龍の子
20話 『街へ』
「おーい、ベロベロ??」
目の前で、まるで石のように固まったベルロに対して手を振って反応を確かめる。
「……これは、やばいな。一度、何か強い衝撃でも与えて、何だっけか?ショック療法??…試してみる価値はありそうだ」
しかし、どうすれば良いものか?
剣で斬ったらきっと死んでしまうだろうし、落ちてる石で殴ったとしても軽症では済まないだろう。
…そうだ、剣の柄頭の部分で殴ってみよう!
軽くだ、軽く。
ゴツン!!
「いたぁっ!?何??今、何したの!?」
「お、気が付いたか。ずっと上の空だったから立ったまま気絶してるのかと思ったぞ?」
「本当に気絶させられる所だったわ!!てか、僕だったら良かったけど、低レベルだったら絶対に死んでたね!これ!」
低レベル??
また、意味のわからん事を。
「解説役が寝ている。あまり、意味のわからない事は言わないで欲しいな」
美雲もさっきから眠っている。地べたはあれだから取り敢えずおんぶしている。
「意味のわからないって!!こっちが言いたいわ!!……って!ミクモさんが??まぁ、流石にSSSランクでも、こんなレベルの事をしたらエネルギー切れも起こすよね…」
目の前に広がる景色は、初めてこの場所に来た時に見えていた森の中とは全く違う景色だ。
全くもって見事なパノラマ風景。
空が近くにあり、遠くを覗けば大きな門に囲われた賑やかそうな街並み、まるで外国だな。地図で言うと左上辺り。まぁ、街がある所以外は森やら畑やら、ぽつりぽつりと建物があるのは村か集落か何かだろうか?
「ははっ、すごいな。あの『グランブラン山』ともあろう山が一瞬にしてただの大展望台へと早変わりだ。流石、SSSランクは恐るべし」
「ここは『グランブラン山』って言うのか?」
「あぁ、この山にはAランク以上の冒険者または勇者以外の立ち入りは禁止されているんだ。理由としては強い魔物が大量に出現する事にある。お陰様で今まで人っ子一人も居住してないのが幸いだったね。あのスキルに人が巻き込まれたら間違いなくミンチになってただろうね。まぁ、殆どの魔物は死んだんじゃないかな?」
あれは多分スキルじゃなくて、ただ収納しようとしただけだと思う。
まぁ、どちらにしろ美雲にはあの腕輪の使用は控えて貰わなければいけないな、こちらの命も危なそうだ。
「……ん、ぅうん??」
「美雲、目が覚めたか?」
美雲を背中から降ろそうとすると、後ろに居る美雲がぎゅっとしがみついてきた。
「嫌、ざこくん。私、もう少しだけこのままが良いな」
…仕方ないな。大分疲れてそうだし、少しだけ甘えさせてやるか。
「分かったよ」
「……き、君たち!最初、見た時からそうじゃないかと思っていたけど、やっぱりそう言う関係なんだね?////」
そう言う関係??
「どう言う関係だ??」
「あ、ベロベロちゃん〜、何々?その反応?もしかして結構なウブなの?」
「は!?そんなんじゃない!た、ただ目の前でそう言うのは控えて貰いたいなと!」
取り敢えず、…美雲が何か悪い事でもしたのだろうか?
「美雲は疲れが取れるまでゆっくり休んでると良い。ベロベロ、あそこの街まで歩いたらどのくらい掛かる?美雲を早く休ませたい」
「ほへぇ〜、ざこく〜ん///」
あと、早く背中から降ろしたい。
「へ?え?あぁ、あそこの街なら歩かなくても僕が持っている使い捨て用『転移のスクロール』で近くまで移動できるよ?ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に街まで行くかい?」
「あぁ、頼む。美雲も良いか?」
「すげー、スクロールなんてあるんだぁ。発展してる異世界だなぁ」
美雲が好きなゲームとかにもこう言うのあったと思うけどな?
