朝起きたら女の子になってた。

スライム3世

え……?



仕方なく……相当仕方なく、ネグリジェを着ると意外にもぴったりで丁度良いサイズであった。脱衣所から出て二階に行く途中に鏡があるのだが、そこで自分の姿を見るとネグリジェに身を包む俺の姿が映っていた。

「可愛いのかな……」

(って、何言ってんだ!)

無意識に動いてしまった口を抑えて、鏡を通りすがろうとしたが、俺の前を歩いていた莉奈さんが笑顔で振り返ってバックしてきた。そのまま、俺の後ろを取ると肩に手を置いて鏡の前に戻された。

「似合ってるよ、沙雪ちゃん」
「っ!?」
「沙雪ちゃんってあまりオシャレしてないよね。勿体ないよ? こんなに素材がいいんだから」

ぷにぷにと頬を摘まれるが、振り解く。

「そ、そんなのは必要ない」
「必要とか不必要とかの問題じゃないの。これは、可愛い子に生まれて来てしまった定めなの」
「……」

そう言って、莉奈さんは俺を押しながら移動する。階段を登り、すぐ近くの部屋に入れられた。その部屋は冷房が効いていて涼しい。

(ここが莉奈さんの部屋か)

まず最初に感じたのがペンギンが大量にいる。ペンギンのぬいぐるみ、ペンギンの柄が付いたベッドに、ペンギンの着ぐるみが整理されて置かれている。

「……どっかで見たような」

しかし、思い出せない。思い出そうとすると、脳が否定するような感じがする。しかしそれは一瞬で、ある物が俺の心を高ぶらせた。

「おぉぉぉぉ、このPCはなんだ! ノートじゃなくてデスクトップ! Core i7-8700Kにメモリが11GでグラボがGTX1080Ti!? 凄いゲーミングPCではないか! 会いたかったよ、高性能PCよ〜 なでなで〜」

自分でも驚くような可愛い声が出てきた。しかし、今の俺にとってそれは些細な問題なのである。そこに高性能PCがあるのだから。

「えへへ〜」
「さ、沙雪ちゃん?」
「はっ!?」

ここは莉奈さんの部屋で莉奈さんがいるということが頭から完全に抜け落ちていた。これは失念だ。

「あ、あの……」
「うんうん、今のとっても可愛かったよ」
「言うなぁ」

莉奈さんはにっこりしながら愛犬を愛でるように俺の頭を撫でてきた。しかし、今度は振り解かない。是非ともこのPCを操作したいからだ。

「でも、沙雪ちゃんパソコンに詳しいんだね」
「そうだぞ! ネトゲは軽さが命なんだ。重くなってプレイできないのはPCのせいではない。PCを新調しない奴がいけないんだ」
「ネットゲームやるんだね」
「あ、いや……」

PCの話からネットゲームの話にずらしてしまった。リアルでネットゲームをしている友達がいないから、対応が分からない。もし、これで莉奈さんとネットゲームをやる羽目になったらどうなるんだ? プラス要素はあると思う。しかし、喧嘩とかしたらもろリアルに影響が出てしまう。マイナス要素の方が大きそうだ。だから、俺は嘘をつくことにした。

「その、実況動画見てて……」
「嘘だね」
「なんで!」
「沙雪ちゃんが嘘つく時は視線を逸らした時」
「うぐっ……」
「別に隠すことないのに。この世の中は可愛ければ許されるんだから」
「それは嘘だ」
「否定するってことは自分が可愛いって認めてるんだね」
「……」

言葉で莉奈さんに勝てないと悟った俺は黙ることにした。そうすれば、嵌められることも……

「パソコン使いたい?」
「使いたいぞ。あ……」
「ん? どうしたの?」
「……」

逆に何もしてこなかったので少し恥ずかしい思いをした。

「意地悪してごめんね。沙雪ちゃんと二人きりだからつい舞い上がっちゃった」
「莉奈さん……」
「私ね、沙雪ちゃんが羨ましいって思ってる。学校でもちゃんと自分を出してて偽っていないから。それに加えてマスコットキャラの定位置についていたり、転校して間もないのにみんなから好まれていたり、可愛いし」
「最後の一言は余計だ。でも、そうだな。人生の先輩からアドバイスをくれてやろう。『相手のことを考える前に、自分のことを最優先にすればいい。相手の思いに応える前に自分が参っちゃったら意味ないからな』」

そんな上から目線なことを言うと、莉奈さんは何かを決めたような表情をした後、俺に告げた。

「私ね、沙雪ちゃんのことが好きなの。ずっと、妄想してた。沙雪ちゃんを犬みたいにリードで繋いで這い蹲らせて散歩したらどんなに心地良いんだろうって」

え……?

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