slave sword fighter and a sword of destiny
第14話
宿屋の扉が閉まる。
ドラゴンズアイは他の宿屋と違って深夜営業は行っていない。
そして閉店作業と明日の準備を終えるとミナが料理の特訓を始める。
今現在ドラゴンズアイで料理ができるのはドランのみ。ミナはまだ客に出せるほどではなく、俺は論外……厨房立ち入り禁止になった。
父親の負担を減らすためにとミナは日夜頑張っている。そしてできることならミナの母親の料理の味を再現したいと。
俺は側で手伝い、味見を担当する。
俺はミナの母親の味を知らないので単純に美味しいかまずいとしか言えない。味が再現できているかはミナの幼い記憶とドランの舌だよりだ。
「違う………」
ミナは悔し涙を浮かべながら手を変え品を変え、味を変えて母親の味を再現しようとしてはそう言う。
「明日も仕事があるんだ、今日はこれぐらいにしよう」
「………そうですね………でも………」
ミナはまだ諦めずもう一品作って味を確かめてがっかりした様子で首を横に振る。
「なあ、ミナのお母さん………レシピノートとか遺してないのか?」
「そっそうだ、私なんで気づかなかったんだろう!!」
俺が質問すると天啓を得たようにミナは駆け出す。
宿の家族エリアにある母の部屋へと向かう。
ミナの母親が死んでからは最低限の掃除以外足を踏み入れていなかった部屋。
そこは綺麗に整理整頓された部屋。大きな本棚に本がぎっしり並べられている。
よく見れば呪術的な器具も置いてある。
「私のお母さんね、占い師だったんです。お母さんが生きてた頃は占いと料理が売りだったとか」
ミナはそう言いながら部屋をウロウロする。
「流石にわからないなあ………お母さんの部屋荒らしたくないし………」
勢いよく部屋に来たが一見してレシピ本だと思われる本は見当たらない。
本棚から一冊一冊本を抜いて中身を確認しなければいけないかもしれない。
俺はレシピ本の検討すらつかない。協力したいが力になれないのが悔しい。
ミナの大事な母親の部屋だ。俺も荒らしたくない。
と、そんなことを考えていると。
「え………なにそれ………」
いつの間にか部屋の入口にフリツの大剣があった。
ミナのペンダントを見つけた時のように剣が光っている。
俺が剣を握ると光は更に強くなる。
「ミナ………一緒に握ってくれるか」
「う………うん」
俺は無意識にそう言ってしまう。
ミナは素直に光る剣の柄を握る。
すると………
俺達の心に響く声。
それは優しく温かい声。
「お………お母さんの声だ………」
ミナは微笑み涙を流す。
剣の柄の光が本棚にある一冊の本を照らす。
ミナは恐る恐る光が当たる本に近づき手に取る。本の表紙には私の大切な娘ミナのためにと書かれていた。
悪いと思ったがミナが持つ本を覗き込む。その本にはミナの母親の料理のレシピが事細かに書かれていた。
世界でたった一つのミナだけの、ミナのための母親の愛情が篭った本だ。
その本には一冊の手紙が挟まれていた。宛先はミナ、差出人はミナの母親。
ミナは手紙を読み始める。
俺は無言で部屋を出る。
「………お母さん………うん………わかった………」
ミナは手紙を通して母親と語っている。
家族の記憶がない俺には少しミナが羨ましいな。
「ええっ!?」
少し経って急に大きな声を出すミナ。
「どうしたっ!?」
俺はミナの声に驚いて部屋に入る。
部屋の中は特に代わった様子もなく、ミナも手紙を持っているだけで特に怪我した様子もない。
だがミナは顔を真赤にして手紙と俺を交互に見てる。
「そっ、そんなわけ無いでしょ!!」
「え?」
そのままミナは手紙と本を持って部屋を出ていってしまった。
「いったい………」
俺は何が起こったの変わらず呆然としている。
ミナは明日からこのレシピで母親の料理を練習するらしい。
レシピが書かれた本をぎゅっと抱きしめたミナの表情は優しくて温かいものだった。
今日はまた女戦士との試合。
前回のような試合にならなければいいな。
俺は油断せず試合に挑む。油断すれば敗北、そして死もありえる世界だ。
「それでは、試合開始です!」
………一言で言うと一方的な酷い試合だ。
対戦相手の女戦士の攻撃は遅く、軽く、そして弱い。
「うぐぅっ!」
対戦相手は尻もちをついて転倒する。
実力差のある試合は観客のノリも悪い。
そしていつものアレが始まる。
「殺せー!」
「つまんねーぞー!!」
野次が飛び交い、それを聞いた対戦相手は恐怖に震える。
「たたたたす………助けてっ! 命だけはっ………」
「さーしょっぼい試合だったけど、最後はどーするのー?」
マミも相変わらず勝手だ。
俺は剣を担ぎ闘技場を後にする。
観客席から盛大なブーイング。
「ぶー! ぶー!」
マミもブーイングするが無視する。
この闘技場では勝者が法だ。ならば勝者である俺が殺さないと決めたのだ。
そして控室へと戻った。
試合を終えて宿に戻るとミナが母親の料理を練習していた。
母親のレシピを見つけてからミナはめきめきと料理の腕を上げていた。
「うむ………合格だ」
ドランが味見して合格を告げる。
「やったやったやったーーー!!」
俺とミナは手を取り合って喜び合う。
「ハハハ、これでようやくメニューをもとに戻せるな」
ドランは懐かしそうに微笑み、そして目頭に涙を浮かべて昔使っていたメニュー表を持ってくる。
ミナの母親が生きていた時代のメニュー表。ドランとミナが感慨深くメニュー表を見ている。
気のせいか、ドランとミナの後ろにミナによく似た綺麗な女性の姿が見える。
その女性はこちらに気づくと微笑み深々とお辞儀をすると、その姿が消えた。
ドランとミナは最後までその女性には気づくことはなかった。
「よくやったなミナ、努力こそが自らの道を照らす光、もう一人前だ」
ドランは料理に苦しむミナをあえて手伝わなかった。
それはミナのため、娘が自分の道を切り開くのを見守るため。
「うむ、ギルバードも半人前には認めてやろう。うはははは!」
「は、半人前………道は遠いなあ………」
「良いじゃないですか、ギルバードさんは努力は得意でしょう」
「がんばりまーす」
ドラゴンズアイに笑い声が響く。
奴隷時代には得られなかった安らぎを俺はここで手に入れた。
          
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