「……頼む、ベロベロ」
「あ、あぁ。じゃあ行くよ!」
スッと手を差し出すベルロ。
……
「……あ、あの〜?僕と手を繋いでくれるかい?」
「ん?あぁ、そうしないとダメな感じのやつか?」
スッ
ぎゅっ。
「じ、じゃあ行くよ!スクロール、起動!」
シュン!!
おぉ、一瞬目の前が真っ暗になったかと思ったら目の前に大っきな門がある。
「ありがとう、ベロベロ。助かったよ」
「礼には及ばないよ。僕も、クエストの報告しに街に行く必要があったからね。……あと、なんだ?その、僕の事はベロベロじゃなくて、ベルロと呼んで欲しいんだが?良いかな?」
「……ベルロ??愛称か何か?」
「ほ、本名だっ!!最初に自己紹介しただろ!!」
そうだっけか??
「ざこくん、最初にベロベロちゃん、『ベルロベッサ』って名乗ってたよ?」
「そ、そうだっけか?悪い、ベロベロ」
「……もう、いいや」
しまった。俺とした事がまた、ベロベロと言ってしまった。
まぁ、良いか。
「ところで、何で転移は街の中じゃなくて、外からなんだ?」
「ところで!?……ごほんっ、そうだな、街に入るのには証明書が必要になるのだが、君たちはそう言うのは持っていないよね?僕はギルドカードがあるから後で何か言われてもカードを見せれば問題は無いが、君達の場合は一瞬で御用だ。まぁ、抵抗したら逃げれそうだけど、なるべく事は控えて欲しいからね」
「街に入るのに色々と面倒なんだな。まてよ?俺らは結局、証明書は持って無いのに変わりはないぞ?どうするんだ?」
「僕が誰かを忘れたのかい?そう、Aランク冒険者のベルロベッサ様だ!役所のおじさんの一人や二人くらい顔パスで説得出来るさ!それに、出来なくても少しだけお金を出せば入れるよ。君達はこちらに来たばかりで一銭も持ってないだろうけどね。そこで、このベルロベッサ様が融通を利かせてあげるのさ!完璧だね!」
……
「「……………なるほどー」」
え、何この空気。
「……取り敢えず、行こうか」
顔は笑顔のままだけど何か思うところありそうだ。
すげぇ、何がすごいって?
本当に顔パスで街の中に入れた事だ。
ベロベロの奴本当に、有名人だったのか…。
「ところで、君達は休むために宿屋を探してるんだよね??それなら、僕のオススメの宿屋があるんだ。案内するよ」
「あぁ、頼む。いつの間にか日も暮れて来てるし、腹も減った。休憩出来るところが欲しいな」
「了解ー、じゃあ、付いて来て!」
「あぁ」
『龍の宿り木亭』
龍の宿り木?変わった名前だな。
「メラー、居るー?」
メラとは、人名だろうか?
「はぁーい、あらぁ?ベルちゃんじゃない?お久しぶりねぇ。貴方もうAランクに上がったんだってぇ?噂が絶えないわよぉ?」
宿屋の奥から現れたのは、白髪をポニーテールにしていて胸が大きい、何と言うか、おっとりとした感じの女性だ
「うん、あれから一杯頑張ったから。あんな事、あんな悪夢、もう絶対に起こさない……。そのために強くなったんだ!」
「頼もしくなったわねぇ、あの時はまだまだ、可愛らしい『少女』だったのに、今じゃ立派な魔法士ね!」
え。
「そんな事ないよ、僕はまだまださ。今日、改めて実感したよ。僕はまだまだ強くなれるってね!この二人のお陰だよ」
「あらぁ、そういえばそちらのお二方はベルちゃんのお友達かしらぁ?」
え?
「え『少女』って??」
「へっ!??」
「あらぁ?」
「え?ざこくん、それは無い」
え、何?ベロベロって、女なの?
