つくも使いと魔法と世界―壊れた右腕に思わぬ使い道があったのですが……。
1章7 ここはどこ?あなたはだれ?
「――ねえ」
誰かに呼ばれた気がした。どれくらい寝ていたのだろう。すごく長い時間寝ていたように感じる。それにしても気持ちが良い。
身体に感じる春の日差しにも似た優しい温もりがショウトの身体を包み込んでいるそんな感覚。
――ここは何処だ? あの状態からしてやっぱあの世……だよな。
ゆっくりと目を開ける。
天を仰いでいるのか目の前には綺麗に澄みきった青一色の世界が広がってた。
でもそれが感覚から空だということくらいは分かった。
何かを掴もうとしたわけでは無かったが、天に向け右手を掲げようと力を入れた。
しかし、動かし方を忘れてしまったのか思ったように右腕が上がらない。
――っ痛。
突然の痛みが右腕に走る。
色々な事がありすぎて右腕を壊していたのを忘れていた。だが、この程度で痛みがくるなんて……、日常生活を送る分には支障がないくらい回復していたはずの右腕が異様に痛む。
「ねぇ」
またあの声だ。あの時と同じ声、漆黒の世界に包まれた時に聞こえた声。
「ねぇ。何をしてるんだい?」
――何をしているかだって? そんなの自分でもわからない。多分、三途の川の畔の花畑か何処かで日向ぼっこでもしているんじゃないか。
「ねぇってば!」
――しつこい。オレは今気持ち良く寝ているんだ。邪魔をするな。
しかし、それでも耳に届く声は止まない。それどころか口調も強さを増している。
「何してるんだいって聞いてるんだよ!」
「うるせぇな! 聞こえてるよ!」
ショウトは、何度も問いかけてくる声に苛立ち思わず叫んだ。それと同時に身体を起こしあぐらをかいた。すると、
「は? ……何だよここ……」
目の前には見たこともないくらい壮大な大地が広がっていた。
大地には草木が青々と生い茂り、緩やかに流れる風で揺れている。
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
テレビでしか見たことのない景色。
少なくとも住んでた町では考えられなかった、遮るものは何もなく地平線まではっきりと見える。
「もう……やっと起きたね」
呆気にとられ、ただ呆然と眺めていると、またあの声が聞こえた。
その声でふと我に返る。
あまりの衝撃に起き上がった理由を忘れていた。ショウトはこの声に寝ているところを邪魔されたのだ。
一瞬消えた苛立ちが再び戻ってくる。
一言言ってやろうと勢いよく後ろを振り向いた。しかし、声のした方には誰も居ないかった。
「こっちだよ」
下の方で何かピョンピョン跳ねているのか、ショウトの視界に出入りする何かが居るようだ。
ゆっくりと視線を落とす。
すると、そこには白くモフモフした小さなイタチのような、フェレットのような小動物が一匹、こっちに向かって手を降っていた。
二度目の衝撃がショウトの苛立ちを揉み消す。
「おはよう」
小動物はにっこりと笑ってそう言った。
「――は?」
「あれ? 違ったかな? でも起きたときはおはよう……だよね?」
紛れもなく目の前の小動物は喋っていた。しかし、例えそれを目の当たりにしていたとしても信じられなかった。いや、信じれるわけがなかった。常識的にあり得ない光景だからだ。
しかも、その小動物はさっきから腕を組んで考える仕草をしたり、笑顔を作ったりしている。まるで人間のようだ。
そして、小動物は閃いたかのか手をポンと叩き再び声を発した。
「こんにちは!」
「考えた結果がそれかよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。突然の反応に小動物もビックリしたのか困ったように微笑んだ。
ショウト自身も素の自分が出てしまった事に恥ずかしさが込み上げる。その自分を隠すように小動物に話し掛ける。
「悪いな。オレもまだ混乱してんだよ。自分がどうなったのかも、ここが何処なのかさえ分からない」
動物に話し掛けるなんていつ以来だろうか。小学生? いや、もしかしたら幼稚園以来かもしれない。この歳になってまさか自分が野良フェレット? に話し掛けるとは思ってもみなかった。
