能力しかないこの世界で

卯月色

鈍足の目

「…ぶない!」
「え……どうしたん……おい!」
「おれの……目は……特殊……何度も……」
「おい……おい!」
「いま……あり……」
何を言っているのかよく聞き取れない声である男2人が話をしている。1人は血まみれで倒れており、もう1人はその血まみれの男を抱きかかえている。そして血まみれの男は手をぐったりと倒し、動かなくなってしまった。そんな景色を和斗は遠くから眺めていた。ものすごく遠いはずなのにとても良く見える不思議な光景だった。和斗はこの人物が誰か分からなかった。そしてここにいる世界もどこか分からなかった。
   少し前和斗は牙刀によって重い一撃を浴びせられていた。そしてその時次第に意識が薄れていた記憶があった。そのあとは何故かこの場所にいた。目の前の出来事に和斗は何も動かなかった。いや、動けなかった。まるで金縛りに会ったように動けなかった。だが、和斗は抱きかかえている方の男の顔が一瞬だが見えてしまった。和斗はその顔を見てしばらく考えることすら放棄していた。なぜならその顔は和斗自身であったから。
   そんな出来事を和斗が見ている間にも国次と牙刀の戦いは終わってなかった。
「和斗…!?」
「む…狂ったか…まあ良い。どちらにしても同じ事だ。」
「…今…お前狂ったって言ったか?…和斗の行動のどこが…狂っているんだ!!」
国次は怒りによって自分の力のコントロールが上手くいって無かった。そのため国次の速さもいつも以上の速さになっていた。国次の急な蹴りに不意をつかれた牙刀は思いっきり飛ばされていた。
「くそ!何なんだこの速さ!」
「ようやく冷静でいられなくなったようだな…俺もお前も。そうだよな、これは殺し合いなんだよな。手加減とか今後の事とか考えるアホみたいだよな。」
「くっ…!」
牙刀は再び防御の構えをとる。国次は牙刀に足による連撃を浴びせるが、効果は今ひとつ。その後に国次は少し距離を置き、助走による加速をつけて蹴りをいれた。流石の牙刀もこれには身体を押され、奥にあった岩ごとトンネルの外に出された。だが牙刀は傷一つない状態だった。
「…!?いない!国次はどこだ!」
牙刀が攻撃に耐えよく見ると国次の姿が見えなかった。
「こっちだああああああ!!!!」
牙刀が声のする空を見上げると天高く国次が飛んでいた。そしてそこから思いっきりかかと落としをした。

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