よくある異世界転移物語

愛川ユウキ

♪1話 いざ、新世界

「これはいったい…。」

眼下に広がるのは大草原。
まるでアルプスの少女が駆け回っていそうな場所で、僕はただ立ち尽くしている。

頭上には雲一つない青空。
鳥が優雅にこちらへと向かってくる。

「向かって…くる…?」

ズドォン! と表される人生で初めての擬音語に耳を疑う。
巻き上げられた土煙がゆっくりと薄れていく。

「疑うのは耳だけじゃすまないみたいだ…!」

ただの野鳥だと思っていたそいつは百獣の王のものであろう下半身と鋭い嘴、そして純白の翼を持っていた。
考えるより先に体が動いた。逃げるしかない。
キシェェエ!! という鳴き声が背後から聞こえてくるが振り返っている暇はない。
と、次に鈍い音がして体がくの字になる。

「ぐぁ……っ……!」

未知の生物の体当たりを受けて、水面を跳ねる小石の如く僕の体が地を跳ねる。

「こいつらの縄張りに丸腰で入る馬鹿野郎がいるとは……!」

? 
誰だ……?
目を向けて確認しようとするが力が入らない。
これは夢なのか…?だとしたらさっきの体当たりで目が覚めてもいいものだが…。

そんなことを考えていたら目の前が霞んできた。
あぁ…僕よくわかんないけど死ぬのかな…。

青年は化け物の断末魔のようなものを聞いた気がしたが定かではない。彼は既に意識を手放していた。


………………

『おっはよー!待った…?』

ん…?どうして結衣が…?

『かなり待った。また寝坊か?』

僕の目の前に僕…?これは夢か…?もしかして走馬灯とか…?

『おかげで大事な日に遅刻できそうだよ』

そうだ…今日は修学旅行の初日だった…。
そう思っているとまわりの景色が高速で流れ、駅のホームへと場面が変わる。

『席はこの車両の中なら自由だって!私、勇気のとなり!』

僕もここまではハッキリ覚えてる。
隣に結衣が座っていて、色々話をされていたが疲れて途中で寝てしまったのだ。
そして、目が覚めると誰もいない車両に僕が1人座っていたのである。
置いていかれたかと慌てて外へ出れば広大な草原が広がっていたのだ。
意味不明だった。

そんなことを考えていたらまた景色が高速で流れる。また別の場面が映るのだろうか。

次に映ったのは真っ白で何も無い空間。
何も無い、「無」だけがある謎の空間だ。
しばらく辺りを見回していると、突然声が聞こえてきた。

「やぁ、おまたせ」

「!?」

慌てて後ろを振り返るとおじいさんがすぐ後ろに立って…いや、足元をよく見ると地面に接していない。浮いている。

「わしは君の世界を管理しておる者じゃ。君らが言うところの神にでも近いものかのぅ」

言葉も出せないままでいるとこちらの思考を読んだように自己紹介をする。

「僕は…愛川……愛川勇気……です」

「そんなかしこまらんでもよい。君には1つ詫びをせねばならんこともあるでのう」

「詫び…ですか?」

「この度わしの管理する世界の定員数削減が決まってのぅ…。30億人ほど他世界に移転することになったのじゃが」

定員数?他世界?なにがなんだか…

「その先駆けとしてまず何人か送ってみることになっての。選ばれた内の1人が君だったわけじゃな」

「……へっ!?」

なんとも間抜けな声が出る。

「なんせ1人目の転移なもので説明をする前にうっかり先に向こうの世界に転移させてしもうてのぅ。本来は先にここに呼んで準備をする予定だったのじゃが」

この神様?チックな人がなにやらドジをやらかしたようだが本題はそこではない。

「あの~…いくつか質問をしても…?」

「おーおー、よいぞ」

質問でわかったことは
①僕の世界の神様の上司(?)にあたるひとからの指示で、地球から半数以上の人類の移転が決まったらしい。
なんでも神様の予想以上に増えてしまったようで…。
多すぎると有限である榊(この神様の所属するところらしい)の世界の魂がこの世界に偏ってしまうから、だそうで。
…なるほど。わからん。


②1度にたくさん送ってしまうとどうなるか心配なので、先にテスターとして僕を含めた何人かが選ばれたらしい。
「何人か」選ばれたと言ったが同じ世界に複数名送られるわけでもないらしい。
つまり僕は1人で新世界に送られるのだ。

③僕がこれから行く世界は科学文明はあまり発展しておらず、魔法文明が発展しているらしい。また、さっきみたいな化け物(モンスター)はそこらじゅうにいるらしい…。

④僕はもともとその世界の人間ではないが、魔法自体は頑張れば使えるらしい。
魔力素が云々とか言ってたがそのへんは理解出来なかった…。



「僕はこれからその世界でどうすれば…?なにか使命とかがあったりするんですか…?」

神様が首を横に振る。
「いいや、君は普通に生活してもらえればいい。あ~…君にとっては普通ではない世界かもしれんがのぅ。わしらは異世界人が上手くその世界に溶け込めるか観察がしたいのじゃ。無論何をしてはいけない、ということも無い」

「そう…ですか……」

なんか魔王を倒せ!とか言われるんじゃと身構えていたがそんなことはないらしい。漫画の読みすぎだったか。


「まぁ、わしのミスの詫びといっては何じゃが、身体能力を多めに強化しておこう」

神様の手が淡く光ると、同じ光が僕の体を包む。

「説明もせずにあそこに放り込んでしまってすまんかったのう。怪我は治しておいたから安心せい」

あぁ…あの化け物の…ね。めちゃくちゃ痛かった…。

「さて、説明も終わったことだし改めて向こうの世界に送り届けよう。はやく目覚めさせんとあの子にも悪いしのう」

あの子…?誰のことだろう。

「さっき助けてくれた子じゃよ。今君は魂だけここに呼んでしまったから向こうではまるで死んだように寝ておるじゃろう」

確かに声を聞いたような…。

「それでは、元気でな。よほどのことがない限り死にはせんと思うが、無茶はしないようにの」

「分かりました」

神様に指さされた方を見ると扉が出来ている。
それを開けると、眩しい光に包まれた。



初めての投稿です。
至らない点もあれば、更には更新ペースも遅いですがちょくちょく見ていただけたら幸いです。

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