だが今は状況が状況なだけに、そんな呑気な事を言っている場合じゃなかった。藁にもすがる想いだった。
すると小動物は軽く息を漏らし呆れ顔で話し出した。
「まったく。挨拶はどうしたんだい? 忘れてしまったのかい? あんなに厳しい環境で育ってきたのに……、本当に最近の君はダメダメだね」
あたかもショウトの事を知っているかのような口振りで話す小動物の言葉に、ショウトの頭の中ではハテナマークが飛び交う。
「ちょっと待ってくれ! お前オレの事知っているのか!?」
「ひどいなぁ~。当たり前じゃないか! ずっと一緒に居たのに忘れてしまったのかい?」
頭でも打ったのだろうか。小動物の言っている事が理解出来ずにいた。小動物は困ったように笑うと話を続ける。
「やっぱり気付いていなかったんだね。ちょっとショックだなぁ」
小動物は落ち込んだのかピンと立っていた耳が垂れた。
「まぁ、でも無理もないか。あっちの世界はマナも少なかったし……、僕は小さな存在でしかなかったからね。だから君には姿が見えなかったのかもしれないね」
追い討ちをかけるように、ショウトに理解不能な言葉たちを並べる。その言葉にショウトは更に混乱していた。
「こっちの世界? マナ? 姿が見えない? お前、何言ってんだよ! 分かるように説明してくれよ!」
「はぁ~、だからさ。人に何かを頼む時にそんな言い方をしろって誰かに教わったのかい? 言葉遣いも悪いし。見てるこっちが悲しくなるよ」
やけに上から目線で話す小動物だったが、ショウトは不思議と嫌な気持ちではなかった。
確かに昔のショウトなら素直に「お願いします」や「ありがとうございます」と言っていただろう。野球というスポーツは上下関係が厳しい世界だった。例えそれが、野球が下手な先輩に対しても……。
小、中、高の監督たちも決まって「野球が出来る有り難みを知れ」だの「親に感謝しろ」だの言っていた。
だがそれは昔の話。今は違う。先輩やチームメイト、監督を敬っても何の得もない事をショウトは知ってしまった。変に期待して、仲良くして、どうせ最後に痛い目に合うのは自分自身なのだからと。
だから人付き合いは極力避けてきた。今もそれを変える気はさらさらない。
だけど今、目の前にいるのは人ではない、それに今は少しでも情報が欲しかった。仕方なく小動物の話に乗る。
「あぁ、悪かった。この通りだ。頼む」
背筋を伸ばし、あぐらのまま頭を下げる。だがその態度は礼儀正しいとかけ離れたものだと自分でも分かっていた。
そんなショウトを見て小動物は、
「なんでこうなっちゃったかなぁ……。今言っても仕方がないけどさ……」
少し沈黙した後、なぜか悲しそうな表情を見せた。そして、
「しょうがないね。わかったよ。僕が分かる範囲でいいんなら教えてあげるよ」
軽く咳払いをして姿勢を正してそう言うと、耳をピンと立てて続けて口を開く。
「まずは自己紹介からだね。 僕の名前はサイクル! またの名をショウト号、君が、ショウトが付けた名前だよ。思い出したかい?」
「ちょっと待て! オレが付けた? 意味分かんねぇよ」
理解に苦しむ。本当にこんなに小動物の事……、サイクルの事は知らない、昔飼ってたペット? とも思ったがそんな記憶もなかった。
「やっぱり分かってくれないんだね。僕は悲しいよ泣いちゃいそうだよ。グスン……」
泣く素振りを見せたサイクルだったが、直ぐに表情は元に戻り、自信満々に話す。
「なんてね! 言った通りだよ。僕は正真正銘ショウト号。君の自転車さ!」
「オレの自転車? いやいや、オレの自転車は黒だし、それにショウト号なんて名付けた記憶ねぇよ」
ショウトがそう言うと、サイクルはまたしても思い悩んだような顔をして、
「……よし! 次に行くよ」
スルーしようとした。それにすかさずショウトは声を上げる。
「待てよ! シカトすんな!」
「もう! 話が進めれないじゃないか! じゃあもう思い出させてあげるよ! 僕の記憶の一部を見せるから目を閉じて!」
そう言うとサイクルは呪文のような言葉を口走る。その口調は正直、荒い。
サイクルが言葉を言い終えると、ショウトの体を淡い光が包み込んだ。