「ま、マジかぁー…」
「「それは、こっちのセリフだぁぁ!!(だよぉぉ!!)」」
「まぁ、ベルちゃん。基本、ボクっ娘だからねぇ、胸も小さいし!」
「メラぁぁ、胸は余計だよぉ!」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ。ところで、そこのお二方は結局、ベルちゃんとどう言うご関係なのかしら?」
「…どういう関係なんだ?ベロベロ……ちゃん??」
「と、と、友達??かな??て言うか、ちゃん付けするくらいなら普通にベルロって呼んでよぉぉ!」
何でだ??
「全く、ざこくんは不器用だぜ!」
ん?美雲まで、変な喋り方に?
「そうだ!それで!!メラ!部屋空いてるかな??僕の奢りで良いからさ、この二人と僕の分、お願い!」
「落ち着いて、落ち着いてぇ。部屋は空いてるわ。そのお二方の分はベルちゃんの奢りでいいのね?何泊するのぉ?」
「取り敢えず、二泊お願いする」
「かしこまりましたぁ。ベルちゃんはぁ?」
「うーん、僕もしばらくこの街に居るから、出る時にお会計してよ!」
「まぁまぁ、このままこの街に永住しても良いのよ?」
「……うん、考えとく!」
ベロベロ、笑顔だな。冒険者を辞めて本当にここに住めば良いのに。
「ささっ、部屋にご案内しますわぁ。お二階へどうぞぉ」
外見で分かったけど、結構繁盛してる宿屋なんだなぁ。
食堂も賑わってる。
ぐうぅぅ〜〜
俺じゃないぞ?
おぶさっている背中から、お腹の鳴る振動を感じた。
「ざこく〜ん、私、お腹減っちゃった〜。先にご飯食べたいなぁ」
ぐぐぅ
「はうっ///!?そういえば僕も、今日は朝から何も食べていなかった。メラ、先にご飯食べてって良いかな?」
「はい、どぉぞぉ〜。じゃあ、私は先にお部屋の準備をしておきますねぇ」
ベルロの案内で食堂へと行くと真っ先に耳に入って来たのはベルロへの珍しい物を見た時のような、懐かしいものを見たような、どちらにしろ歓迎の言葉ばかりだ。
「おい!すげぇぞ!!あれってAランク冒険者の『双魔のベルロ』じゃねぇか?」
「おぉ!ベルロだ!!後でサイン貰ってこよ!!」
「キャー!ベル様!!お目にかかれて光栄ですぅ!!」
なんて言うか、初めて会った時にベルロが自信満々だったのもわかる気がする。
こんな、歓声聞くなんて自信過剰にもなりそうだ。
もちろん、この歓声はベルロのみに当てられたものだが。
「おい、ベルロの近くに居る奴らって何者だ?」
「知らないわ、見たこともない服を着ているけどここら辺の人達じゃないのかしら?」
歓声の裏にヒソヒソと俺らの事を話してる声が聞こえる。
そう言えば、向こうの世界の制服は、こっちじゃ目立つな。
早いとこ着替えるか。適当にベルロから服でも貰おう。
「なぁ、ベルロ」
「ひゃ、ひゃい!?何でしょう!!」
「……あらら、私達に会った時はあんなに自信満々だったのに、いざこう言う場に居ると緊張しちゃうんだね!ベルちゃん可愛いー!」
「……後ででいいか」
少し図々しい気もするしな。
「おぉ!本当にベルちゃんじゃないか!久しぶりだね、いっらっしゃい!」
おぉ!随分とガタイのいい男が出てきたな。
「あ!アギ!久しぶり!」
「ハハッ、随分と立派になって、おっと。こちらのお二人さんは?」
「あ、えと。ベルロの友達のソウイチロウです」
「ミクモです」
「そうかそうか、ベルちゃんにもお友達が出来たのか!良かった良かった。今日は俺の奢りだ!美味いもん食わしてやるから遠慮せずどんどん頼め!」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう!アギ!」
