ハッピィエンドは楽しんだもん勝ち
レイラ、芝生は最高です。
レイラは思う。
どこの外国映画に出てくる建物だ、と。
絢爛豪華という言葉がよく似合うこの大きな建物が学園だとレイラの記憶が言っている。然し、日本という小さな島国で過ごしていた記憶のある私には、これが学園だという事が信じられなかった。
どうみても城だ。無駄にでかいし豪華だ。これが学園なのか。お金使いすぎだろ。
そんな事を冷静に思いながらも、私の胸の奥には好奇心が溢れていた。自分が知らない、見たことないファンタジーな世界だ、楽しみでしょうがない。
大きな門を潜って教室に向かう。廊下は広いし、ちらほらと人が居る。
私は一度レイラの記憶を思い返した。
この学園は魔力を持つ者のみ通う事ができる。基本的には貴族しか魔力は持たないし、庶民が魔力を持つことは極稀。基本的には貴族の為に用意された、魔力の扱い方を中心に貴族社会についても教わる学園。生徒の大半は貴族が占めており、庶民は二桁にも満たないのだとか。
……魔法だ魔力だとか、夢物語だと思っていたものが学べて使えるとは、とんでもない世界に来たもんだ。
それにしても、廊下を歩いているだけなのにやけに視線が気になる。ちらほらと見かける生徒達は、何故か私を見て驚いたように凝視してくる。中身が違うとはいえ、見た目はそのままレイラの筈だから、何をそんなに驚いているのだろう。髪を結んだ事でメリアも驚いていたが、それくらいでこんなに反応されるのは幾ら何でも変だ。
視線を気にしながら歩いていると、ふと拓けた場所が目に付く。教室が並んだ反対側に、綺麗に整った芝生と大きな樹木が目に映る。
「ふぉ…」
まるで小さな庭のようで、そして広く美しい自然に思わず声が漏れた。
一度時間を確認する。まだ時間には余裕があることを確認して、レイラは躊躇なく芝生へと踏み込んだ。
さく、と一歩踏み出すごとに芝生の心地良い感触が足を伝う。天井が無く、上を見上げると青い空が見える。大きな樹木は立派に立っており、ちょっとやそっとじゃ折れそうもない見事な大木であった。
「なにこれヤバイ……凄い…」
校舎の中心に、こんな広い庭があるなんて、最高すぎる。
よくよく見れば、奥の方には噴水もあったし、ベンチもある。
お昼とかにお弁当を此処で食べると絶対おいしい。あ、でも今日お弁当持ってきてないや。
暫く芝生の上を歩いて楽しんでいたが、ふと思いついた。
……これ、寝っ転がったら最高に気持ちよくない?
天候は晴天、芝生は見たことないレベルで綺麗。風も強くなく弱くなく程好い、そして今この芝生には私しかいない。
「えいや!」
結論は一目瞭然。レイラは迷うことなくその場に寝転がった。思った通り、太陽の光を浴びていた芝生は心地良く、レイラも気持ちいい太陽の光の恩恵を受けられる。
気持ちいい、本当にこのまま寝てしまいそうだ。
朝が早かったこともあって、今更眠気を思い出してきた。少しくらいなら寝てもいいかなぁとレイラが目を閉じた。丁度その時だった。
「―――レイラ?」
誰かに、けれど聞いたことのある声がして、レイラは目を開けた。体を起こすと、金髪の生徒が此方を見て立っている。藍色の瞳が、驚愕の色に染まっていた。
瞬間、またレイラの脳裏に記憶が巡る。
冷たい態度、見下す目。その腕に守るように抱かれているのは、レイラじゃない。
「アル様……」
意識しないまま、レイラが彼の名前を呼ぶ。
彼の名前は、アドルファス・バティシルゲット。
王族であり第一王子、そしてレイラの婚約者だった。
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