デュアルイキ

凜菜

07 先生

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

座っている僕の前に、美味しそうな朝ご飯を並べてくれるコトナ。

「キキちゃん、起こさなくてもいいの?」
「まだ寝かせておくよ」

昨夜、あんなことがあったのに何事もなかったかのように話す僕達。いや、コトナ自身は隠しているのだろう。気まずくなるのが嫌だから。
コトナが作ってくれたご飯を口に運ぶ。

「うん、美味しい。腕上げたね」
「一人暮らしして何年だと思ってるの?」

昔から、よく僕にご飯を作ってくれていた。そんなコトナのご飯が僕は大好きだ。
しかし、どんな思いで昔から僕のために作ってくれていたのかと思うと胸が痛む。
この痛みはきっと一生治らないのだろう。
だからこそ、言わなければならないことがある──。


家を出た僕達は、キキを連れてある人の所へ向かっていた。

「コトナをずっと世話してくれてる人だからね。きっといい人なんだろうな」
「もちろん、いい人に決まってるじゃない。私は先生のこと大好きなんだから」
「ねえイキ、どこ行くの?」
「コトナが薬草の勉強を学ぶために、お世話になってる先生の所に行くんだよ。コトナがいつもお世話になってるから、挨拶に行きたいのとこれから先何が起こるかわからないからね、傷薬を貰いに行くんだ」

どんな先生かも全く知らない。僕はあまり人見知りをするタイプではないが、少し緊張はする。

「というかイキ、どうしてフードなんて被ってるの?」
「ああ、えっと…太陽が苦手で…」
「太陽?苦手な人だったっけ?」
「うん、苦手になったんだよ」

どうも厳しい言い訳だが、なんとか誤魔化すことができた。昔は、コトナと僕の家族しか近くには人が居なかったからフードなんて被る必要はなかったが、こんなに人が多いとなると、確実に正体がばれてしまう。

「着いたわ、ここよ」

コトナの指差す方を見ると、あまり大きくもなく、他の家と何ら変わらない一軒家の様に見えた。

「ここは先生の家でもあるの。先生は薬草を売る仕事をしていて、私はここに薬草を買いに来て、先生から学ぶことになったのよ」

そう言ってドアを開ける。
家の中は喫茶店のようで、机と椅子だけがずらりと並び、薬なんてものはなかった。

「先ずはお客さんの症状や状態を聞くために、この部屋で話を聞くの。先生、来たわよ」

コトナが声を掛けると、奥から女性が出てきた。
少し色黒で、簡単に髪の毛を後ろにまとめ、少しつり目の人だった。外見からは、女らしいというより、サバサバしてそうに見える。

「おお、コトナ来たのか。そっちの人は?」
「私の幼馴染。イキミラよ」
「イキミラ・シノンドワと申します。そして、この子はキキです」

口調からして、やはり女らしいとは言い難かった。
僕の顔をじーっと見た後、ニッと笑みを浮かべた。

「イキミラか。私はアリバミ・コナルシー。よろしくな」
「よろしくお願いします」
「イキはね、お兄さんを探して旅をしてるのよ」
「へえ、そうなのか」
「はい、この人なんですけど…」

僕はボンサックの中から一枚の写真を取り出す。
写真の中の兄の顔をじーっと見ると、口を開いた。

「この人…見たことあるような気がする」
「本当ですか!?」
「ああ。確か、私がバリアサドに行った時に仲良くなった奴だ。そいつもたまたまバリアサドに来ていたらしくてな、確か……ドゲガシムに住んでるとか行ってたな。」
「ドゲガシム……。聞いたことない所だ…」
「私も行ったことはないが、確か、ここから北に738Mメロ行った所だったと思う」
「ありがとうございます!!」
「良かったね、イキ」