「ハハハッ、良いってことよ!ベルちゃんは娘みたいなもんだからな!」
そう言って、アギと言う男は厨房の方へ戻っていった。
「あの人はアギ。さっきの女の人、メラの夫だよ。昔からの幼馴染で、結婚してここで二人で宿屋を始めたんだって。羨ましいよね!」
「幼馴染、ねぇ」
チラリと美雲の方を見る。
「うん、18歳の時に結婚してお店を開くと共に大繁盛!それもこれも、お店の名前のお陰だって言ってた」
「『龍の宿り木亭』か?まぁ、変な名前ではあるが」
「昔、二人が小さい頃に龍の尻尾と羽を生やした女の子と一緒に遊んでたんだって。名前も顔も覚えてないけど、すごく仲がよくて。遊ぶ時はよく、おっきな木の切り株の上で約束の時間までお昼寝して待っていたんだ。だけど、ある日から突然、姿を見せなくなってしまったの。何日たっても現れず。もしかしたら、切り株でお昼寝しすぎて切り株の中に入っちゃったんじゃないか??なんて、噂が立っちゃってまさかと思い、女の子がお昼寝していた切り株をよく見てみたら『ばいばいやっぱりにんげんはやさしいなのだ』って彫ってあったんだ!二人はその事が忘れられずに、その切り株を中心に、この宿屋を建てたんだって。だから、『龍の宿り木亭』。不思議な事に大繁盛したから毎日欠かさずにその切り株に水をあげてるらしい。意味は無いのにね」
くっっっだらね……
「あ!ソウイチロウ、何だ!そのつまらない事を聞いたかのような目は!確かに子供ながらの発想ではあるけど、現にこんなに繁盛してるんだから意味はあったんだよ!きっと!」
「ざこくん、ゲン担ぎとか占いとか信じないタイプだもんね〜。私もあんまり、信じないけど!」
「もうー!二人とも冷めてるなぁ!一体、どんな世界から来たらそんな冷めた性格になるんだい!」
「おまちどう!ハハハッ、随分と古い話を持ち出して来たね。さっ、俺の料理も冷めない内に食ってくれ!街で一番の料理人だと自負してるんだ。たまに、街の奥様方から料理を教えて欲しいと言われて教室だって開くぐらいだ!」
すごいのかどうかわかんねぇな。
「いただきます」
パクっ
「これはっ!!!」
何だこれ、ただの肉かと思ったら。ありえないくらい、柔らかい!?口のかなに入れて程よい食感を楽しんだ後にすぐに溶けて無くなった!味付けはしょっぱ過ぎる気がするがそれがまた、この肉に合う。なるほど!!だから少量なのか!この、飲み物と合わせるとしょっぱさが中和されて幾らでもいけそうだ!
「私も、いただきまーっす!」
はむっ!
おいしぃぃ!!何これ、何これ!!見た所ただの親子丼かと思ってたけど、ふんわりとろとろとした卵と柔らかすぎずしっかりと味付けされた鶏肉が最強にマッチして口の中で混ざり合う!!噛むたびにほっぺがピクピクってなって、唾液が止まらないよぉ!!頬っぺたが落ちるってこの事を言うのね!ご飯にも出汁が程よくしみていて一口、一口噛むたびに喉から鼻に抜ける出汁の香りが癖になっちゃうかも!!
「はっ、美雲!次はそっちの食わしてくれ!」
「……」
もぐもぐ、がつがつ!!
「そんなっ!美雲!!もう、残っていないじゃないか!」
「まぁまぁ、慌てなさんなって。まだまだ、たくさん出してやんからよ!」
「「やったーー!」」
「ハハハッ、こんなにがっついてくれると作ってる側としても作り甲斐があるね!」
「はっ!僕もぼーっとしてたら食い損ねる気がする!!」
こんなに、うまい料理が食えるなんて、異世界。最高じゃないかっ!!!