その瞬間、ショウトの脳裏には自分の記憶にはない不思議な映像が浮かぶのだった。
誰かに呼ばれた気がした。どれくらい寝ていたのだろう。すごく長い時間寝ていたように感じる。それにしても気持ちが良い。
身体に感じる春の日差しにも似た優しい温もりがショウトの身体を包み込んでいるそんな感覚。
――ここは何処だ? あの状態からしてやっぱあの世……だよな。
ゆっくりと目を開ける。
天を仰いでいるのか目の前には綺麗に澄みきった青一色の世界が広がってた。
でもそれが感覚から空だということくらいは分かった。
何かを掴もうとしたわけでは無かったが、天に向け右手を掲げようと力を入れた。
しかし、動かし方を忘れてしまったのか思ったように右腕が上がらない。
――っ痛。
突然の痛みが右腕に走る。
色々な事がありすぎて右腕を壊していたのを忘れていた。だが、この程度で痛みがくるなんて……、日常生活を送る分には支障がないくらい回復していたはずの右腕が異様に痛む。
「ねぇ」
またあの声だ。あの時と同じ声、漆黒の世界に包まれた時に聞こえた声。
「ねぇ。何をしてるんだい?」
――何をしているかだって? そんなの自分でもわからない。多分、三途の川の畔の花畑か何処かで日向ぼっこでもしているんじゃないか。
「ねぇってば!」
――しつこい。オレは今気持ち良く寝ているんだ。邪魔をするな。
しかし、それでも耳に届く声は止まない。それどころか口調も強さを増している。
「何してるんだいって聞いてるんだよ!」
「うるせぇな! 聞こえてるよ!」
ショウトは、何度も問いかけてくる声に苛立ち思わず叫んだ。それと同時に身体を起こしあぐらをかいた。すると、
「は? ……何だよここ……」
目の前には見たこともないくらい壮大な大地が広がっていた。
大地には草木が青々と生い茂り、緩やかに流れる風で揺れている。
あまりの衝撃に言葉が出てこない。
テレビでしか見たことのない景色。
少なくとも住んでた町では考えられなかった、遮るものは何もなく地平線まではっきりと見える。
「もう……やっと起きたね」
呆気にとられ、ただ呆然と眺めていると、またあの声が聞こえた。
その声でふと我に返る。
あまりの衝撃に起き上がった理由を忘れていた。ショウトはこの声に寝ているところを邪魔されたのだ。
一瞬消えた苛立ちが再び戻ってくる。
一言言ってやろうと勢いよく後ろを振り向いた。しかし、声のした方には誰も居ないかった。
「こっちだよ」
下の方で何かピョンピョン跳ねているのか、ショウトの視界に出入りする何かが居るようだ。
ゆっくりと視線を落とす。
すると、そこには白くモフモフした小さなイタチのような、フェレットのような小動物が一匹、こっちに向かって手を降っていた。
二度目の衝撃がショウトの苛立ちを揉み消す。
「おはよう」
小動物はにっこりと笑ってそう言った。
「――は?」
「あれ? 違ったかな? でも起きたときはおはよう……だよね?」
紛れもなく目の前の小動物は喋っていた。しかし、例えそれを目の当たりにしていたとしても信じられなかった。いや、信じれるわけがなかった。常識的にあり得ない光景だからだ。
しかも、その小動物はさっきから腕を組んで考える仕草をしたり、笑顔を作ったりしている。まるで人間のようだ。
そして、小動物は閃いたかのか手をポンと叩き再び声を発した。
「こんにちは!」
「考えた結果がそれかよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。突然の反応に小動物もビックリしたのか困ったように微笑んだ。
ショウト自身も素の自分が出てしまった事に恥ずかしさが込み上げる。その自分を隠すように小動物に話し掛ける。
「悪いな。オレもまだ混乱してんだよ。自分がどうなったのかも、ここが何処なのかさえ分からない」
動物に話し掛けるなんていつ以来だろうか。小学生? いや、もしかしたら幼稚園以来かもしれない。この歳になってまさか自分が野良フェレット? に話し掛けるとは思ってもみなかった。
だが今は状況が状況なだけに、そんな呑気な事を言っている場合じゃなかった。藁にもすがる想いだった。
すると小動物は軽く息を漏らし呆れ顔で話し出した。
