勇者に惚れた元魔王が嫁になるそうです

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嫁騒動

 宿に戻った時、女将さんは衛兵を呼びに行こうとしたのでルヴィアと一緒に必死で説得した。女将さん曰く『お客さんが女の子を誘拐したのかと思った』とのこと。

「二十日近くもここに泊まってるのに信用されてなかったとは…」
「ほれこっちにくるのじゃ、旦那様」

 ルヴィアの膝に招かれ顔をルヴィアのおなかにうずめた状態で膝枕をしてもらう。ルヴィアからは女の子特有の甘い良い匂いがする。女将さんに傷つけられた心がとても癒される。

「旦那様は甘えん坊じゃのう、とても可愛いのじゃ」
「ううっルヴィアぁ~」
「しかたないのぅ、ほれよしよし」

 女将さんに衛兵を呼ばれかけた事実は結構心を抉っていて部屋に戻ってからは(部屋は二人部屋に変えてもらった)こうしてルヴィアに甘えている。

「のぅ旦那様よ、そろそろお腹が減ったのじゃが」
「いつも夜は酒場で食べてるんだけどそこで良いかな? 」
「うむ、早速行くのじゃ」

 宿でも夕食を食べれるがこの街に来てからは、宿を出てすぐ近くにある酒場で食べていた。今日もその酒場へと向かう。いつも一人で向かっていたが、今日は違って俺の隣にはルヴィアがいる。

「ここが酒場じゃな、良い匂いがしてくるのぅ。旦那様よ早く入るのじゃ」
「わかってるって」

 店に入ると荒くれ者たちが既に酒が並々と注がれたグラスを傾けていた。奥の方にある二人掛けの机に座り店員を呼ぶ。

「果実酒と唐揚げを二つずつ」
「かしこまりました~」
「果実酒は何を使っておるのじゃ? 」
「この店は檸檬を使ってるんだよ」
「ほぅ、檸檬の果実酒はまだ飲んだことがないかったのぅ」
「ここの果実酒はすっごい美味いよ」
「ますます気になるのじゃ」

 しばらくして果実酒と唐揚げが運ばれてきた、唐揚げは揚げたてなのか熱そうな湯気を出している。

「それじゃあ食べようか」
「うむ、もうお腹がペコペコじゃ」

 そう言ってルヴィアは熱々の唐揚げを一口で頬張った、ここの唐揚げは肉汁をたっぷりと閉じ込めるように揚げられているので一口で頬張ってしまうと口の中を火傷してしまう。

「あっっっっっっつ~」
「ルヴィアこれ飲んで」

 果実酒をごくごくと飲んで口の中の唐揚げを流し込む。

「ここの唐揚げは客に攻撃をするのじゃな」
「初めて食べる人は大体そうなるよ」
「知ってて黙っておったのか、旦那様はひどいのぅ」
「ごめんね、俺も最初はそうなったからね」

 すると店に新しく客が来たようだ。四人の冒険者らしくそれぞれの腰には片手剣や弓、杖に大剣を背負っていた。男達は俺達の隣の机に着き注文をしていた。

「今日の獲物は凄かったなぁ!」
「亜竜だったけど余裕だったな」
「俺様のファイアーランスであっけなく翼に穴が開いちまうぐらいだしな」
「そんで首をはねて終了~楽だったな」

 この地域には亜竜と呼ばれる竜がいる。亜竜は知能がなく竜の中でも弱い存在だがそれなりに強いので討伐するのには実力がいるのだ。その亜竜を倒したのなら一介の冒険者にしては凄いところだ、しかしこいつらは亜竜を倒してはいない。亜竜を倒したとき、亜竜が実力を認めた証として武器か防具に亜竜の加護を授かるのだ。こいつらは誰一人として加護を授かってないので、大方弱っていた亜竜に止めをいれただけだろう。