「「「ごちそうさまでした!!」」」
次回『学校は何処へ??』
目の前で、まるで石のように固まったベルロに対して手を振って反応を確かめる。
「……これは、やばいな。一度、何か強い衝撃でも与えて、何だっけか?ショック療法??…試してみる価値はありそうだ」
しかし、どうすれば良いものか?
剣で斬ったらきっと死んでしまうだろうし、落ちてる石で殴ったとしても軽症では済まないだろう。
…そうだ、剣の柄頭の部分で殴ってみよう!
軽くだ、軽く。
ゴツン!!
「いたぁっ!?何??今、何したの!?」
「お、気が付いたか。ずっと上の空だったから立ったまま気絶してるのかと思ったぞ?」
「本当に気絶させられる所だったわ!!てか、僕だったら良かったけど、低レベルだったら絶対に死んでたね!これ!」
低レベル??
また、意味のわからん事を。
「解説役が寝ている。あまり、意味のわからない事は言わないで欲しいな」
美雲もさっきから眠っている。地べたはあれだから取り敢えずおんぶしている。
「意味のわからないって!!こっちが言いたいわ!!……って!ミクモさんが??まぁ、流石にSSSランクでも、こんなレベルの事をしたらエネルギー切れも起こすよね…」
目の前に広がる景色は、初めてこの場所に来た時に見えていた森の中とは全く違う景色だ。
全くもって見事なパノラマ風景。
空が近くにあり、遠くを覗けば大きな門に囲われた賑やかそうな街並み、まるで外国だな。地図で言うと左上辺り。まぁ、街がある所以外は森やら畑やら、ぽつりぽつりと建物があるのは村か集落か何かだろうか?
「ははっ、すごいな。あの『グランブラン山』ともあろう山が一瞬にしてただの大展望台へと早変わりだ。流石、SSSランクは恐るべし」
「ここは『グランブラン山』って言うのか?」
「あぁ、この山にはAランク以上の冒険者または勇者以外の立ち入りは禁止されているんだ。理由としては強い魔物が大量に出現する事にある。お陰様で今まで人っ子一人も居住してないのが幸いだったね。あのスキルに人が巻き込まれたら間違いなくミンチになってただろうね。まぁ、殆どの魔物は死んだんじゃないかな?」
あれは多分スキルじゃなくて、ただ収納しようとしただけだと思う。
まぁ、どちらにしろ美雲にはあの腕輪の使用は控えて貰わなければいけないな、こちらの命も危なそうだ。
「……ん、ぅうん??」
「美雲、目が覚めたか?」
美雲を背中から降ろそうとすると、後ろに居る美雲がぎゅっとしがみついてきた。
「嫌、ざこくん。私、もう少しだけこのままが良いな」
…仕方ないな。大分疲れてそうだし、少しだけ甘えさせてやるか。
「分かったよ」
「……き、君たち!最初、見た時からそうじゃないかと思っていたけど、やっぱりそう言う関係なんだね?////」
そう言う関係??
「どう言う関係だ??」
「あ、ベロベロちゃん〜、何々?その反応?もしかして結構なウブなの?」
「は!?そんなんじゃない!た、ただ目の前でそう言うのは控えて貰いたいなと!」
取り敢えず、…美雲が何か悪い事でもしたのだろうか?
「美雲は疲れが取れるまでゆっくり休んでると良い。ベロベロ、あそこの街まで歩いたらどのくらい掛かる?美雲を早く休ませたい」
「ほへぇ〜、ざこく〜ん///」
あと、早く背中から降ろしたい。
「へ?え?あぁ、あそこの街なら歩かなくても僕が持っている使い捨て用『転移のスクロール』で近くまで移動できるよ?ここで会ったのも何かの縁だし、一緒に街まで行くかい?」
「あぁ、頼む。美雲も良いか?」
「すげー、スクロールなんてあるんだぁ。発展してる異世界だなぁ」
美雲が好きなゲームとかにもこう言うのあったと思うけどな?
