とある素人の完全駄作

もやし人間

11話 もう一度!!

「え......?、智也......君?」
絶対的な破壊力で幻想猛獣AIMバーストを追い込んだ、心強い味方。その前田が、全身から血を流して倒れていた。
「智也君!!」
慌てて駆け寄る美琴みこと
「智也君!? ねぇ、ねぇってば!!」
前田の横にひざまづき、その体に触れる。
(何これ......傷が深すぎる!! ウソ、なんで......)
混乱する美琴。そんな彼女の脳裏に、前田の言葉がよぎる。
『この能力には、3つの致命的な欠点がーーー』 
絶対支配ドミネーターの欠点。それは、「コントロールが難しい・コントロールを誤った時のダメージが大きい・上手くコントロール出来ても消耗が激しい」
つまり、普通に使っていてもダメージを受けるのだ。
しかも、フル加速アクセルは負担が大きいから1分しか使えず、更に3分休まなければならない。そんな技を別の技と組み合わせて強引に強化したのだ。制限時間タイムリミットは1分どころか、30秒もないだろう。その状態で、前田は更に能力を全解放して大技を放ったのだ。下手をすれば美琴の超電磁砲レールガンさえをも超越するような必殺の大技を。どれだけの負担が体にかかるか、その結果、どれほどの傷を負うか、想像にかたくない。
それでも彼は、そのチカラを躊躇ちゅうちょなく使った。
劣勢の美琴を、時間に追われる初春ういはるを、そして、倒れた佐天さてんを助けるために。
友達のために。
「バカッッッ!!!!!!」
思わず叫ぶ美琴。しかし、前田はピクリとも反応しない。
「こんなっ、こんなトコで死んだりなんかしたら、佐天さんがどれだけ悲しむと思ってるの!? 佐天さんの事、大切なんでしょ!? 佐天さんのためにチカラを使っても、そのせいで佐天さんが悲しむ事は考えなかったの!?」
なおも声を張り上げるが、やはり前田は動かない。
幻想猛獣AIMバーストが再生を終える。だが、美琴はそんな事にも気付かない。そんな余裕などない。
目の前で、友達が死にひんしているのだから。
(っ!、どうすれば......!)
ビュルッッ!!と、怪物の触手が美琴を捕らえる。
「っの......鬱陶うっとうしいわね!!!!」
叫ぶと共に雷撃の槍を放つ。美琴を攻撃しようと迫っていた、別の触手を断ち切る。
(攻撃しても、すぐに再生するんじゃ......あれ?)
美琴の頭に疑問が浮かぶ。怪物の触手が煙を上げて千切ちぎれたままなのだ。
(再生しない!? なんで......)
その時、美琴は気付いた。学園都市中に奇妙な音楽が流れている事に。
(この曲......治療ちりょうプログラム! 初春さんやったんだ!!)
それならば、あとは簡単だ。
倒せばいい。
叫び続ける幻想猛獣AIMバーストに向かって、学園都市第3位は言葉を放つ。
「悪いわね......これでゲームオーバーよ!!」
圧倒的な破壊の電撃が、幻想猛獣AIMバーストを襲う。ひときわ大きな絶叫ののち、怪物が地に沈む。
解放されるや否や、美琴は前田に駆け寄ろうとする。
「智也く
「油断するな!! まだ終わっていない!!」
横合いから、木山きやまの叫びが響く。
「なっ、アンタなんでこんな所に......!?」
美琴の叫びは、再び途切れる。
理由は簡単。


幻想猛獣AIMバーストが、起き上がったからだ。


「なっ! なんで!? 倒したはずじゃ......!?」
「ヤツは一万人の子供たちの思念のかたまりだ。普通の生物の常識は通じない!」
美琴は木山の言葉に愕然がくぜんとする。
「そんな......じゃあどうすればいいってのよ!?」
答えはすぐに返ってきた。
「核が!、......力場りきばを固定する核のような物が、どこかにあるはずだ......それを破壊すれば......!」
その時。
この場にいるはずのない少女の声が響いた。


『なんだかな......』


美琴はハッとした。聞き間違えるはずがない。その声は、彼女の友達のそれだ。
「佐天さん?」


無能力者レベル0って、欠陥品けっかんひん
『だと思ってやがる』
『のが許せない』
『駄目だって』
無能力者レベル0だからって』
佐天だけではない。彼女の声に続き、複数の人間の声が聞こえる。
「これは......」
驚きの声を上げる木山。
そう。これは、
幻想御手レベルアッパー使用者たちの、心の声だ。
『毎日が、どれだけみじめか』
『あなたには、分からないでしょうけど』
『その期待が、重い時もあるんですよ』
最後の言葉は、佐天のものだった。それらを静かに聞いた美琴は、意を決して、木山に一言。
「下がって。巻き込まれるわよ」
「構うものか。私にはあれを生み出した責任が
「アンタが良くても、アンタの教え子はどうすんの」
ハッとした表情になる木山。彼女が幻想御手レベルアッパーの事件を起こしたのは、とある科学者、木原幻生きはらげんせいに人体実験のモルモットにされ、今なお眠り続けている教え子たちを救うためだ。彼女は、「学園都市の全てを敵に回しても、止めるわけにはいかない」と、そう美琴に宣言したのだ。
快復かいふくした時、あの子たちが見たいのは、アンタの顔じゃないの?」
美琴の言葉が、木山の心に刺さる。
「こんなやり方しないなら、私も協力する。そんな簡単に諦めないで」
美琴の優しさが、木山の心に染み入る。
その時。
幻想猛獣AIMバーストの触手が、またも美琴に襲いかかる。
それに気付く木山。
しかし美琴が、
「あとね......」
そう続けた、次の瞬間。




