朝起きたら女の子になってた。

スライム3世

『我は闇を統べ……』


マジギレしている花凛に連れられて水族館近くにあるショッピングモールに入る。そして、うろちょろ歩き回って行ったり来たりする。……どこに向かってるんですかね?

「地味っ子よ。案内板を見よ」
「し、知っています」

お金持ちだから誰かに任せてたっぽいなぁ。そう思いつつ花凛にアドバイスして連れられていく。

「えっと、ここが現在地だから……」
「地味っ子よ。地図が見れない人か?」
「み、見れます!こっちです」

と言いながら、服が売っている場所の反対方向に進みだした。これはあれだ。自分怒ってますよ!と言ったはいいが、その後は何をしたらいいか分かっていない人の図だ。

「あぁ、ちょっと、反対方向行ってみたいなぁ〜」
「そ、そうですよね。反対方向……」
「……ど地味ちゃん」
「今なんて言いました?」
「何も」
「ど地味ちゃんって言いましたね?」
「誰だ、そんな酷いこと言う人は!」
「あなたですよ!それに、私がどこかの難聴系ヒロインだと思ったら大間違いです」
「自分でヒロインって言っちゃうのは減点だな」
「なんの点数……って、先に行かないでください」

すまんな。地味っ子よりどこかのアニメのキャラ名に似ているど地味ちゃんのほうがしっくりきたんだ。地味っ子よ、今日からど地味ちゃんと名乗るがいい。


********


「沙雪さんは酷い人です。私を弄ぶなんて」

マジギレからプンプン怒る程度になったど地味ちゃんは、愚痴をこぼしながら私の後ろをとぼとぼと歩いている。仕方ないな。

「悪かったって」
「なら、頭を撫でてください……」
「それぐらいなら……」

私は後ろを振り向いて、背伸びをしてど地味ちゃんの頭を撫でる。

「ほら、ポチ。いい子だ」
「わん!って、私は犬じゃないです!」
「お手」
「沙雪さん」
「なに」
「私をなんだと思っているんですか?」
「人間」
「はぁ……そういう人でしたね」

溜息を吐いて、何かしら愚痴を言ってくるんじゃないかと思ったので、少しだけ本心を言ってみることにした。

「大事な人だよ」

私がそういった瞬間、視界が暗転した。そして、大きくて柔らかな物に挟まれる感触を感じた。どうやら、ど地味ちゃんに抱きつかれたらしい。辺りにいる人たちの反応が気になるが、見えないから仕方ない。

「それは卑怯です……。私をどれだけ惚れさせれば気が済むんですか……。もう責任取ってほしいレベルです」
「うん。それよりも、今は着替え買いたいかな」
「はい……ですが、もう少しこのままでいさせて下さい。沙雪さんを……先輩を感じさせて下さい……」
「うん……」

って、あれ?

ど地味ちゃんに抱きつかれて、私は自分の脈が早くなるのを感じた。私はど地味ちゃん……花凛を抱き返すと一瞬驚いた反応をしてきたけど、先程よりも少し力を入れて抱きしめ返してくれた。

温かい……。

イルカショーで体を濡らし過ぎたからかな?

でも、花凛と抱き合っていると嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちが溢れてくる。おかしい……お試しで付き合っている筈なのに、私の方が花凛を好きになりかけているのかな?

私はイルカショーの時の怒った姿の花凛を思い出す。あの時の花凛はかっこよかった。心から止めて欲しいと願った時に花凛は助けてくれた。

守ってくれたのだ。

私のことを男でも女でも好きだと言ってくれた花凛……。そう思ってしまった私は、今の花凛と抱き合っている状況にとても心地よくなっていた。


**********


「沙雪さん?」
「な、なんでしょうか?」

あれから抱き合う形から離れた私たちは、好奇の目線に晒されていたので急いで現場から離れた。そして、幸運にも服が売っている広場に辿り着いた。だが、ここは、あれだ。うん、あれだ。

「こちらの白のワンピースなんてどうでしょうか?」
「ダメです。値段を見て下さい」

300円なら良かった。
3000円なら、う、うん、ま、まぁ、いっか。

みたいな状況になる。しかし、何だ?30000円って。0が一つ増えてるぞ!庶民をなめているのか!

「3000円ならま、まぁってなるけど、これはダメです」
「え……」
「ん?」
「沙雪さんも女の子になって随分と経っているように見えますが、本気で言っています?」
「……」
「あのですね?女の子は掛かりますよ?今、沙雪さんがお召しになっているのも結構行ってると思いますけど」

そんなバカな……。い、いや、違うな。自分で積極的に買いに行ったことがないからか?そうなってくると、私の部屋を改造した紗香は何者なんだ。札をポンポン部屋に置いているのと一緒だぞ。

本当に中学生だよね?

「でも、今回は気にしなくて良いですよ?」
「へ?」
「奢りますから」
「何が目的だ」
「いえ、なに……」



「くふふ、なら対価を頂きましょうか」
「うわぁ……」
「引きましたね。いいでしょう。そちらがその気ならとっておきを出しましょう。

『我は闇を統べ……』」
「あぁぁぁぁぁ!」
「なんですか?」
「意味のないことを言うのは時間の無駄だと思うんだ」
「そうですよね。闇を統べたり、天下統一だったり、そんなこと言ってても無駄……って、沙雪さん?どこですか?」

私は咄嗟に近くにあった試着室へと退避した。外は戦場だからこのまま……。

「魔王様、お召し物をお持ちしました」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」



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