「……頼む、ベロベロ」
「あ、あぁ。じゃあ行くよ!」
スッと手を差し出すベルロ。
……
「……あ、あの〜?僕と手を繋いでくれるかい?」
「ん?あぁ、そうしないとダメな感じのやつか?」
スッ
ぎゅっ。
「じ、じゃあ行くよ!スクロール、起動!」
シュン!!
おぉ、一瞬目の前が真っ暗になったかと思ったら目の前に大っきな門がある。
「ありがとう、ベロベロ。助かったよ」
「礼には及ばないよ。僕も、クエストの報告しに街に行く必要があったからね。……あと、なんだ?その、僕の事はベロベロじゃなくて、ベルロと呼んで欲しいんだが?良いかな?」
「……ベルロ??愛称か何か?」
「ほ、本名だっ!!最初に自己紹介しただろ!!」
そうだっけか??
「ざこくん、最初にベロベロちゃん、『ベルロベッサ』って名乗ってたよ?」
「そ、そうだっけか?悪い、ベロベロ」
「……もう、いいや」
しまった。俺とした事がまた、ベロベロと言ってしまった。
まぁ、良いか。
「ところで、何で転移は街の中じゃなくて、外からなんだ?」
「ところで!?……ごほんっ、そうだな、街に入るのには証明書が必要になるのだが、君たちはそう言うのは持っていないよね?僕はギルドカードがあるから後で何か言われてもカードを見せれば問題は無いが、君達の場合は一瞬で御用だ。まぁ、抵抗したら逃げれそうだけど、なるべく事は控えて欲しいからね」
「街に入るのに色々と面倒なんだな。まてよ?俺らは結局、証明書は持って無いのに変わりはないぞ?どうするんだ?」
「僕が誰かを忘れたのかい?そう、Aランク冒険者のベルロベッサ様だ!役所のおじさんの一人や二人くらい顔パスで説得出来るさ!それに、出来なくても少しだけお金を出せば入れるよ。君達はこちらに来たばかりで一銭も持ってないだろうけどね。そこで、このベルロベッサ様が融通を利かせてあげるのさ!完璧だね!」
……
「「……………なるほどー」」
え、何この空気。
「……取り敢えず、行こうか」
顔は笑顔のままだけど何か思うところありそうだ。
すげぇ、何がすごいって?
本当に顔パスで街の中に入れた事だ。
ベロベロの奴本当に、有名人だったのか…。
「ところで、君達は休むために宿屋を探してるんだよね??それなら、僕のオススメの宿屋があるんだ。案内するよ」
「あぁ、頼む。いつの間にか日も暮れて来てるし、腹も減った。休憩出来るところが欲しいな」
「了解ー、じゃあ、付いて来て!」
「あぁ」
『龍の宿り木亭』
龍の宿り木?変わった名前だな。
「メラー、居るー?」
メラとは、人名だろうか?
「はぁーい、あらぁ?ベルちゃんじゃない?お久しぶりねぇ。貴方もうAランクに上がったんだってぇ?噂が絶えないわよぉ?」
宿屋の奥から現れたのは、白髪をポニーテールにしていて胸が大きい、何と言うか、おっとりとした感じの女性だ
「うん、あれから一杯頑張ったから。あんな事、あんな悪夢、もう絶対に起こさない……。そのために強くなったんだ!」
「頼もしくなったわねぇ、あの時はまだまだ、可愛らしい『少女』だったのに、今じゃ立派な魔法士ね!」
え。
「そんな事ないよ、僕はまだまださ。今日、改めて実感したよ。僕はまだまだ強くなれるってね!この二人のお陰だよ」
「あらぁ、そういえばそちらのお二方はベルちゃんのお友達かしらぁ?」
え?
「え『少女』って??」
「へっ!??」
「あらぁ?」
「え?ざこくん、それは無い」
え、何?ベロベロって、女なの?
