神様の日記

Togemoti

そのためなら

 希とアリスは夜の街を歩いている。目的地はメールの主が指定した場所だ。
 「希大丈夫?」
 アリスは希を心配そうに見る。
 「いや、未だに落ち着かないなんでこんなことに」
 それを見たアリスは少しため息をつき言う。
 「しょうがないわよ、普通は無視が安定だろうけどあいつに場所を知られるのはまずい。希、もう一度夕方に話したことを思い出して」
 「確か魔術師と契約者の違いだよな。魔術師は契約者に比べて手数が多く事前に準備しているからどこで何をしてくるかわからないけど、」
 「そうそう、物分かりがいいわね、さすがに学年2位は伊達じゃないか。」
 「茶化すな。」
 希は不安げに言う。
 「なによ、もう。まぁ契約者は基本、魔術師ではなく一般人、魔術とは関係ない人が主に契約者となるんだけど今から会うシスターは魔術師であり契約者でもある。何かあったらすぐに逃げることを考えた方がいいかも。」
 チートだと希は思う、アリスの話を聞く限りでは魔術師は契約者として決して成り立たないそして契約者は魔術師ではない人間に限られたものだと思っていたがそんなの自分の思い込みだったのだと悟った。
 「希の言おうとしていることはなんとなくわかるけどね、でも希がいまから関わろうとしているのは単なる争奪戦。ルールなんてものが入る余地すらない殺し合い、でもね共通認識みたいなのは存在する。」
 「共通認識?」
 「うん、基本的に戦い自体は基本、夜しかおこらない。でも、例外もある人目のないところや結界に閉じ込めたり。だけどあの女は例外中の例外アレは明らかにマナー違反悪食とでも言っておこうかしら。」
 アリスはよほど死神に酷い目に遭わされたのか悪態を何度もつく、無理もないだろうアレに追いかけられた時の恐怖感が未だに希にも残っているのだから。
 「なるほどな、人目につかないところは歩かないようにした方がいい
 「ごめん、希を脅すような形で戦いに巻き込んでしまって。」
 さっきまでの威勢が嘘のようにしゅんとしているアリスを見て希は笑い流すように言った。
 「その件に関してはしょうがないとしか言いようがないだろ。あそこで死ぬよりはマシさ。この争奪戦からおまえを守りきれば俺も完璧に治るんだろ。」
 「それは約束する。でも本当にわかってるの?私が死んだらあなたは死ぬその逆でも死ぬ。あの時、希の肉体はあなたが思っている以上重体だった、いやもう死体見たいものだった。契約時なんとか肉体だけは再生させたでも生命力、魂自体がダメだった。契約をして希の魂をいま私が繋がり維持をしている。それでも本当にやるの?どのみち11月が終わると同時にこの争奪戦は終わる。この街から11月が終わるまでどこか静かに隠れてもいいのに。」
 希は驚いた。今さっきまで自分が考えていたことをアリスの口から聞くことになるとは予想してなかったからだ。
 「それでも結局見つかったらそこが戦場になるだけだし、逃げてもあまり意味がないだけだ。言ったろ美少女と一緒に死ぬなら悪くないって。それにアリスが死ぬなら俺も死ぬんだろ、なら俺が戦う理由にはちちょうどいいさ。まぁ俺じゃ姫を守る騎士にはなれないがな」
 「何言ってんのさっきまであんな震えていたのに、まあ、でも、ありがと。」
 アリスが希に笑顔を向ける。
 何故かこの笑顔を守りたいとずっと前から思っていたような気がすると希は心の中で疑問に思った。しかしその疑問も目的地に着いた時には消え失せていた。
 「着いたな。」
 「希、一応転身はしておきましょう。」
 希はあの言葉を呟く。
 「I will contract」
 体が内と外が入れ替わる感覚に陥る。一瞬銀の筋が目の前を通り希を現実に戻す。
 「ふう、」
 「うん、今回はちゃんと転身できたようね。」
 アリスが体をじろじろと見回す。
 「アリスは今はちゃんとそこにいるのか。」
 「今回は特別よ。戦闘になったらすぐにそのピアスに体を移すわ。」
 「ピアス?」
 希の服装があの時と少し違っていた。ヘヘッドホンはそのままだが手と足の部分に鎧のようなものが装備されていた。よく見ると所々違う部分が多かった。
 「前と少し違うな」
 「それが本当の姿、前よりはマシに戦えるようになってるから。」
 希は自分の姿を確認する。
 「そうかそれは助かるな、でもまずはメールの主と会わなくちゃな。」
 「行きましょ、いつまでも足踏みはしていられない。」
 希とアリスはメールの主が指定した。グラウンドに足を向ける。そこには椅子と机が乱雑に重ねられたタワーが立っていた。   
 「なんだこれ、」
 現実とは掛け離れてる光景に息を飲む。
 「・・・。」 
 アリスは黙って頂上に目を向ける。
 「おや、時間通りだね。」
 上に目を向ける。
 「あなたは?」
 「私?私はね、」
 そこにはアリスを女子高生にしたような女性が座っていた。しかしその目は何千年生きたような畏怖を感じさせる目をしている。

 「私は、私もアリス・・・さ。」

 アリスと名乗るシスターはニヤっと希とアリスに笑いかけた。

 

 

 

 

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