ズヴァヂィィィィ!!!! と。まばゆい程の閃光と共に電撃が触手を迎撃げいげきする。その圧力に木山が圧倒される中、御坂みさか美琴みことは、
「あいつに巻き込まれるんじゃない」
学園都市最強の発電系能力者エレクトロマスターは、宣言する。


「私が巻き込んじゃうって、言ってんのよ!!」
言い終えると同時に、『雷撃の槍』を放つ。
直撃。いや、防がれている。
一度美琴と戦った木山は、その理由を見抜いた。
(あれは、私が使用していたものと同じ誘電力場ゆうでんりきば。やはり、彼女の能力チカラでは......)
そう思った矢先だった。


美琴の放つ雷撃の槍が、激しくなったのは。
電撃を防いでいるはずの怪物の巨体に、ダメージが入る。それも一時的なものではない。少しずつ、巨体が削れていく。黒ずんでいく。
(っ!電撃は、直撃していない......だが、無理矢理ねじ込んだ電気抵抗の熱で、体の表面が消し飛んでいく......! 私と戦った時のあれは、全力ではなかったのか......!?)
驚きを隠せない木山。彼女の視線の先で、ふと、美琴が動いた。何かを見て、その目を見開き、何かに驚いている。その視線を追った先に、答えがあった。


血まみれの少年が、地にしたまま、右腕を美琴に向けて伸ばしていた。五指をしっかりと開いたその右手が、黄金の光を放っている。その光は美琴に吸い込まれていく。いや、違う。


彼自身が、美琴の体に流し込んでいるのだ。
そして、黄金の光は、もう一筋伸びていた。幻想猛獣AIMバーストに向かって。
美琴が呟く。
「智也君......ありがとう。やっぱり『絶対支配ドミネーター』ってすごいわね」
驚愕する木山。
絶対支配ドミネーター!? という事は、操っているのはエネルギー......まさか......電気エネルギーを彼女に譲渡じょうとして電撃そのものを強化している......!? しかも、熱エネルギーを操って、電気抵抗の熱までも強化している......!? そんな事が......)
絶叫し続ける怪物の中で、何か、謎の物体にダメージが、わずかに、だが確実に入る。
「ギュアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
今までで一番激しい悲鳴。それと共に、長大な触手をからめて巨腕をつくり、美琴に襲いかかる。しかし、
「ごめんね」
そう呟いた少女の操った、膨大な量の砂鉄が地面から吹き出し、巨腕を弾き、斬る。
無能力者レベル0たちの声が聞こえる。
『俺だって』
『能力者に』
『なりたかった』
美琴は続ける。
「気付いてあげられなくて」
空中に、巨大な氷柱つららのような物が作られ、美琴に降り注ぐ。
『しょうがないよね』
『私には、何も......』
『ぶっ壊してぇ......』
バキャァァァァン!!!! と音を立てて、砂鉄が氷柱を粉々に砕く。
美琴は呟く。いや、語りかける。
「頑張りたかったんだよね」
佐天の声が聞こえる。
『なんの力もない自分が嫌で......でも、どうしても、憧れは捨てられなくて......』
心の声に答える。
「うん、でもさ。だったら、もう一度頑張ってみよう」
甲高い雄叫びを上げて、幻想猛獣AIMバーストが襲いかかる。
美琴が右腕を伸ばす。
キンッ、と。
ゲームセンターのコインが、宙を舞う。
「こんな所で、くよくよしてないで。自分で自分に、ウソつかないで......もう一度!!」
青白い光が美琴の右腕を走り、前田の右手が、一際ひときわ強く光る。そして、


ズドォォォォォォォ!!!!


轟音と共に放たれる、必殺の一撃。
超電磁砲レールガン
一直線に伸びる光線が、幻想猛獣AIMバーストの巨体のド真ん中を貫く。
何か、黒い三角柱のような物が、怪物を形作っていた核が、破壊される。
怪物の巨体の真ん中に空いた巨大な風穴から、何かがあふれ、幻想猛獣AIMバーストの体が真っ黒になる。それを見て、木山は呟く。圧倒されるように。
「これが......超能力者レベル5......」
少し離れた所から見ていた初春は、
「やっ......たぁぁぁぁぁぁ~............」
力が抜け、警備員アンチスキルに支えてもらっていた。

その後、木山は警備員に連行され、前田は病院へ搬送はんそうされた。冥土帰しヘヴンキャンセラーと呼ばれるカエル顔の医者によって、一命をとりとめた前田は、復活した佐天にスカートをめくられた初春の、
「キャーッッッッ!!!!」
で、目を覚ました。
「......、」
無言で自分の右手を見つめた前田は、その手を天井へ、いや屋上へ向けて伸ばした。音エネルギーを操り、佐天の聴覚をダイレクトに刺激して、伝える。


『オカエリ』
と。

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