コトナも自分のことであるかのように喜んでくれていた。

「うん、今まで全く手掛かりがなかったのに、こうも簡単に知ることができるなんて思ってもなかったよ」

信じられなかった。まるで夢のようで。一刻も早くドゲガシムに行きたかった。

「先生、イキ、傷にいい薬草が欲しいんですって。何かいいのあるかな?」
「それならいい薬があるよ。ついてきな」

奥に進むと扉があり、開けるとそこには沢山の薬がずらりと並んでいた。

「凄い…こんなに薬が…」
「世界中から取り寄せてるんだ。ここにないものは本当に珍しいものか、違法のものだけだ。それで、傷薬が欲しいんだったな」
「はい」
「それならこれがいい」

そう言って手にしたものは、鮮やかな赤色をした手のひらサイズの草だった。

「これはオビヤ草と言ってな、すり潰して傷口に塗ると傷が消えていくんだ」
「傷が消える?」
「信じてない顔だな。いいだろう、見せてやる。コトナ、すり潰す道具持ってこい」
「わかった」

コトナが出ていこうとすると、コナルシーさんはこう付け加えた。

「ああ、後その子も連れていけ」

その子とは、キキのことだ。

「どうして?」
「良いから連れていけ」

不思議そうにしているコトナだが、言われた通りにキキも部屋を出て行った。

「さて…と。私は、どうしてもお前と二人きりになりたかった」
「どうしてですか?」

少し間を開けると、ゆっくりと口を開いた。

「お前、デュアルだろう」
「えっ…なっ……」

唐突な言葉に驚きを隠せず、口をぱくぱくさせる。

「隠さなくてもいい。別に私はデュアルなど怖くない」
「あの…どうして僕がデュアルだってこと……」
「銀色の髪をしていて、お前は何だか謎の空気が漂っている気がする。デュアルは写真でしか見たことがないが、お前はデュアルに違いないと、私が確信している。違うか?」
「……確かに、僕はデュアルです…」

この人に対しては、何故か嘘をつくことができなかった。

「やはりな。コトナはこのこと知っているのか?」
「いえ…知りません」

僕は目を逸らす。

「そうか…。コトナもデュアルの存在は知っているだろう。コトナがデュアルのことをどう思っているのかは知らないが、ずっと隠し通せるものじゃないぞ」
「わかってます。わかってるんですけど…生まれてからずっと傍にいた人なんです。だから、僕の正体を知ってしまうとどういう反応をされるのか……。今まで、色んな人に恐怖で怯えた顔をされてきました。大切な人だからこそ、言うのが怖いんです…」

うつ向き、拳を震わせる。

「その気持ちはわかるが、お前の知っているコトナはどんな奴だ?お前の正体を知って、怖がるような奴なのか?今までお前達が築き上げてきた絆というものは、その程度のものだったのか?」
「違います!僕達はずっと一緒で、家族同然の関係なんです」

顔を上げ、真っ直ぐコナルシーさんの顔を見る。
僕達が今まで築き上げてきた絆はそんなものだったのだと、思われたくない。何故なら、そうではないから。

「だったら、コトナを信じてやったらどうなんだ」

僕とコトナの関係は強い絆で結ばれている。その事実は変わりないが、そんなこと、思ったこともなかった。ずっと、僕の正体を知ると誰しもが恐怖で震えていた。それは、コトナだって同じだと思っていた。
"コトナを信じる"
その言葉は、とても大切のようなものに感じた。
彼女のために。自分自身のために。

「先生、これでいい?」

コトナは扉を開け、すり道具を持ってきた。

「ああ、ありがとう」

コナルシーさんはすり道具を前に置き、オビヤ草をすり潰す。すり潰し終えると、草だったものがドロドロの液状へと変化した。そして、コナルシーさん自身の指に刃物で軽く切り目を入れる。その傷口に液状にしたオビヤ草を塗ると、みるみる傷口が塞がっていった。

「す、凄い!本当に傷が消えた!」
「だから言っただろう?どうだい、コトナの幼馴染だから、安くするよ?」
「はい、お願いします!」

こんなに簡単に傷が消える薬があるなんて、知らなかった。まだまだ知らないことだらけだ。

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