平凡な生活を送るはずが異世界転移に巻き込まれてしまった

零羅

崩れゆく平凡と異世界

   俺、神無木 零人は平凡をこよなく愛していた。
   過去に色々と非凡な日々を過ごしたことで変わらない日々の有り難みをよく知ったのだ。
   これからは当たり前のようにこの日常を謳歌できるのだと思っていた…………
   すぐにその日常に終わりがくるとも知らずに。
 

「今日から学校かぁ」
    俺は憂鬱気にそう呟いた。
    今日は月曜日なのだ。学生諸君には分かるだろう、休日だらけていたために余計学校に行きたくないと思ってしまうこの気持ちを。
   ぼやいていても仕方が無いと気持ちを切り替え、用意を済ませると学校へ向かった。
   そうして何事もなく学校に着き、教室へ入るといつものようにたくさんの視線を浴びる。
   まぁ、その原因は俺の格好のせいだろう。今の俺は伊達眼鏡に伸びた前髪、マスクという地味シリーズを揃えていて、余計に目立っている。
しかし、その視線を全て無視して自分の席につくと、いつものようにラノベに意識を傾ける。
誰とも会話をせずに本を読む理由は…………察してくれ。
俺だって好きでぼっちをしている訳では無い。
確かに独りが好きだし、本を読んでいるときに話しかけられるとイラッとするときだってある。いや、あった。
しかし、それでも友達は欲しいのだ。
何回か自分から声をかけようとしたことはある。
だけど何故か皆慌てふためいて逃げていくのだ。
そんなこんなで高校生になってからは自分から話しかけるのはやめた。傷つくし。
………別に悲しくはないぞ、ホントだよ?
ラノベを半分ほど読んだあたりで担任の先生が教室へ入ってきた。
「今日は特に連絡はない、1限目の化学は理科室であるそうだから移動していいぞ。あと、クラス委員の高崎と黒百合は文化祭のことでちょっと話があるから授業前に職員室に来てくれ」
そういうと先生は教室を出ていった。
さっき先生が言った高崎と黒百合はこの学校ではそこそこの知名度である。
別に生徒会役員とかではない。
単にハイスペックな存在なのだ。
高崎って呼ばれた男の本名は高崎 仁。
スポーツ万能、成績優秀、容姿端麗という三代要素を兼ね揃えたまさにアニメの主人公のような存在である。そしてさらには誰にでも優しいという女の理想を叶えた感じのやつだ。
噂では、かなりモテていて、去年は1日に3回は告白を受けたとか。
アイツ以上のイケメンとかこの学校に居ないだろってくらいのイケメンである。
そして、もう一人の黒百合と呼ばれた女子の名前は黒百合 聖。
艶やかな黒髪、クリっとしたつぶらな瞳、くっきりとした二重まぶた、整った顔立ちに、薄いピンク色をした口元。少し幼い感じの顔立ちに反して責任感のあるまさにパーフェクトガールである。こちらも完璧人間三代要素を兼ね揃えている。
このふたりだけで世界は平等でないことを証明できるのではないかとすら思う。
高崎にしても黒百合にしても浮ついた話はない。
高崎はいかにもそういうのには興味無さげで黒百合には好きな人がいるとかいないとか。
その相手が高崎だったらそれこそあいつは物語の主人公だな。お似合いのカップルな気もするがな。
黒百合のことを考えていたからか、アイツの方を見ると目が合った......が、すぐに逸らさせた。悲しいかな......
そんなことを考えているとクラスメイトの焦った声が聞こえた。
「おい、教室の扉が開かねぇ!!」
(誰かの悪戯か?いや、鍵は内側にあるから違うか)
閉じ込められた原因を考えていると懐かしい嫌な感覚が蘇った。
(おいおいおい、マジかよ。じゃあ扉が開かないのって…………)
突然教室が光に包まれた。
光のなくなった教室の中には誰一人としていなかった。


光がなくなり視界が元に戻ると先程迄いた教室とは随分異なる景色が広がっていた。
そこには一言で言うとドラ〇エの城みたいな光景があった。…………魔王城じゃないからね?
俺達がいるのは儀式の間みたいな丸い広場である。
俺を除くクラス全員が戸惑っていると王女?らしき人が階段から降りてきた。
「ようこそガイスト王国へ、勇者の皆様」
勇者ねぇ……やっぱり異世界召喚に巻き込まれたか。
いっときすると皆もどんどん落ち着いてきたのか騒がしかった場が静かになった。
すると、ひとりが前に出て王女らしき人に質問した。
「あの、よく状況が飲み込めないんですが」
誰かと思えば高崎である。
「あっ、すいません。実は……(話が長かったので省略)」
長々と話を聞いて分かったことは、まず彼女はやはり王女だった。名前をラフィーネ・プリエールというらしい。そしてここはガイスト王国といい、魔法大国であるとか。他にも大国はいくつかあり、完全実力主義大国のドラッヘ王国。魔工学で栄えているツヴェルク王国。エルフや獣人の国サントール王国。魔族の国レヴィナント魔王国などがあるそうだ。
そして、俺達が呼ばれた理由だが、やはり魔王国が原因らしい。
魔族はとても残忍で魔王国とは昔から対立していて、今は緊迫した状態なんだそうだ。
だが、話を聞いていると「~らしい」とばかり言っていて正直信用ならない。
「一気に話をしましたので分からないこともあるでしょう。聞きたいことがあれば謁見のあと聞いてください」
「謁見?」
高崎がラフィーネ王女の言葉に反応した。
「はい、皆様には父上、いえ国王と会ってもらいたいのです」
そういうと、俺たちを儀式の間みたいな部屋から巨大な扉の前まで案内してくれた。
「ここが謁見の間です。では、入ってください。父上が待っております」
中に入るといかにもファンタジーって感じの空間だった。
すると正面に座る王様風の人がいた。
「君らが勇者か、わたしはこの国の国王であるロワレ・プリエールという。まずこちらの都合で誘拐紛いのことをしたことを謝罪する、本当にすまない」
そう謝った国王陛下は玉座に座り、王冠と豪華な服、立派な顎鬚の持ち主でthe・王様って感じだ。
「それで、さっきラフィーネからある程度のことは聞いただろうが今の段階で何か聞きたいことはあるか?」
高崎が手を挙げた。
「僕達は今まで平和な世界で生きていたので全く戦えないのですが......」
「それについては問題ない。説明するより見たほうがはやいだろう。『ステータスオープン』と唱えてみてくれ」
『『『『『ステータスオープン』』』』』
そう唱えると皆のステータスが見えるようになった。皆強かったのだろう。すごく喜んでいる。ただ、何を基準に強いと思ったのだろうか。
「皆ステータスを見れたと思うが本来そのステータスは熟練した戦士相当のものだ。勇者召喚で呼ばれたものはそれをレベル1の段階で有しているのだ」
「なるほど......だから僕達に戦ってほしいわけですね。分かりました。......皆、僕はこの国の人たちを救いたい。だから魔族と戦おうと思う。みんなはどうだろう」
皆、自分の強さに『自惚れている』ためか、すぐに肯定した。(俺も目立ちたくないから一応肯定しておいた)
それにしても詰めが甘い。帰還方法を聞かないとか馬鹿だろ。
「本当か!なんとお礼を言っていいのやら」
「いえ、自分たちで決めたことですから」
「ほんとにありがとう。こちらも全面的にバックアップしよう。皆の訓練や武器等の供給、あと食事や部屋を用意している。まずは部屋にいってみるといい」
そうして1度解散し、それぞれの部屋へと向かった。

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