しょーかん勇者の魔界生活
私は助言者の声です
突然、目の前が薄暗くなった。一瞬停電かと思ったが違う。
サァーっと森の木々の隙間をかける風。草木を揺らし、肌にあたる感触。ここは外だ。上を見上げるとたしかに太陽は出ているがなにか靄のようなものがかかっており霞んで見える。
「……ここ、どこだ」
さっきまで自分の部屋にいたはずだ。別に気絶していたわけじゃない。突然、辺りの景色が変わったのだ。こんなのありえないだろ。俺が突然のことに動揺しているとどこからともなく声がした。
『ここは異世界エリスガイアの魔界です』
え、なに? 異世界……? やっぱりあれか。さっきキャラ設定したときに異世界で冒険しませんかって言ってたが、まさか本当に異世界に来てしまうとは。それにしても、よく分からんが、とりあえず何か質問してみるか。
「俺は何でこんなとこにいるの?」
『主は、勇者としてこの世界に召喚されました』
「えっと、とりあえずウチに帰りたいんだけど』
『今のところ、不可能です』
えっ?  ウチに帰れない?  こんなとこでどうやって暮らしていけばいいんだ。とにかく、質問を続けることにする。
「召喚したの誰だよ」
『……ブロックワードに設定されているためお答えできません』
「お前は誰だ?』
『私は、助言者の声です。勇者のサポートスキルとして存在しています』
「俺は…どうすればいいんだ…」
『チュートリアルを開始できます。実行しますか〈はい・いいえ〉』
いろいろ質問してみたが、自分の欲している答えは返ってこない。サポートスキルね。スキルがあるなんてホントゲームみたいだな。俺は目の前に現れたウィンドウで〈はい〉を押した。
『チュートリアルを実行。メニュー画面を開いてください』
え、えーっと。どうすりゃいいんだ。おりゃっ。
〈メニュー〉と念じるとメニュー画面を開くことができた。名前、アイテム、スキル、称号などRPGでよく見るやつだ。
『アイテム欄から魔剣グラムを選択してください』
言われた通りメニューを操作すると、目の前に剣が現れた。
「わっっ、これ本物の剣かよ」
人生で初めて触った剣に驚きを隠せずにいた。漆黒の鞘に納められたその剣は思ったよりも軽く、少し慣れれば扱えそうな感じがした。
『前方に魔物が出現しますので、倒してください。対象に鑑定を使うと情報を読み取ることができます』
指示を受け、前方を見るが何もない。しかし、何もないところからグレーの毛並みの狼が現れた。対象をジッと見ていると、何かの情報が流れ込んで来た。
【ウルフ Lv1】
どうやら、〈鑑定〉が発動したようだ。
俺は、ゲーム感覚で魔物を倒してみることにした。なんというか、犬に剣を振るうのに後ろめたい気持ちはあるが、鋭い牙で襲いかかってくる敵を見て、考えるのをやめた。
俺は剣を構え、力を込めて斬りかかる。すると、ウルフは血しぶきを上げて倒れた。
「うわっ、流石に血とか出るとビビるぞっ」
『倒した魔物からは素材が手に入ります。対象な手を触れて、収納を使うと、素材を回収することができます』
〈収納〉
俺は言われた通り、ウルフの死骸に手を触れて収納を使うと、黒い粒子に分解され消えた。
『ウルフの毛皮を手に入れました』
なるほど。戦闘終了までの流れはだいたい分かった。
『また、さきほどメニュ画面からアイテムを取り出しましたが、念じて取り出すことも可能です。以上チュートリアル終了』
終わってしまった。なんか勢いで魔物倒して、アイテムゲットしてってやったけど、やっぱりこの状況が信じられないな。しかもここ人間とかいない魔界ってところらしいな。
しばらくこっちで過ごすしかなさそうだな。
いや、ふつーさ、勇者をこんなとこに、ほっぽったりしないだろ。せめて、人間の住んでるところに召喚がテンプレだろーが。俺を召喚したやつに会ったら絶対文句言ってやる。
ま、とりあえず適当に歩きながらステータスでも確認するか。
ケイト 種族:人間 職業:勇者 Lv.1
              装備 魔剣グラム
スキル:鑑定 言語理解 収納   助言者の声
              
称号:魔女の加護<寿命大幅増加>
異世界からの来訪者<全ステータス中上昇>
黒の勇者<魔剣熟練度中上昇>
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