「ま、マジかぁー…」
「「それは、こっちのセリフだぁぁ!!(だよぉぉ!!)」」
「まぁ、ベルちゃん。基本、ボクっ娘だからねぇ、胸も小さいし!」
「メラぁぁ、胸は余計だよぉ!」
「あらぁ、ごめんなさいねぇ。ところで、そこのお二方は結局、ベルちゃんとどう言うご関係なのかしら?」
「…どういう関係なんだ?ベロベロ……ちゃん??」
「と、と、友達??かな??て言うか、ちゃん付けするくらいなら普通にベルロって呼んでよぉぉ!」
何でだ??
「全く、ざこくんは不器用だぜ!」
ん?美雲まで、変な喋り方に?
「そうだ!それで!!メラ!部屋空いてるかな??僕の奢りで良いからさ、この二人と僕の分、お願い!」
「落ち着いて、落ち着いてぇ。部屋は空いてるわ。そのお二方の分はベルちゃんの奢りでいいのね?何泊するのぉ?」
「取り敢えず、二泊お願いする」
「かしこまりましたぁ。ベルちゃんはぁ?」
「うーん、僕もしばらくこの街に居るから、出る時にお会計してよ!」
「まぁまぁ、このままこの街に永住しても良いのよ?」
「……うん、考えとく!」
ベロベロ、笑顔だな。冒険者を辞めて本当にここに住めば良いのに。
「ささっ、部屋にご案内しますわぁ。お二階へどうぞぉ」
外見で分かったけど、結構繁盛してる宿屋なんだなぁ。
食堂も賑わってる。
ぐうぅぅ〜〜
俺じゃないぞ?
おぶさっている背中から、お腹の鳴る振動を感じた。
「ざこく〜ん、私、お腹減っちゃった〜。先にご飯食べたいなぁ」
ぐぐぅ
「はうっ///!?そういえば僕も、今日は朝から何も食べていなかった。メラ、先にご飯食べてって良いかな?」
「はい、どぉぞぉ〜。じゃあ、私は先にお部屋の準備をしておきますねぇ」
ベルロの案内で食堂へと行くと真っ先に耳に入って来たのはベルロへの珍しい物を見た時のような、懐かしいものを見たような、どちらにしろ歓迎の言葉ばかりだ。
「おい!すげぇぞ!!あれってAランク冒険者の『双魔のベルロ』じゃねぇか?」
「おぉ!ベルロだ!!後でサイン貰ってこよ!!」
「キャー!ベル様!!お目にかかれて光栄ですぅ!!」
なんて言うか、初めて会った時にベルロが自信満々だったのもわかる気がする。
こんな、歓声聞くなんて自信過剰にもなりそうだ。
もちろん、この歓声はベルロのみに当てられたものだが。
「おい、ベルロの近くに居る奴らって何者だ?」
「知らないわ、見たこともない服を着ているけどここら辺の人達じゃないのかしら?」
歓声の裏にヒソヒソと俺らの事を話してる声が聞こえる。
そう言えば、向こうの世界の制服は、こっちじゃ目立つな。
早いとこ着替えるか。適当にベルロから服でも貰おう。
「なぁ、ベルロ」
「ひゃ、ひゃい!?何でしょう!!」
「……あらら、私達に会った時はあんなに自信満々だったのに、いざこう言う場に居ると緊張しちゃうんだね!ベルちゃん可愛いー!」
「……後ででいいか」
少し図々しい気もするしな。
「おぉ!本当にベルちゃんじゃないか!久しぶりだね、いっらっしゃい!」
おぉ!随分とガタイのいい男が出てきたな。
「あ!アギ!久しぶり!」
「ハハッ、随分と立派になって、おっと。こちらのお二人さんは?」
「あ、えと。ベルロの友達のソウイチロウです」
「ミクモです」
「そうかそうか、ベルちゃんにもお友達が出来たのか!良かった良かった。今日は俺の奢りだ!美味いもん食わしてやるから遠慮せずどんどん頼め!」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう!アギ!」
「ハハハッ、良いってことよ!ベルちゃんは娘みたいなもんだからな!」
そう言って、アギと言う男は厨房の方へ戻っていった。
