朝起きたら女の子になってた。

スライム3世

一線を超えてしまったところ。


莉奈さんに顔を背けられながらも、浴室に入る。脱衣所から出て行く莉奈さんをドア越しから確認すると、俺はシャワーを浴びながら自問自答を始めた。

「俺は男……この体はいつか戻るもの……問題なし!」

自問自答終わり。
俺が自問自答をするのは至って簡単な理由だ。

最近、自分が男なのか女なのか分からなくなってしまうことがあるからだ。ネトゲをしている時は、もろ男の精神でプレイしている。可愛いアバターを見て「えへへ」と笑うのだ。しかし、女物の服を着る時、やけに分からない感情が出てくる。
『もっと可愛くなりたい』
『最近ちょっと太ったかな?』
『この服似合ってるのかな?』と男の時には思いもしなかった考えが出てくる。変わらないと思っていたものが変わる。それが怖かったりする。

「なぁ、戻りたいのか? 変わりたいのか? どっちなんだ?」

鏡越しに移る少女に聞いても答えは返ってこない。

「はぁ……」

俺が溜息を吐くと、鏡越しにいる少女も溜息を吐く。真似しないでほしいな……。

最初は、姉貴の勝手により女の子にされて理不尽だと思っていた。でも、今になって思う。だらけきっていた俺のことを神やら何やらが更生させようとした結果、女の子にさせるのが一種の方法だったのではないかと。だが、それだけじゃ足りない。

若い頃に戻す必要がある。だから、俺は男の時の年齢の22歳の女性ではなく、小学生ほどの女の子にされた。青春な日々を送らせることで更生させようと。

その考えが正しいのなら、この体型にも納得がいく。

「……って、考えても意味ないか」

思考の渦から帰って来ると、丁度良いタイミングで脱衣所のドアが開いたのがわかった。

「沙雪ちゃん、着替え置いておくよ。汗で濡れた服は洗っておくから」
「え? そうしたら、家に帰れないかと……」
「大丈夫、私のお下がりあるから」
「えっと、それは下着も?」

莉奈さんが着けていた下着を俺が着ける。なんか目覚めそうになったのでその考えは捨てた。

「流石に不味いから新品のだよ。それとも、私が着けてた下着……着けたい?」
「新品のでお願いします」
「沙雪ちゃんって本当、弄りがいある」
「それ本人の目の前で言うセリフか?」
「ふふ、じゃあ、上がったら脱衣所出てすぐ近くにある階段登って、そこから一番近い部屋が私の部屋だから来てね」
「分かった」

莉奈さんは着替えを持って来ただけのようで、すぐに脱衣所から出て行った。

「まぁ、考えるのはいつでもできるか……」

心を入れ替えて浴室から出ると、置いてあったバスタオルで体を拭いていく。髪を乾かそうと思ったが、脱衣所にドライヤーは無いようなので、軽くタオルで拭いた後、タオルを頭に乗せた。

下着は未開封の小袋に入っていたので、莉奈さんの着ていたものではない。

「って、何期待してんだ……」

ご丁寧にナプキンも用意してくれていた。

「……」

無心でナプキンを付けると、着替えを探す。しかし、どこにも見当たらない。脱衣所にあるのは自分のカバンと洗濯機などの家庭用品、そしてヒラヒラとした下着のようなもの。

「……」

できれば不正解であってほしいと下着のようなものを広げてみると、生地が薄いあれであった。

(確か、ネグリジェだったか)

しかし、なぜこんなものがここに置いてあるのだろうか? 少なくとも莉奈さんの物ではない。莉奈さんには小さいと思うから。なら、誰のだ? まさか、あの莉奈さんの弟らしき物なのか? 女装趣味が小さい頃からあるのか……。まぁ、人には言えない趣味もあるものだ。仕方ない。

俺がその下着のようなものーーネグリジェを元にあった場所に置くと同時に、脱衣所のドアが開いて莉奈さんが入ってきた。幸い、俺はバスタオルを巻いているので裸ではない。しかし、食い入るように見るのはやめてほしいな。

「莉奈さん、着替えはどこにあるんだ?」
「そこにあるネグリジェだよ」

ネグリジェだよ、ネグリジェだよ? ネグリジェダヨ。ネグリジェナノネ? ネグリジェなのか……。

「他のはないのか?」
「あるけど探すのが面倒なんだよね……。探し出すまでその状態でいるなら探しても良いけど!」
「着させて頂きます……」

凄く、危険な感じがしたので仕方なく、着ることを了承した。あくまでも、仕方なくだ。心の中では着たかったなんて思うわけない。うん、絶対だ。

こうして、俺は女性になるという一線を超えてしまったのだった。


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