精神の蜘蛛

歌い鳥

昼ご飯

私はただいま屋上にて昼ご飯を食べている…のだが。どうしてこうなった。

隣には2人の男子。ストーカーと声のでかい変態といったところか。両方ともハシが震えて食べられないほど緊張しているようだ。

遡ること30分前…

「なぁ!明道!おまえ今から昼だよな!?」

「う、うん。そうだけど」

「じゃ、じゃあさ、一緒に食おーぜ!」

明道のクラスに来た大貴は突然そんなことを言い出した。

「いいけど。いつもながら急だね。どこで食べる?」

「場所はどこでもいい!ただ…糸織様を誘いたいんだが…!」

「………は?な、なにいっちゃってんの大貴…?」

大貴がだんだんとかすれていくような声で提案したのに対し明道は驚きを通り越してどこか蔑んだ表情になっている。

「いや。だって糸織様いっつもひとりじゃん。だったら一緒に食べないかなー?っていう…」

「望みなんてないよ…?たぶん…」

「なっ!あきらめんなよ!俺もなぁ!話したいんだよ糸織様と!明道だけ話すなんてずりーだろーが!」

「いやそんなこと言ったって急に誘ったりなんて…そんなことできるの!?」

「いやそこは頼みますよ明道様!」

もはや言葉も出ない明道。
急に訳のわからないことを言い出すわ、ほとんど人任せだわでなんなんだこいつは。
と、そんなとき大貴ありえない行動を取り始める。急に教室のど真ん中で正座したかと思うと両手を地面につけ頭を下げ始めたのだ。

…そう。土下座だ。

「ちょっとぉ!?やめてやめて!恥ずかしい!」

「頼む!一生のお願いだ!どうか俺の願いを叶えてくれ!」

もはや大貴に『恥』などというものは存在しなかった。昼時に急に教室の真ん中で土下座をする男子高校生。廊下で冷たい目線で見られることには慣れている明道も流石に恥ずかしい。

「うぅ…!わかったよ!わかったからもうやめて!」

「なに!?ほんとか!明道!」

恥ずかしさに耐えられなくなった明道がどうにもならなく了承を出すと、ものすごい勢いで頭を上げた大貴が目をキラキラさせて詰め寄った。

「ただ!断られても僕のせいじゃないからね」

「そのときは2人で落ち込みながらご飯食べよーぜ!」




こちら糸織サイド。

「あー。午前授業だけでつかれた…ご飯食べよ。」

周りには聞こえないように独り言を呟く糸織。
いつも通り周囲はみんなで机を合わせたりしながら仲良く食べている。が、私は自分の机で1人弁当を広げていた。

(この時間ねー。結構精神的にクるのよね)

そんなことを考えながらハシを持って食べようとしたとき教室の扉が大きな音を立てて開いた。

明道だ。

どこかの国の兵隊のように手足をピンと伸ばしこちらに向かって歩いてくる。

周囲の目はすべて明道へと向いている。

(え。え?こっちくるの?え?)

糸織がこちらに向かってくる明道を見て驚きを隠せないでいる。
 
が、次の瞬間そんな驚きは直ぐに消えた。

「あっ!あの!一緒に屋上行きませn…グフッ」

とんでもない声の大きさで叫ぶ明道に皆まで言わせず腹にパンチを決めてしまった。

うずくまって悶えている男子を上から冷たい目で見下ろす女子。いじめの構図だろうか?

冷めた目で見ていた糸織も直ぐにこの事態に気付く。
全員が私たちを見て、驚きまたは笑みを見せている。

急に恥ずかしくなった糸織は顔を真っ赤にしてまだうずくまって悶えている明道を半ば引きずるように人気のない、普段あまり利用されていない階段に連れていった。

教室に残された生徒はしばらくご飯に手がつかなかった。



「さて。どーゆうことかしら?」

「ごめんなさい…」

階段の踊り場で正座して座る男子。仁王立ちして問いただす女子。それを階段の影からのぞき込む派手な男子。

「あなたのせいで私が恥をかくことになったんだけど…?」

「すべて僕のせいですごめんなさい…」 

明道はもうすでに半泣き状態だ。

「ったく、わかったわ。それはもういい。けど屋上の話はなに?」

「あっ。その…お昼ご飯を一緒に食べないかなっていう………」

明道が目を伏せてボソボソと呟く。が、すべて糸織には聞こえていた。

「…なるほどね。そーゆうことならそう言いなさいよ。」

「え!いいの!?」

「まだいいとはいってないでしょ。」

満面の笑みで聞く明道を糸織は華麗に躱す。

(どうしようかしら。確かに静かなとこで食べたいとは言ったけど…でもジャージの借りがあるからな…)

糸織が心の中で悶々としていると…

急に滑り込んでくる男子が目に入る。

「糸織様!どうか!一度でいいのでお願いします!」

勢いよく滑り込み地面に頭をつけ正座の状態。
大貴はついに『スライディング土下座』を習得していた。

「…もう。なんなのよあんたたち…」

「…わかったわよ。ただし!1回だけね」

「………」

明道と大貴は声が出なかった。大貴にいたってはすでに目元は涙で濡れていた。

「おおぉおっ!ありがとうございます糸織さまっ!」

大貴が歓喜に震えながら感謝の意を述べる。
明道も同じように歓喜していた。

「とりあえず私はお弁当持ってくるから。先に屋上行ってて」

『「はい!お待ちしております!」』

2人とも元気がいいことで。



そして時は戻って今現在。
お弁当を持ってくるとき恥ずかしかった…!

私が来たときには屋上で正座して待っていた2人は私が来た途端2人で歓喜し始めた。
呆れながら私は近くに座りお弁当を食べ始めていた。___のだが視線が痛い。食べれない…なぜ見る。自分の弁当食べてよ。

「あのさ!?自分の食べないの!?」

「あぁあっ!糸織様が俺に向かってはなしかけて…!」

聞きゃしない。
…あ。この人の名前知らないなそういえば。

「あの。いまさらなんだけど名前はなんて言うの?」

「っ!申し遅れました!上野大貴といいます!以後よろしくお願いします!」

「上野くんね。まぁよろしく。私は知ってるかもだけど蛛波糸織です…。」

糸織は大貴に名前を聞く。そして形式上、一応糸織も自分の名を名乗った。

「えへへ。お話ししてしまったよっ!明道!ありがとう!おまえのおかげだぜ…!」

気持ち悪い笑みを浮かべた大貴と明道が男の友情というのだろうか、肩を組んでイチャイチャしていた。


____それを見て糸織は少し微笑んだ

 
『「キレイですっ!」』

糸織の笑顔を見た2人は声を合わせて叫んだ。 
この学校で糸織の笑顔を見た人間はこの2人…そして隠れてシャッターを切っている人間以外にはいないだろう。



ご覧いただきありがとうございます!次回から少し物語が動くかも…?
































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