「あの人はアギ。さっきの女の人、メラの夫だよ。昔からの幼馴染で、結婚してここで二人で宿屋を始めたんだって。羨ましいよね!」
「幼馴染、ねぇ」
チラリと美雲の方を見る。
「うん、18歳の時に結婚してお店を開くと共に大繁盛!それもこれも、お店の名前のお陰だって言ってた」
「『龍の宿り木亭』か?まぁ、変な名前ではあるが」
「昔、二人が小さい頃に龍の尻尾と羽を生やした女の子と一緒に遊んでたんだって。名前も顔も覚えてないけど、すごく仲がよくて。遊ぶ時はよく、おっきな木の切り株の上で約束の時間までお昼寝して待っていたんだ。だけど、ある日から突然、姿を見せなくなってしまったの。何日たっても現れず。もしかしたら、切り株でお昼寝しすぎて切り株の中に入っちゃったんじゃないか??なんて、噂が立っちゃってまさかと思い、女の子がお昼寝していた切り株をよく見てみたら『ばいばいやっぱりにんげんはやさしいなのだ』って彫ってあったんだ!二人はその事が忘れられずに、その切り株を中心に、この宿屋を建てたんだって。だから、『龍の宿り木亭』。不思議な事に大繁盛したから毎日欠かさずにその切り株に水をあげてるらしい。意味は無いのにね」
くっっっだらね……
「あ!ソウイチロウ、何だ!そのつまらない事を聞いたかのような目は!確かに子供ながらの発想ではあるけど、現にこんなに繁盛してるんだから意味はあったんだよ!きっと!」
「ざこくん、ゲン担ぎとか占いとか信じないタイプだもんね〜。私もあんまり、信じないけど!」
「もうー!二人とも冷めてるなぁ!一体、どんな世界から来たらそんな冷めた性格になるんだい!」
「おまちどう!ハハハッ、随分と古い話を持ち出して来たね。さっ、俺の料理も冷めない内に食ってくれ!街で一番の料理人だと自負してるんだ。たまに、街の奥様方から料理を教えて欲しいと言われて教室だって開くぐらいだ!」
すごいのかどうかわかんねぇな。
「いただきます」
パクっ
「これはっ!!!」
何だこれ、ただの肉かと思ったら。ありえないくらい、柔らかい!?口のかなに入れて程よい食感を楽しんだ後にすぐに溶けて無くなった!味付けはしょっぱ過ぎる気がするがそれがまた、この肉に合う。なるほど!!だから少量なのか!この、飲み物と合わせるとしょっぱさが中和されて幾らでもいけそうだ!
「私も、いただきまーっす!」
はむっ!
おいしぃぃ!!何これ、何これ!!見た所ただの親子丼かと思ってたけど、ふんわりとろとろとした卵と柔らかすぎずしっかりと味付けされた鶏肉が最強にマッチして口の中で混ざり合う!!噛むたびにほっぺがピクピクってなって、唾液が止まらないよぉ!!頬っぺたが落ちるってこの事を言うのね!ご飯にも出汁が程よくしみていて一口、一口噛むたびに喉から鼻に抜ける出汁の香りが癖になっちゃうかも!!
「はっ、美雲!次はそっちの食わしてくれ!」
「……」
もぐもぐ、がつがつ!!
「そんなっ!美雲!!もう、残っていないじゃないか!」
「まぁまぁ、慌てなさんなって。まだまだ、たくさん出してやんからよ!」
「「やったーー!」」
「ハハハッ、こんなにがっついてくれると作ってる側としても作り甲斐があるね!」
「はっ!僕もぼーっとしてたら食い損ねる気がする!!」
こんなに、うまい料理が食えるなんて、異世界。最高じゃないかっ!!!
「「「ごちそうさまでした!!」」」
次回『学校は何処へ??』
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コメント
ノベルバユーザー198473
とても素晴らしい作品ですね!投稿頑張って下さい!応援してます!