「まったく。挨拶はどうしたんだい? 忘れてしまったのかい? あんなに厳しい環境で育ってきたのに……、本当に最近の君はダメダメだね」
あたかもショウトの事を知っているかのような口振りで話す小動物の言葉に、ショウトの頭の中ではハテナマークが飛び交う。
「ちょっと待ってくれ! お前オレの事知っているのか!?」
「ひどいなぁ~。当たり前じゃないか! ずっと一緒に居たのに忘れてしまったのかい?」
頭でも打ったのだろうか。小動物の言っている事が理解出来ずにいた。小動物は困ったように笑うと話を続ける。
「やっぱり気付いていなかったんだね。ちょっとショックだなぁ」
小動物は落ち込んだのかピンと立っていた耳が垂れた。
「まぁ、でも無理もないか。あっちの世界はマナも少なかったし……、僕は小さな存在でしかなかったからね。だから君には姿が見えなかったのかもしれないね」
追い討ちをかけるように、ショウトに理解不能な言葉たちを並べる。その言葉にショウトは更に混乱していた。
「こっちの世界? マナ? 姿が見えない? お前、何言ってんだよ! 分かるように説明してくれよ!」
「はぁ~、だからさ。人に何かを頼む時にそんな言い方をしろって誰かに教わったのかい? 言葉遣いも悪いし。見てるこっちが悲しくなるよ」
やけに上から目線で話す小動物だったが、ショウトは不思議と嫌な気持ちではなかった。
確かに昔のショウトなら素直に「お願いします」や「ありがとうございます」と言っていただろう。野球というスポーツは上下関係が厳しい世界だった。例えそれが、野球が下手な先輩に対しても……。
小、中、高の監督たちも決まって「野球が出来る有り難みを知れ」だの「親に感謝しろ」だの言っていた。
だがそれは昔の話。今は違う。先輩やチームメイト、監督を敬っても何の得もない事をショウトは知ってしまった。変に期待して、仲良くして、どうせ最後に痛い目に合うのは自分自身なのだからと。
だから人付き合いは極力避けてきた。今もそれを変える気はさらさらない。
だけど今、目の前にいるのは人ではない、それに今は少しでも情報が欲しかった。仕方なく小動物の話に乗る。
「あぁ、悪かった。この通りだ。頼む」
背筋を伸ばし、あぐらのまま頭を下げる。だがその態度は礼儀正しいとかけ離れたものだと自分でも分かっていた。
そんなショウトを見て小動物は、
「なんでこうなっちゃったかなぁ……。今言っても仕方がないけどさ……」
少し沈黙した後、なぜか悲しそうな表情を見せた。そして、
「しょうがないね。わかったよ。僕が分かる範囲でいいんなら教えてあげるよ」
軽く咳払いをして姿勢を正してそう言うと、耳をピンと立てて続けて口を開く。
「まずは自己紹介からだね。 僕の名前はサイクル! またの名をショウト号、君が、ショウトが付けた名前だよ。思い出したかい?」
「ちょっと待て! オレが付けた? 意味分かんねぇよ」
理解に苦しむ。本当にこんなに小動物の事……、サイクルの事は知らない、昔飼ってたペット? とも思ったがそんな記憶もなかった。
「やっぱり分かってくれないんだね。僕は悲しいよ泣いちゃいそうだよ。グスン……」
泣く素振りを見せたサイクルだったが、直ぐに表情は元に戻り、自信満々に話す。
「なんてね! 言った通りだよ。僕は正真正銘ショウト号。君の自転車さ!」
「オレの自転車? いやいや、オレの自転車は黒だし、それにショウト号なんて名付けた記憶ねぇよ」
ショウトがそう言うと、サイクルはまたしても思い悩んだような顔をして、
「……よし! 次に行くよ」
スルーしようとした。それにすかさずショウトは声を上げる。
「待てよ! シカトすんな!」
「もう! 話が進めれないじゃないか! じゃあもう思い出させてあげるよ! 僕の記憶の一部を見せるから目を閉じて!」
そう言うとサイクルは呪文のような言葉を口走る。その口調は正直、荒い。
サイクルが言葉を言い終えると、ショウトの体を淡い光が包み込んだ。
その瞬間、ショウトの脳裏には自分の記憶にはない不思議な映像が浮かぶのだった。
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