平凡な生活を送るはずが異世界転移に巻き込まれてしまった

零羅

良き奴隷商人と秘密の力

奴隷商の中はかなり綺麗であった。
どれくらい綺麗かと言うと日本の一般家庭のリビング並である。
やはり公式な奴隷商は奴隷の衛生管理にもちゃんと気遣っているのだろう。
「いらっしゃいませ、ライン奴隷商へようこそ」
目の前の男性が声をかけてきた。
男性の風貌はよくアニメなどで見かけるお嬢様の付き人をしている執事みたいである。
そしてこの奴隷商には奴隷を除き、ひとりの気配しかない。
おそらく奴隷を扱う以上信用のおける人でないと雇えないのだろう。
それなら自分でやった方がいいってところか。
「本日はどのような奴隷をお探しで?」
どのような奴隷か、ハッキリ言って誰でもいい。
ただ、さっきから面白そうなのがひとり俺のセンサーに引っかかっているのだ。
「リリスという名の少女を見てみたい」
そう言うと、男性は驚愕した。
「確かに居りますが、よく分かりましたね。ただし、彼女は奴隷になる前から身体の欠如が酷く、神官の神聖魔法ですら回復出来ませんでした。諦めた方がよろしいかと」
男性は俺に買わないことを勧めてきた。
神聖魔法でさえ治せない傷を負った奴隷を買うやつは普通いないだろう。だが、
「いや、大丈夫だ。幾らだ?」
俺は値段を聞いた。
さっきの討伐分があるのでどんな高値でも購入できる。
「いえ、代金はいただきません。彼女は本来生きていても地獄でしかない状態です。しかし、お客様はそれでも買うおつもり。何かしらの方法で治療ができるのでしょう。彼女もあなたに購入されるのが本望に違いない。ですから代金は必要ありません」
驚いた、この店員すごくいい人だ。
タダで貰うというのは気が引けるがこのひとがわざわざ気を利かせたのだ。その気持ちを素直に受け取っておこう。
「すまないな」
「いえ、奴隷商としては、お客様のような方に安心して奴隷を渡せるということは嬉しいことなので」
やはり、大抵の人はゲスい目的で買いに来るのだろう。
重罪奴隷ならまだしもその他の奴隷は人権が守られて当然だ。
やはりこの世界には人権という言葉はないのだろう。
「彼女は今、非常に危ない状態です。出来るのでしたらここで彼女を治していただきたい。私に現場を見せられないというのなら私は別室にいますので......」
俺が本当に少女を治してあげれられるのか気になるのだろう。
「......外で待ってるならいいぞ。すぐに彼女を連れてきてくれ」
「ありがとうございます。では、少しお待ちください」
男性はそういうと出ていったが、すぐに少女を背負い戻ってきた。
背負われている少女の状態はとても酷い。
先程ステータスを見たとき残り体力がかなり少ない状態で下手したらすぐに死んでしまうくらいだったのだ。
それに四肢が一つもなく、眼球も片方を失っている。
男性は一刻も早く助けて欲しいのか何も言わずにすぐ部屋から出ていった。
「それじゃあ、ちゃちゃっと終わらせますかね。幸いこいつは気絶してるし俺の力を見られることもないだろ」
俺は少女に手を翳した。
「『神格蘇生(ヘブンルヴニール)』」
魔法の発動と同時にこの部屋は白く染まった。

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