試合が許せないというのもある。
「おおっと! 不屈の剣闘士ギルバードがアリアの敵討ちに助太刀だ! これで2対2の試合となった!!」
マミの解説によって2対2の戦いが許可されたことを認識した。観客はマミの解説を聞いてさらにヒートアップする。
「悪いな、勝手させてもらうぜ」
「ありがとう……ギルバード」
お互い微笑み合い、共に剣を構える。
「ヒヒヒヒ……二人ともぶっ殺してやるでしゅよ」
「ずたずたに引き裂いてやるでしゅ」
二匹のジムが飛びかかってくる。俺とアリアは左右に分かれるように飛び退き、二匹のジムもそれぞれ別れて俺とアリアに追撃してくる。
「はしゃああ!!」
「ふんっ!!」
ジムの鎌攻撃を俺は剣の腹で受け止め、押し返す。
「ちっ! 馬鹿力でしゅねっ!」
ジムは剣に押しつぶされる前に後方へと飛ぶ。俺はちらりとアリアの方を見る。
アリアはもう一人のジムの攻撃を匠に回避して可動区域外から攻撃を与えていく。外骨格に阻まれる時もあるが的確に傷を追わせていっている。
「おいっ! あれをやるでしゅよ!」
「わかったでしゅ!!」
俺と対峙していたジムがアリアの攻撃を受けているジムに声をかける。アリアの攻撃を受けていたジムは跳躍すると俺と対峙していたジムの背後に隠れるように重なる。その間にアリアは俺に合流する。
「この技でおまえ達を殺すでしゅ」
ジムが俺とアリアの周囲を走り始める。時折背後に隠れたほうだと思うジムが反対を走ったり、俺たちの頭上を跳躍してフェイントを入れる。
「しねええええ!!」
俺とアリアに向かって二匹のジムは上下から攻撃を仕掛ける。
「アリア、俺の肩を使え!!」
「はいっ!!」
アリアは俺の肩を踏み台にして跳躍し、上空から攻撃しようとしたジムの首を斬る。
「うおおおお!!!」
俺は渾身の力を込めて横薙ぎにフリツの剣を振る。下から攻撃しようとしていたジムは俺の大剣を真面に受けて胴体が上下に分かれて吹き飛ぶ。
「なっ……この技が破られるはずが……!?」
「技に溺れたなジム。その技が一撃必殺だったのはもう一体のお前の存在の秘匿と相手が一人だから成立した技だ」
「私とギルバートさん……2対2の戦いではそれぞれが迎撃すればいいだけです」
ジムはスリクリーン特有の生命力の強さで両断されてもしばらく生きていた。自分の技が破られたことに驚愕するが、俺とアリアが破った理由を説明すると無念と一言残して絶命した。
わあああああああああ!!!
観客席全体から歓声が湧き上がる。アリアの仇討は終わった。
「おつかれさん」
アリアと俺は試合終了後、ゴンドの酒場で祝杯をあげていた。
酒場のマスターであるゴンドが労いの言葉とともにとっておきの酒を開封して振舞ってくれた。
「お世話になりました……情報料を……」
アリアは闘技場で得た賞金からジムの情報を探してくれたゴンドに礼金を払おうとする。だがゴンドは手でアリアを制す。
「今からうちで祝杯だろ? その分だけでいい」
「……はい!」
そして仇討の祝杯を交わす。いつの間にか酒場に立ち寄っただけの客まで話を聞き付けて関係ない客まで仇討成就を祝ってくれる。中には感極まって号泣する人もいた。
こういう時酒場はいい。客は一体化し酒を酌み交わし、みんな仲間兄弟となる。
アリアに笑顔が戻った。出会った当初はずっと気を張り詰め、ジムとの試合が決まるまでも気負いすぎた顔をしていた。
でも彼女は今笑っている。こんなにも美しい笑顔をするのかと俺は見とれていた。
そんなどんちゃん騒ぎの中、アリアが俺の視線に気付いたのか目があった。アリアは微笑み、俺の右手の上に自分の手を添えた。
「改めてありがとう、ギルバード。貴方は私の命の恩人です。父の仇討も果たせました……これでやっと故郷へ帰れます」
「そうか……」
淋しいと思いながらも俺はうんと首を縦に振る。出会いから別れまでが短いがしょうがない。
「幸せになれよ」
俺はアリアの幸せを祈る。
そして次の日の朝早く、アリアは身支度を整えて故郷へ帰る。
「ギルバード、あなたから受けた恩忘れません。貴方が困ってる時は頼ってください。地の果てからでも駆けつけて手助けします」
アリアはそう言うと旅立つ。俺は帝都の城門までアリアを見送る。
できることなら故郷まで送りたかったが、俺はこの帝都から出られない。奴隷から解放されても帝都の外に出ることは許されていない。
いつか俺もこの聳え立つ城門を超えて外の世界へ旅立てる日が来るのだろうか。
          
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