「ん? そこの嬢ちゃん俺達と一緒に飲もうぜ」
「そんな冴えない男よりも竜殺しドラゴンスレイヤーの俺達の方がいいだろ! 」
「俺達のほうが気持ちよくなれるしな! 」
「お前のナニでか! ぎゃはははははははは」

 こいつらはなんとルヴィアに声をかけてきた。ルヴィアもこいつらに実力が無いことは分かるので苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

「すみません、連れが嫌がっているんで止めてもらっていいですか? 」
「なんだよ、男と喋りたくないからどっかいってろよ」
「なんだお前? ドラゴンスレイヤーの俺様達に歯向かうのか? 」
「どっかいってろ雑魚」
「俺の弓でハリネズミにしてやるよ、ぎゃははははっはははははは」

 男達は俺が弱いと思ったのか気色の悪い笑みをやめない。

「ですから、彼女が怯えているんで止めてもらっていいですか? 」
「うるせぇなー黙ってろって」

 片手剣の男が腰から獲物を抜いた、片手剣はピカピカしていてまるで鏡のように光を反射している。この片手剣は使い込まれて研磨した輝きではなく、新品の輝きだ。

「こっちが下手に出れば調子に乗って、実力の無い冒険者が」
「だ、旦那様? どうしたのじゃ? 」

 今の俺は過去最高にブチ切れている。ルヴィアとの楽しい時間を壊されて冷静でいられるわけがない。収納の指輪から精霊鉄で出来たナックルガードを取り出し装着する。

「表に出ろ、この店にこれ以上迷惑はかけれない」
「お前らやっちまうぞ! 」
「「「ああ、わかってるぜ」」」
「待つのじゃアレク! 」
「ルヴィア、今の俺はあまり見せたくない。だからここで待っててくれ」

 そう言うと男達を連れて外に出る、既に観客もいて中にはかけをしているやつもいた。

「降参するなら今のうちだぞ」
「ふざけんな! 死ねファイアーランス! 」

 頭に狙いを定められたファイアーランスは真っすぐに飛んでくる、しかし狙いが分かっているので魔法の核となっている部分を叩き壊し霧散させる。

「な、お、俺様のファイアーランスが」
「どけ! 破砕剣ブラストソード! 」

 大剣の男が愚直なまでに真っすぐ突っ込んでくる。大剣が振り下ろされる瞬間に距離を詰めて、大剣の腹を軽く殴る。すると大剣は爆発したかのように砕け散った。ついでに男の横腹に回し蹴りを入れて地面に叩きつける。

「ならこれはどうだ! 光弓ライトアロー」

 光の尾を引いて飛んできた矢を掴み弓の男に返す。矢は先ほどよりも速くなり、男の右肩に深々と突き刺さる。

「ば、バケモンがぁぁぁぁ」

 片手剣の男は剣を振り回しながら突っ込んできたので、剣を握り潰して腹に一撃入れ地面に転がす。

「おい、杖のお前こいつらを早く連れて帰れ」
「は、はいぃぃぃぃ」

 まだ動けていた杖の男と、比較的軽症だった弓の男に担がれて気絶していた男達は帰った。ナックルガードを戻し店に戻る。

「旦那様! どういう事じゃ! 」
「ごめん、ルヴィアのことを言われて、つい」
「あんな輩は無視すればよいのじゃ」
「ほんとにごめん」
「まぁ、よい。旦那様が無事に帰ってきたしのぅ、今日はこれで許そう」

 そう言うとルヴィアは俺の首に腕を回し、桜色に輝く唇を俺の唇に合わせた。

「んっんん」

 時間にして数秒程度だったが俺にはその数秒がとても長く感じられた。

「ふふっ二回目じゃが慣れんものじゃな」
「に、二回目で慣れられても困るぞ! も、もう戻るぞ! 」

 その夜、ベッドは別々にしていたはずなのにいつの間にか俺のベッドに潜り込んだルヴィアのせいで寝れることはなかった。だって時々「だんなさまぁ」とか「んんっそこはだめじゃだんなさま」って声がするんだよ! 寝れるわけがないじゃん!

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